FILE.54 演出
*登場人物紹介*
・神田篤也(かんだ‐とくや)
宝永大学四年生。今回の映画の監督を務める。
・河色悠海(かわいろ‐ゆうみ)
宝永大学四年生。凛の姉。今回の映画には役者として参加している。
・河色凛(かわいろ‐りん)
北次学園の高校一年生。小学生に間違えられる容姿を持つ。演劇部所属なので、演技は得意らしい。
・灰矢優翔(はいや‐ゆうと)
宝永大学四年生。今回の劇では主役を務める。
・照真明乃(てらしま‐あきの)
宝永大学四年生。控えめな性格。手先の器用さを生かして小道具や衣装を作っている。
・姫路陽子(ひめじ‐ようこ)
宝永大学四年生。今回はヒロインの乙姫役。少々性格に難あり。
2日目の朝、自室で“浦島太郎”に襲われるところを青野たちに目撃されたが……。
・取手映子(とりで‐えいこ)
宝永大学三年生。無駄に高いテンションが特徴。青野たちからはどっかの警部と重ねられたり……。
・恩野快聖(おんの‐かいせい)
宝永大学三年生。カメラが趣味で、今回も撮影役として参加する。体型がタヌキっぽい……らしい。
・大道愛実(たいどう‐つぐみ)
宝永大学二年生。女優として参加する。
・芦原本次郎(あしばら‐ほんじろう)
宝永大学一年生。今年度入ってきた唯一の会員。遅刻魔?
時折険しい表情をすることがあるが……?
・浦島太郎
今回の事件の犯人。青野たちの目の前で殺人を繰り広げる。
「きっ、きゃあああああああ!!!!」
細長い剣が振るわれた瞬間、陽子の首筋に赤い糸が垂れたのが、遠目にもはっきりと見て取れた。それを視認して、美月たちは大きな悲鳴をあげる。
「ちょ……! あれってマジでやばいんじゃ……」
動画を撮りながら、青野が目を見開いて凶行現場を凝視する。
「見てないで、早く向こうの部屋に行こう!」
『浦島太郎』が刀を鞘に納めたのを見て、大山が慌てて踵を返す。それに頷いて青野たちが駆けだしたとき、不意に青野たちの部屋の二つ隣(彼らの部屋は一番端っこにある)、つまり、美月たちの隣の部屋から、寝ぼけ眼の快聖が目やにをこすって取りながら出てきた。
「もー、うるさいな……。なんかあったの?」
「い、いま、む、向かいの建物の部屋で、姫路さんが襲われてて……!」
「……は? 寝言は寝て言ってくれよ。あと30分くらい寝るからあんまり騒がないで……」
呆れたように彼は片目を細める。それに、青野が手に持った携帯電話の画面を突き出して、
「これがその証拠です! たった今、この変な格好の人物に刀で首元を切られたんですよ!! 早く助けに行かないと!」
その映像を見た瞬間、ゆるゆるだった快聖の顔はピシリと凍りつく。
「お、おい、マジモンだったの!? ちょーヤベーじゃん! 早くいかないと!」
快聖はそう言うと、エレベーターの方へと駆けている大山の後を追って走り出した。青野たちもそれに続いていく。
エレベーターは10秒ほどで到着した。彼らはそれに乗り込み、一階へと行くボタンを押す。7階にいた彼らは、十数秒で一階へとたどり着いた。扉が開くと同時に、彼らはホールを走り抜け、北館を飛び出る。彼らは自動ドアの前のところで、煙草をふかしていた優翔に出会った。
「んー? 昨日の高校生たちか。どしたの?」
「いま、姫路さんが彼女の部屋で襲われてて!」
「……は?」やはり呆気にとられた顔をする優翔。そのまま、今日は四月一日だっけか? と首を傾げる。
「先輩、マジなんですよ! 早くいかないと!」
少し遅れて大柄な体(主に横にだが)をゆすりながら、快聖がやってきた。彼は立ち止って肩を激しく上下に揺らすと、優翔への説得を試みる。
「僕もその現場を見ました! そこの高校生の――誰だっけ?」
「青野です」
「そうそう、青野君が動画を撮っていたみたいで、それを見たら姫路先輩が刀で首元をバッサリとやられてて……」
「……はあ!?」優翔は二度目の“はあ”という言葉。
「とにかく! 早く来てください!」
青野は優翔の反応を無視して、北館から目の前の南館へと走る。北館と南館の間には雨避けの屋根らしきものこそあるものの、アーケードとしては繋がっていない。双方の建物を行き来するには、一回外にでる必要があるのだ。若干不便さがあるが、それを少しでも解消するために、食堂や浴場などは敷地の東側に位置する別館に全てまとめられている。もちろん、その別館へは地上からも、二つの建物の二階からのびるアーケードからも入ることが出来るようになっているようだ。
青野たちは透明な屋根の下を駆け抜けると、そのまま南館の前へと到着した。ホテルの入り口は自動ドアになっているのだが、それが開く時間がもどかしく感じられる。
彼ら(快聖に加えて、優翔も訝しみながらもついてきている)が建物の中に入ると、目の前のロビーのソファで篤也と悠海が何やら話し合いをしていた。どうやら、今後の撮影に関わることを詰めているらしい。
入口に背を向けて座っていた悠海より早く、反対側のソファに腰掛けていた篤也が彼らに気付く。
「あれ? そんなに焦った顔をしてどうしたんだい?」
「んー? あぁ、凛と凛のお友達か。それに恩野くんに灰矢くんまで」
一歩遅れて振り返った悠海が走ってきた彼らの名を羅列する。
「いや、さっきそこで煙草吸ってたらよ、こいつらがマジで緊迫した顔になって走ってきたもんだから……」
「姫路さんが!! 姫路さんが彼女の部屋で変な人に襲われて!!!!」
だんだんと青野の説明が雑になっていく。
「へ、変な人?」
「なんか、灰矢さんが昨日着ていた、浦島太郎の衣装っぽいのを着ていました!」
「おい、それ初耳だぞ!?」柚希の説明に、優翔が驚きを隠せずに反応した。
「あれ、じゃあもしかして灰矢さんが……」
疑わしそうな目で彼を見る凛。それに、灰矢は慌てたようにして、
「おいおい、俺は何もしてねーぜ? んな悪戯聞いたこともねーし」
やはり悪戯であること前提のようだ。
「だからホントーに……ああ、もう時間の無駄ですね。早く行きましょう!」
大山はじれったそうにそう言うと、エレベーターの方へと駆けていく。
「ちょ、ちょっと……」
「説明はあとです、神田さん! とりあえず彼女の部屋に向かいましょう!」
青野も大山に続くようにして駆けだした。
「もー、何があったっていうのよ!? 全然話が掴めないんだけど……」
説明がほとんどないことに、頬を膨らませてむくれながらも、彼らのことを追いかける悠海。彼女についていくようにして、ソファに座っていた篤也、高一女子組、優翔、快聖が後を追うように歩いていく。
エレベーターの前では、本体が中々降りてこないことに苛立っているのか大山がじっと扉を睨みつけていた。
「階段で行ったらどうなの?」
大山の後姿を見て、悠海がエレベーターの脇にある階段を指さす。それに彼は首を横に振ると、
「僕たちが目撃したのは、8階の彼女の部屋で例の凶行が行われるところだったんです。ここから8階までなら、階段を上っていくよりももうすぐ来るエレベーターに乗った方が早く着くと思いますよ」
そう言うや否や、目の前でチンという音を立てて、閉ざされていた両開きの扉がゆっくりと開いた。大山はそれを確認すると、少し高級感のある内装の箱に乗り込む。青野たちも無言でそれに続いた。
エレベーターはゆっくりと上昇し、10秒足らずで8階へと到着した。扉が開くとすぐに飛び出て右に曲がり、今度は曲がり角を左に折れる。そうして突き当りを右に曲がった先に、姫路の部屋があった。南館の部屋割りは知らなかったが、だいたいの位置感覚は先ほど目撃した時に覚えているので、簡単に辿り着くことが出来たのだ。
大山と青野は二人で目配せをしあう。どちらが開けるかを決めているのだろうか。だが、そのやり取りもほんの数秒で終わらせると、青野が茶色い扉を強めにノックした。
「姫路さん? 大丈夫ですか? 悪戯だったら開けてください?」
――返事はない。
「姫路さん、開けますよ?」
青野はノブに手をかけ、慣れた手つきで(日頃事件に遭遇しているからだろうか?)それを捻る。ドアは何の抵抗もなしにすんなりと開けられた。それと同時に、何とも言えない生温かさと妙な臭いが漂ってくる。
「ちょっと、なんなの? この臭い」
美月が鼻をつまんで尋ねるが、青野はそれには答えず――否、答えるより前に部屋の中へと駆けこんだ。大山も前髪に隠れた目にしっかりと緊張感を湛えて部屋へと入って行く。
「おい、なんなんだよいったい?」
「僕たちも入りますよ?」
優翔と快聖も彼らの後を追って部屋に足を踏み入れようとして――――。
「「入るなァッ!!」」
中にいた二人の声が重なった。
「は、はい? いきなり何を……」
困惑したように顔を歪める優翔。だが、彼の困惑は次の大山の一言で一気に消し飛んだ。
「警察と救急を呼んでください! 姫路さんが大変なんです!!」
「な、なんだって!?」
後ろの方で様子をうかがっていた篤也が顔を青くさせ、隣にいた悠海は携帯電話を取り出した。言われた通りに電話するために、画面を素早くタップする。大山はそれを一瞥してから、今度は部屋の中を見た。
首筋から這うように腹部を通り、床へと辿り着いた、赤黒く凝固した血液。
瞬きがいっさいない目に灯ることのない光。
だらりと投げ出された四肢。
「だけどどうやら……」
「救急車の方は、不要のようですね」
遺体の手首に手を当てていた青野が、顔を落としてぼそりと呟いた。
◇
「被害者は姫路陽子、宝永大学の4年生ね。死因は首筋を細長い刀のようなもので切り裂かれたことによるもので、恐らく即死だったでしょう」
誰かに確認するわけでもないのだが、思わず独り言が漏れてしまったようだ。やってきた彼女の名前は神奈温海、静岡県警の刑事だ。やはり刑事だからかちゃんとしたグレーのスーツを着ている。彼女の長い髪の毛は動くときに邪魔になるのか、後ろで縛られている。
そんな彼女は、部屋の外で待機させていた青野たちの元へと歩きながら、
「んで、第一発見者は君たち二人、と……。死亡推定時刻は今朝の5時から6時までの間だけど……」
「それなら、6時ジャストだと思いますよ」
「え?」
大山がきっぱりと断言したことに、彼女は驚いたように聞き返してしまった。大山はそれに丁寧に答える。
「実は、脅迫状によって僕たちは向かい側の北館の廊下に呼ばれたんです。そしたら、丁度6時にいきなり彼女が黒っぽい衣装を着た人に斬られて……」
「え!? それじゃあ犯人はその黒っぽい衣装を着た人ってことよね!?」
「え、ええ。そうですね」
温海刑事の喰い付き具合が激しく、大山は若干――いや、かなり引きながら頷く。
「それ、どんな人だった!? 男? 女? 体型は? ねえねえ、どうだった!?」
「あ、いや……その衣装っていうのが前日に灰矢さんが着ていたもので……」と美月。
「で、その灰矢っていうのは……?」
温海刑事は周りを見回す。その場には、青野たちだけでなく、映画サークルの面々も顔を揃えていた。
「お、俺っすけど……。自分、違いますよ!?」
「違うって言われてもねえ……。ところで、君たちは何の集まりなのかな? 被害者の関係者ってことだけど……見たところ高校生っぽい人もいるし、そこの彼女は小学生?」
「高校一年生です!!!!」
ぷっくりと頬を膨らませてむくれるのはもちろん凛だ。
「あらごめんなさい。で、彼女が高校生なのはいいとして、なんで高校生と大学生が一緒に? この人数で先生っぽい人もいない……。まさかただの旅行じゃないわよね?」
「ええ」温海の質問に答えるのは一応責任者の篤也だ。
「僕たちは宝永大学の映画サークルのメンバーなんです。で、高校生の人たちは、ここにいる悠海の妹さんのお友達で、お手伝いをしてくれているんですよ」
篤也の話に合わせて悠海はお辞儀をした。
「なるほどね……。それで衣装ってワケか」
そう言って温海は優翔の方をちらと見る。それを受けた彼は、慌てたように頬を引き攣らせて、
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。まさかそんなことで僕を犯人扱いするんですか? その衣装が僕の物に似ているってだけで、イコール僕の物だっていうことにはならないですし……」
「いや、あれは多分先輩の衣装だったと思います」
優翔の反論に答えたのは青野から直接動画を見せられた快聖だ。
「お、おい。いい加減なこと言うなよ……」
「じゃあ、灰矢さんの衣装を調べてもらえばいいんじゃないんですか? 犯行時に着ていたんだったら、返り血だとかが付いていると思いますし……」
そう提案する明乃。温海はそれに頷くと、
「そうね。今その衣装は誰が持っているの?」
「灰矢先輩なんじゃないですか? 衣装はそれを着る人が保管することになってますし……」
愛実が言いながら彼を見る。優翔はそれに対し首を横に振って応えた。
「いや、今は俺じゃなくて明乃が持ってるはずだぞ? 昨日預けたから……」
「え? そうだったんですか? なんでなんでー??」
興味深々といったように尋ねてくるのは映子だ。悠海からちょっと自重しようといわれているが、全く耳に入っていないようだ。もっとも、優翔はそんな悠海の言葉も無視して話を進める。そのようなことに構っている暇があったら無実を証明しておきたいという心理が働いているのかもしれない。
「実はまだやり残したところがあったみたいでさ……。手直しをしておきたいって明乃が言ってきて、それで……」
「私が昨日の撮影が終わったところで一旦預かったんです。改良はすぐに終わったんで夕食前に届けに行ったんですが……」
「はあ? 受け取ってねーぞ?」
明乃の言葉に眉を顰める優翔。明乃はそれを慌てたように首を振ってから補足する。
「部屋に行って呼び鈴を鳴らしたんですけど、出てこられなかったので、入れてきた紙袋ごとノブに引っかけておきました」
「ああ、それなら僕が部屋を出て別館の食堂に行くときに見かけたよ」
篤也の一言で、彼女の話が正しかったことが証明されたようだ。優翔は一応は納得したように頷くものの、またすぐに顔をしかめる。
「でもよー、俺が食堂から部屋に戻った時には、んなもんかかってなかったぞ? 一体どういうことなんだよ」
「それなら簡単です」と言ったのは、今まで静かに成り行きを見守っていた青野。彼は優翔を見上げると、
「あなたが食堂にいる間に、誰かがそれを盗んだんですよ。そして、今回の犯行に利用した」
彼は確信しているように口もとに笑みを浮かべている。
「それより、問題は姫路さんの方ですよ。犯人はどうやって彼女に衣装を着せたのか……。そっちの方が不思議ですけどね」
「衣装を着せた?」
青野の言葉を反復したのは本次郎だ。青野は彼に向かって頷いて見せる。
「被害者の姫路さんは、なぜか“乙姫”っぽい衣装を身に纏っていたんですよ。ねえ、そうでしょう?」
そう言って、彼は温海の方を見た。温海もそれに頷いて応える。
「ええ。普通の服装にしては変だと思ったけど、衣装なら納得だわ。ひらひらふわふわしていて、竜宮城の乙姫らしかったし」
「乙姫……ってことは、見立て殺人ってことでしょうか? 姫路先輩が演じる予定だったのも乙姫でしたし……」
愛実がそう言って、浦島太郎役の優翔を再び見上げた。
「ちょっと待てよ。フツーに考えて犯人が俺に罪を着せようとしてるだけだって。わざわざ自分の役の衣装を着て見立てるかって―の」
「もしくは、そうやって容疑を逃れるつもりだったか……」
大山の一言に、優翔は焦ったように「おいおい」と言ってから、
「なんでそんなに俺を犯人にさせたがるんだよ。そんなに言うならアリバイを調べてみたらどうだ? 確か犯行時刻は6時で確定してるんだよなぁ? だったら、俺はその時間外で煙草を吸ってたぜ?」
「煙草を吸ってただけじゃアリバイには……」
「いや、彼のアリバイは完璧だと思います。というのも、彼が外に行くところを僕たちも見ているからです」
温海の言葉に被せるようにして、篤也が口を開いた。悠海もそれに頷いて、
「ええ、あれは6時ちょっと前だったかと……」
「僕たち二人で、5時半からロビーでずっと話し合いをしていたんです。今日撮影する部分について詰めたいところがあったので。そしたら、六時ちょっと前に彼がエレベーターから降りてきて、そのまま外に行っていました」
「んで、俺は向かい側の北館の入り口の前で煙草をふかしてたってわけだ。そしたらこの高校生たちが血相を変えて走ってきたからなぁ……」
「あ、僕も居ましたからね」
快聖が自分のことを人差し指でさした。
「なるほどね。で、君……灰矢君か。今の話で君のアリバイと一緒にそこの二人のアリバイも証明されるわね」
「そうみたいですね。私と篤也君はずっと一緒にいましたから。トイレに立つこともありませんでしたし。
あ、ちなみに私は河色悠海といって、一緒にいたのは神田篤也君です」
「河色さんに神田さんね……」
彼女は苗字をカタカナにして手帳に書き込んでいく。
「じゃあ、他の人も名前と一緒にあったら午前六時のアリバイの方をお願いしますね」
「まず僕たちですかね。といっても、目撃したのがこの5人なのでアリバイは完璧と言ったところでしょうか」と大山。
「ちなみに、名前の方は私が小林美月で、こっちの小学生みたいな女の子が河色凛」
「ちょっと、小学生って何よ!」
ここに来てから何度目かのツッコミ。もっとも、当人は慣れてしまっているのかあんまり怒っているという印象は感じられない。内心で傷ついている可能性は否めないが。
「まあまあ……んで、もう一人の女子が木島柚希。男子二人が青野優紀と大山朝洋先輩です。あ、大山先輩は茶髪の方ですよ。大山先輩が高二で、他はみんな高一です」
美月の簡単な自己(及び他己)紹介が終了する。伝える内容は昨日の青野の自己紹介と大差ないが、一気に紹介しているからこの量で妥当と言ったところか。
高校生組に次いで、彼らとほとんど一緒に行動していた快聖が口を開く。
「僕は恩野快聖といいます。六時丁度の時点では自室にいましたが、それから彼女たちの叫び声が聞こえたので、部屋を出て彼らに合流しました」
「彼の言っていることは本当ですよ」
青野が言うと、ひとまず証明されたことにほっとしたのか、快聖は顔を綻ばせる。それを見届けてから、映子が元気に手を上げ、自身のアリバイについて述べ始めた。
「じゃあ次はあたしねー。あたしは愛実ちゃんの部屋にいたよ。ちょっと早く起きちゃったから愛実ちゃんにメール送ったら、あっちも同じ感じだったらしくて、それでどーせなら部屋に来てよーって感じになって、彼女の部屋にお邪魔したってわけ! 時間は6時10分前くらいからかなぁ。あたしの部屋って南館の7階なんだけど、北館7階の愛実ちゃんの部屋に移動するときにロビーを通ったから、神田先輩たちが見てたかもね」
――殺人事件が起こっているというのに些か不謹慎かもしれないテンションである。
「そーいえば通ってたような……」
篤也は思い出すように顎に手を当てると、そう呟いた。
「今の話で間違いないですか?」
と温海は愛実に尋ねる。彼女はそれにはっきりと首を縦に振って、
「ええ、あってます。それから神田先輩から連絡が入るまで――ああ、この連絡は今回の事件の事だったんですけど――ずっと一緒にいました。途中で席を外したこともありません」
「なるほど……。では、残るのはそこの二人ですけど……」
温海は視線を愛実から明乃と本次郎の方へと移す。
「じゃあ、私の方からいいですか?」
明乃は申し訳なさそうにしてから、話し始めた。
「私は6時の前後は親に電話をしていました。内容は家に忘れてきた小道具に関することで、電話をしながら探してもらいました。結局見つかりませんでしたが……」
「探してもらったってことは、その間は直接話したわけじゃないですよね?」
大山が彼女に問う。その問いに、明乃は「そうですけど……」といったんは認めながらも、すぐに反論するように、
「さっきの君たちの話だと、犯人は陽子さんを斬りつけていたんですよね? 私は黙っていた時間こそありましたけど、長くて30秒くらいですよ。そんな短い時間で、人ひとり斬り殺すなんて無理がありませんか? それに、保留とかにはしていませんでしたから、悲鳴とかが入っちゃうと思うんですけど……」
「ふーむ……となると、犯人はそこの男の人ってことになりますけど……」
筋の通った彼女の反駁に、温海は頷く。それから、視線を本次郎の方へと移した。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。僕はやってませんって」
温海から疑いの籠った目を向けられて、慌てて弁明する本次郎。両手をパーのまま目の前に出して、必死そうに顔を歪める。そのまま「NO,NO!」とか言ってたら完璧に欧米の人っぽくなるだろうか。
「では、六時にはどこに?」
「六時ですか? えーっと……そうだ、下の自販機で飲み物を買いに行こうと、ちょうどエレベーターに乗っていたころだと思います。ああ、もちろん北館にある自室からですから、北館のエレベーターですよ? ここのエレベーターには防犯カメラが付いているんで、それで証明できるかと……」
「エレベーターね……。もし6時の前後に北館のエレベーターの防犯カメラに映っていれば、アリバイは立証される――。君、調べて置いて!」
温海はしっかりとメモを取りながら、部下の刑事に指示を出した。見た感じ若そうに見えるが、それなりの地位にいるらしい。
「うーん、今から一応の裏付けを取るけど、それで全部裏取れちゃったらアリバイが成立しちゃうんだよな……」
手帳を片手にしかめっ面の温海。それに、先ほどまで彼女に話をしていた本次郎が「あの……」と話しかける。
「そもそも、なんで僕たちが疑われているんですか? そりゃあ、亡くなった彼女と一緒に行動していましたけど、それだけで僕たちだけが疑われるのはちょっとどうかと思うんですが」
彼の意見に、大学生メンバーは確かにと頷いた。それに、
「いえ、犯人は僕たちの中の誰かだと思いますよ?」
と反論する青野。
「どうしてなんだ?」
優翔が素朴な疑問をぶつける。青野は右手の人差し指と中指を立てて、
「根拠は二つあります。一つ目は、犯人がわざわざ衣装を使用している点です」
「確かに、衣装は私たちが持ち込んだものですけど……。でも、さっき先輩方が話していたように、浦島太郎の衣装は灰矢先輩の部屋のドアノブにかけてあったらしいですから、それを見た第三者が意図的に使用した可能性も考えられるのではないですか?」
もっともらしい反論を青野にしたのは愛実だ。
「確かに、浦島太郎の衣装に関してはそう言えなくもないでしょうが……。姫路さんの衣装はどう説明するんですか? 完全に部外者な第三者が彼女の衣装を用意できるようには思えませんが。そもそも第三者があの紙袋の中の衣装を見たとしても、それで彼女を殺害しようと思い立つでしょうか? それに、私たちの部屋はみんなバラバラでした。そんな状況で、どうやって部外者が彼女の部屋を特定できたんでしょうかねえ」
青野は愛実の反論を、抜け道ごと丁寧に潰していく。それに対し、彼女は言うことが無くなってしまったのか、黙り込んでしまった。
「そして、2点目が動機です。確か、1年前に事故があったんですよね? それも、昨日の話の内容からして、人が亡くなるほどの……」
「やめてくれ!!!!」
青野の説明を打ち消すようにして、篤也が叫んだ。青野は一瞬訳が分からないというように「え?」と聞き返す。
「その話はしないでくれ。確かに1年前に事故はあった。だが、それだけだ。それが今回の事件に関係しているなんて証拠はどこにもない。そうだろう?」
篤也は擁護してくれる人を探すように、顔を引き攣らせながら語りかける。
「どうしても、話していただけないんですか?」
「……ああ、だめだ。君たちに話すことなんてない」
彼は険しい顔で、青野の頼みを却下した。それから、呆気にとられている温海に話しかける。
「刑事さん、僕らのアリバイも多分全員証明されますよ。ですから、早く解放してくれませんかね? 聴取とかはもう少し後にしてほしいんです……。今は、独りになりたい」
“独り”という言葉が、いっそう強く彼の口から吐き出された。
次回
第二の事件発生!? 真犯人の思惑通りに、またも不可能犯罪が巻き起こり――。
FILE.55 甲羅
Next hint
・屋上プール
登場人物多い……。書くのが雑になっちゃいます……orz




