26 選択肢「名前を呼ぶ」
「君は生きてよ」
僕は誰に選択を求められたわけでもなく、イグニスの「名前を呼ぶ」。
「神様僕の全部をあげるから、彼を生かしてあげてください」
ポケットのラブレターに一心に願った。
ラブレターのUIは応えない。
だが世界が反応した。
引き換えに、その言葉によって僕の魔力もろとも生命力が吸われていく。
僕から吸い出された力がイグニスの体に移っていく。
光る力を受け取って、イグニスの鼓動が復活した。
たしかに心音が聞こえる。彼の咳き込む声もする。
よかったと、僕は安堵した。
もっと彼をみていたかったのに意識が薄れていく感覚があった。ついにイグニスと目が合って、今度は僕の方から謝る。ごめんねと、僕は続けた。
「約束……果たせないやっ。ずっと一緒に居たかった。それから、大きなベッドで君とひとつになりたかったよ。イグニス……忘れないで。僕は君が――……」
イグニスの手にふれる。
彼の手にはぬくもりがある。
守りたかったものを守れて、僕は心底満足だった。
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ようやく自由になった世界。みえない呪縛からは解放され、世界が軋みだした。
震えながらいくつもの入口が開く。
僕はイグニスとともに宇宙空間のような領域を落ちていく。世界の裂け目が無数にある中で、王都ルーメンの貸家前が映り込んだ。僕らはそこに導かれるように落下する。
先に、イグニスの体が目の水晶体のような入口に吸い込まれた。僕も踏み出そうとしたが、なぜか水晶板に拒まれてしまう。手で触れようにも異物のように弾かれる。
その間にも足元から消えていくこの不思議な空間。
ああ、と悟ってしまった。僕はこの空間から出られないのだ。きっと、彼を助けた時に運命とやらをまた捻じ曲げた代償だろう。鏡ごしのイグニスを見つめた。彼はまだ起き上がらない。通り抜けて抱き起こせないのをもどかしく思う。
引き離された入口、とうとう僕の足元が透けだした。
それでも僕は最後までイグニスの様子に注視していた。
彼の渋い返事だとか、水やりする時の上機嫌な鼻歌だとか、かしこまった様子で相談を持ちかける時とか、あとは……弱った僕を慰めてくれる屈託のない笑顔。
意識は薄れる。僕が僕であった輪郭も思い出せないほどぼやけて、やがて――……。
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夢の中、UIから通知が届く。ラブレターの文字が意思を持ったように蠢いて、文字を形作って知らせていた。
――討伐対象キャラ【ヤーヌス】撃破。
――ラスボスを倒したことによりポイントを手に入れました。




