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『「とりあえず殴れ。話はそれからだ」家訓を守って生きていたら、異世界でとんでもない事になりました』  作者: 竜堂さくら


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第4話「根岸瑛太」


大人しくなった戦士の男に違和感を覚えつつ、補助魔法士の男が話し始める。


「あのな、俺の補助魔法が効かないとか言うけど、元の強さがなければ、効果は感じにくいんだよ」


「それは、俺らが弱いって言いたいのか!?」


ムッとする戦士の男。


「0に10をかけても0だろ。0は言い過ぎだとしても、5だとしたら50にはなってる。それをお前らは、弱い魔物が楽勝になったからって、調子に乗りやがるから、実力以上の魔物に勝てても、俺のありがたみも感じやしねえ」


饒舌に詰める補助魔法士の男。


相手が話を聞く態度になった途端、言いたい放題になる。


「むう……っ」


言葉に詰まる戦士の男。


「本当にありがたみが分かってたら、報酬をケチるとか考えないだろうよ! え? どうなんだ?」


畳み掛けていく補助魔法士の男。


「う、う、うるせ……ぐほっ!」


立ち上がり、殴りかかろうとする戦士の男に、殴の拳がめり込む。


「ちゃんと話をしろ!」


『殴打交渉権発動しました』


「わかった……」


椅子に座り直す戦士の男。


周囲の冒険者達は、殴に殴られた戦士の男が、ビビって大人しくなったと思っている。


だが、キャティと補助魔法士の男だけは、何かおかしいと感じていた。


「とにかく、今回の報酬は山分けだ。そして俺はパーティーを抜ける。それでいいな?」


戦士の男を指差す補助魔法士の男。


「わかった。それでいい」


渋々納得する戦士の男。


ようやく話がまとまり、スッキリした表情の補助魔法士の男が、殴に声をかける。


「なんか助かったよ。あんたのスキルか?」


殴は少し首を傾げる。


「んー……そうかもしんねぇ」


「なんだよ、自分のスキルも把握してないのか?」


不思議そうに笑う補助魔法士の男。


「なんか、殴打交渉権? ってやつらしい」


異世界に来たばかりの殴には、スキルと言われてもピンと来ない。


「疑問形で言うってことは、あんたも転移者か?」


その言葉に、殴は喜びの表情を浮かべる。


「『も』って言ったな。お前も転移者なのか! 俺は来矢吹殴。日本人だ!」


「日本人! 同郷か! 俺は根岸瑛太だ。よろしくな」


同郷の転移者に出会えた喜びに、瑛太も破顔する。


「ネゴシエーター?」


素で聞き間違える殴。


「根岸瑛太だよ!」


笑い合う殴と瑛太。


「来矢吹様、根岸様」


二人を呼び、手招きするキャティ。


「キャティさん?」


歩み寄る殴。


「俺もですか? キャティさん」


嬉しそうに近づく瑛太。


「来矢吹様のスキル、殴打交渉権ですが、少し分かった気がします」


自信ありげなキャティ。


「やっぱりあれはスキルか!」


納得した表情の瑛太。


「どういうことすか?」


首を傾げる殴。


「殴打交渉権とはおそらく、来矢吹様が殴った相手を、強制的に交渉の席に着かせるスキルだと思われます」


確信を持って頷くキャティ。


「ああ、だから戦士の奴、大人しく話を聞く態度になったのか」


納得する瑛太。


「そして、効果は永続ではなく、交渉が決裂すると効果は切れるようです。ですが、来矢吹様が再び殴ると、また効果が発動していました」


プロの受付嬢キャティによる、流石の観察眼であった。


「あー、だから家訓が反映されてるのか」


うんうんと頷く殴。


「家訓って?」


尋ねる瑛太。


「『とりあえず殴れ。話はそれからだ』が、うちの家訓だ」


恥ずかしそうに告げる殴。


「ぶっ! なんつー家訓だよ。でも、たしかにスキルに反映されてるな」


「ですが、疑問もあります」


静かに呟くキャティ。


「疑問?」


同時に発する殴と瑛太。


「意思疎通が出来ない相手、獣や魔獣等にスキルが発動した場合、どうなるのか? ですね」


キャティの疑問に納得する殴と瑛太。


「その辺りの検証が済むまでは、周囲にスキルを知られないようにすることをお勧めします」


殴に忠告するキャティ。


「じゃあ、俺とパーティー組もうぜ、瑛太!」


瑛太を見つめる殴。


「おっ? うーん、殴のスキルに興味もあるが、なんで俺なんだ?」


回復魔法を持たない自分を迷いなく誘う殴に、問いかける瑛太。


「同郷のよしみっつーか、俺より口が立つし、俺が殴って瑛太が交渉ってのが、効率良さそうだと思ってな!」


ニカッと笑う殴。


「まあ、いいか。付き合うよ!」


頷く瑛太。


「よっしゃ! ひと狩りいこうぜ!」


テンションが上がる殴。


「どっかのゲームみたいに言うんじゃねえよ!」


笑いながらギルドを後にする、殴と瑛太だった。


異世界で出会った二人の日本人。


その出会いが、後に多くの騒動を巻き起こすことになるとは、この時はまだ誰も知らなかった。


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