蜘蛛と黒狼の威を借る女狐、牽強付会に政策を説く
一か月早すぎません!?まだ気分的には10月上旬なんですけど!?
「そもそもの話ですが、僕らおもてなし本部としては友好条約締結の相手である『魔王派』と呼ばれている親モンスター派のニンゲンの言う事すら全面的に信用している訳ではありません」
教皇領主様によって給仕のモンスターが食堂から下げられるのを尻目に、僕は開戦の火蓋を切って落とした。
まさかこんな朝一から始まるとは思っていなかった為に心の準備なるものは一切できていないが、しかし待ったが言える状況である訳も無し。
ならば受けて立つしかあるまい。メンタルのギアを『モンスター・ニンゲン友好条約締結対応政策対策委員会おもてなし本部親善大使』のものへと切り替えるべく、わざとカチャンと音を立ててカトラリーをテーブルに置いた。
「ニンゲン界は現在、魔法界との和平を成立させ、友好条約のもと平和的に魔法界と交易を行いたいと考えている『魔王派』と、武力を以て魔法界を制圧・搾取しようと目論む『勇者派』と呼ばれる勢力とで二分されています。博士……お父様が成し得た異世界間交信の相手はこの二派閥の内『魔王派』に所属するニンゲンであり、彼らは長く台頭してきた『勇者派』に先んじて僕らと友好条約を結ぶことで敵対派閥を出し抜こうとしている。その友好の証として来年の春にニンゲン界からの親善大使を派遣するつもりである。……ここまでは教皇様も知るところでしょう」
まずは軽くジャブ。おもてなし政策が発足した所以となる大衆向けカバーストーリーを一息で言い切る。前提としてここを理解してもらっているかの確認も兼ねてと思い話してみたが、流石に真っ向から反対姿勢を見せる教会の長と言えどもその辺はきちんと理解してくれているらしい。疑問も否定もなく続けろと目で促される。
ふむ。一応教皇様的には話を聞く姿勢はあり、と。そうすると問題は聖女だ。シエルリーファ様は昨日僕が脅されゲロったせいでこの話が100%……いや98%くらいでっちあげられた話であることを知っている。教皇様へと僕が嘘をついていると吹き込まなければいいのだけど。
一応ゲロる時に勇者という存在は過去の国王により魔法界の歴史から消されたため表立って語ることができない事や、ニンゲンが攻め込んでくるかもしれないと馬鹿正直に伝えることで来年訪れるサーシャに対し害意を向けられることを防ぐために事実と違うことを国民に明かしているとは説明したが、果たしてどこまで理性的で居てくれるか……。
シエルリーファ様をこっそりと伺い見れば、じっとテーブルの上に目線を落とし何やら思案に明け暮れている様子。何を考えているかはその無表情からはさっぱり読み取れないが、どうやら今すぐこの場で否やを上げるつもりはなさそうだ。ならばと言葉を続ける。
「しかしながら、教皇様の仰る通り相手は悪辣にして凶悪なニンゲンです。『モンスターとの和平を望む親モンスター派』という話も真っ赤な嘘である可能性は否定できません。その場合ニンゲンはきっと元々の話を反故にして魔法界を蹂躙しようと考えるでしょう。それを防ぐ為、僕らはニンゲン界の親善大使を歓迎する準備の傍、万一和平のための親善大使ではなくニンゲン界の軍隊が現れたとしても対応できるよう軍備を整えているのもまた事実です」
元自分の種族を悪き様に語る罪悪感に気づかないフリをしながら、魔法界のことを第一に考える陛下から役職賜ったモンスターとして語る。
おもてなし本部は大きく二つのチームに分かれている。
一つは僕ら親善大使室が所属するおもてなし政策の推進を目的とした『友好条約対策チーム』と、勇者派のニンゲンが攻め込んできた時に備えるという名目で各都市憲兵隊、王国騎士団、王国魔導士団間の連結を密にし防衛力・軍備強化を図る『勇者派侵攻対策チーム』だ。
王国騎士団長、王国魔導士団長の指揮のもと、組織の垣根を越えて魔法界の全体の防衛力の強化に全力を注いでいる彼らのことは『黄の都市』の領主である教皇様も勿論把握しているだろう。なにせ『黄の都市』憲兵隊の長は都市の責任者である教皇領主様だ。
しかしそんな彼ら『勇者派侵攻対策チーム』だが、その真の目的は存在しない勇者派への警戒ではなく、万が一おもてなし政策が失敗し、リリィの聖剣と同じルートを辿って時間の巻き戻しが発生した場合に備えたものである。
もしサーシャが勇者に転じてしまい時間の巻き戻しが起きれば、ほぼ確実に僕らモンスターはゲーム開始時点に記憶を保持せずに戻される。そうなると『緑の都市』と『黄の都市』の境界である草原に現れたニンゲンが勇者なのかサーシャなのか、僕らには判別できないのだ。
もし発生したのが勇者であった場合、ゲームシナリオ通りであれば即座に蹂躙劇が始まってしまう。それだけは避けねばならない。
だからおもてなし本部は表向きは「ニンゲンを心から信用しているわけではない」と建前の元軍備強化を進めている。
「だからといってニンゲン側の親善大使の来訪を拒否するという手段を取ることもできません。向こうの真意はともかくとして、表向きはモンスターとの友好条約を締結させたいと言ってきているのです。これを拒否すれば、戦争肯定派閥である勇者派に付け入る隙を与えかねない」
これは100%建前。残念ながらサーシャの来訪は強制的なものである。
しかしこの要素すらもおもてなし政策の動機として絡めていく。
「そして、約束通り和平を望む魔王派の親善大使が来たとしても、使者である親善大使がモンスターに害される事だけはあってはなりません。使者を害してしまえばそれは間違いなく戦争の火種となる。それも僕らが圧倒的な加害者という立場で」
戦争とは両国間、ないしは両種族間の意見の押し付けあいだ。どちらにも主義があり主張があり目的があり、それを押し通すために発生する。
しかしながら、今まで八度に渡ってニンゲン界に侵攻してきたニンゲン達はただの一度も魔法界に対し何かを要求してきたことはないらしい。
何を主張するわけでも、何かを強制するわけでもなく、ただただモンスターを殺すだけ。
そんなの戦争でも何でもない、ただの蹂躙だ。
僕らはそんな蹂躙の憂き目に立たされているというのに、無害なニンゲンの少女殺害なんて事実まで与えてはいよいよ抵抗の余地など無くなってしまう。
「加害者となってしまえば戦争は避けられないものとなる。陛下はそれを危惧しているために、少しでもモンスターが抱くニンゲンへの悪感情を緩和させようとこの政策を立ち上げたのです」
程よい熱さになった紅茶で唇を湿らせる。
サーシャの来訪を防げない以上、モンスターは常に後手に回らざるを得ない。
しかし僕という情報アドバンテージを活かすことで、被害を限りなくゼロにすることはできるはずなのだ。
そしてそれを為すためには、魔法界の一大主教という絶大な威光と唯一無二の信仰を持つ聖霊教会の協力は必須。何としてでもサーシャがくる前にはおもてなし政策の事業案を認めてもらう必要がある。
「ニンゲンの侵攻を防ぐこと、万が一侵攻が起きても被害を最小で食い止めること、それがおもてなし政策およびおもてなし本部の目的です。その手段として来るニンゲンの親善大使をおもてなしし、友好条約の締結を目指す。不戦条約さえ結べたら……いや、最悪使者が無事この世界から無事に帰還したらそれで僕らの目的は達成なんです」
悪辣で凶悪なニンゲンと友好条約を結ぶなんて正気の沙汰ではないと考えている教皇領主様には、両者間の明るい未来のためになんて綺麗なことを言うよりも「魔法界を守る為仕方なく」「決してニンゲンの言葉に絆されているわけではない」というそのスタンスを見せた方がきっと刺さる。ニンゲンを聖敵と定めている聖霊教会的にもそんな大義名分があれば認めやすくなるはずだ。
さあどうだ、反論があるなら言ってみやがれという意味を込めて微笑む。もしここまで説明してそれでもおもてなし政策の意義を認めなかったり反対するようなら「このモンスターでなしいいい!!聖霊教会は魔法界がどうなってもいいんですかあああ!?」って教会中に響き渡る大声で大非難かましてやるぜ覚悟しとけよ。
ドキドキしながら(心臓は動いていないけれども)教皇様の反応を待つ。
体の大きさのせいでやけに小さく見える椅子の背もたれに体重を預けて瞑目していた教皇様は、しばしの無言の後、徐に瞼を持ち上げた。
「……お前らは一年後にニンゲンが来ると信じているようだが、その根拠は何だ?我々モンスターの裏を掻こうと向こうが嘘を言っている可能性だってあるだろう」
「いいえ教皇様、間違いなく一年後です。詳細を明かすことはできませんが、リライヴェッジは独自の研究により今回のニンゲン来訪の前兆を掴んでおり、来訪のタイミングも割り出しています」
サーシャは数年に一度の都市間サミット開催を一年後に控えた春に発生する。博士が僕が目覚めた直後に行った遺跡調査の結果から見ても、この都市間サミットは最直近の二年後のもので間違いない。教皇様の質問に自信を持って頷く。
しかし教皇様はそれで納得とは行かないようであった。
「それを信じて欲しくばデータを出せ。あの蜘蛛にも何度も問い合わせているがのらくらと躱されてばかりだ。根拠もデータも提示されていない状況でそんな荒唐無稽な話を信じろと言われてもな」
「陛下には必要なデータも根拠も提出しています。その陛下がニンゲン来訪に関しての一切について公開しないよう厳命しているのです。君主がそう定めたのですから、我々臣下は従うべきではございませんか?」
「生憎都市領主というのはトチ狂った蜘蛛や女狐に唆された陛下の目を覚まさせ諌めるのが仕事なものでな。そう脳死でほいほい従う訳にはいかないのだよ」
「なるほど、一理ありますね。領主招集の度に体調を崩され、陛下の為さりたいことを理解できていない病弱な領主様が仰る言葉でなければ、ですが」
「ふん、口が達者だな。流石は陛下を籠絡した女狐だ」
「お褒めに預かり光栄です。ところでお手洗いには行かれなくて大丈夫ですか?教皇様」
バチィッと僕と教皇様の間で火花が散る。
舌戦、嫌味の応酬に隣のアジェルが居心地悪そうに僅かに身動ぎした。だってしょうがないじゃん、女狐呼ばわりにムッとしちゃったんだもん。僕そんな悪いこと考えてないし。博士がトチ狂ってるに関しては大いに同意だけどさ。
しかしこんなのまだまだよ。陛下と未だに政策ご意見書の山を送りつけようとしてくる王城の政策窓口担当内政官を相手にし続けることで鍛えられた淑女の嗜みをとくと味わえ。あえて生意気に見えるようにテーブルに肘をつき微笑む。
「そして領主様、一つ勘違いをなさっていらっしゃいますね」
「何をかな?」
「僕の役職は確かに陛下直属のおもてなし本部親善大使です。しかしながら僕自身の所属はリライヴェッジであり、今回のニンゲン来訪に関する情報を握っているのもまたリライヴェッジです」
まさかいくら脳が筋肉繊維でできていそうといえど、領主様ともなればその言葉の意味が分からん筈はないだろう。
組んだ指の上に顎を乗せて笑みを深めれば、ハラハラとしていたアジェルは勿論のこと、黙って成り行きを見守っていたシエルリーファ様までもが顔色を変えた。
勘違いされちゃ困る。リライヴェッジは王国認定研究機関。その言葉が指し示す意味はつまり、王城が同格と認めているということなのだから。
都市領主という役は実際の内定自体は各都市の運営組織内で行われるものの、正式な任命は陛下が行うものであるらしい。
ということはつまり王城は任命する側で都市領主は任命される側、その間には明確な格差がある。
しかしながらリライヴェッジは、その設立目的もあって王城と同格であると正式に認められている。陛下がリライヴェッジに下すのは命令ではなく依頼であるし、リライヴェッジも必要があれば王城へ支援を求めることはあっても無償の施しを受けることはない。
王城とリライヴェッジは常にWin-Winの関係でありギブアンドテイクなのだ。
で、あるならば、組織的に見れば都市領主というのは僕らリライヴェッジ研究所よりも下であり、僕らは下からの命令に遜る必要はないのだ。
僕率いる親善大使執務室が何故リライヴェッジに置かれているか考えたことはあるか?
それは僕の立場を明確にするためだ。
おもてなし本部が、その実働部隊長である親善大使が陛下直下であるならばその執務室は王城にあるべきである。現に大使室以外のおもてなし本部員は王城に勤めているし、王城には大使室とは別におもてなし本部員の職場もある。
しかしながら半ば物置化されていたとはいえリライヴェッジのものであった本棟5階フロアをわざわざ改築し、おもてなし本部親善大使執務室用にしたのには理由がある。
それは王国認定組織内にある親善大使執務室が、トップの親善大使がリライヴェッジの庇護下にあると見せつける為だ。
いくら僕がリライヴェッジ研究所所長フリント博士の義理の娘と言えど、国王直下の組織として働いていればその意味を忘れる者は必ず現れる。きっともっと僕が有名になり魔法界に政策が浸透すれば、利益や利権目当てで権力を盾に僕に不当な要求をしてくる愚か者も出てくるだろう。
しかし僕らにはそんな愚か者を相手にしている暇は無い。
大使室をリライヴェッジに置けば、所属が明確になり愚か者共を牽制することができるし、リライヴェッジであれば王城と同格でありながらも王城と各都市間の力関係から一歩引いた位置に立つことができる。
それ故の配置である。
まあもっとも、一番最たる理由は博士が「ラウと毎日離れ離れになるの嫌だよぉ~~~」と陛下と僕に泣きついてきたからなんだけど……いやあれ本当に酷かったな。妖怪子泣き爺でももう少し慎み深く泣きつきますよってレベルでした。
妖怪縋りつき号泣蜘蛛男の怪奇を思い出しげんなりしそうになるのを咳払いで誤魔化し、ふてぶてしい親善大使の顔で領主様を見据える。
「リライヴェッジが独自で得た研究結果を誰にどう売ろうがどう使おうが、それはこちらの勝手でしょう」
陛下に伝えたのだって、言ってしまえはリライヴェッジの善意である。魔法界がどうなろうと知ったこっちゃないと最高権力者の陛下にすら情報を秘匿する権利がリライヴェッジにはあるのだから。
そう、これはあくまでリライヴェッジの善意だ。王城と協力して魔法界を救う手立てを考えることだってリライヴェッジの善意なのである。
リライヴェッジにはニンゲンが侵攻してきたら、ヴィオレットの研究所を放棄してシェルターなりなんなりに逃げ込み無関係を貫く選択肢だって(それで無事で済むかどうかは兎も角として)あるのだ。
そしてその行いを都市領主は愚か陛下であっても非難こそできても拒否することはできない。
勿論、それは表向きの話であって世界の滅亡はリライヴェッジの望むところでは無いので、協力は惜しまなかっただろうけども。
「僕らは陛下に情報を提供しました。提供した情報を元に陛下が方針を打ち立て、その方針に賛同した僕らは魔法界を共に救いましょうと王城と協力関係を結び、おもてなし本部を設立しました。領主様は協力しないんですか?」
お前らよりも上の組織が協力関係を結んだのに、たかが都市領主如きが反発する気か?
「少なくとも向くべき方向が違う方に陛下は情報の提示は行わないでしょうね。僕らも同意見です。我々を認めず、しかし情報をお求めになるのでしたら我々のように独自に研究なさったらいかがでしょう?」
善意にあやかる立場のくせに、偉そうに情報の提示を求めるな。文句があるなら自分で調べろ。
まあつまり、何が言いたいかって言うと……「No.2如きが吠えるな黙って協力しろ格下」と言うことである。
っていうかサーシャが来年現れることを先回りして把握できた研究結果とか無いしね。全部僕の記憶を元にしてる訳だし。僕の海馬でも提出しろってか?死んじゃうわそんなことしたら。
無理往生、強談威迫。「まさか一都市を預かる領主が国民を見捨てる選択なんてしませんよね?っていうか後ろ指差されたくなけりゃつべこべ言わずこっちの要求呑んでくださる?格下さん」と語る僕に、シエルリーファ様がパチパチと目を瞬き、アジェルが震える。
そして、小生意気な女狐にそんな事を言われた教皇領主様は、憤る───訳では無く、何故か面白そうなおもちゃを見つけた子供のような顔をした。
「あの狸をボロ雑巾のようにしただけはあるじゃないか」
「モンスター聞きが悪いことを仰いますね。仲良くさせていただいてるだけですよ。古来より狸と狐は仲良しと相場が決まっていますでしょう?」
僕の故郷ではポピュラーであったこの概念、実はこの世界にも存在しており狸と狐が登場する御伽噺というのは多く存在する。確かほとんどがグリエル産だったような……うーん、見たことも行ったこともないけど、話に聞く限り何となくグリエルって僕の故郷に似てそうなんだよな。米の生産量も世界一位らしいし、美味しいと評判のおにぎり屋さんもあるらしいし。行ってみたい。
「ふはは、根こそぎ搾り取ることを仲良しと称するか。腹黒と言われたことはないか?」
「生憎ですが一度も。それに搾り取ったのは陛下ですから、その発言は不敬発言にあたりますよ」
「事実を述べて何が不敬だ?陛下は腹黒だろう。お前もそう思っているだろうに」
「あっはっはっはっ」
「ふはははは」
その通りだけど隣には陛下への不敬絶対許さないマンがいるので明言は避け笑って誤魔化す。
とはいえ絶対許さないマンは今のやり取りを見て「なにこれこわい……」と震えているだけなので杞憂だった気がしなくも無いが。
僕と教皇領主様の笑い声が食堂に響く。空気は未だにぴりついているけども、何となく正面のモンスターの表情が和らいだ気配を感じ取る。
「なるほどなるほど、狸と狐は仲良しで、狐と狼も同じイヌ科だから仲良しとな。ならば天使と狐は仲良くできるかな?」
ほほう?まさかそっちから打診してくるとは思わなんだ。なるほどなるほど、こりゃあもしかしてあっち方面は全然ダメそうと思ってたけど、案外いけそうか?
乗るか反るか、思考を高速で巡らせて勝負に出るか検討する。その間にも表面上は穏やかに、必死に考えを巡らせていたのを悟られないよう優雅にカップをソーサーから持ち上げる。
「どうでしょう。僕はできると思いますが、実際のところは天上に住まわれるハネある方々のご意志一つでは無いでしょうか」
遠回しな探りに遠回しに乗っかる。領主様が笑顔のままピクリと眉を上げたのを見取り、そしてそれに気付かないふりをして紅茶のカップを傾ける。
そう、こんな偉そうに出てしまったが、先ほどの『どっちが格上か問題』に関してはあくまで都市とリライヴェッジ間の話であって、聖霊教会が相手となるとまた話が別になる。
聖霊教会はどこにも与さない組織なのだ。教皇が領主を兼任しているといえど、対外的には教会と都市運営は別個のものであり、組織としても別物だ。
そして僕らが本当に協力を求めているのは『黄の都市』ではなく聖霊教会である。
『黄の都市』におもてなし政策を認めてもらいつつ、聖霊教会にニンゲンの聖敵認定を取り下げてもらい、地下図書館から資料を借り受ける。
これが僕と陛下が思い浮かべるパーフェクトな絵図で、さらにその絵図の中にも優先順位というものはある。
第一優先は聖敵認定の取り下げ、第二に地下図書館の資料だ。おもてなし政策については最悪『黄の都市』でできなくてもいい。
しかしながら二兎を追うものは一兎も得ずというし、聖霊教会の対ニンゲンへの態度的にも難しいと判断して第一優先事項は捨て、第三優先事項をゴリ押ししつつ第二優先事項も上乗せ要求すべく立場を笠に強気に出てみたのだが……意外にも仲良くする気があるなんて素振りを見せてくるもんだから、「教会としてはどうお考えですか?」と欲を掻いてついつい突いてしまった。
果たしてこの判断は鬼と出るか蛇と出るか……やばいどうしよう、身内の鬼畜も蛇も碌でも無いからいい想像ができない。あの幼なじみコンビ基本外道なんだよなスタンスが。
レード出身組と人生ゲームならぬモンスター生ゲームすると大体パーシーが詐欺師まがいの手口で嵌められて借金負わさせられ、僕はどっちかの奴隷になってるからな。あまりにも非モン道的すぎる。
勝手に不安を募らせて表情筋を引き攣らせる僕の前で、何やらツボに入った様子のアマゾネス天使がくつくつと笑いながらシエルリーファ様へと視線を向けた。
無言の問にシエルリーファ様は僅かに瞳を揺らしたものの、小さくこくりと頷いて見せる。その返答に教皇領主様はニイイッと牙のような歯を笑みの形にむき出しにした。
「よかろう、その豪胆さ気に入った。……それでは、具体的な事業案の話をしようか。あのウェルデを立て直した手腕、とくと見させてもらおう」
期待している、と続けた教皇領主様のお顔は、とても清廉潔白な宗教組織のトップとは思えないほどにギラギラとした野性味を帯びていたのであった。




