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『「とりあえず殴れ。話はそれからだ」家訓を守って生きていたら、異世界でとんでもない事になりました』  作者: 竜堂さくら


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第15話 「暴断」


 6層のフロアボスの魔石を回収した三人は、そのまま階段を降りて7層へ足を踏み入れた。


 目の前には一本の広い通路が真っ直ぐ伸びている。


 その先には、早くもボス部屋の巨大な扉が見えていた。


「ボス部屋まで一直線のフロア?」


 璃杏が驚いた声を上げる。


「面倒がなくていいな!」


 殴はニヤリと笑った。


 一方、瑛太は周囲を見渡している。


「でも、手前に左右へ分かれてる通路もあるな」


 壁際に視線を走らせながら呟く。


「一気に行くわよ!」


 璃杏が勢いよく駆け出そうとした。


「ちょっと待った!」


 瑛太が慌てて呼び止める。


 その瞬間だった。


 ゴゴゴゴゴッ――。


 重い地響きが鳴り響く。


 一直線の通路の左右から、巨大な石壁が次々とせり出し、通路を完全に塞いでいく。


「えー!?」


 璃杏が目を丸くした。


「あのまま行ってたら、分断されるか、壁に埋まってたよ」


 瑛太は胸を撫で下ろす。


 止めるのが一瞬でも遅ければ危なかった。


「結局、まわり道しなきゃ行けねぇって事か」


 殴がため息を吐く。


「いや……いけるかもしれない」


 瑛太は目の前の石壁をじっと見つめた。


「どうすんのよ?」


 璃杏が振り返る。


 瑛太はニヤリと笑った。


「璃杏、出番だ。ボス部屋までの壁を斬ってくれ」


「そんな事できんのか?」


 殴が首を傾げる。


「璃杏のスキル『暴断』は、完全に静止した相手なら真っ二つにできる。って事はだ……」


 瑛太が石壁を見る。


 璃杏もすぐに意味を理解した。


「壁は動いてない……任せなさい!」


 璃杏は大剣を大きく振りかぶる。


「おりゃーーーっ!!」


 豪快な一閃。


 轟音と共に、暴断が発動する。


 目の前の石壁だけではない。


 その先に並ぶ無数の壁までもが一直線に切り裂かれ、ボス部屋までの道が一気に開けた。


「おおっ!」


 殴が素直に声を上げる。


「ふふん、こんなもんよ!」


 璃杏は得意げに鼻の下を擦った。


「よし! ボス部屋まで一気に行くぞ!」


 瑛太の号令で三人は走り出す。


 ――いや。


 正確には違った。


『神速発動しました』


 殴だけが、一瞬でボス部屋の前へ到着していた。


 少し遅れて瑛太と璃杏が追いつく。


「はぁ、はぁ……殴、普通に走れないの!?」


 璃杏は肩で息をしながら抗議する。


「殴の神速は、オンオフできないらしい」


 予想通りだったため、瑛太は慌てる事なく追いかけてきたせいか、息はほとんど乱れていなかった。


「よっしゃ! 開けるぞ?」


 返事を待つ事なく、殴はボス部屋の扉を開いた。


 重厚な扉がゆっくりと開く。


 部屋の中央には、一頭の巨大な熊の魔物が鎮座していた。


「熊か?」


 殴がまじまじと見つめる。


「ブラッドベアがボスって事は、七層はワイルドベアのフロアだったみたいだな」


 瑛太が分析する。


「また、さっきのでやる?」


 璃杏は肩を回しながら瑛太を見る。


「おーい! 次行くぞ?」


 殴の声に二人が振り向く。


 いつの間にかブラッドベアは消え去り、殴は魔石を掲げて立っていた。


「いや、見てなかったんだけど!?」


 あまりの早さに、璃杏は文句すら出てこない。


「次は八層か……そろそろ面倒そうな魔物が出てくるかな?」


 瑛太が次の階段へ視線を向ける。


「早く来いよー!」


 殴はさっさと階段へ向かって歩き出していた。


「人の話聞けって!」


 瑛太が肩を竦めながら後を追う。


「緊張感ないわねー!」


 璃杏は苦笑しながら二人の背中を追いかける。


 ダンジョンの奥深くにいるというのに。


 この二人と一緒にいると、不思議と恐怖よりも楽しさの方が勝ってしまう。


 そんな事を思いながら、璃杏も八層への階段を降りていくのだった。



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