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悠久の魔女の暇つぶし  作者: たれねこ
第八章 後悔と嫉妬のベルクワイア
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後悔と嫉妬のベルクワイア ⑥

 議事堂から外に向かう道中、ティアヒムは議員のコンラッド・ツィーラーを何が起こったか詳細に説明できる人物として同行させることを提案してきた。

 私もそのことを了承し、コンラッドに会いに行き、彼に対しても私が知覚できるように魔法を解除した。ティアヒムが事情を説明すると、今回の件で二人組の魔法師の力を目の前で見て体験したことで、二人組の魔法師を強く推す立場になっていたコンラッドは顔色を変え、「その話の真偽を確かめるためにもぜひとも同行させていただきたい」と言ってきた。

 それからコンラッドが魔法師の二人と相対あいたいした場所へと移動する。

 私はそこで二人組の魔法師が何をしたのか確信を持てた。


「それでシェリア様。説明をお願いできますでしょうか?」


 ティアヒムの言葉に頷き、コンラッドに目を向ける。私に対して疑念を抱いているという警戒感が視線から感じられる。魔法師の力を普段見ることがない人間からすれば、きっと価値観が変わるほどに衝撃的な体験をしたのだろう。


「まずはコンラッド、あなたが魔法師の一人と話していたという場所はそこでいいのよね?」

「はい、そうです」

「じゃあ、そのときもう一人がどこで何をしていたかは把握していたかしら?」

「いえ、そこまでは」


 私はコンラッドから数歩距離を取り、コンラッドに向き直る。


「もう一人はここら辺りに立っていたのではないかしら?」


 コンラッドは記憶が定かではないのか「そうだったような気もします」と曖昧な言葉を口にするが、一部始終を議事堂の中から見ていたティアヒムは位置関係をはっきりと覚えていたようで、


「ええ、私は遠くから見ていただけなのですが、場所はだいたい合っていると思います」


 そう頷き、そのまま新たに生じた疑問に首を傾げた。


「どうしてそこに立っていたと分かるのですか?」

「それはここが地脈の流れと魔法陣の一部が交わるところだからよ。これで確定したわね。ストベリク市を中心に起こった地震は人為的なものね。それもその魔法師たちが起こしたものよ」

「そんなこと魔法師とはいえ、できるわけが……それに人為的と言うなら、故意にこの都市と民衆を傷つけたと言うのか? そんなことありえてたまるか!」


 私の言葉にコンラッドがつい言葉を荒げる。その姿を見て、きっと上手くあおられ、利用されたのだろうと察しがついた。ここにやってきた魔法師からすれば、最初に相手にした議員がコンラッドだったのは幸運だったのかもしれない。


「コンラッド、落ち着きなさい。それが魔法師には簡単にできるのよ。疑うと言うのならば実演して見せましょうか? 私はあなたたちが会った魔法師のように未熟でも、魔法の扱いが雑でもないわ。それでストベリク市を崩壊するほどの地震がいいかしら? それとも、ここの周辺だけを部分的に揺らしましょうか? さあ、選びなさい」


 コンラッドは気圧けおされて、顔を強張らせる。しかし、その隣に立つティアヒムはいたって冷静だった。


「シェリア様。ストベリク市を崩壊させるのはシェリア様も本意ではないでしょう? もし滅ぼしてしまいたいほどに今回のことが許せないと言うならば、私たちはその運命を受け入れるしかないでしょう。ですが、ストベリク市に住む多くの民は罪なき普通の人間です。罰は私とコンラッドが代表してまず受けることにしましょう。ですので、ここの周辺だけ……できれば被害が出ないようにお願いできますでしょうか?」

「分かったわ。それにしてもティアヒム、いい覚悟ね」

「お褒めいただきありがとうございます」

「じゃあ、やるわよ」


 そう言葉を発し、地面を靴のかかとでコンッと鳴らすと、部分的な地震が発生し、コンラッドとティアヒムは立っていられなくなり、思わずその場に手をついた。それを見て、私はもう一度、地面を靴で鳴らす。今度は地震は止まる。それを何度か繰り返した。

 そうやって目の前で何度も地震を起こす姿を見せられれば、コンラッドもティアヒムも信じるしかできなくなる。それと同時に二人組の魔法師にいいように騙されたということも。

 コンラッドとティアヒムは自らを恥じているのか、声を出すことも顔を上げることも、立ち上がることすらできすにいた。


「これくらいはね、地脈や魔力の流れを感じることができる魔法師ならやろうと思えばできるのよ。だけど、普通は魔力が足りなくてできないものなんだけどね。しかも、今の環境ならなおさらね」

「では、今回はなぜそのようなことができたのでしょうか?」


 ティアヒムが力なく立ち上がりながら尋ねてきた。


「この地脈の上にはね、魔法陣の一端が通っているわ。そして、その両方に多くの魔力が流れているのよ。特に魔法陣の方には私の魔力が膨大にね。それを利用したのでしょうね。あとはそう……きっと魔力を扱うための魔道具、例えば、杖やホウキのようなもので、力の流れの集中と解放をサポートすれば、それなりに素質のある魔法師だったら、できるんじゃないかしら?」


 私の説明が分かりにくかったのか、ティアヒムだけでなく、顔を上げ話に耳を傾けていたコンラッドも上手く理解できないというような表情を浮かべている。


「あなたたちにも分かるように言えば、今回の地震を起こした魔法師が言ったことというのはね、『とてつもなく足の速い馬に乗って移動したにもかかわらず、自分の足だけでその速度で移動したのだ』と胸を張ってるバカと同じ理論なのよ。その話を聞かされているときに馬を連れていなかったので分かりませんでした、で済む話じゃないことは分かるわよね?」


 そこまで丁寧に説明されれば、ティアヒムもコンラッドも顔をうつむかせた。きっと私の顔を正面から見ることすらためらわれているのだろう。

 それは単純に恥ずかしさや私を信じ切れなかった弱さと無知、そして、騙されたということを痛感し感じている後悔と無念。そういう様々な感情が入り乱れているのだろう。

 そんな二人に私は言葉を続ける。


「それでどうする? 私との契約を切るかしら? それなら、図書館の所有権だけはストベリク市を敵に回してもいただくということだけは宣言するわ。だけど、図書館だけを持って行くのは手間だし、ストベリク市自体を私の物にするというのもいいかもしれないわね」


 あえて冷淡な声で微笑を浮かべなら口にする。それくらいのことでティアヒムとコンラッドは顔を青くし、汗を流し始める。


「シェリア様。恥を承知でお願いしたい。もう一度、我らに……ストベリク市に機会と慈悲を与えてもらうことはできないでしょうか? シェリア様との契約延長のことを含め、今回のことの後始末や議会への説明と説得は私の方でなんとかします。それで――」


 ティアヒムは表情を強張らせたまま、許しを請うように言葉を並べた。


「お願いしたいことは分かってるわ。おいたが過ぎた魔法師の方は私がどうにかするわ。それで騙されたのはあなたたちだけど、リクエストはあるかしら? 八つ裂きがいいかしら? それとも首だけを刈り取って持って来ましょうか?」

「我々はそこまでは求めません。騙されたということは腹立たしいものですが、高い勉強料だったと思うことにしましょう。今の時代、きっと魔法師は一人でも多い方が世界のためになると思うのです。それにあの魔法師たちは幼く見えました。だからと言うわけではないですが、なおさら改心する機会を与えて欲しいのです。シェリア様がそれを望まないと言うのであれば、それも仕方のないことですが……」

「いいわよ。今まで魔法師を探していてもろくに情報もなかったのに、わざわざ来てくれたんだもの。私も今回のことを引き起こした魔法師には興味があるし、聞きたいこともあるわ」


 私の言葉にティアヒムもコンラッドも安心したのか、安堵のため息を同時についていた。


「それでその魔法師はどこにいるのかしら?」


 そうして聞いた魔法師の足取りに、不快感からつい顔を歪ませてしまった。


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