第4話 役立たずと追放された俺、核兵器を開発して世界最強国家を作りました
「工場って、なんだよ?」
ポムギッタが首をかしげた。
俺たちは今、城の近くにある畑にいる。さっき完成した【魔動式軽量耕運機】を農民たちに使ってもらったところだ。みんな喜んでくれたけど、1台ずつ手作りしていては国中に届けられない。
「工場は、たくさんの人が協力して同じものを作る場所です。木の部品を作る人、鉄の部品を作る人、組み立てる人に仕事を分ければ、もっと多くの耕運機を作れます」
「へえ。でもよ、そんなに職人がいるのか?」
「難しい仕事はポムギッタさんたちにお願いします。簡単な仕事なら、初めての人でも覚えられるようにしますから」
すると、隣にいたシェルヴァニカ王女が口を開いた。
「それでしたら、働く方々に心当たりがございますわ。この国には、仕事を探している方が大勢いらっしゃいますの」
王女様の話では、戦争で畑を失った農民や、店を閉めてしまった商人がいるらしい。仕事が見つからず、家族の食べ物も買えない人がいるそうだ。
「それなら、その人たちに働いてもらいましょう」
「よろしいのですか? 職人としての経験がない方もおりますが……」
「大丈夫ですよ。仕事を覚えてもらえばいいんですから」
王女様は目を丸くした。
「ヌゼリオ様……。あなたは、本当に優しい方ですわね」
「そうですか? 俺も働いてくれる人がいた方が助かりますから」
俺が答えると、王女様はうれしそうに笑った。
◇
さっそく、俺たちは城の近くにある古い倉庫を工場にすることにした。ポムギッタさんと相談して作業台を並べ、木材を同じ長さに切るための道具も用意した。木材を決まった位置に固定できるので、初めての人でも同じ大きさの部品を作りやすい。
「おっ、こりゃ便利じゃん。毎回長さを測る必要がねえのか」
「はい。こういう道具を増やせば、作業も早くなりますよ」
「だったら、ここに金具をつけようぜ。何度も使ってると木が削れちまうからな」
「いいですね。お願いします」
ポムギッタさんは、さっそく道具を改良してくれた。さすがは職人だな。
その後、王女様が仕事を探している人たちを集めてくれた。倉庫の前には、やせた男の人や、服が破れた女の人たちが並んでいる。
「あの……本当に、俺たちでも働かせてもらえるんでしょうか?」
前にいた男の人が、おそるおそる聞いてきた。
「はい。ぜひお願いします」
「俺、前は農民だったんです。でも、戦争で畑が焼かれてしまって……。それから仕事が見つからなくて、子供たちにも満足に食わせてやれないんです」
男の人はうつむいた。
「こんな俺でも、役に立てるんでしょうか?」
「大丈夫ですよ。まずは、この木の部品を作ってもらえませんか?」
俺は道具の使い方を教えた。男の人は何度か失敗したけど、少しずつ上手になっていった。
「できました。これで大丈夫でしょうか?」
「はい。きれいにできていますね。ありがとうございます」
男の人は自分が作った部品を見つめた。
「……よかった。俺にも、まだできる仕事があったんだな」
目元をぬぐっている。そんなに喜んでもらえるなんて、うれしいな。それから、工場では大勢の人が働くようになった。ポムギッタさんたち職人が難しい部品を作り、ほかの人たちが木材の加工や組み立てを担当する。
みんなで協力したおかげで、耕運機を何台も作れるようになった。最初の給料を渡した日には、あの男の人が銀貨を握りしめて泣いていた。
「ありがとうございます。これで、妻と子供たちにパンを買って帰れます」
「こちらこそ、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
男の人は何度も頭を下げた。王女様も、その様子を見て涙ぐんでいる。
「ヌゼリオ様。あなたのおかげで、国民の皆様に仕事を用意できましたわ」
「王女様が働く人を集めてくれたからですよ。これからも、たくさんの人に働いてもらいたいですね」
「……はい。わたくしも、精いっぱいお手伝いいたしますわ」
王女様が俺の手を握った。すると、ポムギッタが笑いながら近づいてきた。
「おいおい、シェル。仕事中にヌゼの手なんか握って、何やってんだよ」
「ポム。からかわないでくださいませ」
「へへっ。昔から分かりやすいんだから」
王女様の顔が赤くなった。2人は昔から仲がいいんだな。俺も、こんな仲間たちと研究できて幸せだ。
◇
ところが、工場を始めて間もなく、フェルクシア王国から書状が届いた。そこには、俺を引き渡さなければ軍隊を送ると書かれていた。
「ヌゼリオ様。ごめんなさい……」
王女様が俺の手を握った。
「わたくしがあなたを連れてきたせいで、この国まで戦争に巻き込まれてしまうかもしれませんわ」
「王女様が悪いわけじゃありませんよ。それに、俺のせいでこの国が攻められるなら、俺も何とかしたいです」
「ですが、相手は大国ですわ。わたくしたちの軍隊は2500人しかおりませんの」
王女様の目には涙がたまっている。
「それでも、あなたを引き渡すつもりはございません。わたくしは、もう二度とあなたを傷つけさせませんわ」
「ありがとうございます」
俺が笑うと、王女様は俺を抱きしめた。その手が震えている。きっと、すごく怖いんだろうな。だったら、王女様が安心できるくらい強い国にしよう。
「王女様。俺、もっと強力な兵器を研究してみたいんです」
「兵器、ですの?」
「はい。核兵器というものです」
王女様は不思議そうに首をかしげた。前世の俺は、核技術の研究開発に関わっていた。その知識を使えば、この世界でも核兵器を作れるかもしれない。ただし、今の設備では難しい。
「完成までには時間がかかります。でも、完成すれば、ほかの国も簡単には攻めてこられなくなるはずです」
「……分かりましたわ。必要なものは、できる限りご用意いたします」
そのとき、扉が開いた。
「シェル、大変だ。フェルクシアの軍隊が国境まで来たってよ」
ポムギッタが駆け込んできた。王女様は俺から離れると、窓の方へ歩いた。
「ヌゼリオ様。少し、お待ちくださいませ」
「王女様?」
「わたくしが、あの方たちを追い返してまいりますわ」
足元に青白い魔法陣が広がった。
「ポム。ヌゼリオ様をお願いいたします」
「おう。任せとけ」
王女様は窓から空へ飛び上がっていった。
◇
フェルクシア王国は、5万人もの兵士を国境に集めていた。しかし、シェルヴァニカ王女は1人で敵軍の前に降り立った。
「これ以上、わたくしの国に入らないでくださいませ」
「たった1人で何ができる! 罪人ヌゼリオを引き渡せ!」
敵の将軍が怒鳴った。
「お断りいたしますわ」
シェルヴァニカ王女は右手を上げた。
「永久氷壁」
ゴゴゴゴゴッ!
巨大な氷の壁が地面から現れ、敵軍の進む道をふさいだ。兵士たちが剣や魔法で攻撃しても、氷には傷1つつかなかった。
「ば、馬鹿な……。これほどの魔法を、たった1人で……」
将軍は青ざめた。シェルヴァニカ王女は氷の壁の上から告げた。
「お帰りくださいませ。今度ヌゼリオ様に手を出そうとなされば、わたくしは容赦いたしませんわ」
こうして、フェルクシア王国の大軍は国境を越えられず、撤退した。
その報告を聞いて、俺は王女様に何度もお礼を言った。だけど、これからも王女様1人に戦わせるわけにはいかないな。
俺も研究を頑張ろう。
◇
それから数年間、俺たちは国を豊かにするための研究を続けた。まずは農機具を大量生産した。耕運機のおかげで農民たちは畑を楽に耕せるようになり、作物もたくさん取れるようになった。
次に、鉱山を開発した。鉄鉱石や石炭を集め、製鉄所を建てた。魔鉱石を利用した機械も増やし、工場の生産力を上げていった。
さらに発電所を建て、町に電気を届けられるようにした。初めて電灯がついた日には、町の人たちが大喜びしてくれた。
「ヌゼ、見ろよ。あたいの工場が夜でもこんなに明るいぜ」
ポムギッタは電灯を見上げて笑っていた。王女様も、俺の隣でうれしそうにしている。
「ヌゼリオ様。あなたのおかげで、この国は本当に変わりましたわ」
「王女様とポムギッタさんのおかげですよ。俺1人では、こんなにたくさん作れませんでしたから」
「ふふっ。では、これからも3人で頑張りましょうね」
「おう。あたいも、まだまだ作りたいものがあるしな」
2人は顔を見合わせて笑った。
俺も、こんなに楽しい毎日を送れるなんて思っていなかった。工場が増えると、仕事のなかった人たちも働けるようになった。学校や病院も増え、町には新しい建物が並ぶようになった。
王女様は国の仕組みを整え、ポムギッタさんは大勢の職人をまとめるようになった。そして俺は、核技術の研究を進めていた。必要な設備を作り、研究者を育て、何度も実験を重ねた。簡単な研究ではなかったけど、前世の知識が役に立った。
こうして、長年の研究が実を結んだ。
ついに、俺たちは核兵器の開発に成功した。
◇
「これが……核兵器ですの?」
王女様が、遠くの実験区域を見つめていた。今日は核兵器の威力を確かめる日だ。人の住んでいない場所を選び、周りには誰も近づけないようにしてある。俺たちも遠く離れた観測施設にいた。各国の代表にも、安全な場所から実験を見てもらうことになっている。
「はい。とても強い兵器なので、実際の戦争では使わずに済むようにしたいんです」
「なあ、ヌゼ。本当に大丈夫なんだろうな?」
ポムギッタが心配そうに聞いてきた。
「できる限りの準備はしました。危険な実験なので、絶対に近づかないでくださいね」
俺は2人に説明してから、実験を始めた。遠く離れた実験区域で、強い光が広がった。
続いて、大きな火の玉が立ち上がる。
ドゴォォォォン!
遅れて、ものすごい音が聞こえてきた。遠くの空には巨大な雲が広がっている。
「な……なんだよ、あれ……」
ポムギッタが口を開けたまま固まっていた。王女様も、何も言わずに空を見つめている。
ほかの国から来た代表たちも、すっかり黙り込んでいた。
「成功ですね」
俺は実験の結果を確認した。
これほど強い兵器があれば、ほかの国も簡単には攻めてこられないはずだ。ただ、実際に使えば大勢の人が死んでしまう。だからこそ、戦争では使わずに済むようにしたい。
「ヌゼリオ様……。あなたは、これほどの力を持つ兵器を作ってしまわれたのですね」
王女様が俺の手を握った。
「はい。これで、ほかの国も簡単には攻めてこられなくなると思います。攻めてこられないようにするための兵器です。実際には使わずに済むのが1番ですね」
「……ええ。ですが、この力をむやみに使わないと、お約束してくださいませ」
「はい。俺の判断で勝手に使うこともできませんから」
王女様は安心したように笑った。
核兵器の存在は、すぐに世界中へ広まった。これまでユムネッカ王国を見下していた国々も、簡単には攻めてこなくなった。さらに、工場で作った便利な機械は外国にも売れるようになり、国はますます豊かになった。
かつて世界最弱と呼ばれていたユムネッカ王国は、今では世界最強の軍事大国として知られている。
◇
「なんだと!? ユムネッカ王国が世界最強だと!?」
フェルクシア王国の王宮に、国王ゾルドヴァグの怒鳴り声が響いた。机には、ユムネッカ王国についての報告書が置かれている。
「はっ。あの国は、核兵器という恐ろしい兵器を保有しているそうです。農業や工業も大きく発展しております」
「馬鹿な! あんな貧しい小国が、なぜこれほどの力を持ったのだ!」
「その発展を支えたのが、ヌゼリオという研究者だそうです」
国王の顔が引きつった。隣にいたバルギュスも、報告書を奪うように手に取る。
「そんなはずないのさ。あいつは魔法も使えない役立たずなんだぞ」
バルギュスは何度も報告書を読み返した。実は、フェルクシア王国では大きな問題が起きていた。バルギュスが新しい農具を開発できないのだ。ヌゼリオから奪った研究資料は、すでに燃やしてしまっている。農具の仕組みを十分に理解していなかったバルギュスは、改良することもできなかった。国王から新しい発明を求められても、何も作れない。
それなのに、追放された弟は世界最強国家を作り上げていた。
「陛下……。どうか、ヌゼリオを呼び戻してくださいませ。今なら、あいつの研究成果を王国のために使えるはずなのさ」
「うむ……。余が直々に迎えに行こう」
こうして国王は、バルギュスとヌゼリオの両親を連れ、ユムネッカ王国へ向かった。
◇
「ヌゼリオよ。久しぶりだな」
王城の会議室で、国王ゾルドヴァグが俺に声をかけてきた。隣には兄上のバルギュス、父上のドレガンツ、母上のネフィロッサが並んでいる。懐かしい顔ぶれだな。
「お久しぶりです。皆さん、お元気でしたか?」
俺が笑ってあいさつすると、4人は驚いた顔をした。
「う、うむ。元気であったぞ。ヌゼリオよ、余はそなたの才能を高く評価しておる。どうかフェルクシア王国へ戻り、王国最高の研究者として働いてくれぬか?」
「えっ?」
俺は目を丸くした。あんなに魔法が使えないことを怒っていたのに。
どうしたんだろう?
「ヌゼリオ。僕様も、お前の才能を認めてやるのさ。以前のことは水に流して、また兄弟仲良く研究しようじゃないか」
「そうじゃ。ヌゼリオよ、わしもそなたが立派になってうれしく思うぞ。今なら、我が家に戻ることを許してやってもよいのじゃ」
「あら、ヌゼリオ。ずいぶん立派になったわね。あたくし、あなたがこんなに優秀な子だったなんて、今まで気づかなかったわ」
4人が次々と話しかけてくる。だけど、困ったな。今さら戻ってほしいと言われても、俺にはこの国でやりたい研究がたくさんあるんだ。
「すみません。俺はユムネッカ王国に残りたいです」
4人の顔から笑みが消えた。
「な、何だと……? 余は国王だぞ。余が戻れと言っておるのだ!」
「ヌゼリオ、お前は僕様の弟だろう。兄の言うことが聞けないのかい?」
国王と兄上が声を荒らげた。すると、俺の前に王女様が立った。
「お下がりくださいませ」
銀髪を揺らし、シェルヴァニカ王女が4人をにらんでいた。
「ヌゼリオ様は、ここに残りたいとおっしゃっています。これ以上、無理に連れ戻そうとなさらないでくださいませ」
「な、何を言う! ヌゼリオは余の国の人間であろう!」
「違いますわ。あなた方は、ヌゼリオ様の国民としての権利を永久に奪ったのでしょう?」
国王が口を閉じた。
「それに、あなた方はヌゼリオ様から研究を奪い、ひどい傷を負わせ、最後には処刑しようとなさったのですわ」
王女様は俺の手首を取った。そこには、今も薄く鎖の傷が残っている。
「この傷をご覧くださいませ。あなた方は、ヌゼリオ様がどれほど苦しんでいたか、ご存じなのですか?」
王女様の目から涙がこぼれた。
「わたくしは、処刑台で傷だらけになっていたこの方を、今でも忘れられません。どれほど怖かったでしょう。どれほど痛かったでしょう。それなのに、この方は、あなた方を責めようともなさらなかったのです」
王女様は俺の手を強く握った。
「そんな優しい方を、あなた方は役立たずと呼んで捨てたのですわ。今さら必要だと言われても、わたくしは絶対にお渡ししません」
「おう。シェルの言うとおりだぜ」
ポムギッタも俺の隣に立った。
「あたいはヌゼと一緒に、何年も研究してきたんだ。こいつがどれだけすげえやつか、ちゃんと知ってる。今さら連れ戻すなんて、勝手なこと言ってんじゃねえぞ」
兄上が顔を赤くした。
「な、何だと。僕様を誰だと思っているのさ!」
「知るかよ。ヌゼの研究を盗んだ兄貴だろ?」
「ぐっ……!」
ポムギッタは鼻で笑った。
「自分で何も作れねえくせに、人の研究を奪って偉そうにしてんじゃねえっての」
兄上は何も言い返せなくなった。すると、王女様が机の上に書類を置いた。
「ヌゼリオ様にかけられた研究費横領の疑いについて、わたくしたちが調べました。その結果、証拠が作られたものだったことが分かりましたの」
「なっ……!」
兄上の顔が青くなった。
「さらに、農具の本当の開発者がヌゼリオ様であることも、確認できておりますわ」
王女様は兄上を見つめた。
「あなたが受け取った勲章は、本来ヌゼリオ様が受け取るべきものだったのではありませんか?」
「そ、それは……」
兄上は後ずさった。
「僕様は……知らなかったのさ……」
「嘘をおっしゃらないでくださいませ。あなたが研究資料を奪ったことも、燃やしたことも、すべて調べております」
兄上はその場にひざをついた。
「ご、ごめんよ、ヌゼリオ……。僕様が悪かったのさ……。だから、どうか許しておくれ……」
父上も慌てて頭を下げた。
「ヌゼリオよ。わしが間違っておった。どうか、もう1度家族としてやり直してはくれぬか?」
母上まで泣き始めた。
「あたくしも悪かったわ。お願いだから、戻ってきてちょうだい……」
国王はしばらく黙っていた。やがて、重い口を開いた。
「……ヌゼリオよ。余が間違っておった。そなたを処刑しようとしたこと、謝罪する」
4人とも、俺に頭を下げている。以前は、どれほどお願いしても話を聞いてくれなかったのにな。
「謝ってくれて、ありがとうございます」
俺は4人に頭を下げた。
「でも、やっぱり戻ることはできません。俺は、この国でようやく人間らしく暮らせるようになりました。ここで研究を続けたいんです」
「そんな……」
兄上が床に手をついた。
「お前が戻ってこなかったら、僕様はどうすればいいのさ……」
「兄上も、自分で研究してみたらどうですか? きっと楽しいですよ」
俺がそう言うと、兄上は何も答えなかった。結局、4人は俺を連れ戻すことを諦め、フェルクシア王国へ帰っていった。
その後、フェルクシア王国では研究費横領の冤罪が正式に取り消され、兄上が研究成果を奪ったことも公になった。兄上は勲章を取り上げられ、研究者としての地位も失ったらしい。父上と母上も、俺への虐待や冤罪に加担したことを知られ、貴族たちから信用されなくなったそうだ。
さらに国王も、俺を処刑しようとした責任を追及され、王位を失ったと聞いた。
大変なことになったんだな。でも、俺にはもう関係のない話だ。
今の俺には、大切な仲間たちと、やりたい研究がたくさんあるんだから。
◇
「ヌゼリオ様。少し、お話ししてもよろしいですか?」
ある日、研究室で図面を描いていると、王女様が声をかけてきた。
「はい。どうしました?」
王女様は俺の隣に座った。長い銀髪が肩から流れ、青い目が俺を見つめている。
「わたくし、あなたにお伝えしたいことがありますの」
「何でしょう?」
王女様は少し顔を赤くした。それから、俺の手を握った。
「ヌゼリオ様。わたくしは、あなたを愛しております」
「……えっ?」
俺は目を丸くした。王女様が、俺を?
「あなたが処刑されそうになっていたとき、わたくしは何があっても助けたいと思いました。あなたがこの国に来てくださってからは、毎日が本当に幸せでしたの」
王女様の目がうるんだ。
「あなたが笑ってくださるとうれしくなります。お怪我をされたときは、心配で夜も眠れませんでした。もう、あなたのいない毎日など考えられませんわ」
「王女様……」
「どうか、これからもわたくしのそばにいてくださいませ。わたくしは、あなたとずっと一緒にいたいのです」
こんなにきれいで優しい人が、俺のことを好きだと言ってくれるなんて。うれしいな。
「ありがとうございます。俺も、王女様と一緒にいられて幸せです」
「……本当ですの?」
「はい。王女様が助けてくれなかったら、俺は今ごろ研究もできていませんでしたから。好きです」
王女様の目から涙がこぼれた。
「……ありがとうございます、ヌゼリオ様」
王女様が俺に抱きついてきた。俺も、そっと抱きしめ返した。
すると、研究室の扉が開いた。
「おいおい、シェル。何やってんだよ」
ポムギッタが立っていた。
「ポ、ポム!? いつからそこにいたのですか!?」
「さっきからだよ。ったく、あたいのいないところで何してんだか」
ポムギッタは腕を組んだ。それから、俺の方を見た。
「なあ、ヌゼ。あたいも言っておきたいことがあるんだけどよ」
「何ですか?」
「……あたいも、お前のことが好きなんだよ」
「えっ?」
今度はポムギッタさんまで?
「最初は変なやつだと思ってたんだ。魔法も使えねえのに、見たこともねえ機械を考えて、毎日楽しそうに研究してるしさ」
ポムギッタは少し照れた顔で笑った。
「でも、一緒に仕事してるうちに、お前といるのが楽しくなっちまったんだよ。あたいが作ったものを、あんなにうれしそうに見てくれるやつなんて、今までいなかったからな」
「ポムギッタさん……」
「だからよ。これからも、ずっと一緒に研究させてくれよ」
ポムギッタは俺の反対側に座り、手を握ってきた。王女様も、俺の手を離さない。
「ポム。あなたも、ヌゼリオ様のことを……」
「おう。悪いな、シェル。あたいも好きになっちまった」
2人は顔を見合わせた。しばらく黙っていたけど、やがて王女様が笑った。
「ふふっ。昔から、わたくしたちは好きなものが似ていましたものね」
「へへっ。そういうことだな」
ポムギッタも笑った。俺は2人の手を握った。
「ありがとうございます。俺も、2人のことが大好きですよ」
王女様は顔を赤くし、ポムギッタは楽しそうに笑った。
2人とも、俺にとって大切な人たちだ。これからも、ずっと仲良くしていきたいな。
◇
ユムネッカ王国には、たくさんの工場が建ち、便利な機械が広まった。農民たちは新しい農機具を使い、作物をたくさん育てられるようになった。町には電灯がつき、学校や病院も増えた。以前は仕事がなかった人たちも、今では工場や店で働いている。子供たちも、お腹いっぱいご飯を食べられるようになった。
さらに、核兵器を持ったことで、ほかの国も簡単には攻めてこなくなった。かつて世界最弱と呼ばれたユムネッカ王国は、今では世界最強の軍事大国として知られている。
「ヌゼリオ様。次は何を研究なさるおつもりですの?」
王女様が俺の隣に立った。
「そうですね。今度は、もっと便利な乗り物を作ってみたいです」
「乗り物、ですの?」
「はい。馬がいなくても走る車とか、空を飛べる飛行機とかです」
「おっ、面白そうじゃん。あたいも作りたいぜ」
ポムギッタが目を輝かせた。
「シェルみたいに空を飛べる機械ができたら、最高だろうな」
「ふふっ。わたくしも楽しみですわ」
王女様が笑った。俺も2人を見て笑った。
魔法が使えないせいで、家族から役立たずと呼ばれていた俺は、研究を奪われ、処刑されそうになったこともあった。だけど、今は違う。
今の俺には自由に研究できる場所があるし、俺を必要としてくれる人たちもいる。大好きな仲間たちと、これからもいろいろなものを作っていけるんだ。
こんなに幸せなことはないな。
「それじゃあ、次の研究も頑張りましょう」
「ええ。これからも、ずっと一緒ですわ」
「おう。あたいも最後まで付き合うぜ」
俺たちは笑い合った。まだまだ研究したいことはたくさんある。
だから、これからも3人で、楽しく研究を続けていこう。
完




