第3話「代理交渉人」
道行く人達に場所を聞きながら、殴はようやく冒険者ギルドへ辿り着いた。
目の前にあるのは、ウエスタン調の建物。
入口には、これまたウエスタン調の両開きの扉が付いている。
「冒険者ギルドっつーより、酒場か保安官事務所みてぇだな」
殴は両手で扉を開け、中へ入った。
正面には、受付嬢のいるカウンター。
右手には丸テーブルと椅子が並び、その奥にはバーカウンターがある。
酒場が併設されているのが、この世界における冒険者ギルドのスタンダードらしい。
殴は迷うことなく、正面のカウンターへ進んだ。
受付嬢がにこやかに声をかけてくる。
「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへ! 今回はどういったご用件でしょうか?」
マニュアルっぽい喋り方に、ファストフード店を思い出す。
殴は気を取り直し、受付嬢へ話しかけた。
「えっと、どうやら俺は転移者らしいんだけど、登録をお願いしたい」
「あら、転移者の方なんですね。スキルは何をお持ちですか?」
転移者と聞いても、受付嬢は眉一つ動かさなかった。
「スキルって、なんだ?」
殴が考え込む。
「転移者の方は、スキル発動時にシステムボイスのようなものが頭に響くと聞いています。そのようなことは?」
その言葉に思い当たり、殴はハッとした。
「ああ、神速ってのと、殴打交渉権? ってのが聞こえた」
「神速は素晴らしいスキルですね! 結構珍しいですよ。あと、殴打交渉権とは初めてお聞きしますが、どういった効果でしょうか?」
数多くの転移者を担当した経験がありそうな受付嬢でさえ、殴のスキルは初めて聞くものらしい。
「たぶん、俺の家の家訓に関係してると思うんだが……」
殴は少し恥ずかしそうにする。
「まあ、どういった家訓でしょう? 何かヒントがあるかもしれませんね」
受付嬢が興味津々な様子で尋ねる。
「とりあえず殴れ。話はそれからだ。って、家訓なんだが……」
殴は言いづらそうに答えた。
「は……?」
意味が分からず、受付嬢が首を傾げる。
「いや、ムカついたら、とりあえずぶん殴ってから話し合えって意味らしいんだが、自分で言ってて訳わかんねぇんだから、あんたにも理解できねぇよなー……」
殴がため息を吐く。
「その、殴打交渉権を使用した際、何か効果は確認できましたか?」
受付嬢は気を取り直し、冷静な口調へ戻った。
流石にプロである。
「んー……ぶん殴った相手が、静かに話を聞くようになった気はしたかな?」
殴は盗賊達との出来事を思い出しながら答える。
「なんとなく分かったような気はしますが、何度か検証された方が宜しいかと思われます。冒険者証を発行しますので、お名前を記入してください」
受付嬢が、既にスキルを記入した用紙を差し出す。
殴は名前を記入し、受付嬢へ返した。
「来矢吹殴様ですね。私はルースの町冒険者ギルド受付嬢、キャティと申します。よろしくお願いします」
キャティがにっこりと微笑む。
「ああ、よろしく頼む」
殴も軽く頭を下げた。
「それでは、冒険者ランクの説明をさせていただきますね。全ての冒険者はFランクからスタートして、EからA、最後がSランクとなります。ランクアップの条件は、魔物からドロップする魔石をギルドに納品していただいたり、懸賞金のかかった魔物の討伐、難易度の高い依頼の成功などです。ここまでは宜しいですか?」
「うん、わかりやすいな」
殴が頷く。
「ランクが上がれば受けられる依頼も増えますし、入ることのできるダンジョンも増えますので、まずはDランクを目標に頑張ってくださいね」
キャティが慣れた口調で説明する。
そこへ、後輩の受付嬢が話しかけてきた。
「あの、先輩。来矢吹様にボードウィン伯爵から、これをお渡しするようにと」
後輩受付嬢が革袋を差し出す。
「盗賊団捕獲の報奨金とのことです」
殴は革袋を受け取り、中身を確認した。
中には金貨が入っている。
「金貨か。二十五枚あるな。これはどのくらいの価値なんだ?」
殴がキャティへ尋ねる。
「来矢吹様は転移者ですよね。どの世界の、どの国から来られたのかお尋ねしても?」
「地球という世界の、日本という国だけど、わかるかな?」
キャティが、ああと頷く。
「日本からの転移者は割と多いです。そうしますと、金貨一枚で一万円くらいですね」
「盗賊一人当たり五万円ってことか。当面の金には困らなそうだな」
殴がほっとした表情を浮かべる。
生活費をどうするかが直近の悩みだっただけに、この報奨金はありがたかった。
「そろそろ冒険者カードが出来上がる頃だと……」
キャティが言い終わる前に、酒場の方から怒声が響いた。
「だから、話を聞けよ!」
「回復魔法も使えない補助魔法士に山分けできる訳ねえだろ!」
戦士のような男と、補助魔法士と呼ばれた男が言い争っている。
「だから、その補助魔法の重要性を説明してやるって言ってんだろ!」
補助魔法士の男が怒る。
「聞いたところで、お前の取り分は……ごはぁっ!?」
殴が戦士の男を殴った。
「話くらい聞いてやれ!」
『殴打交渉権発動しました』
「……わかった。聞いてやる」
戦士の男が突然大人しくなる。
「お、おう。ちゃんと聞けよ?」
何が起きたのか理解できないまま、補助魔法士の男は説明を始めるのだった。




