第5話「検証」
ギルドを出た殴と瑛太。
「まずは武器屋、いや、防具屋だな」
殴の服装を見る瑛太。
「魔物と戦うなら、武器が要るんじゃねぇのか?」
疑問に思う殴。
「殴のスキルを検証するには、殴らなきゃいけないから、拳を保護するガントレットを先に買った方がいいだろ」
「なるほどな」
納得して頷く殴。
程なくして防具屋に着く二人。
店に並ぶ鎧や盾を見て、テンションが上がる殴。
「おお、異世界来たって実感湧いてくるな!」
「俺も転移してすぐの頃は、武器屋と防具屋でテンション上がったよ」
思い出し笑いする瑛太。
「いらっしゃい。何をお探しだね?」
初老の店主が出迎える。
「えっと、ガントレット?ってやつが欲しいんだが」
店内をキョロキョロと見渡しながら答える殴。
「予算は?」
殴の服装を見て、値踏みする店主。
「殴、いくら持ってる?って、転移したばかりだから無一文だろうし、俺が貸すぜ?」
殴の懐具合を心配する瑛太。
「いや、町に来るまでに盗賊団捕獲したから、報奨金の金貨25枚なら持ってるぞ」
革袋を見せる殴。
「金貨25枚か、なら、こいつはどうだ?」
拳から肘までを防護するガントレットをカウンターに置く店主。
「軽くて丈夫な金属製のガントレットだ。着けてみるといい」
促す店主。
初めての異世界製の防具に、興奮しながら腕を通す殴。
「たしかに軽いな。それに丈夫そうだ。いくらだ?」
ガントレットを装着したまま、腕を動かし、着け心地を確かめる殴。
「金貨20枚でどうだ?」
目を細める店主。
「瑛太、安いのか?高いのか?」
ガントレットの価値を瑛太に尋ねる殴。
「25枚なら買わないと見越しての値段設定だな。質は悪くないし、買っても損はないと思うぞ」
店主を見る瑛太。
見透かされた気分になり、目を逸らす店主。
「よっしゃ!これに決めた」
ガントレットを打ち鳴らす殴。
「毎度あり。また来てくれよな」
愛想良く笑う店主。
防具屋を出る二人。
「さて、どこに行けば魔物と戦える?」
瑛太に尋ねる殴。
「この町には、初心者向けのダンジョンがあって、ギルドが管理してる。Eランク以上の冒険者が同行すれば、Fランクでも入れるぞ」
ニヤリと笑う瑛太。
「て、事は、瑛太はEランク以上なんだな?」
察する殴。
「ふふん、一応、転移者の先輩だからな!」
胸を張る瑛太。
町の中心に位置する、初心者向けダンジョンの前まで来る二人。
入り口には衛兵が二人で守護している。
「ダンジョン探索か?冒険者証を見せてくれ」
殴と瑛太に声をかける衛兵達。
二人の冒険者証を見る。
「FランクとEランクか。あまり無茶をしないようにな。入ってよし!」
「よっしゃ!行くか」
意気揚々と歩き出す殴。
「焦るなよ!」
宥める瑛太。
ダンジョンの中は、松明を必要としないくらい、うっすらと明るかった。
「意外と明るいな」
キョロキョロする殴。
「壁自体が発光してるらしい。先へ進む前に注意事項だが、この初心者向けダンジョンは、全部で10階層になっていて、1層毎にフロアボスが居る。5階層のフロアボスを倒せれば、Eランクに昇格できるぞ」
Eランクの余裕を見せる瑛太。
「どうやって証明するんだ?」
疑問を投げかける殴。
「ダンジョンの魔物は、倒すと消滅して魔石を残すんだ。フロアボスの魔石をギルドに納品することで、到達階層の証明になる」
「なるほどな!」
納得する殴。
「そろそろ行くか」
言いながら、空間からレイピアを出す瑛太。
「うおっ?なんだ今の!?」
レイピアが出現した空間をまじまじと見る殴。
「転移者特性のアイテムボックスだが、知らなかったのか?」
今頃聞くのか?といった顔の瑛太。
「誰も教えてくれなかったからな。どうやって使うんだ?」
殴は空間を手探りするが、何の反応もない。
「何も入ってないなら反応しねえよ」
面白そうに笑う瑛太。
「その金貨が入った革袋を収納してみろよ。収納と念じながら手を伸ばすんだ」
レイピアを収納して見せる瑛太。
「おう!」
殴が革袋を握った手を真横に伸ばすと、空間に革袋が消える。
「できた!」
喜ぶ殴を微笑ましく見る瑛太。
「取り出す時は、取り出したい物を念じながら手を伸ばすんだ」
空間からレイピアを取り出す瑛太。
「OK!これで魔物を倒しても、魔石抱えながら歩かなくて済む訳だな」
頷く殴。
「1層目に出没する魔物は、ホーンラビットだ。角の生えた兎だな。当然、意思疎通はできない。敵を見つけたら本能で突撃してきて、角で突き刺してくる」
「その兎しか出てこないんか?」
拍子抜けした表情の殴。
「1層目だしな。それでも初心者だと、刺さり所が悪くて死ぬ奴もいるんだぞ?」
殴の気を引き締める瑛太。
「そっか!油断すんなって事だな」
気合いを入れる殴。
「さっそく来たぞ」
前方を指差す瑛太。
人がしゃがんだくらいの角の生えた兎が、こちらを見ている。
ホーンラビットである。
毒等は無いが、鋭い角には十分な殺傷力がある。
「初戦闘だな。とりあえず補助魔法はかけないから、素で戦ってみてくれ!」
腕を組んで見守る瑛太。
「よっしゃ!行くぜ!」
ホーンラビットに向かって駆け出す殴。
『神速発動しました』
一瞬でホーンラビットの眼前まで移動する殴。
「神速か!初めて見たが、速えな!」
目を見開く瑛太。
「うりゃっ!」
ホーンラビットに一撃加える殴。
『殴打交渉権発動しました』
「瑛太、殴打交渉権発動したぞ」
瑛太に振り返る殴。
「おっ!さて、どうなるか……」
興味深げにホーンラビットを見つめる瑛太。
殴の前で静止するホーンラビット。
身体をモゾモゾと動かし、何かをしようとする。
だが、その行動は何一つ形にならない。
次の瞬間、ホーンラビットは消滅して魔石を残す。
「なんだ?」
首を傾げる殴。
「なんだそりゃ!?……ふむ……」
驚くが、すぐに考え出す瑛太。
「何か分かったか?」
瑛太を期待の目で見る殴。
「まだ仮説だが、意思疎通が出来ないのに交渉を強制されたせいで、存在を保てなくなって自壊した?」
言っていて、そんな馬鹿なと思うが、そうとしか思えないので口にする瑛太。
「よくわかんねぇな」
いまいち意味が分かってない殴。
「この仮説が正しければ、意思疎通出来ない相手には、殴は無敵って事だ!」
「マジか!?」
殴打交渉権の恐ろしさに気付かず、無敵と言われて喜ぶ殴。
「これは、マジであまり知られない方がいいかもな……」
その能力が、人に向けられた時の可能性を考え、瑛太は額を押さえるのだった。




