第14話「初陣」
ギルドを出た三人。
璃杏はやる気満々だった。
「ダンジョン行くのよね!?」
わくわくしながら、殴と瑛太を交互に見る。
「その前に、璃杏、状態異常対策はできてる?」
瑛太は首飾りを見せた。
「オークエリートのドロップ品よね? もちろん持ってるわよ!」
璃杏はアイテムボックスから首飾りを取り出す。
「おっ、準備万端だな!」
殴が感心する。
「パーティーメンバー分ドロップするまで周回したわよ! それなのに、あいつら……!」
思い出して怒りが込み上げてくる璃杏。
「まあまあ、気持ち切り替えて三人で行くよ!」
瑛太が璃杏を宥める。
程なくして、三人は町の中心にあるダンジョン入口へ到着した。
門番の衛兵二人が殴と瑛太に気付く。
「昨日の今日で、もう六層以降に挑戦か。早いな」
「昨日一日で五層まで攻略してるんだ。驚く事でもないだろう」
衛兵達は頷き合う。
「え? 一日で五層まで攻略したの!?」
璃杏が目を丸くする。
「おう!」
殴がサムズアップする。
「まあね」
瑛太が苦笑した。
「Eランク三人だな。今日一日で十層まで攻略できるとは思わんが、一応言っておく。十層のフロアボスを倒しても、その奥にあるダンジョンコアは絶対に壊すなよ!」
衛兵がきつく警告する。
「壊すとどうなるんだ?」
殴が首を傾げる。
「壊すとダンジョンが消滅する。それは、この町の大きな損失となるから、壊せば最悪死罪だからな!」
もう一人の衛兵も続けて警告した。
「大丈夫です。そんな事しませんて!」
瑛太が衛兵を宥める。
「じゃあ、気を取り直して行こうか」
瑛太が殴と璃杏を促す。
一層入口横の転送装置の前へ立つ三人。
「おっし! 六層からだな」
殴が指を鳴らす。
「あたしの実力を見せてやるわ!」
璃杏が肩を回す。
三人は冒険者証をかざし、六層の階段前へ転送された。
「ここから六層ね! 殴、ばんばん魔物の動き止めてよ!」
璃杏が階段の下を見つめる。
「あー……璃杏、それなんだけどさ」
瑛太が言いづらそうに口を開く。
「なによ?」
璃杏は早く階段を降りたくて、そわそわしている。
「どうした、瑛太?」
殴が振り向く。
「どうしたじゃねえよ。お前のスキルの話だろうが」
瑛太が呆れたように言う。
「璃杏、殴のスキルは確かに殴った相手の動きを止めて、交渉できる状態にする。でも、それは意思疎通できる相手だけだ」
璃杏を見る瑛太。
「え? どういうこと? 意思疎通できない魔物は止められないって事!?」
璃杏が驚く。
「止められないどころか、存在が保てなくなり消滅する」
瑛太が気まずそうに説明した。
「そういう事らしい!」
殴がうんうんと頷く。
「だから、意思疎通できる魔物が出るまでは、璃杏のスキルの出番はないんだ……」
瑛太が申し訳なさそうに言う。
「えー……! まあいいわ! スキルだけがあたしの強さじゃないってとこも、見せてあげるわよ!」
璃杏が胸を張る。
三人は六層への階段を降りていく。
六層も通路の幅は広かった。
通路の奥から、カサカサという音が聞こえる。
「なんか、虫っぽい音がするんだけど……」
璃杏が嫌そうな顔をする。
「たぶん、ロックスパイダーだな。毒持ちだから、気をつけてな!」
瑛太が警告した。
「音が近くなってきたな」
殴が通路の奥を睨む。
やがて、ロックスパイダーが姿を現した。
その大きさは、四つん這いになった人間を二回りほど大きくしたような巨体だった。
ギチギチと歯を鳴らし、威嚇する。
「行くぜ!」
殴が踏み出す。
『神速発動しました』
一気にロックスパイダーの眼前へ迫る。
「速っ!?」
璃杏が驚く。
「ふんっ!」
殴の拳がロックスパイダーの顔面へ突き刺さる。
『殴打交渉権発動しました』
一瞬だけ殴へ目を向けたロックスパイダーは、そのまま魔石を残して消滅した。
「ね?」
瑛太が璃杏を見る。
「本当に消えた……」
璃杏は信じられないものを見るように呆然としていた。
「瑛太、今回は山分けでいいんだろ?」
殴が魔石を拾う。
「璃杏も居るしな。今回は山分けしよう」
「次はあたしが倒すわ!」
璃杏はアイテムボックスから大剣を取り出す。
瑛太は璃杏へ補助魔法を付与した。
「じゃあ、お手並み拝見。来るぞ!」
次のロックスパイダーが迫る。
「おりゃーっ!」
璃杏は大剣のリーチを活かし、ロックスパイダーの攻撃範囲の外から一閃。
その一撃だけで、ロックスパイダーは真っ二つになった。
「おおっ! やるな璃杏!」
殴が素直に驚く。
「瑛太の補助魔法のおかげよ。やるわね!」
璃杏も瑛太を認める。
「んじゃ、ボス部屋まで一気に行くぜ!」
踏み出そうとする殴の肩を、瑛太が掴んだ。
「神速で置いて行こうとするんじゃねえよ!」
「悪ぃ悪ぃ!」
殴が頭を掻く。
そのやり取りを見て、璃杏はくすくすと笑った。
「どうした、璃杏?」
殴が不思議そうに尋ねる。
「あんた達、いいコンビね!」
殴と瑛太を交互に見る。
「お前も仲間なんだから、もうトリオだぜ!」
殴がにかっと笑う。
その屈託のない笑顔に、璃杏は思わず胸を高鳴らせた。
そこからボス部屋まではノンストップだった。
殴が二体倒せば、璃杏もすぐに二体倒す。
二人は競い合うようにロックスパイダーを倒し続けた。
瑛太も補助魔法が切れないよう、絶妙なタイミングで掛け直していく。
三人の連携は見事だった。
あっという間にボス部屋へ辿り着く。
「開けるぞ?」
殴が確認する。
「OK!」
「いつでも!」
瑛太と璃杏が頷いた。
殴が扉を開く。
そこにいたのは、岩山から手足と頭だけが生えたような巨大な蜘蛛の魔物だった。
「こいつの方がロックスパイダーって感じだな」
殴が頷く。
「たしか、上位種のマウントスパイダーってやつだ。岩山みたいな胴体には攻撃がほとんど通らないみたいだぞ」
瑛太が記憶を頼りに説明する。
「動き出してない今なら、真っ二つにしてやるのに!」
璃杏が悔しそうに見つめる。
「待てよ……殴、璃杏を肩車してくれないか」
瑛太が何かを思いつく。
「おっしゃ」
殴は大剣を持った璃杏を肩車した。
「ちょ、ちょっと、いきなり何よ!?」
璃杏が慌てる。
「殴、補助魔法をかけるから、そのままボスまでダッシュするんだ。璃杏は、殴が動き出した瞬間に大剣を振り下ろしてくれ」
瑛太が二人へ指示を出す。
「わかった!」
「やるわ!」
二人は同時に頷く。
瑛太は二人へ補助魔法を付与した。
「GO!」
瑛太の合図と同時に殴が駆け出す。
『神速発動しました』
補助魔法が加わった神速は、瞬きする間もなくマウントスパイダーの眼前へ到達した。
殴が動き出した瞬間に完璧なタイミングで振り下ろされた璃杏の大剣は、マウントスパイダーが二人を感知するより早く、その巨体を真っ二つに切り裂いた。
「やるな璃杏!」
殴が感心する。
「作戦通りだな」
瑛太が満足そうに頷く。
「こんな手があったなんて!」
三人の連携に、璃杏は確かな手応えを感じていた。




