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探偵青野優紀の事件簿  作者: 南後りむ
CASE13 さらわれた少女と証言
50/62

FILE.49 大きな顔の人〔解決編〕

*事件関係者*

・稲持美鳥(いなもち-みどり)

 稲持家の長女で、何者かに誘拐されたが、その後無事帰還する。4才。


・稲持靖親(いなもち-やすちか)

 稲持製粉社長。45才。


・稲持朱音(いなもち-あかね)

・稲持春人(いなもち-はると)

 病人と苦労人。本文未登場。朱音が30才、春人が8才。


・鎌木遥順(かまき-ようじゅん)

 桜帝大学農業経済学部教授。52才。


・神里清司(かみさと-せいじ)

 市議会議員。35才。


・巣降梅蔵(すふり-ばいぞう)

 稲持製粉副社長。38才。



・金尾請斗朗(かねお-うけとろう)

 なぜかよく出てくる可哀想な名前の政治家。


 病院のベッドに寝そべっている美鳥。その脇の椅子に、靖親が安心そうな顔をして座っていた。彼は時折美鳥の顔を覗き込んでいる。

 やがて彼は、青野達が病室に入ってきたことに気がつくと、そのふくよかな体をこちらに起こした。

「どうかされましたか?」

 その問いに、青野が答える。

「美鳥ちゃんに聞きたいことがあったんですが……。まだ寝てますか?」

「ええ、まあ……」

「だいじょうぶ。いまおきたよ」

 靖親の言葉を遮るようにして、小さな女の子の声が発せられた。室内には美鳥を除いて男しかいないため、その声がベッドに横たわっている彼女であることはすぐにわかった。

「ごめん、起こしちゃったか……。まあ、丁度よかったかも」

「で、何を聞きたいんだ?」

 青野の後ろで成り行きを見ていた権田が、痺れを切らしたように言う。

「あ、そうそう。警部、容疑者3人の写真を貸していただけますか?」

 権田の言葉を無視して、手を出して催促する青野。権田はやれやれといったように顔を一瞬伏せると、上着の内ポケットから写真を三枚取り出す。

「ほれ、これで満足かい?」

「ええ。では、美鳥ちゃん。この写真を見てほしいんだけど……」

 彼はトランプを持つようにして写真を見せる。

「この中に、例の大きな顔の人はいるかな?」

 その問いに、美鳥は迷うことなく頷いた。それから、右手の人指し指をその“写真”へと向ける。

「うん! このおじさんだよ!」

「やっぱり……」

 三枚の写真をマジシャンのような手付きで纏めた青野は、満足そうな笑みを浮かべていた。



  ◇



「なあ、いい加減ネタバラシをしたらどうだ?」

 車を走らせること数分。車内はずっと静まりかえっていたが、ようやく権田がその静寂を破った。

「そうですね。そろそろお話ししましょう。いいですか? これから僕の言う通りにしてくださいよ」

「わかってる。で、早く話してくれ。あと5分ちょいでついちまう」

 言いながら、目の前の信号が赤になったので車を止める。止まると同時に、青野がゆっくりと口を開いた。

「まず、今回の事件において、犯人特定の一番の手がかりになったのは、美鳥ちゃんのある証言なんです」

「証言? それって、大きな顔の人ってやつかい?」

 やはり後部座席に座っている小西が問いかける。しかし、青野はゆっくりと首を横に振ると、

「いえ、それではありません。その前の……たくさんの人と一緒に降りたってやつです」

「つまり、乗降客数が一番多い駅……そうか! 犯人は新花本駅の近くの会社に勤めている、巣降梅蔵さんだね!」

「ぶーぶー」

 わかりやすい擬音を発しながら、青野は小西の意見を否定する。

「残念ながらそれは短絡的な考えです。まず、前提条件から。容疑者達の証言から、犯人は美鳥ちゃんを誘拐してからすぐに自分の本拠地――会社だったり――に向かったと考えられます」

「えーっと、鎌木さんは9時に稲持邸を出て、9時半には大学にいたんですよね? それなら、移動に30分かけているってことだから……ええっと、西花本駅から桜帝大学前駅まで電車で15分、待ち時間も考えると、30分はギリギリですね。もし彼が誘拐したのなら、そのまま大学まで美鳥ちゃんを連れて行っていることになります」

 小西の隣に座りながら、相変わらずパソコンを開いている明が、つらつらと述べた。

「でも、例えば彼が桜帝大学前駅よりも手前の駅に住んでいて、そこに一旦彼女を置いておいたってことは考えられないのか?」

 ハンドルを握りながら、権田が尋ねる。彼はいつの間にか車を発進させていたようだ。

「それは考えられません。彼はわざわざ通勤途中に稲持さんのお宅によっています。ということは、彼の家は西花本駅よりも桜川宿駅側にあると考えられるでしょう? それに、美鳥ちゃんが降りたのは川原線の待避駅。西花本よりも桃音よりで、桜帝大学前よりも花本よりの駅の内、待避駅は新花本駅しかありません。そこで一度降りて、彼女をどこかに連れていってから、大学へと戻ることは時間的に不可能です。

 巣降さんも同様に、9時50分に稲持邸を出て、10時過ぎに新花本駅に辿り着くには、かなり急いで電車に乗らなくてはいけません。どこかに立ち寄る暇なんてありませんよ。これは神里さんにもいえることで、陽向丘駅に着くには早くても9時20分。10分後に街宣車に乗るには、どこかに寄っている暇はありません。車は近くの駐車場に停められているらしいですしね」

「なるほど。長々と言ってたが、結局なんで新花本駅ではないのか教えてくれるか?」

 説明が長すぎて退屈していたのか、少々詰まらなさそうに言う。そんな権田を「まあまあ」と宥めながら、

「駅の出口ですよ。単純に、ある号車から降りた人数が多い=駅全体の乗降客数が多いという結論には至らないというわけです」

「どういうことだ?」

「つまりね、乗客も頭を使うわけですよ。どこで降りたら一番労力を使わずに済むかということを、無意識に――いや、意識的かも知れませんが――考えるわけです。すると、乗車する駅で電車を待つ間に、降りる駅の出口に一番近い号車に移動するようになる。見てください、これが新花本駅の構内図なのですが、出口は真ん中でしょう? つまり、この駅を利用する人は、電車の真ん中の方へと自然と集中していくというわけです」

 青野の説明に魅せられたように聞き入る後部座席二人組。その二人に代わるように、権田が聞き返した。

「だが、残る陽向丘駅と桜帝大学前駅の両方とも、出口は右寄りなんだろ? じゃあどっちだか……」

「はあ、よく考えてくださいよ。美鳥ちゃんは車掌と挨拶をしたんですよね。てことは、電車の最後尾に乗っていたということ。桜帝大学前だと、出口は運転席側になってしまうでしょう。つまり、誘拐犯として疑わしいのは……」



  ◇



「つまり、稲持美鳥ちゃんを誘拐して、身代金を手に入れた真犯人は、神里清司さん、あなたですよね?」

 先程と同じように、玄関に立って話す権田。だが、相違点がある。1つは、権田の口調が厳しいものになっていること。1つは、小西が手帳とにらめっこしていないこと。そしてもう1つは、神里が顔を驚愕の色に染めて、おののいていることだ。

「い、いきなり現れたと思ったら、何を言っているんですか。そんな証言1つから犯人扱いなんて、馬鹿馬鹿しい」

 下らないと一笑して見せる神里。たが、その声は心なしか震えていた。

「勿論、根拠はこれだけではありません。まず、あなたが稲持邸を直ぐに帰らなかったことです」

「だから、あれはゴルフクラブを見ていたからで……」

 弁明する神里に、権田は目を瞑って首を横に振る。

「鎌木さんが家を出るのを待っていたからでしょう? 家の中に必要以上に他の人がいたのでは、誘拐するのが難しくなりますから」

「だから、そんなのもこじつけだ! 僕がやったなんて証拠はないでしょう!?」

 まだ余裕があるのか、神里は頑なに否定をする。

「まだ話は終わっていませんって。まだお話ししていなかったんですが、実は美鳥ちゃんがこんな証言をしていたんです。『家の前にいた大きな顔の人に挨拶をした』とね」

「大きな顔? ああ、それであんな質問をしていたんですね。でも、残念でした。僕にそんな人の心当りはありませんから」

 やはり小馬鹿にしたように笑う神里。権田はどこふく風といったようにそれを無視する。――その反応は、若干青野に似ているかもしれない。

「当たり前ですよ。そんな人、存在しなかったのですから」

「ハァ!? 何を言っているんです? 僕にはさっぱり意味が……」

「時に――綺麗な壁ですね」突拍子もなく、話の流れを折る。その言葉の真意を掴みかねたのか、神里は片目を細めた。

「いきなり何を?」

「そういえば、外の壁も綺麗な煉瓦ですねぇ。……全体がよく見えて、なかなか宜しい」

「だから、何を……」

「どうして、何も貼っていないんですか?」

 強い口調で言いかけた神里に、権田が真剣な顔で問う。

「っ……!」

 心当たりがあるのか、顔を歪めて唇を噛む。それきり何も話さなかったので、権田が話を続けた。

「おかしいですよね、ポスター1つ貼ってないなんて。現在選挙の真っ只中。自分の事務所に何も貼っていないって、おかしくありません?」

「そ、それは……」

「まあ、あなたは美鳥ちゃんが反応したので片付けたんでしょうが、それが裏目にでましたね。ご存知の通り、選挙ポスターは有権者に印象付けるために、候補者の顔を紙面一杯に表すことがあります。あなたのものを先程確認しましたら、やはりそのパターンでしたよ。それを見た美鳥ちゃんが、“顔の大きい人”と錯覚してしまったというわけです。美鳥ちゃんにあなたの写真を見せたら、“大きな顔の人”だと言ってくれましたよ」

 流れるように説明する権田。勿論、この推理は青野の受け売りだ。先程車内で話す流れまでレクチャーされてきた。

「で、でも、だからって僕が犯人だなんて証拠にはなりませんよね?」

 やはりそうきたか……と権田は思う。相手の反論までが青野の予想通りなのだ。

「それに、僕には犯行時にアリバイがあるんです! 選挙カーの上でずっと演説をしていました!」

「ほお、それは何時ごろですか?」

「だから、9時半から4時半までずっとですよ! 犯人が出てきた3時過ぎのアリバイは完璧……っ!」

 そこまで捲し立ててから、自らの失言に気が付く。しかし、時既に遅し。権田がにんまりと笑いながら、後ろにいる小西へと声をかけた。

「聞いたか? 犯行時刻は3時すぎだそうだ」

「ええ、バッチリ。録音しましたよ」

 そう言って、胸のポケットから録音機を取り出した。因みに、この録音機は明くんお手製のものである。

「さあ、教えていただけますか? あなたが犯行時刻を知っている理由を」

 神里は完全に黙りこんでしまっている。その表情からは、はっきりと焦燥が見てとれた。

「ちなみに、あなたにアリバイがあるのは、あなたの秘書か助手かが共犯者だったからですよね」

 録音機を仕舞いこみ、代わりに手帳を出して話す小西。権田はしっかりと部下にも活躍の場を与えているのだろうか。どちらにせよ、一番の功労者は青野なのだが。

「こんなにご立派な事務所を構えるほどなのですから、当然一人はいらっしゃるのでしょう? 勿論、これは憶測ではなく推理によるものです。さっき僕たちが来たときに、あなたが隅へと寄せたこの靴……」

 小西はかがみこんで、スポーツシューズを掴む。

「隣にある革靴は別段違和感はありませんが、このスポーツシューズはいけませんね。なぜなら、スーツにスポーツシューズというチグハグな格好で街頭演説を行うのはおかしいですから。勿論、そういう可能性もありますが、隣に革靴があるのを見れば、そちらをあなたがはいていたのは一目瞭然です。では、この運動靴は誰のものなのか? 共犯者のものとみて間違いありませんよね」

「そして、この靴が物的証拠になる。現場の紫陽花公園の土だったりが、裏についているだろうからな」

 権田の言葉に、小西が靴を裏返して底を見る。

「案の定、血糊が付着していますね。遠目にわかるほどの血をつけていたのだから、1,2ヶ所はついていると踏んでいましたよ。調べれば成分等々が一致するでしょうね」

「現場から出たゲソ痕と照合すれば、靴の形とも一致するだろうしな。証拠は探せばいくらでもでる」

 途中から一方的に攻められた神里は、最後の権田の言葉に、ついに敗北を認めたのか、チッと舌打ちをして、彼らを見据えた。そして――。

「逃げろッ!」

 素早く踵を返すとまだ中に残っている仲間に聞こえるように大きな声で叫んだ。

「小西くん!」

「わかってます!」

 小西は数歩先を走る神里に飛びかかった。



  ◇



『それで、小西くんが呆気なく神里を確保し、俺が中に乗り込んだら、何故かあたふたとしている仲間がいたってわけだ』

「それはそれは。御苦労様です」

 心の底からなのか、それとも社交辞令的なものなのか。どちらかというと、後者のような口振りに思えた。

 あれから、神里の事務所に到着した彼らは、権田と小西を見送ったあとに駅へと向かったのだ。確保したあとに連行するための座席を確保するためだろうが、追い出された青野は事件がどのように運んでいったのか気になって、翌日、権田に電話をかけたのである。――部室のなかで。

「ねぇ、前に私に校内は携帯電話の使用禁止だって言ったのはどこの誰だったっけ?」

「しらないな。……で、一応動機とかも聞いておきましょうか」

『うーん。まあ、簡単にいうと金が欲しかったらしい。《あいつのゴルフクラブよりもいいものが欲しかったんだ!》とかなんとかいってたっけ』

「聞かなきゃ良かったです」

『まあな。俺も呆れて物が言えなかったよ。

 あ、そうそう。今回の事件を企てたのは共犯者の方だったそうだ。神里曰く頭が物凄く切れるらしいんだが、その癖あたふたしてたのはどういうことなんだろうな』

「さあ……。そこまで推理はできませんよ」

 苦笑いをする青野。そんな彼に、睨み付けたままの美月が再び声をかける。

「ねえ、通話禁止! 先生呼んでくるよ?」

「わかったよ、切ります。切ればいいんでしょ?」

『今のは小林さんか? まあいい。校則は守らなくちゃダメだぞ?』

「はいはい。ではじゃあ」

 青野は電話を切ると、不機嫌そうに美月を睨み返した。

「全く」

「いや、青野くんのせいだからね!?」

 逆ギレ紛いの反応をとる青野に、美月はため息を吐く。現在、絶賛部活動中なのだが、彼ら以外は部室にいないようだ。

「それはそうと、事件の方は解決したんだね」

「うん。靖親さん――誘拐された女の子のお父さんね――が是非お礼をしたいって言ってたらしい」

「お金持ちのお礼かぁ……。どんなものなのかな」

「現金を望みます。ゴルフクラブとかは要りませんから」

「ゴルフクラブ……?」

 美月は意味が解らず首を傾げる。

「まあ、お礼はまた今度来るでしょうな。ところで、そっちはどうだった?」

「そうそう、殺人事件が起こったのよ!」

 言い忘れてたというように、彼女は大きな声でそう言った。

「……はぁ?」

 理解できないというように、青野は目を細める。どうやら、死神は彼の他にも居たようだ。


次回

今度は美月ルートです。もしかしてこいつが死神なんじゃ……。

そして祝50話!

CASE14 青野抜きの推理show?

FILE.50 水たまり




Next hint

・階段


*改稿の記録*

2017/7/24 途中の不自然な改行を訂正、一部描写の変更

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