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探偵青野優紀の事件簿  作者: 南後りむ
CASE15 浦島太郎の殺人脚本《シナリオ》
57/62

FILE.56 追憶

*登場人物紹介*

・神田篤也(かんだ‐とくや)

 宝永大学四年生。今回の映画の監督を務める。

 一年前の話を頑なにしようとしないのだが……。

・河色悠海(かわいろ‐ゆうみ)

 宝永大学四年生。凛の姉。今回の映画には役者として参加している。

・河色凛(かわいろ‐りん)

 北次学園の高校一年生。小学生に間違えられる容姿を持つ。演劇部所属なので、演技は得意らしい。

・灰矢優翔(はいや‐ゆうと)

 宝永大学四年生。今回の劇では主役を務める。

 第二の被害者。屋上プールの上にゴムボートで浮かべられ、腹部を刺されて死亡した。

・照真明乃(てらしま‐あきの)

 宝永大学四年生。控えめな性格。手先の器用さを生かして小道具や衣装を作っている。

・姫路陽子(ひめじ‐ようこ)

 宝永大学四年生。今回はヒロインの乙姫役。少々性格に難あり。

 2日目の朝、自室で“浦島太郎”に襲われるところを青野たちに目撃されたが……。

 その後、死亡が確認され、第一の事件の犠牲者となった。

・取手映子(とりで‐えいこ)

 宝永大学三年生。無駄に高いテンションが特徴。青野たちからはどっかの警部と重ねられたり……。

・恩野快聖(おんの‐かいせい)

 宝永大学三年生。カメラが趣味で、今回も撮影役として参加する。体型がタヌキっぽい……らしい。

・大道愛実(たいどう‐つぐみ)

 宝永大学二年生。女優として参加する。

・芦原本次郎(あしばら‐ほんじろう)

 宝永大学一年生。今年度入ってきた唯一の会員。遅刻魔?

 時折険しい表情をすることがあるが……?


・浦島太郎

 今回の事件の犯人。青野たちの目の前で殺人を繰り広げる。

「えーっと、被害者は灰矢優翔さん、22歳。宝永大学の四年生で、映画サークルの会員である……」

 間違いありませんね? と神奈温海刑事はこちらを向いてきた。その先では、幅が1メートル分あろうかなかろうかといったくらいの緑色の狭い床に、約10名ほどの男女が立っている。

 場所はホテル南館の屋上プール。競泳の練習が目的であろう外観の20メートルプールだ。だが、そこには水泳とは無縁としか思えない分厚そうな青い服を着た人や、はたまたスーツにネクタイを締めた一見サラリーマンに見える男だったりがひしめき合っていた。もちろん、彼らはみょうちきりんな格好で泳ごうなどと考える変人ではなく、事件の捜査のためにやってきた、ちゃんとした刑事である。

「ま、ぶっちゃけてさっき会った人だから確認する必要もないんだけど……。困ったわ、連続殺人なんて」

「やっぱり、連続殺人事件なんですね……」

 今回の映画の監督である神田篤也が、浮かない顔をしてため息を吐く。

「ええ。刀を使って殺害するって方法も一致しているし、同じサークルの四年生だし、そもそもこんなに立て続けに事件が起こってるんだから、繋がっているとしか思えないじゃない」

「でも、それって連続殺人であるっていう確証ではないですよね?」

 柵から離れて立っていた大道愛実が、髪の毛を揺らして小首をかしげる。

「ええ。だけど、さっき鑑識から報告があってね。灰矢さんを殺害した凶器の刀――あ、これは遺体に斜めに突き刺さってたんだけど、その刀から姫路陽子さんの血液が検出されたのよ」

「つまり――あの時高校生たちの前で姫路さんを斬殺したっていう浦島太郎が今回の事件も起こしたってことなんですね?」

 温海の言葉に、芦原本次郎が考えながら応じた。彼は比較的小柄な身長にマッチする細い腕を、胸の下で組んでいる。

「ということは、まさか犯人も私たちの中にいるんじゃ……」

 怯えたような目つきで周りを見回す女は、照真明乃。彼女は小道具を担当する、手先の器用な女性だ。そんな彼女の言葉に、河色悠海が首を横に振って、

「そんなわけないじゃない。私たちは陽子が殺されたときにちゃんとアリバイがあったんだし」

「あ、そうだ。アリバイです」

 温海が刑事らしく手帳を手に取ると、ペンを片手に尋ねる。

「調べた結果、被害者の死亡推定時刻が30分から一時間くらい前ってことが分かったんですけど、その時間のアリバイとかあったりしちゃいます?」

「一時間前までとなると、誰もいないんじゃ……」

 渋った顔で答える篤也に、大山朝洋――小説部の高校二年生だ――が、

「死亡推定時刻のアリバイがなくても、12時から12時15分くらいまでのアリバイがしっかりとしていれば、犯人じゃないと思いますよ」

 と言って、前髪をかき分ける。温海やサークルのメンバーたちが話がいまいち呑み込めない――という表情をしていたので、大山は分かりやすいように説明を始めた。

「確か、12時ちょうどに屋上のプールへ来いと、亡くなった灰矢さんからメールが来たんでしたよね?」

「ああ、僕と恩野君と明乃の3人にメールが来て、それで受付で鍵をもらってここに来たんだが――」

「プールの中には誰も浮いていなかったはずですよ。一応入り口から中を見渡したんで」

 走って警察を呼びに走ったのが体にきつかったのか、恩野快聖は汗をふきながらそう言った。

「とのことです。つまり、犯人が遺体をプールの真ん中に浮かべることが出来たのは、それから僕たちが再びここに来るまでの15分間しかなかったということになります」

「そ、それなら、私たちのアリバイは完璧ですよね? 三人とも、一緒に下に降りてきて、また一緒にここへと戻ってきたんですから……」

 明乃の言葉を手帳にメモする温海。彼女は書き終わると、残る4人の方を見る。それに答えるようにして、悠海が口を開いた。

「私はずっと自室にいましたよ。妹の凛と、そのお友達の美月ちゃん、柚希ちゃんの三人と一緒にね」

「確か美月ちゃんたちがそんなことを言っていましたね……」

 悠海の言葉に、大山が美月たちのことを連想して言う。

(あのせいで僕一人で青野くんを止めることになったんだよな……。って、青野くんは?)

 彼はキョロキョロと周りを見回し、ようやくシャワールームの入り口付近でしゃがみこんで何かを探している(ように見える)青野を発見した。警察の聴取中に一人で調査に乗り出すとは、青野らしいことだ。普通だったら断りでも入れるだろうに……と大山は思うと、すぐに青野から視線を逸らし、現在進行形で話が進んでいるアリバイ調査の方へと耳を傾けた。そこでは、ちょうど取手映子が無駄にハイテンションになりながら温海刑事に報告をしている。

「私は愛実ちゃんとジロー君と一緒に別館の食堂でお昼をとってたよー! 11時半になってお腹が空いたねって話になってさ……」

「私たち、朝の事件のせいでまともに朝食をとれていなかったんですよ。それで、私の部屋から2人で行こうと思ったら、ちょうど本次郎君に鉢合わせて」

「それで、僕も一緒に参加したんです。ゆっくり食べていましたから、3,40分はいたと思いますよ。いやあ、先輩がすっごく喋っててですね……」

 その先輩というのは取手の事だろう。名前を言われなくてもわかってしまうところが恐ろしい。

「たぶん、食堂入口についていた防犯カメラを調べれば、私たちがずっと中にいたことが分かると思いますよ!」

「そうですね。途中で本次郎君が抜けたのがだいたい12時頃で……それから連絡が入ってきたのが12時20分少し前だったので、それまでずっと食堂の中にいました」

「その後、芦原さんは僕たちに会ったということですね」

 大山の確認に、本次郎はしっかりと頷いてみせた。

「なるほど……裏付けは取らせてもらいますけど……。またアリバイかぁ……」

 少しの間頭を抱えた温海刑事は、すぐに切り替えると、

「遺体を発見したのが君たちだって話だけど、その時何か変わったこととかありませんでしたか?」

 と尋ねる。少ししてから、快聖が「そういえば……」と話を切り出した。

「あのゴムボートに浮かんだ先輩、なんか亀に似ていませんでしたか?」

「亀?」

 首をかしげる温海に、快聖が「ええ」と頷いて答える。

「緑色のゴムボートに仰向けって、なんか亀な感じがして……。まあ、先輩が去年の劇で亀をやってたってことも影響して……って、あれ?」

 彼はすらすらと答えながら、不意に目を細めた。

「どうしたの?」

 映子が不思議そうに尋ねる。快聖はさらに眉を寄せて、

「姫路先輩が斬られる動画を見た時、一瞬何か違和感を覚えてたんだけど……。もしかして、あの時先輩が来ていた衣装は、去年先輩が着てた『ヒラメ』の衣装だったのかも……」

「ヒラメ?」

 大山が快聖に――いや、彼の言葉に反応した他のサークルメンバー(本次郎を除く)に問いかけた。悠海が視線を緑の床へと落としながら言う。

「実は、一年前に今と全く同じ――『浦島太郎』の映画を撮っていたの。その時の配役が、優翔君が亀で、陽子がヒラメだったのよ」

 その言葉に、本次郎が傍から見ると意地悪そうに見える笑みを浮かべる。そして、俯いていた篤也をキッと見つめた。

「そして、その映画の主演をやる予定だったのが芦原永知あしばらえいち――僕の兄だった人だよ。今はもういないけどね……」

「芦原君ッ……」

 篤也が本次郎の顔を悲しそうに見つめる。大山が、そんな彼をしっかりと見据えて、

「その“永知”という人について、詳しくお聞かせ願いたいんですけど……。見立ての件から考えて、おそらく犯人の動機もそこにあると思うんです」

「いや、それは……」

 苦虫を噛み潰した表情の篤也。そこへ、静かな声が割って入ってきた。

「このホテルの南にある砂浜の向こう側に10メートルくらいの崖があるんですけど、撮影中にその崖から足を踏み外してその下へ真っ逆さま――。遺体は海に流されてしまって、まだ引き上がっていないらしいですけど、落ちた時点でほぼ即死だったんじゃないかと警察は考えているらしいです」

「あ、明乃――!」

 一番黙っていそうな彼女が真っ先に口を開いたことに――そして、真っ先に事実を漏らしたことに篤也は驚き、そして悲痛そうに顔を歪めた。今の明乃の言葉を皮切りに、部員たちが次々と口を開き始める。

「あの時すぐに崖の下を覗いたけど、何も浮いてなかったしね……」

「お、恩野君っ!」

「一緒に覗いた愛実ちゃんは、それから高所恐怖症になっちゃったんだっけ……」

「ええ。ホントはこのプールにいるのも辛いんですけど」

 愛実はちらと下を見て、すぐに目を逸らす。

「取手君、大道さん……」

「永知君、主演になったからには必ず撮影を成功させるって意気込んでいたのにね――。それで逆に根を詰めちゃって、寝不足になっていたのかも。彼、眠いのを押して参加してたから――」

「悠海まで……」

 篤也はばつが悪そうに顔を伏せた。

「先輩、僕、先輩の口から聞きたかったんですよ――。兄が死んでしまったときのことを――」

「本次郎君……」

 その言葉とともに彼は顔を上げると、悲しげな表情をしながら、意を決したように口を開いた。

「ああ、話すよ。といっても、そんなに話すことはないんだけどね……。さっき話してたように、俺の親友だった永知が撮影中に崖から落ちて死んだ――いや、まだ永知は揚がってなかったんだったな。行方不明になったってことなんだよ」

 堰を切ったように語りだす篤也に、部員、大山、そして温海刑事は、神妙な面持ちで耳を傾けていた。

「あの映画の脚本は永知が作ったものだったんだけどね、だからなのかな。あいつはいつもに増して情熱的に取り組んでいたよ。衣装を作り、下見に行き、脚本を直すために話し合ったりもしたな……。そう、あの時が一番楽しかった。親友として、映画好きの友人として、ひたすら語ったりしたものだよ。僕は永知の情熱に応えるためにも、必死になって頑張ったんだ――。だけど、それが彼を追い詰めてしまった……。直前までより良く修正しようと徹夜をしていた永知は、無理を押して翌日の撮影に参加したんだ。しかし、その日の撮影がたまたま崖の際で行うもので……足取りが乱れたと思ったら、そのまま下に真っ逆さまに――――! 親友なのに、僕は、僕は、彼を救えずに、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかったんだ!!」

 目を見開き、まるで犯人が動機を告白するかのような勢いで、彼は叫ぶ。

「それで、彼が情熱を込めて作ろうとしていた『浦島太郎』の映画を、撮り直し、永知さんに捧げようとしたわけですね」

「うん……その通りだよ」

 大山の言葉に、篤也は、俯いて答えた。本次郎は少し暗めの顔をして床を睨みつける。

 なんとも言えない重い空気がその場を漂う中、悠海が話を切り替えようと声をあげた。

「でも、なんで犯人は見立てようとなんてしたのかしら……。陽子のヒラメも、優翔君の亀も――」

「あ、亀と言えば、青野君はどうしたんでしょうか?」

 快聖の問いに、大山を除くその場の皆がはっと顔を上げる。

「そういえば、あんなに仕切ってたのにどこにもいないよね……」

「ど、どうしたんでしょうか……」

 篤也と明乃がキョロキョロとあたりを見回すのを見て、大山が控えめな調子で手を挙げた。

「あのお……青野君なら刑事さんたちが来る前から向こうの方に……」

「ちょ! 勝手に現場荒らされてる!?」

「た、直ちに呼び戻してきます!!」

 温海が目を見開くのを確認して、大山は慌てて青野が調査(?)をしているシャワー室前へと慌てて駆けていった。

 十数秒で青野のもとへとたどり着いた大山は、肩で息をしながら青野に呼びかける。

「はぁ、はぁ、青野君、はぁ、はぁ、ずっとここにいると、はぁ、捜査の邪魔になる、はぁ、から……」

「先輩、やっぱ体力無いんですね。さっきの実験でわかってましたけど」

「うるさいなぁ! はぁ、はぁ、はぁ」

 後輩に小馬鹿にされて珍しく憤慨した彼は、それで体力を消耗したのか余計に激しく息をした。

 ようやく整ったのか、大山は落ち着いた口調で青野に語りかける。

「さあ、早くみんなのもとへ……」

「それより先輩、この現場、おかしいんですよ」と青野。

 後輩に話を遮られ頭を抱える大山は、それでも青野の発言に気をそそられたのか、「なにがだい?」と尋ねた。その返答に青野は満足そうに笑みを浮かべると、

「おかしいのは以下の4点――。1つが、不自然に扉が外れたシャワー室です」

「まあ、確かにね」

 大山は青野の言葉に頷いて、問題の扉を見た。シャワー室及び更衣室はプールの緑色の床よりも階段5段分ほど低くなっているのだが、扉はその階段に倒れかかるようになっていた。

「そして2つ目。この扉、見たところ内側から弾き飛ばされた感じだと思うんですけど、弾き飛ばされたにしては丁寧すぎるんですよ」

「丁寧すぎるって? 具体的にどんな感じなのかい?」と大山。

 青野はハンカチを使って指紋をつけないように注意しながら、扉の側面を持ち上げ、それを大山の方へと差し出した。

「ほら、ここの蝶番ちょうつがい、全然歪んでませんよね? 普通弾き飛ばしたんだったら、もっと歪んでいてもいいはずなんです。それに、蝶番のネジも綺麗に外されてます。どう考えても不自然じゃないですか」

「なるほど、確かにそうみたいだね。3つ目は?」

 頷いた大山に促された青野は、先ほどこちらへと見せてきた扉の側面を指でなぞって、

「ここ、妙にベタベタしてるんですよね」

「ふむ、なにか粘着性の物が貼ってあったのかね」

 ややしばらくの間熟慮する姿勢になる大山。

「って、こんなことしてる場合じゃないんだって! 早く戻らないと!」

「あ、それなら最後の一点を。シャワー室周辺の床がみょーに濡れているんですよね。それから、ここに落ちてるホース、何故か水が出っ放しですし……」

 青野が指さした青いホースからは、水がダボダボと流れてきており、その水がシャワー室の排水溝へと流れ落ちていた。

「ふーん、そうな……ん……だっ!?」

 最後の方の言葉を区切った大山に、青野は怪訝そうな視線を向ける。一方大山は、顔に笑み――まるで青野が真相に辿り着いた時のような――を浮かべていた。

「青野君、わかったよ! 第2の事件のアリバイトリックが!」

「あ、そうっすか」

「反応薄っ!」

 思いのほか冷めた対応だった青野に向かって、大山は苦笑を見せる。

「だって、僕アリバイあったことも知りませんでしたし。そうだったらとっくに見破ってましたよ。こんな雑なトリック」

「僕の喜びを返してくれるかなぁ」

 少し不機嫌そうに口をとがらせる青野に、大山は苦い表情のままため息を一つ。それから、大山は皆が集まっている入口の方へと歩きだした。青野もその後を追う。

「あ、そういえば、篤也さんがやっと口を開いてくれたよ」

「あ、そうだったんですか。よかったですね」

「やっぱ反応薄すぎるよね!」

 眉をますますギュッと寄せた大山は、

(探偵のプライドまでかけてたのに……)

 とあきれた様子。青野にとっては、話の内容よりも篤也から聞き出すこと自体が目的だったようだ。

 そうこうしているうちに、あっという間に皆のもとへと到着した。

「お待たせしました」

「遅かったですね……」

「ミイラ取りがミイラってやつ? なんかそんな空気が漂ってたよー!」

「そうですか……。なんかスミマセン」

 愛実と映子の言葉に、大山がばつが悪そうに頭をかく。

「ほら、青野君もちゃんとあやま――」

「ところで、皆さんは最近このホテルに来たことがあるんですか?」

「ちょっと青野君……」大山は少しは話を聞いてよ、と顔を歪めた。

 一方、青野に尋ねられた篤也たちは、少し考えて、

「最近だったら……一か月くらい前だったかな?」

「そうね。撮影場所の下見も兼ねて、何枚か写真も撮りに来たのよ」と悠海。

「もっとも、僕は行けなかったから、代わりに照真先輩が撮ってくれたみたいだけど」

 写真と言われて青野に目を向けられた快聖は、首を振ってこたえた。

「裁縫だけじゃなくて、写真もやられるんですか?」

「いえ、そんなには。ただ高いカメラを持っているだけですよ」

 大山の問いに対して、明乃は謙遜するように言った。それに被せるようにして、快聖が「先輩のカメラ、めっちゃ画質いいですよね! 僕も羨ましいんですよ! いやぁ、やっぱ高いのは違うなぁ。画質が高いですもんね!」と興奮気味に捲し立てる。

「そーいや、カメラと言えば映子ちゃんもよく撮ってますよ」

「「え、マジすか」」

「ちょっとその反応酷いと思うんだけど!!」

 意外すぎる事実に言葉をハモらせる青野と大山。映子は写真くらい誰が撮ったっていいじゃない! と頬をふくらませる。

「でも、カメラをホントに大事に使ってるよね」

「まあね。何てったって、あの芦原先輩のおさがりだからさ」

「ああ、兄も写真撮るのが趣味でしたからね」

 本次郎が話に割って入ってきた。

「兄?」話を聞いていなかった青野は一瞬首を傾げる。だが、今までの話の成り行きからいろいろと察したのか、説明しようとする本次郎たちを手で制した。

「んで、恩野さんのほかに下見に来なかった方とかいらっしゃいます?」

「あの、私も用事が重なっちゃって来れませんでした」

 ほんのちょびっとだけ控えめに手を挙げて、愛実が言う。それから、「他はいないかと思います」と付け足した。

 そこに、話の主導権を青野に奪われて不機嫌な顔の温海刑事が腰に手を当てて、

「話し戻すけどいーい?」

 と口を挟んできた。

「えーっと、まあ、聞きたいことはもうないですから構いませんよ。話すこととかなさそうですけど」

「うっ、確かにそうね。とりあえず、これ以上現場に居られるのもどうかと思うから、どっか適当なところに固まっていて頂戴。特にそこの君たち、勝手にどこかに行かないように!」

 温海の言葉に大山は肩をすくめたが、青野はどこ吹く風といった感じで考え事をしている様子だった。



  ◇



「そんで、灰矢さんが同じ凶器で刺殺されたってわけ。オーケー?」

「お、オーケー……って言える訳ないでしょうが!」

 場所は悠海の部屋。といっても、当の悠海は温海刑事の言いつけをしっかりと守って別の場所で待機中のため、いるのは青野と大山の探偵組と、先ほどまで呑気に大画面テレビで映画鑑賞を行っていた女子高校生組だけである。

 その中の柚希が、事の次第を説明した青野に対して抗議の声をあげる。

「だいたい、平然とした顔で人が死んだとかどういう思考回路しているのよ」

 彼女は椅子から立ち上がると、まったくもう……といった感じでため息を吐いた。

「まあ、青野君のことだし……」

「たしかに、青野君のことだし……」

「あなた方の中の僕のイメージはどうなっちゃってるんでしょうかねえ」

 「青野のことだ」と言って思考を放棄した美月と凛の二人に、青野は珍しく頭を抱える。

(というか、あんなに言いつけられたのに平然と単独行動する青野君にこっちが頭を抱えたくなるよ……)

 大山の暗い溜息は誰にも聞こえない。彼はあとで警察にどう説明しようかと必死に頭をこねくりまわす。それから、こんなことを考えるなら事件を解く方に頭を使った方がいいんじゃないかと思い直して、青野に向かって話しかけた。

「そういえば、亡くなった姫路さんが来ていた衣装なんだけど、あれって乙姫じゃなくてヒラメの衣装だったみたいだね」

「そうだったんですか。まあ、確かに物語の中に出てくる乙姫って鯛やヒラメの衣装とかをちょっとばかし豪華にしたイメージですよね」

 凛の言葉に青野は頷いて、

「一応僕の撮った動画を確認した恩野さんも気付かなかったってことは、本当にそっくりなのかもね。まあ、僕は亀の衣装しか印象に残ってないけどね!」

「どんだけ根に持ってるのよ……」

 たじろぐ大山のことを横目でじっと見ながら言った青野に、呆れ顔の美月。後の美月曰く、この時の青野の表情はまるで動機を告白する犯人の表情のようだったという。

「さて、そんなに無駄口を叩いている暇もないよ。早く事件の謎を解かなきゃ、また被害者が出るかもしれないしね」

 急かすように言った大山に、青野はふむと息を漏らしながら顎に手を当てて、

「でも、犯人がわざわざ凶器を現場に残して行ったってことは、もう殺人は起きないってことなんじゃないでしょうか」

「なるほど。確かにそれも有り得るね……って何見てるの?」

 大山の話の途中で青野は急にスマホを取り出すと、ぼーっとその画面を見始めたのだ。大山に問いかけられた青野は、

「いえね、さっき衣装の話が出てたので、一応確認しておこうと思って」

「ああ、例の動画、まだ残ってたのね」

「うん。流石に大事な証拠を消すわけにもいかないしね。あ、あの後現場に行ってからも何枚か撮ったよ。美月、見る?」

「ちょ、ちょっと! 見る? とか問いかけながらこっちに画面向けないでよ! そんなの見たくないんだから!」

「ってか、写真撮りすぎじゃないの? もしかして今までの事件現場で撮った写真全部保存してるとか……」

「それって、超悪趣味よね。サイコパス感が出てるっていうか」

 口々に言う女子高生三人組に対し、青野は鬱陶しそうに弁明する。

「いや、ちゃんと写真は消してるからね。そんなのいちいち残してたら、容量があっという間にぱーになっちゃうから」

「気にするとこそこなの!?」

 柚希はやっぱり呆れ顔になると、そのまま深くため息を吐いた。柚希だけでなく、他のメンバーたちもみんな同じ行動をとる。

 そんな中、青野だけは若干グロテスクな写真を眺めていたが、不意に彼は「あれ?」と漏らすと、眉をキュッとひそめた。すかさず大山が反応する。

「どうしたんだい?」

「いえ、ここ、なんか動いてませんか?」

 青野は画面を大山の方に向けると、写真を何枚かスライドさせて見せた。

「うーん、最初の写真がカーテンに遮られていてよく見えないけど……言われてみれば移動している気もするね」

 大山の言葉に、青野ははっと目を見開いた。

「せ、先輩! それですよ!!」

「え、な、何!?」

 青野は携帯電話を放り投げて大山の方を掴む。掴まれた方の大山はギョッとしたように身を縮こまらせた。

「先輩、第一の事件のトリックが解けました! そして、“浦島太郎”の正体も!! あの人が犯人なら、このアリバイトリックも、姫路さんの衣装の謎も、全てつながるんです!」

 捲し立てた青野に、一同は驚きのあまり呆然とする。

「そ、それじゃあ……」

 ようやく大山の口から漏らされた言葉に青野はしっかりと頷くと、不敵な笑みを浮かべた。

「このトリックが使えるのはあの人しかいません! 事件の謎は、全て解けましたよ!!」

次回、シリーズ解決編!

浦島太郎の正体に、青野と大山の探偵コンビが迫る!!

FILE.57 玉手箱〔解決編〕



Next hint

・衣装



*作者より*

 更新滞ってすみません。作中に出てきた崖というのは、FILE.54に出てきた図の下側にある砂浜の奥の方にあります。ええ。設定ミスです。

 あ、今回も一応解けるようになっている筈です(^^;)


*謎解き*

①第一の事件のアリバイトリックは?


②第一の事件で、犯人が姫路に衣装を着せた方法は?


③第二の事件のアリバイトリックは?


④ズバリ、浦島太郎の正体は?


 以上! ③はこじつけっぽい感じなんで、考える必要ないかも……しれないです。

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