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「——……ハッ!?」
うなされて飛び起きる。日めくりカレンダーの日付は12月12日、前回目覚めたのと同じ日付だった。
間違いない。気づけばまた巻き戻っていた。同じだけど違う朝が始まっている。今度は隣のベッドで寝ていたイグニスが僕に気がついて体を起こす。寝ぼけまなこをこすりながらこちらを気にする彼に「なんでもない」と告げて再び布団の中に戻った。
頭まですっぽりしまって僕は震えた。寒いのではない、怖いのだ。たった今、僕は親友を失った。それも二度目だ。
どうして僕はなにもできなかったんだ。悔しくてたまらない。今度は失うと知っていたのに、僕は仮初の幸せを満喫して、失う恐ろしさから逃げた。
そう掛け布団を被ったまま震えていると、布団がわずかに動いた。なにかがまさぐるように近づく。気配を感じて手をそちらに近づけると指がそれに絡め取られた。どうやらイグニスの手だったらしい。
「寒いんだろう。手が冷たい」
隣のベッドから起き出したイグニスがいう。彼の手はたしかに温かい。イグニスの手が離し難いほど、僕は失ったショックを思い出して呼吸が乱れた。思い出せば思い出すほど苦しくて、僕の心は布団の中でのたうち回った。彼の手をきつく捕まえたまま、自分の胸元の衣服を握る。彼の手がこわばったのを感じた。
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そんな僕をみていられなかったのか、イグニスが提案してきた。まだ早いけど起きて朝食にしないか、と。
扉から薄明かりが漏れている。僕は一人暗闇にいるのが怖くなって、待っているイグニスがいるリビングの扉を開けた。彼はちょうどキッチンに立っていた。焼けたパンの香ばしい匂いがする。僕をみかけるとイグニスが振り返った。
「コーヒー、いるか?」
「……飲む、からちょーだい」
「泣いてんのか? やっぱりなにかあったのか?」
「ん。なんでもない。……おいしっ」
ごまかすように僕は笑った。けれどそれでごまかされてくれる彼ではなかった。
「教えろよ」とイグニスが突っかかる。
ううんと、僕は首を振った。それでもイグニスは僕の肩を揺さぶって追及する。
「うそだろ。なんで言わない!? 俺が頼りないせいか!?」
睫毛を震わして叫ぶイグニス。
曖昧に笑って僕は肩に乗っていた手を降ろさせた。
「久々過ぎて、ちょっと……感動しただけ。ほんとに、なんでもない」
「昨日もうまそうに飲んでたろ、ったく。……今日はそれ以上だけどな」
くっ、とこらえたようなイグニス。彼は納得していない様子だったが息を吐いて僕の頭を撫でた。その心地いい撫で方に、僕は安心した。
「まったく、何があったか知らねえが俺の親友をくたびれさせるなんて」
「ありがと」
「どーいたしまして」
ぶっきらぼうに笑う彼に僕も笑顔を向けた。若干口元が引きつっていたから綺麗には笑えていなかったと思うけどイグニスは何も言わなかった。
早朝のトレーニングをしに行こうとしていたイグニスは予定を取りやめたのか、家の中で筋トレを始めた。僕のためにこの場に留まっているのだと思う。自意識過剰でなければ。僕は彼の様子をコーヒーをすすりながらそっと眺めた。ほんとうに彼がいるんだなあという実感が湧いてきた。止まらない感動に、つい呟いていた。
「これは夢なのかな……。もう、覚めなくていいのに」、と。
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同じような日々が続いてもやりきれない。
僕は耐えきれず、イグニスに尋ねていた。
「もしもの話だけれど、君は僕にラブレターを書いたりするかな」
その答えは――。
「書かねーよ。……だが、死ぬと分かっていたら最後ぐらい出すかもなあ」という濁し方をする彼。
「ってかなんでラブレターなんだ?」とおかしそうにイグニスは笑い声をあげた。
だが僕はその返答のおかげで冷水をかけられた気持ちになった。そういう気持ちだったことを悟って、僕は決意した。知りたい。何が起きたのか知らなくては。
僕は静かに立ち上がった。
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迫る期日。イグニスに何が起きたか調査することを決めてから約束の日。12月19日、最後に覚えている彼の後ろ姿を追って後をつける。人気のない山奥の方まで、任務なのか、イグニスは一人で向かっている。僕はそっと距離を空けてついていく。
彼が振り返る仕草をしたので、僕はとっさに藪の中に潜むようにして隠れた。
「でてこい! 何者か知らないがいるのは分かっているぞ!」
「これはこれは……。ずいぶんと人気のない場所に向かっていると思いきや、おびき出されたのは我々ですかな」
ガサガサと藪が動いて6人ほどの荒くれらしき男たちが飛び出す。荒くれたちは頭に白い頭巾を被っていた。完全に武装した状態の男たちが剣や鎌を片手に、イグニスを取り囲む。囲まれたイグニスは冷静だ。
「盗賊か。相手にならん、さっさと投降し——……?」
突如、彼の首筋に矢が刺さった。血を流しながら矢を抜こうとするイグニスだが、ふいに体がふらついて倒れた。てらてら光る矢を受けたまま、彼の体が痙攣して動かなくなった。
「ふん、盗賊ごときと一緒にされるとは」
「とはいえ無事始末できましたね。これであの方も、」
「待て。まだだ」
――イグニスは、失踪したんじゃない。
――殺されていたんだ!!
僕は眼の前の光景に両手で口を封じてこらえていた。眼の前で行われた殺人。そのせいでうまく処理できない。早くイグニスを助けないと……でも、彼は無事なのか? そもそもこいつらは一体……。
恐怖で足がすくむ。覚悟を決めても、腰が抜けたように動けない。
すると、あまりのショックに声も上げられないまま意識が遠ざかり始めた。強烈な痛みに胸元を探れば、さっき見た矢が。ぼたぼたと鼻から血が漏れた。手にも血が
こびりついている。
――僕の存在までバレていた?
「よし、いいだろう。死体を処理するぞ。それから……」
くらっと視界が回転したときには、眼の前にゲームオーバーという文字が血文字のようににじんで浮かんでいた。




