5 選択肢「……逃げよう」
場所はテーグラ山、麓。竹林が奥に群生している手前の藪から、そいつらは出現した。盗賊――もとい、王家絡みの影。
「これはこれは……。ずいぶんと人気のない場所に向かっていると思いきや、おびき出されたのは我々ですかな」
前回と同じ台詞を喋って、影とイグニスが対峙する。
だが違うのは僕という存在がイグニス側につくということ。
「ふん、盗賊か。相手にならんな」、イグニスが余裕げに構えた。
僕はあれからイグニスを救おうと考えた。そして出した結論は。
「「……逃げよう」イグニス!」
「セレーヌ!? どっから……いや待て。こんな奴ら俺一人でも」
イグニスは闘う気だ。僕はそれを止めに藪から飛び出し、必死に叫んだ。
「彼らは盗賊じゃない! この件は王家が絡んでる!」
「お前っ、どこまで知って……?!」
核心をついた僕に焦るイグニス。その様子を眺めていた奴らの顔色も変わる。
「おやおや。そんなことまで知っているとは、これはお連れ様も生かしておけませんね」
武器を持ち出す王家の影。僕はイグニスの腕を引いて走り出した。
めちゃくちゃに走ったからもう方向が分からない。藪や木々の間を走り抜けて僕らは逃げ回る。足を止めたらきっとまた、射手が放つ一撃が飛んでくるだろう。できるだけ狙いを絞られないように、僕は走った。そのせいでこんな山間部にまで来てしまったが。
奥は切り立った崖と滝、来た道を引き返そうにも手前には。
「もう終わりですよ。さあ、こちらに来てください」
影が遠くから迫っていた。逃げの選択肢を選んだはずなのに、このままでは追いつかれてしまう。
「逃げ切れない……か」
――そんな顔みたくなかったのに。
イグニスが悟ったような顔でつぶやく。隣の僕を振り返って言う。
「二手に分かれよう。下で待ってるからな」
僕の頬をそっと撫でて言い残し、イグニスは滝から落下した。
「え?」
……落下?
転落したイグニスを見ることもできなかった。ふらふらと崖下に近づくが滝壺があるだけで上がってくる者など、ない。
「いたぞ!」
絶望の只中にいた僕が引き止められる。影は迷いなく僕の身動きを封じた。「奴はどこだ!」、吠える連中。僕はただ滝の方を眺めることしかできない。
「まさか……飛び込んだのか」
影も悟ったらしい。それから滝壺と周辺、川下の捜索が行われた。捕らえられたまま僕は事態の成り行きを見守った。イグニスを滝壺で探す王家の影たち。
そして……一番見聞きしたくない報告が返ってきた。
川下からイグニスの体が流れてきた。浮き上がった水死体をみながら僕の意識はまたも遠ざかる。 僕もまた殺されたのだろう。
意識が薄れる中、影たちの会話が聞こえる。
「まさかあの者が王位簒奪を企んでいたとは」
嘘。イグニスは、そんなこと……。
「ん? こいつまだ息があるな」
不穏な物音とともに視界が闇に覆われていく。今度こそ意識が途切れた。
No.01 バッドエンド 『行き先のない逃避行』
あの時逃げなければよかった……。




