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『「とりあえず殴れ。話はそれからだ」家訓を守って生きていたら、異世界でとんでもない事になりました』  作者: 竜堂さくら


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第9話「鑑定」


 オークエリートを倒し、殴は残された魔石を回収した。


 ボス部屋の奥へ目を向けると、六層へ続く階段がある。


 その横には、見慣れない装置のような物が設置されていた。


「あれは何だ?」


 殴が装置を指差す。


「あれは転送装置だ。あれに冒険者証をかざすと、一層の入口前に転送されるんだ。次に来た時、一層入口前の装置にかざせば、六層から始められる」


「おお、便利だな!」


 殴は素直に感心した。


「五層クリアでEランク昇格は確定だから、Eランク以上の特権って事だな」


 瑛太が、ふふんと胸を張る。


「なるほどな。じゃあ、十層にもこれがあるわけだ」


 殴は装置をまじまじと眺めた。


「まだ触るなよ。先に宝箱開けようぜ!」


 瑛太が、オークエリートの残した宝箱を指差す。


「そういや、初めて宝箱出たな!」


 殴は嬉しそうに宝箱へ近づいた。


「パーティーにシーフが居ると、少し出やすくなるんだけど、そのためにシーフを入れるのも微妙なんだよなー」


 瑛太が首を捻る。


「開けるぞ?」


 殴は宝箱へ手を掛けた。


 瑛太の返事を待つことなく、そのまま蓋を開ける。


 中に入っていたのは、赤い宝石の付いた首飾りだった。


「首飾り?」


 殴は少しだけ残念そうな顔をする。


 しかし。


 隣にいた瑛太は目を見開いた。


「マジか!? 殴、お前は運が上がるアイテムでも持ってんのかよ!」


「おっ、おおっ?」


 瑛太の喜びように、殴の方が驚く。


「こいつは、状態異常軽減効果のある首飾りだ。百パーセント防いでくれる訳じゃないが、初心者向けダンジョンの魔物が使う状態異常くらいなら、高確率で防いでくれるぞ!」


 瑛太は嬉しさのあまり、一気に説明した。


「じゃあ、これは瑛太が装備しろな!」


 殴は首飾りを瑛太へ差し出す。


「サンキュー、殴! これで六層への準備はできたようなもんだが、とりあえず一度戻ろうぜ」


 瑛太は首飾りを受け取り、その場で装備した。


 二人は立ち上がり、転送装置へ向かう。


 それぞれが冒険者証を装置へかざした瞬間。


 二人の身体は光に包まれ、一気に一層入口前の転送装置へ移動した。


「なんか、変な気分だな」


 殴が周囲をきょろきょろと見回す。


「そのうち慣れるさ」


 瑛太はにやりと笑った。


 二人が揃って初心者向けダンジョンの外へ出ると、門前に立っていた護衛達がすぐに気付いた。


「早かったな。二層くらいまでは行けたか?」


 一人の護衛が、言い当てたと言わんばかりの顔をする。


 もう一人も隣でにやにやと笑っていた。


「五層までクリアしてきたぞ?」


 殴には、二人が何故笑っているのか分からなかった。


「なっ? 嘘を吐くな! それにしては早すぎるだろうが」


 護衛は一瞬驚いたものの、すぐに気を取り直して指摘する。


「ほら」


 殴はアイテムボックスからオークエリートの魔石を取り出し、護衛へ見せた。


「これは、オークエリートの魔石! 本当にこんな短時間で、五層までクリアしてきたのか……」


「そういう事!」


 瑛太はにやりと笑い、殴と肩を組む。


 二人は驚く護衛達を残し、そのまま冒険者ギルドへ向かった。


 ギルドへ到着すると、相変わらず酒場の方は冒険者達で賑わっていた。


「来矢吹様、根岸様!」


 二人に気付き、キャティが声を掛ける。


 その表情には、早く話を聞きたいと書いてあるようだった。


「キャティさんー!」


 瑛太が嬉しそうに返事をする。


 殴は隣から瑛太を肘でつついた。


「なんでそんなに嬉しそうなんだよ?」


「ああ? あれだけ美人で有能な受付嬢と、仲良くなりたいと思うのは普通だろうよ!?」


 瑛太は逆に不思議そうな顔で殴を見る。


「そんなもんか?」


「そのうち分かるかもなー」


 瑛太は鼻歌交じりでキャティの待つカウンターへ近づいた。


「初心者向けダンジョンには、行ってこられたのですか?」


 キャティが興味津々で尋ねる。


「ああ。これを頼む」


 殴はアイテムボックスから大量の魔石を取り出し、カウンターへ置いた。


「こ、これは! もう五層までクリアしてきたという事ですか?」


 大量の魔石の中に、五つのフロアボスの魔石が混じっていることへ、キャティはすぐに気付いた。


 流石である。


「流石キャティさん! でも、声は抑えてくださいよ?」


 瑛太はそっと周囲を見回した。


 大量の魔石に気付いた者は、まだ数人だけだった。


 それを確認し、ほっと息を吐く。


「あ……すみません。それで、検証結果はいかがでしたか?」


 キャティは少し恥ずかしそうにしながらも、声を落として尋ねた。


「結論から言うと、消滅しました……」


 瑛太も小声で答える。


「なっ!? ……消滅、ですか?」


 キャティは大声を上げそうになり、慌てて自分の口を押さえた。


「意思疎通ができない魔物に殴打交渉権が発動すると、存在を保てなくなり、自壊するようです……」


 瑛太は内緒話をするように説明する。


 その横で、殴だけが二人の様子を不思議そうに眺めていた。


「意思疎通ができなくなった人間相手だと、どうなるのでしょうか……?」


 キャティが恐る恐る尋ねる。


「それは、そう簡単には試せませんよ……怖い事を聞きますね? キャティさん」


 瑛太がじとりとした目を向ける。


「あ、魔石を精算しますね!」


 キャティは慌てて話題を変えた。


「フロアボスの魔石は、一層ごとに価値が金貨五枚ずつ上がっていくので、五つで金貨七十五枚。その他の魔物は一律金貨一枚なので、百三十枚。合計金貨二百五枚ですね」


 平静を装いながら計算を終える。


「あと、来矢吹様はEランクに昇格しますので、冒険者証を提出してください」


「おお、一日で結構な稼ぎになったな!」


 殴が大きな声で喜ぶ。


「殴、声がでかいって!」


 瑛太がなだめるように、殴の肩へ手を置いた。


「金貨二百五枚!? 一日でEランク昇格だと!?」


 酒場の方から驚く声が響く。


 声の主は、スキンヘッドで頬に傷のある戦士風の男だった。


「ほらな。こういう事になるんだ……」


 瑛太が額を押さえる。


「俺がEランクになるのに、どれだけ掛かったと思ってんだ! 何かズルしたんだろ!?」


「大方、そのEランクの補助魔法士に、おんぶに抱っこだったんじゃねえのか?」


 今度は、別の髭面の戦士が声を上げた。


「うるせぇな。全部こいつ一人でやったようなもんだよ!」


 瑛太が殴を指差す。


 スキンヘッドの男と髭面の男が、殴達へ近づいてくる。


「そんなもん、二人でグルになってりゃ、分かりゃしねえだ……ろばっ!?」


「いきなり殴ってくんじゃね……えぶぅっ!」


『殴打交渉権発動しました』


『殴打交渉権発動しました』


「人の話を聞けぇっ!」


 殴が一喝する。


「わかった……」


 二人は同時に返事をし、その場へ並んで正座した。


「お前らがどう思おうが、殴が五層をクリアしてきたのは事実だし、いきなりだとしても殴の攻撃を避けられなかったお前らには、殴に文句言う権利はないだろうよ!?」


 瑛太が二人を指差す。


「すまねえ。もう文句は言わねえ」


「俺もだ……」


 二人は大人しく立ち上がり、すごすごと元の席へ戻っていった。


「ありがとな! 瑛太」


 殴が、にかっと笑う。


「俺の役目だろうよ?」


 瑛太は少し照れたように鼻の下を擦った。


「いいコンビですね」


 キャティは二人を微笑ましそうに見つめた。


「さて、Eランクの登録をしてしまいましょうか……おや?」


 殴の冒険者証を確認していたキャティが、首を傾げる。


「冒険者証のジョブ欄が空白ですね」


「あっ、そうなんですよ! ダンジョンで他のパーティーから聞かれて、その時に殴も俺も気付いたんです。鑑定お願いしていいですか?」


 瑛太も今になって思い出した。


「もちろんです」


 キャティはギルドカウンターの下から、ソフトボールほどの大きさの水晶玉を取り出した。


 水晶玉からはコードが伸びており、キャティの前にあるモニターへ繋がっている。


「そのジョブ鑑定機、いつ見ても日本のメカっぽい感じがするんだよなー……」


 瑛太は、日本で見たパソコンの液晶モニターを思い出す。


「言ってませんでしたっけ? このジョブ鑑定機を作ったのは、転移者の日本人の方ですよ。ちなみに、その方は冒険者ギルドの初代グランドマスターです」


 キャティが慣れた口調で説明した。


「こんな遠く離れた場所にも、ジャパンクオリティが……」


「だな……」


 瑛太と殴が揃って感心する。


「では、来矢吹様。この水晶玉に手を置いてください。しばらくすると、モニターに鑑定結果が表示されますので」


 キャティが殴へ促す。


「俺のジョブは、モンクじゃねぇのか?」


 殴が瑛太を見る。


「あれは咄嗟に言っただけだよ。ちゃんと鑑定してもらえ」


 瑛太は、手を置くのを躊躇している殴を笑った。


「分かったよ!」


 殴が水晶玉へ手を置く。


 次の瞬間。


 水晶玉が眩い光を放った。


 十秒ほどで、その光は静かに消える。


 モニターへ表示された鑑定結果を見て、キャティが首を傾げた。


「どうです? やっぱりモンクですかね?」


 瑛太が、自分の予想が当たったのか確認する。


「……えっと、来矢吹様は転移者になる前、王宮などにお勤めだったのですか?」


 キャティが恐る恐る尋ねた。


「いや……そんな経験はないが?」


 殴はきょとんとする。


「王宮?」


 瑛太も首を傾げた。


「こんなジョブ名は、今まで見た事がありません」


 キャティはもう一度モニターを確認する。


「……『外交士』とは、一体どんなジョブなのですか……?」


 本当に分からないという表情だった。


「はっ?」


 当然、殴にも分からない。


「ぶっ! ぶははははっ!!」


 殴打交渉権の検証を通して殴を理解していた瑛太だけが、堪え切れず爆笑していた。


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