第12話「噂」
衛兵の詰所にギダルを引き渡した三人は、ケイトが調書のために残らなければならないとの事で、別れの挨拶をしていた。
「殴さん、瑛太さん、本当にありがとうございました!」
ケイトが深々と頭を下げる。
「大した事はしてねぇよ!」
殴が、にかっと笑う。
「それで、これからどうするつもりだい?」
瑛太が尋ねる。
「お父さんの跡を継いで、鍛冶師になりたいと思ってます。お父さんのノートもありますし!」
ケイトは決意を込めて答えた。
「そっか! 頑張れよ!」
殴が応援する。
「一人前の鍛冶師になったら、注文させてもらうからね!」
瑛太も笑顔を向ける。
「はい! その時は、格安で作りますよ」
「無料じゃないのかい!?」
瑛太が驚きつつ笑う。
「冗談です。お二人には本当にお世話になりましたから」
三人は顔を見合わせて笑った。
「じゃあ、元気でね」
「またな!」
二人は笑顔で手を振る。
「本当にありがとうございました!」
ケイトは何度も頭を下げながら二人を見送った。
殴と瑛太は、その背を向けて歩き出す。
「さて、一応キャティさんに報告してから宿屋に行くか。殴も俺が泊まってる宿屋でいいんだろ?」
瑛太が確認する。
「それで構わねぇよ」
殴は頷いた。
程なくして、二人は冒険者ギルドへ到着した。
受付にはキャティが座っている。
二人に気付いたキャティは、すぐに手招きした。
「来矢吹様、根岸様、ご無事でしたか」
キャティが微笑む。
「ただいま、キャティさん。殴のスキルで、復讐は血を流さずに済みましたよ」
瑛太がにっこり笑う。
「おう!」
殴がサムズアップする。
「一応、キャティさんに報告だけしておこうと思いましてね。じゃあ、今日は宿屋に戻ります」
瑛太が手を振る。
殴もキャティに手を振り、二人はギルドを後にした。
「宿屋はどこにあるんだ?」
殴が尋ねる。
「飯食いに行った黄金の豚亭のすぐそばだよ。もう見えてくる」
瑛太が宿屋の方向を指差す。
「ここか。いい宿屋だな」
二階建ての宿屋を見上げる殴。
「一泊銀貨五枚なんだが、客層も悪くないし、何より黄金の豚亭が近いのが気に入ってな。入ろうぜ」
瑛太が扉を開ける。
受付カウンターには、人の良さそうな中年男性が座っていた。
「おかえり、瑛太!」
中年男性がにこやかに声を掛ける。
「おっちゃん、ただいま!」
瑛太も笑顔で返事をする。
「おや、その人はお仲間かい?」
殴を見る中年男性。
「うん、俺の相棒の殴だ」
瑛太が紹介する。
「よろしく!」
殴が微笑む。
「そうかそうか。俺はこの宿屋の主人、ゴウだ。ゴウの宿屋へようこそ、殴!」
ゴウが人懐っこい笑顔を向ける。
「部屋空いてるかい?」
瑛太が尋ねる。
「おう、瑛太の隣の部屋が空いてるぞ。何日にする? 割引はないけどな」
ゴウが、にかっと笑う。
「瑛太と同じ日数でいいけど、瑛太は何日で取ってるんだ?」
殴が尋ねる。
「俺はずっと取ってもらってて、十日毎に精算してる。殴もそうするか?」
「十日で金貨五枚か。うん、俺もそれでいいわ」
殴が頷く。
「じゃあ、初回だけ前払いで頼む。次からは十日毎の後払いでいいし、今回のも十日未満で引き払う時は精算するから、安心しな」
ゴウが説明する。
「わかった」
殴は金貨五枚を差し出した。
「朝飯だけは出るから、ちゃんと早起きして食いに来いよ!」
ゴウが金貨を受け取る。
「殴、本当に早起きして食いに行かないと、遅れたら朝飯抜きにされるからな!」
朝飯抜きを経験した瑛太が苦笑する。
「そういうとこは厳しいんだな」
殴も笑った。
◇
翌朝。
ゴウの宿屋一階の食堂で、殴と瑛太は向かい合って朝食を取っていた。
「今日は朝からダンジョンか?」
殴が尋ねる。
「いや、一度ギルドに寄ってからだな。何か情報があるかもしれないしな」
瑛太は朝食を食べながら答えた。
いきなりダンジョンへ行き、不測の事態に遭遇するのを防ぐためである。
「わかった!」
殴は頷いた。
◇
その頃、早朝の冒険者ギルドでは、朝から揉め事が起きていた。
「あたしのどこが役立たずだってーーー!?」
酒場に座る冒険者達へ啖呵を切る、一人の少女。
身長は百五十センチ程度。
小柄で、幼く見える顔立ち。
日本人で言えば、小学校高学年くらいに見える。
しかし。
装備と手足に刻まれた傷痕が、少女――**番場璃杏**を戦士であると証明していた。
「お前をパーティーに入れても、扱いづらいんだよ!」
璃杏に睨まれた男の一人が口を開く。
「なんだとーっ! あたしのどこが扱いづらいんだよ? あたしのスキルが決まれば、どんな硬い魔物でも、一刀両断なんだぞ!」
自分のスキルに絶対の自信を持つ璃杏には、「扱いづらい」と言われた事が我慢できない。
「そのスキルのせいだよ! お前のその『暴断』だったか? そいつを当てるためには、敵を完全に静止させなきゃいけないんだろ!? そんな事がすぐに出来るなら、お前が居なくても勝てるんじゃねえのか!」
「そうだそうだ! こいつの言う通りだ!」
酒場の冒険者達も一斉にまくし立てる。
「てめえら、いい度胸だ。あたしに喧嘩売ってんだな!?」
璃杏はアイテムボックスから、自身の身長よりも巨大な大剣を取り出した。
「ま、待て! お前を扱えそうなパーティーを教えてやるから! なっ!」
怯んだ冒険者の男が慌てて叫ぶ。
「なんだと?」
大剣を握ったまま睨む璃杏。
「昨日から噂になってる、外交士ってジョブの奴だ。そいつに殴られた奴は、みんな動きが止まるのを、ここに居る皆が見てる。そいつとなら、お前の実力を発揮できるんじゃねえか?」
男は焦って一気に話した。
他の冒険者達も一斉に頷く。
「ふむ……」
璃杏は大剣をアイテムボックスへ戻した。
冒険者達は揃って安堵の息を吐く。
「そいつがあたしの期待に応えられる奴じゃなかったら、あんた達、覚悟しとけよ!?」
冒険者達は固唾を呑みながら、外交士――殴が現れるのを待つのだった。




