第3話 魔法が使えない俺、魔鉱石で耕運機を作る
「おっ、シェルじゃん! また勝手に来たのかよ!」
鍛冶場の奥から元気な声が聞こえてきた。振り返ると、小柄な女の子が立っていた。オレンジ色の髪を左右で丸く結び、頭には大きなゴーグルをつけている。黄色い目をした女の子で、顔も作業着もすすだらけだった。
「ふふっ。相変わらず元気ですわね、ポム」
「そりゃ元気に決まってんだろ! それで、そっちの男は誰だよ?」
「紹介いたしますわ。こちらはヌゼリオ様です。フェルクシア王国で、新しい農具を開発された方ですわ」
「へえ。あの国の農具っていうと、最近評判になってた、土をひっくり返す農具のことか?」
「はい。俺が作りました」
俺が故郷で作ったのは、畑の土を耕すためのすきだ。
普通のすきは、牛や馬に引かせて土を掘り起こす。俺は刃の形を改良して、土を掘り起こすだけでなく、横にひっくり返せるようにした。そのおかげで畑を耕すのが楽になり、作物もよく育つようになったんだ。
「ふーん。あれを作ったのがお前ねえ」
彼女は俺を上から下まで見た。
「ずいぶん若いじゃん。本当にお前が考えたのかよ?」
「はい」
「まあ、シェルが連れてきたんだし、嘘じゃねえんだろうけどさ」
女の子は腕を組んだ。
「あたいはポムギッタ。この鍛冶場で働いてる鍛冶師だ。よろしくな!」
「ヌゼリオです。よろしくお願いします」
「それで、何を作りたいんだ?」
「新しい農機具です。よかったら手伝ってもらえませんか?」
「いいけどよ。あたい、つまんねえものを作るのは嫌いなんだ。まずは何を作るのか教えてくれよ」
ポムギッタは近くの椅子に座った。どうやら、図面を見せないと納得してもらえないらしい。それなら、まずはこの国のことを聞いておこう。
「王女様。この国では、どんな農具を使っているんですか?」
「主にくわやすきですわ。ですが、牛や馬を持っていない農家も多く、人の力で畑を耕しております」
「土は硬いですか?」
「山に近い畑は硬い土が多いですわ。石も混じっておりますので、農民たちは苦労しています」
「なるほど。鉄鉱石は取れると聞きましたけど、鉄は十分にありますか?」
「鉱山はいくつかございます。ですが、鉄鉱石を掘り出しても、鉄に加工できる職人や設備が足りませんの」
そうか。鉱石があっても、鉄にするのが大変なんだな。
「それに、鉄をたくさん使うと重くなるので、本体には軽い材料を使いたいですね」
「だったら木だろ。ただし、何でも木で作ればいいってもんじゃねえぞ」
ポムギッタが口を挟んだ。
「力がかかるところは割れやすいからな。そこには金具を使わねえと」
「はい。そのつもりです」
俺はうなずいた。さすが鍛冶師だ。材料のことは詳しいらしい。
「王女様、この国には魔鉱石もあるんですか?」
「はい。山の鉱山から少量ですが採れますわ。ただ、魔鉱石は高価なので、主に軍や王城の魔道具に使っております」
魔道具を動かす石のことだ。魔力をためておける石で、魔力を持たない者でも、専用の魔道具を動かすことができる。自分に魔力がなくても、魔鉱石を使えば道具を動かせる。
だったら、前世の機械と組み合わせられるんじゃないか?
「王女様。魔鉱石を1つ、研究に使わせてもらえませんか?」
「ええ。何にお使いになるのですか?」
「新しい農機具の動力にしたいんです!」
「動力……ですの?」
「はい! 人がほとんど力を入れなくても、勝手に土を耕してくれる農機具を作りたいんです!」
王女様は目を丸くした。ポムギッタも首をかしげている。
「おいおい。そんなことできんのかよ?」
「似たような機械を考えたことがあるんです。魔鉱石を使えば、作れると思います」
「へえ。じゃあ、図面を見せてみろよ」
「はい!」
俺は机に紙を広げた。前世の耕運機を思い出しながら、部品の形を描いていく。まずは土を掘るための刃だ。刃を何枚も取りつけ、回転させて土を耕す。さらに、魔鉱石の力を回転に変える装置を取りつける。
「魔鉱石の力で、この軸を回すんです。歯車を通して、下の刃にも力を伝えます」
「……ほう」
ポムギッタが図面をのぞき込んだ。
「この歯車で回る速さを変えるのか?」
「はい! 刃が速く回りすぎても危ないので、ゆっくり力強く回したいんです」
「なるほどな。こっちの軸は?」
「刃に力を伝えるためのものです。土を掘るときは強い力が必要なので、丈夫に作りたいですね」
ポムギッタは椅子から立ち上がり、図面に顔を近づけた。
「待てよ。これなら、あたいが作った魔道具の部品を使えるんじゃねえか?」
「本当ですか?」
「おう。魔鉱石で歯車を回す装置なら作ったことがある。ただ、こんなふうに農具と組み合わせるなんて考えたこともなかったぜ」
ポムギッタは図面を指でなぞった。
「でもよ、この部分を木で作ったら壊れるぞ。ここは鉄で補強しねえと」
「そうですね! それなら強度も上がります!」
「それから、刃を取り外せるようにした方がいいな。石に当たって欠けても、刃だけ交換できるだろ?」
「いいですね! ぜひそうしましょう!」
俺が図面を描き直すと、ポムギッタはにやりと笑った。
「へへっ。お前、面白いもの考えるじゃん!」
「ありがとうございます!」
「よし! あたいも乗った! さっそく作ろうぜ!」
ポムギッタはゴーグルを下ろした。どうやら、気に入ってもらえたらしい。よかった。
「それじゃあ、お願いします!」
「おう! 任せとけ!」
ポムギッタは炉に火を入れ、鉄を熱し始めた。俺も部品を運ぼうとしたけど、持ち上げたところで腕が痛んだ。
「いてっ……」
「ヌゼリオ様!」
王女様が慌てて駆け寄ってきた。
「まだお怪我が治っていないのですから、無理をなさらないでくださいませ!」
「あっ、すみません。研究が楽しくて、つい忘れちゃいました」
「忘れてはいけませんわ」
王女様は俺の手を取った。その目は、鎖で傷ついた俺の手首に向けられている。
「どうか座っていてくださいませ。あなたのお体が、また傷ついてしまいます」
「でも、俺も何か手伝いたくて……」
「でしたら、作り方を教えてくださいませ。重いものは、わたくしたちが運びますわ」
「……わたくしたち?」
ポムギッタが顔を上げた。
「おい、シェル。なんでお前まで働く気になってんだよ?」
「大切な方のお手伝いをするのですもの。当然ですわ」
「へえ。大切な方、ねえ?」
「ポム?」
「なんでもねえよ!」
ポムギッタはにやにや笑った。王女様は少し顔を赤くしている。熱いからかな?
「それより、ヌゼ! お前は座ってろ! あたいが作ってやるから!」
「はい! ありがとうございます!」
俺は椅子に座り、2人に手伝ってもらいながら作業を進めた。ポムギッタは金属を加工するのが本当にうまかった。俺が描いた図面を見ながら、次々と部品を作っていく。しかも、作りにくいところがあると、自分から改良案を出してくれた。これなら、フェルクシア王国で作ったすきとは比べものにならないくらい便利な農機具ができそうだ。
俺たちは相談しながら、耕運機を組み立てていった。最後に魔鉱石を取りつけ、レバーを動かしてみる。
ウィィィン!
魔鉱石が青く光り、下の刃が回り始めた。
「おおっ! 動きましたね!」
「やったぜ! あたいが作った機械が動いてるじゃん!」
ポムギッタが大喜びしている。王女様も驚いた顔で耕運機を見つめていた。
「これが、ヌゼリオ様のおっしゃっていた農機具ですの?」
「はい! 【魔動式軽量耕運機】です!」
俺はレバーを戻して、刃を止めた。
「あとは、実際に畑で使えるか確かめたいですね」
「ええ。ぜひ、農民たちにも見せてあげてくださいませ」
王女様が笑った。
俺たちは城の近くにある畑へ向かった。そこでは農民たちが、くわを使って土を耕していた。王女様が声をかけると、みんな仕事を止めて集まってきた。
「皆様に、新しい農機具を試していただきたいのですわ」
「新しい農機具ですかい?」
「はい。これを使えば、今よりずっと楽に畑を耕せると思います」
俺は耕運機を畑の端に置いた。周りに人がいないことを確かめて、レバーを動かす。
ウィィィン!
刃が回り始め、土を次々と掘り起こしていく。俺は取っ手を握り、ゆっくり前に進めた。うん。ちゃんと動いているな。硬い土も掘り起こせているし、取っ手にかかる力も小さい。
「な、なんだ、あれは!?」
農民たちが驚いて声を上げた。
「くわも使ってねえのに、土がどんどん掘れていくぞ!」
「しかも、ほとんど力を入れてねえじゃねえか!」
俺は耕運機を止め、近くにいた農民に声をかけた。
「よかったら、使ってみませんか?」
「お、俺がですかい!?」
「はい。操作は簡単ですよ」
俺はレバーの使い方を教えた。農民の男の人は、恐る恐る取っ手を握った。耕運機が動き始める。
「お、おおっ! こりゃすげえ!」
男の人が声を上げた。
「ほとんど力を入れてねえのに、土が掘れていくぞ! これなら腰を痛めずに済む!」
農民たちが次々と集まってきた。
「俺にも使わせてくれ!」
「これがあれば、もっと広い畑を耕せるぞ!」
「牛がいなくても使えるなんて、ありがてえ!」
みんな喜んでくれている。
よかった。故郷でも農具を作ったけど、今度は魔鉱石の力まで使えるようになった。これなら、もっといろいろな農機具を作れそうだ。
「ヌゼリオ様。これなら、農民たちの負担を大きく減らせますわ」
王女様が俺のそばに来た。
「ありがとうございます。でも、ポムギッタさんのおかげですよ」
「おいおい! 考えたのはヌゼだろ!」
ポムギッタが笑った。
「あたいも驚いたぜ。最初は本当に作れるのか疑ってたけどよ。お前の図面を見て、こいつは面白いって思ったんだ」
「そう言ってもらえるとうれしいです」
「へへっ! これからも一緒に作ろうぜ!」
「はい!」
俺たちが笑っていると、王女様が俺の手を取った。
「ヌゼリオ様。この耕運機を、王国で正式に採用したいと思いますわ」
「本当ですか?」
「ええ。研究に必要な材料も、できる限り用意いたします。それから、開発者として、あなたのお名前を国民に伝えさせてくださいませ」
「俺の名前を……?」
思わず聞き返してしまった。故郷では、俺が作った農具も兄上の手柄にされていた。だけど、王女様は俺の名前を広めてくれるという。
「……本当に、いいんですか?」
「当然ですわ。あなたが考えた農機具なのですから」
王女様は俺の手を握り、まっすぐ俺の目を見つめた。
「ヌゼリオ様。もう、誰にもあなたの功績を奪わせません。わたくしが必ず守りますわ」
俺はうれしくなった。これからは、自分が作ったものを、自分が作ったと言っていいんだな。
「ありがとうございます! 王女様!」
俺が笑うと、王女様も優しく笑ってくれた。
「ふふっ。こちらこそ、ありがとうございます」
「おーい! シェル! ヌゼ!」
ポムギッタが俺たちを呼んだ。
「農民たちが、もっと耕運機を作ってほしいって言ってるぜ!」
「本当ですか?」
「おう! あたいも作ってやりたいけど、全部手作業じゃ時間がかかるな」
なるほど。今は1台しかないから、国中の農民に配るには時間がかかってしまう。だったら、もっと効率よく作れるようにしたい。
「今度は工場を作りませんか?」
「……工場?」
「はい。農機具をたくさん作るための大きな建物です」
「はあ!? そんなものまで作る気かよ!?」
「はい。国中の農民に、この耕運機を使ってもらいたいですから!」
せっかく、みんなが喜んでくれる農機具を作れたんだ。もっとたくさん作って、必要としている人たちに届けたい。




