↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前略 不在の親友へ  作者: 碓氷みゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/16

6 選択肢「打開策を探す」

 僕らはテーグラ山一帯の竹林前、開けた場所で王家の影たちと向き合う。突然藪から飛び出した僕に度肝を抜かれたのはなにもイグニスだけではなかった。そのまま隠れているわけでもなく姿を現したことで警戒される。


「これはこれは……。ずいぶんと人気のない場所に向かっていると思いきや、おびき出されたのは我々ですかな」


 救援に来たとおぼしき僕に対し、距離を取って、観察している影。僕という存在がイグニスの側についたことで彼らに動揺が広がる。

 イグニスも目を白黒させながら僕の脇に控えた。耳打ちするように顔を近づけられた。


「なんでここにいる!」


 なんで? 決まっている、それは僕が「打開策を探す」ためにだ。


「僕も戦う!」

 真横のイグニスを焚きつけるべく叫んだ。

 だがイグニスからの返事は渋い。

「どんくさいお前はろくに戦えないだろう!? せめてお前だけでも逃げろ!!」

「逃げない! 僕を置いて死なないって約束したくせに、嘘つきになるのか!?」

「セレーヌ、そんなわがままを言っても時間が、」

「僕だって一緒にいたい」、彼の胸板を叩きながら素直な気持ちをぶつけた。


「っ……どうなっても知らないからな」と彼はふいと顔を背けた。


 イグニスを説得し終わり、僕らは影に対峙する。


「逃げても無駄なんだ。この人たちは凄腕だから」

「ほお我々のことをご存知とは。どこ経由ですかな、捕獲して吐かせましょうか」


 前も後も暗殺者。強敵に囲まれる中、僕はポケットのラブレターを訳知り顔で取り出した。


「この期に及んで手紙ですか……。援軍を呼ぶには頼りない気がしますがね?」

 王家の影がそう煽る。

 僕は平然とした態度で答えた。

「助けなんか呼ばないさ」


「僕も戦えるよ。忘れたの、道具さえあれば――僕だって無(・)敵(・)になれるって」


 脳裏をよぎる、懐かしい思い出。学生生活の一幕。普段は薬師として生活しているが僕の専攻はあくまで錬金術。ある日いじめられっ子の後輩を守るために傲慢魔術師に決闘を挑んだ、あの日のことを。準備期間明けの勝敗の結果は下馬評を覆し完全勝利を収めた。徹底的に相手の手札を研究し対策した僕が収めた勝利。


 そう、今の僕には力がある。どうか天よ、僕に味方を。


#


 絆が深まり解放された残りの機能。説明文を読むにこれはこのループに関係する能力のはず。それならできることは。


「クイックロードとクイックセーブ……今こそやり直そう」

「この野郎、死ねぇぇぇ!!」

 ザシュ……パパッ……ザシュ。

「なんだ!? 斬撃が当たらねぇ!?」

「おいこんな時にふざけるな! まじめにやれ」

 ザシュ……パパッ……ザシュ。

「やって……うわっ、なんでこれも?」


 ざわざわと周囲に驚きが広がる。そうだろう、驚くのも無理はない。僕は今この時、彼らの攻撃を完全に読み切ったような回避を繰り返しているから。とはいえ一見でこんな芸当ができるわけもない。


「この野郎、死ねぇぇぇ!!」

 真正面からの真向斬り、僕は斬りかかられた瞬間、ロードをする。

 半歩左に踏み出してあとは体を流すように避ける。

「なんだ!? 斬撃が当たらねぇ!?」

「おいこんな時にふざけるな! まじめにやれ」

 次は背後からの袈裟斬り。僕の肩口から右下へと斬りつける動きだ。ロードして、さらに強引に振り返って前転するように躱しきった。

「やって……うわっ、なんでこれも?」


 死ぬ覚悟で攻撃を把握してから場面を読み込みして避けきる。何も知らない人間からみれば完全に太刀筋を把握して捌き切っているようにしかみえないだろう。


 イグニスはイグニスで襲い来る攻撃を払い退けて攻勢に転じている。だがここで意識がそれた彼を襲う致命的な――バビュン!!

 木々に隠れた7人目の凄腕の使い手による射撃。イグニスの後頭部を狙った攻撃を、彼にぶつかるように庇うように、かわした。

 これでイグニスを襲った一撃を防ぎきった。だが敵が多い。戦うにしてもこのままではもたない。


 決断を迫られる。


「セレー……!?」


 唖然とするイグニスに呼びかけられてさらなる使いこなしを披露する。死に戻り覚悟で逃げるだけでなく、地面に転がっていた火鉢石をみつけ、竹林に投げ込んだ。地形を調べた時に知ったある存在をおびき出すためだ。投げ込んだ火鉢石が反応して竹林が爆ぜる。そして、霊獣が姿を現してこちらに牙をむいた。


 白虎の霊獣、名はアルブス。人間の倍はある巨体を誇る虎で、このテーグラ山の竹林を住処としている。悪戯をしなければあちらから害されることはないが、こうして眠りを妨げれば安寧はおろか、牙をむいて襲いかかってくるだろう。


 キッとまなじりを開いてアルブスが駆け出す。迷いなく、竹林に石を投げ込んだ僕を狙ってきた。だが僕は霊獣の攻撃すら見切って、イグニスを強引に退かしてヘイトを影に向けた。


「あ、ああ、悪魔め! 霊獣様をけしかけるなんて……ッ!」

 現場を撹乱する僕より霊獣に恐怖する影たち。

「どうか霊獣様お許しを……」

 頭を下げて半歩下がる影たち。しかし、霊獣の怒りは収まらないようで、影のリーダーと思しき男の右腕が食われた。その後も次々に暴れて、まとまっていた奴らはもれなく牙や爪により絶命した。

 霊獣は、隠れていて僕らですらみつけられなかった敵を発見したようで、該当の大木めがけて体当たりを仕掛けた。木が激しく揺れて自然になっていた実が葉っぱごと落ちる。衝撃で目を回していた最後の一人もあますところなく殺された。


 咆哮を上げてこちらを凝視するアルブス。試すような視線を向けてくる。


 僕は暴れる白虎をなだめるため脚を踏み出そうとした。

「行くなッ!!」

 引き止めるイグニスの腕を引き剥がして僕はまっすぐに進む。


 霊獣を真摯にみつめて、自分の腕を差し出す。霊獣がその腕に噛みついた。

「くっ……」

 血を流す僕の腕。それを青ざめた顔で見守るイグニス。彼に大人しくしていてと視線を送り、僕は霊獣を静かに観察した。荒ぶっていた敵意は鳴りを潜めている。僕の血を啜って満足したのか、霊獣は傷跡を舐めはじめた。光が収束し、僕の腕に印が刻まれた。どうやら認められたらしく、霊獣と契約がなされたらしい。


 大人しくなった霊獣はまた竹林に消えていった。


#


「は? 死んでた……?」

「正確には死ぬ前に戻ってたから、セーフ……ええとぎりぎり間に合ったって感じで、っあ!?」

 ぎゅっと抱擁を受けながら僕はイグニスに説明していた。


 帰宅後、イグニスは僕に説明を求めてきた。そりゃいきなり神がかった戦闘センスをみせればそうなるよねという話。乙女ゲーム、とは言いづらいので天啓のようなもので不思議な力を手に入れたことにして、語った。もちろんプロフィール帳機能で彼の出自を明らかにしたことも含めて。


「無茶してくれるなよ……。今になって緊張してきた」

「心配いらないよ」

「お前がどうにかなっていたかと思うと……、疑って悪かった」

 謝罪はきっと、前に巻き戻ってることを話して信じてもらえなかった時のものだろう。僕は黙ってそれを受け入れた。

「お互い秘密はなしな」

「……うん」


 ベッドで傷の介抱を受けながら、僕はイグニスと寄り添って休むのだった。


 No.02 ノーマルエンド 『ノーガード戦法』

 君を守るためなら僕だって悪魔にもなる。


#


 夢の中、UIから通知が届く。ラブレターの文字が意思を持ったように蠢いて、文字を形作って知らせていた。

 ――第1章クリア。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。