第13話「番場璃杏」
殴と瑛太が冒険者ギルドの前まで来ると、中が騒がしい事に気づく。
ウエスタン調の扉の上の空間から、殴と瑛太に気づいたキャティが、入口まで歩いてくる。
「キャティさん、どうしたんですか? なんか、中が騒がしいみたいですけど……」
瑛太が尋ねる。
「ええ、来矢吹様を待っている人が、酒場でひと騒動起こしまして」
キャティは困り顔で答えた。
「俺に客か?」
心当たりのない殴は、不思議そうに首を傾げる。
「なんか嫌な予感がするが、このままにしとく訳にもいかないしな。会いますよ、キャティさん。殴もいいよな?」
瑛太が殴に確認する。
「よっしゃ」
殴は頷き、扉を開けて中へ入った。
「俺に用があるってのは誰だ?」
殴が酒場を見渡す。
「あたしよ!」
声がする方を見る殴。
しかし、小柄な璃杏は視界に入らない。
「だから誰だよ?」
殴はもう一度見回す。
「殴、下だ」
瑛太が殴の視線より下を指差す。
「おわっ!? 居たのか!」
殴が驚いて璃杏を見る。
「ずっと目の前に居るっての! あんた、喧嘩売ってんの!?」
璃杏が殴を睨みつける。
「まあまあ、お嬢ちゃん。殴に用って、どうしたんだい?」
璃杏を宥める瑛太。
だが、その一言が璃杏の地雷を踏む。
「お嬢ちゃんー!? あたしは十六歳の冒険者だよ! あんたも喧嘩売ってんのか!」
璃杏はアイテムボックスから大剣を取り出す。
大剣を振り上げようとした瞬間、頭上から殴の拳が落ちた。
「落ち着いて話せやっ!」
『殴打交渉権発動しました』
「わかったわよ……」
璃杏は正座して黙り込む。
その光景を見た酒場の冒険者達は静まり返った。
「おい、璃杏が静かになったぞ……」
「やっぱり噂は本当だな……」
冒険者達が小声で話す。
「とりあえず、その物騒な物をしまってから話そうか」
瑛太が諭すように話しかける。
「うん……」
璃杏は大剣をアイテムボックスへ戻した。
「それで? お前は誰だ?」
殴が尋ねる。
「あたしは番場璃杏……」
「バーバリアン?」
璃杏の言葉が終わる前に殴が聞き返す。
「番場璃杏だ! あんな蛮族と一緒にすんな!」
璃杏はまたもアイテムボックスから大剣を取り出そうとする。
「だから落ち着いて話せって!」
殴の拳が再び璃杏の頭上へ落ちる。
『殴打交渉権発動しました』
「わかったわよ……」
璃杏は再び正座した。
「それで、殴に用ってのは?」
今度は瑛太が尋ねる。
「あたしは大剣使いの戦士なんだけど、あたしのスキルは、どんな硬い相手でも一刀両断できるのに、他の冒険者達は、あたしの事を扱いづらいからパーティーには入れられないって……」
璃杏が落ち着いて話し出す。
「すげぇスキルじゃねぇか!」
殴が素直に驚く。
一方、瑛太は首を傾げた。
「もしかして、そのスキル、発動条件が厳しかったりする?」
冷静に分析する。
「あたしのスキル『暴断』は、完全に静止した状態の相手にしか発動しない。それでも五層攻略まではなんとかなったんだ。それなのに、六層以降には連れて行けないって……」
璃杏は悔しそうに唇を噛む。
「それで、殴の噂を聞いて、本当か確かめようと待ってたって事?」
瑛太が納得して頷く。
「うん」
璃杏も頷いた。
「お前なんか拾うパーティーなんかねえよ!」
「ただのお荷物じゃねえか!」
大人しくなった璃杏へ、ここぞとばかりに野次が飛ぶ。
璃杏は振り向き、冒険者達を睨む。
「それでも、お前らが束になっても負ける気しねえぞ!? あたしのもう1つのスキルも知ってんだろ!」
立ち上がり、大剣を取り出そうとする璃杏。
殴がげんこつを落とした。
「俺らと話せ!」
『殴打交渉権発動しました』
「わかった……」
璃杏は正座する。
「もう1つのスキルって?」
瑛太が優しく尋ねる。
「あたしの『スーパーアーマー』っていうスキルで、あたしが一撃食らわせるまでは、どんな攻撃でも怯まないんだ。だから、あいつらの何人かは道連れにできる!」
冒険者達は青い顔になる。
「おもしれぇな、璃杏!」
殴がにかっと笑う。
「おや、殴。気に入った感じ? でもこの子、トラブルメーカーな気がするぜ?」
瑛太が驚く。
「誰がトラブルメーカーだ! やっぱり喧嘩売ってん……なぶっ!?」
またも殴のげんこつが落ちる。
「いい加減に懲りろや!」
『殴打交渉権発動しました』
「わかったわよ……」
璃杏は大人しくなる。
「やれやれ、恐ろしく短気だねえ……五層まで攻略できたのが奇跡だよ?」
瑛太が呆れる。
「あたしだって、ちゃんと役に立てるんだ。それにしても、あんたすごいな!?」
璃杏が殴を見る。
「ん?」
殴は首を傾げる。
「あたしが怒ったら、だいたい相手は謝るか逃げるかだ。話し合いをさせるなんて、あんたが初めてだよ!」
璃杏はまじまじと殴を見つめる。
「殴に四回殴られたのは、君が初めてだけどね……」
瑛太はため息を吐く。
「決めた! あんた達とパーティー組む。ありがたく思いなさいよ!」
璃杏は胸を張る。
「えっと、組むかどうかは、こっちが決めるんだけど?」
瑛太が困り顔になる。
「なによ! あんた達もあたしの事、扱いづらいって言うの!?」
物言いは強気だが、表情は泣きそうだった。
「いいぜ!」
殴がにこやかに言う。
「瑛太がいいって言ったらな!」
殴と璃杏が瑛太を見る。
「んー……殴がいいって言ってるから、いいんだけどさ。璃杏、一つだけ約束してくれる?」
瑛太が璃杏を見つめる。
「パーティーメンバーになるなら、殴に殴られない行動を取ること。わかってると思うけど、殴のスキルが発動したら動けなくなるから、殺されても文句言えないからね?」
瑛太が璃杏を指差す。
「う、うう……わ、わかったわよ。あんた、さりげなく怖いこと言うわね」
璃杏は瑛太にも恐怖を感じた。
「それじゃ、三人パーティーになったことだし、六層以降の攻略に行こうか!」
瑛太が殴と璃杏へ笑顔を向ける。
「おう!」
殴はやる気満々だ。
「殴、あんたが止めてくれた敵は、あたしが全部真っ二つにしてやるからね!」
拳を握り、笑顔を浮かべる璃杏だった。




