第7話 「ジョブ」
2層のゴブリン、3層のコボルトを難なく撃破し、殴と瑛太は4層へ降り立った。
「4層の魔物はなんだ?」
周囲を見渡す殴。
まだ魔物の姿は見えない。
「ワイルドボアだな。分かりやすく言うとイノシシだ。動きは単調だが、突進力が厄介だから気をつけるようにな」
そう言った瑛太は、嫌な記憶でも蘇ったのか身震いした。
「なんだ? 嫌な思い出でもあんのか?」
殴が不思議そうに尋ねる。
「後ろからつつかれて追いかけ回された事があってな……」
遠い目をする瑛太。
「ぶははっ! 想像しちまったよ!」
殴は堪えきれず笑った。
「笑うなよ! 結構あるあるなんだぜ!」
口調ほど怒ってはいない瑛太。
「まあ、気をつけるさ……ん?」
その時だった。
前方から四人組が走ってくる。
その後ろには、巨大なワイルドボアが追いかけていた。
「ど、どいてどいてーーー!」
先頭には戦士風の男。
その後ろを魔道士風の少女二人と、軽装の少女が続く。
殴は四人をかき分け、ワイルドボアの前へ出た。
最後尾の軽装の少女がギョッとして振り返る。
「な、何してんの!? 早く逃げなって!」
「うりゃ!」
殴はワイルドボアの鼻っ柱を殴りつけた。
『殴打交渉権発動しました』
急停止するワイルドボア。
「フゴッ!?」
鳴き声を上げると同時に、魔石だけを残して消滅した。
殴は魔石を拾い、振り返る。
「こいつはもらっていいんだよな?」
一瞬でワイルドボアが消滅した事を理解できない四人組。
「あんた、今何した?」
軽装の少女が口を開く。
「殴った!」
平然と言う殴。
「と、とにかく助かったわ。ありがとう」
動揺を抑えながら礼を言う少女。
「アタシはユリ。シーフよ」
「私はアーヤ。回復魔法士です」
「ボクはマイ。攻撃魔法士だよ」
二人の魔道士風の少女も、それぞれ名乗る。
「俺はドレグ。戦士だ。コイツらの面倒を見てる」
戦士の男は面倒くさそうに言った。
その瞬間。
三人の少女達がドレグをキッと睨む。
「同じFランクのくせに、面倒見てるだって!? ワイルドボアから真っ先に逃げたのは誰よ!?」
ユリがまくし立て、アーヤとマイも頷く。
「う、うるせー! このあばっ!?」
ユリへ拳を振り上げた瞬間。
殴の拳がドレグの顔面を捉えた。
『殴打交渉権発動しました』
「話し合えや!」
一喝する殴。
「……わかった」
ドレグは素直に正座した。
三人の少女達は顔を見合わせる。
何かがおかしい。
「何したの……?」
恐る恐る尋ねるユリ。
「殴った!」
胸を張る殴。
「話が進まねえだろ」
額を押さえる瑛太。
「あの、2人で4層まで来たんですか?」
アーヤが尋ねた。
「ああ。俺がEランクだから、Fランクのこいつの付き添いでね」
まあ、殴ひとりでも問題なかったんだが。
瑛太はそう思ったが、口にはしなかった。
「Eランクなんだ? すごい! 名前とジョブ聞いてもいい?」
マイが素直に驚く。
「俺は根岸瑛太。補助魔法士だよ」
瑛太が自己紹介する。
「俺は来矢吹殴。ジョブ……瑛太、俺のジョブって何だ?」
殴は困ったように頭をかいた。
「そういや、ジョブ鑑定もまだだったよな。とりあえず、モンクでいいんじゃないか?」
戦い方から考えて、瑛太は妥当なジョブを挙げる。
「モンク……文句あんのか!? ってやつか?」
思った事をそのまま口にする殴。
三人の少女達が吹き出した。
「ちげーよ! そんなジョブあるわけねえだろ」
呆れる瑛太に、殴はニカッと笑う。
「君たち面白いねー!」
ユリが笑う。
アーヤとマイは顔を寄せ合い、小声で相談した。
「よかったら、一緒に5層まで行ってもらえませんか?」
二人は声を揃えてお願いする。
ユリも驚きつつ、それも悪くないかと頷いた。
「おう、一緒に……もがもが!?」
返事をしようとした殴の口を、瑛太が慌てて塞ぐ。
「悪いけど、こいつと2人で検証しないといけない事があるからさ。また6層以降に挑戦する時に、縁があったらパーティー組むって事でいいかな?」
それを聞いたアーヤとマイは不満そうな顔をした。
ユリも少し残念そうに笑う。
「まあ、突然の提案だし、しょうがないね。うん、またね!」
ユリが手を振る。
「助けてくれて、ありがとうございました!」
アーヤとマイも深々と頭を下げた。
「あっ! こいつどうしたらいいの!?」
ユリが正座したままのドレグを指差す。
「ああ。先へ進むか戻るのか話して、納得するか反発すれば元に戻るよ」
瑛太の説明を理解しきれないまま、三人は首を傾げながら二人を見送った。
四人組の姿が見えなくなったところで、瑛太は殴の口から手を離す。
「ぶはっ! 何なんだよ瑛太? 別に連れてっても良かったんじゃねぇのか?」
殴は納得がいかない様子だった。
「あのな。あのまま連れて行って、お前のスキルを見たら、あいつら絶対6層以降にも行きたがるぞ」
含みを持たせて言う瑛太。
「俺はそれでも構わねぇぞ?」
殴はあっさり頷いた。
「聞いた情報によると、6層以降にはチャームを使う魔物がいるらしい。チャームってのは魅了な。食らったら魔物に操られちまう」
瑛太は殴を見つめる。
「んなもん、ぶん殴って正気に戻せばいいだろうよ?」
殴は鼻で笑った。
「馬鹿。操られてるって事は、意思疎通できないって事だぞ。お前、自分でスキルオンオフ出来ないんだろ? じゃあ、どうなるよ……?」
「あ……っ!」
瑛太の言葉に、殴は息を呑んだ。
「だから今回は連れて行かない方がいい。5層をクリアしたら一旦戻って、チャーム対策してから先へ進むぞ」
その言葉を聞いた殴は、ニヤリと笑った。
「な、なんだよ?」
訝しむ瑛太。
「やっぱ、お前誘って正解だったわ!」
二人は4層ボス部屋へ向かって歩き出した。




