↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/154

ナイスネーミングセンス親善大使

ひとまず動きやすい服に着替えた僕は、アジェルと共に客室がある来賓用エリアを出て神殿騎士たちの詰め所や訓練所がある教会本棟裏手の騎士棟へと向かい始めたのだが。


「せ、聖女に正体がバレたーっ!?!?」


「ちょ、しー!静かに!声大きいよ!!」


びっくり仰天と大声を出すアジェルの口を塞ぎ、大慌てでキョロキョロと見回すが、こちらへと向かってくる影は無い。ホッと安堵の息を吐く。


「アジェルぅ……?」


「す、すまぬ。いやでも……よく生きてたでござるな、お主」


咎めるような僕の視線に気まずげに頬を掻くアジェル。

早朝ということもあってか誰もいない静かな回廊をふたり並び立って歩み進みながら、僕はアジェルの言葉にふっと遠い目をした。


「ううん……ことシエルリーファ様に対しては僕の救世主はベルだったというか……」


「はあ?ベルリアナ?何の関係があるでござる?」


何の関係っていうか聖女が拗らせたファンだったというか……いや、他モンの趣味嗜好を勝手に吹聴するのはいかがなものかと思うから詳しく言う気は無いけども。

遠い目のまま口を噤む僕に不思議そうな顔をしたアジェルは「しかしなぁ」と困ったように眉を下げた。


「何があったかは知らんが、流石にそれは報告案件でござろう。もうフリント博士や陛下には伝えたのか?」


「うっ、…………まだ」


「ラウ……」


だ、だって!絶対怒られるじゃん!特に陛下とロイド!あのふたり本気で怒るとマジで怖い組じゃん!

陛下は絶対笑顔で「バカなのかな?」ってネチネチネチネチ遠まわしにお説教してくるし、ロイドは強制正座させて「バカなのか?」ってグチグチグチグチ説教してくるでしょ!どっちも恐ろしすぎるんだよ!


呆れた目で僕を見下ろすアジェルの前で頭を抱えいやいやと駄々を捏ねる。


「怖い……怖いよぉ……締め落としからの猫包囲は嫌だ……っ!」


「う、うーん……まあ口止めしているのであれば一先ずは大丈夫でござろう。後で拙者も一緒に報告の仕方を考えるでござるよ」


「ありがとう……!」


ベルへの取次の約束が効いたのか、今の所シエルリーファ様が僕の秘密を言いふらしている様子は無い。つまりアジェルの言う通り一時の猶予は生まれた訳だ、今のうちにいかに不可抗力な状況であったかを理解していただけるような報告の仕方を考えておかねば。

とりあえずお風呂入ってたら聖女が問答無用で浴室に殴りこんできたことにしようそうしよう。


「おっと、ここでござるな」


「ぶげぇ」


ブツブツと呟きながら報告の台本を頭で練っていると、隣を歩くアジェルに襟首をひょいと掴まれた。突然の浮遊感と首を絞める襟ぐりの感覚に踏まれた蛙のような声を上げる。


何事、と顔を上げれば、石造りの城にはあまり似つかわしくない木製の扉がそびえていた。


ギイ、と軋んだ音を立ててアジェルが扉を押し開ける。するとその向こうから爽やかな風と共に青々とした草の匂いが吹き込んできた。どうやら屋外に続いているらしい。


「朝食の時間まで借りているでござるから気兼ねなく励むでござるよ。にしても……いやぁ、相変わらず広くて羨ましいでござる」


「ほえー、闘技場ってやつだ」


親猫に運搬される子猫のようにぶらぶら揺らされながらアジェルが貸し切りにしてくれた訓練場───直径2、30メートルはあろう円形のコロシアムに感嘆の声を上げる。よくバトル漫画で見るやつだすごーい。


素晴らしい設備だと惚れ惚れしているアジェルによって石畳の上に降ろされる。アジェルの言う通り広々としているし、360℃頑丈な石壁で囲まれているので全力で動いても問題なさそうだ。


よし、と気合を入れ頰をペチペチ叩き、寝起きの体を目覚めさせるように準備運動を始める。


「そんでアジェル先生~?本日はどんな訓練をするんですか?」


「うむ、なんだかんだでちゃんとした訓練はこれが初めてでござるからな、まずはお主が現状どれだけ動けるか確かめたいと思っているでござる」


そういって闘技場の中央に立った彼は、腰に履いた木製の鞘をポンポンと叩いた。


「つまり掛かり稽古でござる。全力で拙者に掛ってくるでござるよ。拙者をここから一歩でも動かせたらお主の勝ちだ。ただし」


木製の鞘からこれまた木製の剣が抜かれる。長剣ではあるものの、懐かしのストーキングエイデル襲撃戦やクラーケン戦で使っていたアジェルの愛剣に比べれば幾分短く小さい。

それを片手で担いだアジェルは、にやりと余裕たっぷりの悪い顔で笑った。


「拙者は右腕しか使わんでござる。そして攻撃もしない。基本的に防御だけ行う」


「ええ?僕のこれ一応真剣だよ?流石に舐めプが過ぎない?」


「こう見えての王国騎士団の部隊長でござる。素人の剣くらい余裕でいなせるでござるよ。ハンデでござる」


「ほっほーーーん??」


舐めてくれたもんだぜ、実は謁見の日からカルベンに来る三日間こっそりロイド相手に無拍子とハナガタミ流の型を練習してたんだよねぇ僕。

結局無手のロイドに一本も取れずに終わった訓練だったが、しかし無拍子は4歩くらいまで連続で使えるようになったし、奥義とは別に必殺技も考えたんだよね。そんな大ハンデつけちゃっていいのかなぁアジェルさぁん?


剣を手元に転送させ、長すぎる刀身が地面を削らないよう峰を肩に背負ってとーんとん。大いに僕を侮ってくれている騎士にニヤァと口の端を裂いて見せた。


「くっくっくっ……上等じゃーん?その余裕へし折ってミモザとエイデルに情けない吠え面写真送ったらァ!覚悟アジェルぅううううっ!!」


「ええ……とても和平を謳う親善大使が言っちゃいけない悪役のセリフでござるなぁ……」


うるせー!怪我してもポーションは無いからな精々気を付けろよオラァァンッ!!










15分後。


「う、ううう……アジェル強いよぉ……全然動かないよぉ……もう足動かないよぉ……」


気力も自信も心もベッキベキにへし折られた僕は、石畳の上でしくしくと泣きべそを掻いていた。


「大口叩いていた割にはギブアップが早い……ほら吠え面かくでござるよ」


「わおーん……」


まるで疲れた様子のないアジェルが倒れ伏す僕を新調したマギホでパシャパシャ撮影する。ああやめてください勘弁してくださいパーシーにだけは僕の吠え面送らないでください姉としての威厳が消えちゃいますぅ。


くっ、屈辱だ……こんなに強いなんて聞いてない。いや勿論アジェルが強いのは肩書然りゲーム然りで知ってはいたけども、実際理解はしていなかったのだとまざまざと見せつけられた気分だ。

まるで大樹相手に切り結んでいるかのような不動感と、何度切り掛かっても一切刃が届く気配がない無駄のない受け流す動きのせいでこちらの体力ばかりが削られていくのだ。


身体強化魔法は使用しているようだが、アジェルの十八番である『豪脚』は使用してないでこれってマジでございますか?勝てるビジョンが全く浮かばないのですが……。


「まあ今ので大体わかったでござる。まずお主、余りにも腕力に頼りすぎでござる」


「む」


僕の吠え面写真をパーシーに送らない代わりにロイドに送ったらしいアジェルを恨めしく見上げていた僕は、その言葉にむくりと上体を起こした。


「剣とはやたらめったら力いっぱい振るうもんではないでござるよ。槌と違って全力で振れば切れるという訳では無いでござる。適度な脱力と力み、必要に応じてこれらを切り替えるのが大事でござる」


「適度な脱力と力み……」


軽々と片手で木剣を振るうアジェルの腕を観察する。確かに言われてみれば肩肘に余分な力が入っていない状態で振るわれる剣は鞭のようにしなっており、切っ先が宙を切る速さが段違いだ。ふむふむと自分でも実践してみる。


「そうそう、そうすると例えばこの動きの後、スムーズに次の構えへ移行できるでござる。こんな感じに」


「おおっ!なるほど、こう?」


「うむ。いい動きでござる。そして剣が相手に到達するときの力の伝え方は……」


アジェルの指導の下、あーだこーだと剣を振るってみる。

流石本職の剣士だ、動きの一つ一つが理に適っていて指摘通りにすると先ほどまでとは段違いに体が動かしやすい。

やはり頭で分かっていても実際に見てもらいながら体を動かすのでは理解の深さが全く違うもんなんだなぁとしみじみしていると、一通り脱力と力みについて解説し終えたアジェルが「それと」と人差し指を立てた。


「あとは拙者のようなパワータイプが相手の時につばぜり合いに持ち込むのは下策でござる。いくらお主が並のモンスターに比べて身体能力に秀でていて腕力も圧倒的に勝ると言っても、流石に拙者のような体の大きな相手には敵わん。手数で翻弄し、隙を見せた所を的確に攻める。これを基本として心がけるでござる」


「はいっ!」


「うむ、ならばもう一度いくでござるよ。構え」


アジェルの合図に従い、立ち上がって右足を引き剣先を下に向けた脇構えを取る。


手数で翻弄し、隙を見せた所を的確に攻める……つまりはヒットアンドアウェイか、確かにそちらの方がアジェル相手であれば有効そうだし、僕の身体能力を生かせる。アジェルをあの場から一歩でも動かすという勝利条件故に力押しで攻めてしまっていたが、一太刀入れては離れ、別角度からまた切り込むのを繰り返す奇襲戦法の方が『無拍子』とも絡めやすい。


そして……ロイドと編み出した必殺技を使うにも、そっちの方が好都合!


「よっしゃぁ!!喰らえぇ!!」


「だからさっきからセリフが悪役……っ!?」


全身に魔力を纏わせた上で『無拍子』を発動───さ(・)せ(・)ず(・)、全力で剣をアジェルに向かって投擲。弓矢のごとく一直線に向かってくる長剣に流石のアジェルも虚を突かれた様子で息を呑み、右手の木剣で弾き飛ばした。


かなりの速度が出ていた筈だが、見事に真上に弾き飛ばされてしまう。

しかぁし!全然計画通り!!今度こそ『無拍子』を発動させ右足でアジェルに迫り、二歩目で大きく地面を蹴る。爆発的な推進力は前ではなく上(・)に向き、体が宙に躍り出た。


「『八艘(はっそう)』ぉぉぉ!!」


「なぁぁ!?」


アジェルの目の前で不可視の、否、僕の魔力で作った紫色の波紋を即席の地面として踏みしめ更に高く跳ぶ。

よっしゃ成功!落下してくる剣をキャッチし、目を見開く真下のアジェルに向かって再び全力で投擲する。


驚きながらも危なげなく飛んでくる剣を迎撃したアジェル。剣はそのまま明後日の方向へと弾かれ、しかし次の瞬間には僕の右手に再転送される。柄を握ると同時に再び宙に生み出した紫の波紋を踏み、『無拍子』でアジェルの背後に回る。


ハナガタミ流歩法『八艘』

宙に魔力の足場を一瞬発生させ跳ぶ歩法、つまりは空中ジャンプ!ぶっちゃけ基本歩法の『無拍子』より成功率高いんだよね、こっちの方が得意かもしれん僕!


「ふはははっ!そしてこれがロイドと一緒に生み出した必殺技、ラウちゃんヨーヨー!!高速機動で相手を翻弄し、剣を剣として使用せずに投擲武器として扱うのだー!!」


「これ剣術の訓練でござるうううう!!剣を剣として使えええ!!さっき教えたこと何も活きてないでござろうがああ!!」


えー!?何だって聞こえなーい!!剣は扱ってるのでセーフでぇす!!

高笑いしながら野球選手もかくやというフォームで剣を投擲しては『八艘』と『無拍子』を駆使して宙を地面をと忙しなく跳ねまわり続ける。流石のアジェルも突然の三次元機動戦闘に度肝を抜かれたか、結構本気の形相で剣をひたすらに弾き続けていた。


素晴らしいぞ親善大使専用瞬時収納システム!恐らく作ったモンスターの想定とは違う使用方法だろうけど、どんなに離れててもエイデルの毛で作られた紐飾りさえあれば僕の手元に転送されるなんて機能あの鬼畜チートアンデッドが悪用しない訳ないんだよなぁ!すっごい悪い顔で「これでアジェル驚かせようぜ」って言ってたもん!


「どうだ驚いたかー!!膝付いてもらうぜアジェルーッ!!」


これぞ本当のヒットアンドアウェイ!剣を弾いたアジェルに『無拍子』で迫り『八艘』を発動。剣を手元に転送させながら宙返りの要領で頭を飛び越え背後に回り込み切り結───


「エ?」


スカッと足が何にも引っかからずに宙を掻く。あっ、ちょっと待って足場出す場所間違え……


「もぎょっ」


「え!?」


背後に回られると慌てて体を反転させたアジェルの肘が宙返りし損ね落ち行く僕の頬にめり込む。

重量級で超膂力を持つアジェルのラリアットのごとき勢いの肘鉄を食らった僕の体は勢いよく吹き飛ばされ───


「……過信、だめ、絶対……」


「ら、ラウううううううう!!」


コロッセオの壁に思いっきり叩きつけられ、そのままがくりと気を失ったのであった。



嗚呼……過信は身を滅ぼすと僕はいつになったら学ぶのだろうか……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。