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前略 不在の親友へ  作者: 碓氷みゆき


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 ――攻略対象キャラとの絆が深マrまセェんデシタAAA……??

 僕のもとに壊れきった通知が届く。不気味なUIが表示されたままのラブレター。


「そういえばこのラブレターはなんなんだ?」

 イグニスが僕の手からそれを掴み眺めている。

「これ? ああ、これはね」と僕はこれまでの経緯から機能でできることを説明した。

「差出人不在の恋文、ねえ……? ほんとにそれ俺からなの?」

「わからないんだ」

「まったく、謎だらけだな」

「ほんとどうやって届いたんだろうね?」と僕は切ない気持ちを隠して微笑んだ。


 送り主は――たぶん。僕が、待ちぼうけて亡くしてしまった君だと思うから。もういないイグニスだと思うと神妙な気持ちにもなる。

 隣でラブレターを透かしたりと検分していたイグニスは感心したように言った。

「たしかに俺の筆記みたいだな。ん、裏にもなにか……」

 裏面にある僕の返信を見せるのは気まずくて、慌てて取り返したのだった。


#


 今日は8月2日。昨日は目一杯休んでしまったが今日こそはここでの情報をイグニスと整理する。

 彼が土砂崩れに巻き込まれて生死不明になるのは8月6日の話だ。他にもこの天災で行方不明者や死者が出ている。前日からの大雨が契機だそうで、その嵐が迫っていた。

 僕らは現場に向かうこととなった。イグニスと調査に出かけようと玄関を出るとき、いつものブレスレットがないのに気づく。数日前になくなったと話すイグニス。

「そ、そう……」

 僕のお気に入りのアクセサリーがないと知って落ち込むと、イグニスはふむと顎を擦って思い出したように口にした。

「今の少し泣き虫なセレーヌも可愛いな」

「なッ!?」

「フッ、冗談。そんなに驚くなよ」

「君こそ変なこと言うなよ!」

「どうしたどうした。動揺するってことはそんなに好きな相手でもいるのかァ?」


 ――それはもちろん、君のことなんだけども……。


#


 現場検証。僕らは記事の通りアルカナム峠にいた。麓へと続く山道を見下ろす。


「本当にこの場所で災害が?」

「嵐による大雨が原因で地面が崩落したんだ。記事にはそうあったよ」

「たしかに脆そうな地形もあるな……」

「ああいった不安定な出っ張りも危険そうだよね」


 僕は指さして崖になっている箇所を示した。ただでさえ薄い地盤に根の張った木が生えている。雨でぬかるめば倒れるかもしれない。腐った木などあればなおさらだ。


 俺達にできることは、とイグニスが続ける。

「村民への警告ぐらいしかできることはなさそうだな」

 そう。まさかふたりだけでこの場所を補強なんてできない。そのせいでどう状況を覆せばいいのかがわからない。天候を変えるなんて不可能だ。土砂崩れの現場から人を遠ざけることはまあできるだろうが滑落を食い止めるのはさすがに無理だ。しかしそもそも――。


「なんでイグニスはこの場所へ?」

 彼が近くの集落に用があった可能性も否定できないが――その村は管轄が違うそうだ。なおさらこんな山中に用などないだろう。

「君は真面目だから仕事となれば遠方まで出向くよね。協力要請とか?」

「とすると避難誘導などで駆り出されていたのかもな」

 イグニスのありえそうな推測。だがそれも違和感がある。嵐の当日に詰め所で待機ではなく遠方まで赴くなんて、謎は深まるばかりであった。


#


 刻々と近づく予定日。8月3日朝、警戒する僕らのもとに一通の封筒が届いた。イグニス宛の郵便物は職場からの通知であった。内容はというとマルクス・コルネリウスの尋問結果について、だそうだ。元相棒の尋問とあってイグニスも処遇等追って確認したいと要望を出していたそうだ。


「セレーヌも関わった事件だ。できれば一緒に来てほしい」


 こうして僕は鉄格子越しにマルクスと再会した。

 正直いい印象はない。斬りつけられたイグニスを思い返せばいつだって心臓が締め付けられるから。苦しい光景を悪夢に見ていないだけマシなほどに。


「やあ……、来てくれたんだね」


 面会したマルクスに以前のような覇気はなく、やつれているように見えた。髪も伸ばしっぱなしで前髪のせいで瞳が隠れがちになる。顔をあげていないせいでそういった印象を余計に覚えるのかもしれない。

「君たちには直接話しておきたかったんだ」とマルクスは用意していたような台詞を口にした。

 僕は警戒し、隣のイグニスを見上げる。イグニスもまた頷いた。

「ああ、聞こう」


「例の木片は見知らぬ相手から譲り受けたんだ」と開口一番、マルクスは疑問点に答えた。しかしその内容は正確とは言いがたかった。

「見知らぬ相手? お前の知人じゃないのか。どこで知った」

「そいつとは酒場で知り合った。俺はその日、踊り子の舞と一緒に酒の肴にとちょいと聴いただけだよ」

「酒場?」

「ああ。顔も知らない相手さ。愚痴をこぼしていたらあの木片を渡された。依頼だと言ってお前を殺すようにと念を押されたんだ。俺の手を握ってこれがあなたを助ける、と用途の説明を残してな。あとは知らん」


 イグニスを殺すように依頼して、消えた……?

「何者なんだ……。なぜ俺を狙う」

 マルクスはそれには答えず首を振った。


「じゃああの火事は。お前が最初に拘束された時の付け火だ。犯人は結局分からなかったそうだが」

「さてな。計画したのは俺だが、付け火の件はまったくの偶然だ」

 計画が破綻になると知って自発的に協力したのか?

「最初はあれを使うつもりなんて……いや、これは単なる自己保身な理由か」

「続けてくれ」

「使うつもりはなかった。ただ、あの木片を握っていると渡された時の、その使命感みたいなものに駆られたんだ。そうしなければならない、と。あとはそうだな、俺の醜い嫉妬だよ」

 マルクスは複雑な胸のうちを吐露するように苦しげに笑った。

「俺はお前に嫉妬していたんだ。何もかもかっさらわれることに腹を立てていた。功績も人気も信頼も。すべて上回るお前に腹を立てていたんだ。俺と同じ境遇のくせに、俺より重宝される、お前が。そして気づいたら……あんな所業に」

 彼にもたらされる褒章や功績に嫉妬したというマルクス。かつての相棒の隠された本音にイグニスは痛んだように顔を歪める。傷ついたのは、たぶん、どちらもだろう。

「俺は自分が怖いよ。またあんな風に自分が自分じゃなくなるのかと思うと!」


 マルクスは感情が乱れて激しく顔を覆った。そして続けた。


「もう俺は駄目だ……許してくれとは言わないがすまなかった、これだけは言いたかった……」

「なにがダメなんだ。それを決めるのはお前じゃない」とイグニスは言い切る。

「俺はお前に刃を向けた! 到底あっていいことでは、」

「たしかに殺人は罪だ。言い逃れようのない罪だ。だが……――お前が襲ったのは俺で、そんな俺はピンピンしている。この通りな」

 もちろんセレーヌのおかげだが、と付け足してイグニスは腰を据えた。

「他に死者の一人でもでていればまた話は違ってくるが、俺はお前のことを最低な奴、だなんて思わない。マルクス、お前ならまたやれる。だから戻ってこいよ」

 根っからの罪人ではないと言い聞かせて親友にエールを送るように鉄格子を叩いた。

 透き通って美しい青い瞳を光らせるマルクス。やつれていた顔つきも、希望を託されたことで前向きにみえる。

「償う……ああ、俺は罪を認めている。待っててくれ、今はまだ決断できないがきちんと贖罪が済んだのなら」


 ――お前の隣にもう一度。続く言葉こそなかったが、彼はそう願いを込めたのだった。


#


「そういえばフードで顔を隠していたけれど、あれは確かに、魔(・)術(・)師(・)の(・)ロ(・)ー(・)ブ(・)だったよ」

 マルクスは最後にそう結論づけた。


「そういえば影を仕向けたのもお前か?」

「影……? 残念ながら俺は闇魔法には詳しくないんだ」

「いやいや、そっちじゃない。王家の影(・)だよ」

「だから、王族の……ん? なんでそんな所と繋がりが? 俺は、知ってると思うが孤児院の出身だぞ。後ろ盾もお貴族様の知り合いもいない」

 マルクスはあの件に関わっていない――? 僕とイグニスは顔を見合わせた。


「やはりな。暗部と接触したのは貴様ではないか」

 背後から威厳のある声がした。振り返ると大層な御仁がいた。

 清潔感のあるロングスタイルの金髪。流れるように落ちるきれいな髪に彩られた細身な顔貌。凛として涼し気な碧眼にのるけぶるような睫毛。スタイル良しのその人は、絵本からでてきたような正統派の美丈夫だった。

「私はレクス王国第一王子、ウィクトル・エミリウスだ。我らが抱える密偵たちが絡んだこの事件について調べに参った」

 王子のご登場に僕はおろか牢獄の中のマルクスまで恐縮した面持ちで拝謁する。

「殿下。私はイグニスと申します。この度は騎士団団員の身内が、」

「よい。詳細はこちらも調べているところだ。してイグニスとやら、貴様さっき影について語っておったな。行方不明となった暗部の者らは……」

「全員霊獣の胃袋でしょう」

 イグニスの代わりに差し出がましいが僕が答えた。厳密にはアルブスは殺しただけで食ってはいないと思うが、始末したという意味では同じことだった。

「そうか。奴らの身勝手な暴走とはいえお前達には迷惑をかけたな。こちらもアウレリウスの周辺には手を焼かされているのだ。王族の身ゆえ、軽率な詫びは控えさせていただく。が、お前たちに謀反の意がないことはすでに調べがついている。これからも壮健で過ごせよ」

 謝罪こそないが遠回しに第二王子である弟の周囲が暴走したことを釈明された。詳しい話によると、王家の影という暗殺者を雇ってまで殺そうとしていたのは王位簒奪を恐れた第二王子派の仕業だったことが判明する。すでにイグニスの仕事ぶりや周辺を洗いざらい探ったことで調べはついているようだ。誤解が解けているようで一安心である。


「このような場ですが、殿下さえよろしければ私の忠誠を受けていただけませんか」

「腹の中を明かさずともよいと、私は言ったつもりだが?」


 話の腰を折らないよう全てを聞いたうえで、突然、イグニスは王子に提案した。


「ええ。ですが、私はこの国の騎士です。生涯にかけてこの国、ひいては王族の皆様を裏切ることはないと宣誓したいのです。よろしいですか」

「構わん。受けよう」

 彼はウィクトル様が柄から抜いた剣を受け取る。主君を守る誓いの言葉を述べてから、イグニスは剣に口づけた。

 イグニスはきっと自分が将来にわたって国にとっての不穏分子になることはないと証明したのだ。他意はないことを、この国の騎士として、腹違いの兄(・)を支えるという明確な意思で。


「達者でな」

 第一王子の帰還とともに、僕らも面会室を後にするのだった。


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