FILE.4 私に告白!?
ゴールデンウィーク直前のとある日。青野は一人、教室で大きく欠伸をした。
ふと時計を見る。4時――それは、いつもなら部室にいる時間であった。
次に、目の前に積まれた本を見た。全て読み終わり、早く部室に行きたいという気持ちが刻々と増していく。
(部室に、愛しの本たちに会いたい!)
心の中でそう呟きながら、彼は「恋愛小説かよ……」とつっこんだ。
何やってんだ、自分。そもそもこんなことになったのは美月がいけないのだ。彼女が何に感化されたのか分からないが、いきなり「部室を掃除する!」などと言い出さなければよかったのだ。そうだ、いけないのはあいつだと思ったとき、今まで閉まっていた教室の扉が急に開け放たれた。
「部室の掃除、終わったよー」
◇
「意味わからないんだけど……」
彼はふてくされたように呟いた。
「何が?」
隣を歩く女子は、平然とした様子で返してくる。彼らは帰るために下駄箱へと向かっていった。
「何で、何でやっと入れると思った部室に入れないんだよ! どれだけ待ってたと……」
「だって、せっかくきれいになったのにすぐに荒らされるなんて嫌じゃん」
彼――青野優紀の隣でしれっと答えたのは、小説部の部員、小林美月である。
「別に嫌でもなんでもないし、だいいち……」
青野がそこまで言いかけた時、美月が「あっ」と声をあげた。
「どうした?」
青野がぶっきらぼうに尋ねた。美月は何も言わずに白い封筒を青野に向かって見せた。封筒には気色悪い(by青野)ハートのシールが貼ってある。それは、誰が見ても、内気な人が恋心を相手に伝えるときにかなり重宝するツール、即ちラブレターというものであった。
◇
美月は困ったような表情を浮かべた。
「これ、どうしよう……」
「とりあえず、開けたら?」
青野はそっけない態度でそう言った。
「う、うん」
ハートのシールを剥がす。恐る恐る中を見てみると、そこにはワープロで文字が打たれた白い紙と、地図が同封されていた。
『私は貴女のことが恋しくてたまりません。付き合ってください
鏨凱人』
「なにこれ……気味悪っ」
「でも、この手紙おかしいよね」
引き気味の美月に対して、青野が冷静に述べた。
「何が?」
すかさず聞き返す。
「だってさ、こういうのって普通、手書きってもんじゃないのかな。ワープロで書くなんて気持ちもこもらないし、そもそも美月のことが好きなのかもわからないよね」
「確かに……」
美月もようやく冷静さを取り戻してきた。
「でも、この地図はなんなんだろう。地図を同封するってことは、ここに来てもらいたいのかな」
「もしかして、襲うつもりかも」
青野の口から意外な言葉が飛び出た。
「え、嘘でしょ」
「冗談に決まってるじゃん」
「だよね~」
美月の固かった表情も緩くなった。
「そうとも限らないぜ」
「え?」
背後で声がしたと思い、青野と美月は振り返る。そこには、三人の男子生徒が立っていた。その中の一人が急に自己紹介を始めた。
「俺は難波雄士。凱人の知り合いだ」
声からしてこの人物が先ほど発言したのだろうと思われる。難波は他の二人に目くばせをした。
「ぼ、僕は竹中靖樹。高校二年です」
メガネをかけた男子がそう言った。上履きの色を見たところ、三人とも同じ学年のようだ。
「遠木克巳。バスケ部のキャプテンを務めています」
バスケ部というだけあって背は三人の中でずば抜けて高かった。
美月は戸惑いがちにお辞儀をした。
「わ、私は美月といいます。それで、こちらが友人の青野君です。それで、限らないっていうのはどういう事なのでしょうか……?」
難波はふふんと笑うと、目を大きく開いて脅かすような表情で口を開いた。
「だーかーら、あいつなら襲いかねないぜっていってんの」
「えっ……」
場の空気が凍りついた。
「おい、そんなこと言うもんじゃないだろ」
遠木が苦い表情で友人に注意をした。
「ああ、悪かったな。でもよ、注意した方がいいと思うぜ。なんなら俺たちが一緒に行ってやろうか?」
「あ、いえ」
「おい難波、度がすぎてるぞ。まあ、ちょうど僕たちも行くところだったからいいんですけどね。どうしますか? 小林さん」
竹中が美月に向かって笑って見せた。しかし、その表情にはどこか無理している感じが見て取れる。
「え、ええっと……」
どうするかかなり迷ったような素振りの美月。だが、彼女が答える前に青野が口を開いた。
「行ってもいいですかね。なかなか面白いですし」
(面白いって……)
美月はいつものことながらも呆れてしまった。
と、そこで、遠木が疑問を口にした。
「青野さんって、美月さんと何か特別な関係でもあるんですか?」
「はい?」
美月は意表をつかれてつい変な声がでてしまった。
「確かに。さっきから思ってた」
難波も遠木に同調する。
「ち、違います! こいつとは、部活が同じってだけで……」
「こいつって言うんだ……。まあどうでもいいけど」
青野はまったく気にも留めないようだ。
「あ、あの……早く鏨君の家に行きませんか? 僕らの約束は五時ですし」
竹中は時計を見ながら申し訳なさそうに言った。時間は四時半をまわっている。
「そうだな。奴の家はここから歩いて十五分くらいだ。そろそろ出た方がよかろう」
難波は言いながら靴を履きかえた。
「ほんとにご一緒して大丈夫なんでしょうか」
美月が最後に確認をする。
「ああ、構わないぜ。あんたも自分の気持ちを言いてえだろ?」
「え、まあ」
彼女は難波に押される形で返事をしてしまった。
(でも……)
前を歩く青野の背を見て美月はふと考える。
(私の本当の気持ちって、なんだろ?)
◇
一行は他愛もない話をしながら歩いていた(遠木は自転車を押していた)。その間にも、青野は彼ら三人からいろいろな情報を聞き出していた。まず、難波と遠木が生徒会の役員であるということ。彼ら――特に難波――を見て、青野は意外だと感じた。今日も活動があって竹中に待ってもらっていたということだ。それから、彼らが一緒にいるのは鏨が積極的にグループを作ったからだということ。高校一年生で同じクラスになるまで一度も喋ったことがないという。「鏨という人物は果たしてどのような人なのだろうか」と青野の胸の中は好奇心でいっぱいになった。
一方の美月は何を考えていたのか終始黙り続けていた。
◇
「ここが鏨が住んでいるマンションだ」
難波が五階建てのマンションを指さした。
「彼はここの二階に住んでいるんです」
竹中が説明した。
「部屋は……204号室かしら」
美月は同封されていた地図にある住所を見ながら呟く。
遠木は頷くと、
「じゃあ行こうか」
とだけ言って彼女を促した。
すぐに一行は204号室の前についた。
難波が玄関のチャイムを鳴らした。だが、中からは反応がない。
「おかしいな……。いつものやつならすぐに出てくるのに……」
「鍵、開いてますよ」
いつの間にか青野はノブに手をまわしていた。
「え、お、おう」
難波は珍しく戸惑ったよう反応を示した。
青野は断りもなしにドアを開けると、玄関を見て、
「靴がありますね。彼は中にいるんじゃないですか?」
「なんだって!?」
三人が口をそろえる。
「なら出てこないのはおかしいですね……」
青野の表情は一瞬で強張った。そのまま靴を脱ぎ、目の前にある部屋へとかけていく。
扉を開けると、カーペットに赤いしみがついていた。
「血だ……」
そして彼の眼前には……。
「おい、どうなってるんだ?」
難波があとから続いて部屋に入ろうとした。
「入るな!」
青野が鋭く叫ぶ。
「入らずに、早く警察と救急をよべ!」
「青野君、何がおこって……」
中を見て立ち尽くす難波の後ろから美月が顔を覗かせる。
「倒れてんだよ……。この部屋の主が頭を打たれてね」
「それって……」
美月は口を押える。青野はそんな彼女をよそに観察したことを述べていく。
「被害者の体に隠れるようにしてカメラが置いてある……。被害者が咄嗟に掴んだのかもしれない。遺体の左右の人差し指には血液が付着している。そして床には……」
青野はそこまで言って首を傾げた。
「なんだこれは?」
「どうか、しましたか」
遅れて部屋の前に来た遠木が尋ねる。
「かっこ ぶんし」
「え?」
美月が妙な声をあげた。
「な、何それ……」
「被害者の手元に書いてあるんだよ。真っ赤な血文字でね」
「それって、た、鏨の、だ、ダイイングメッセージなんじゃ……」
竹中が困惑した口調で話す。
「さあ、そうかもしれません。今のところは何のことかさっぱりわかりませんが。まあ、これは警察が来るまで……」
そして青野がふと机に目を遣ると、そこにはちょうど数学の問題集がひろげられていた。
「まてよ、これはもしかして……」
開かれたページに目を遣る。そこは、計算演習のページだった。
「『かっこ ぶんし』が括弧 分子って意味だとしたら、このページにある分子、その中でも括弧の中にあるやつを並べれば……」
「こ、ば、や、し」
「は?」
美月は自分の名字を呼ばれてびくりとした。
「並べると5884になるんだよ。これって読み方を変えれば、“こばやし”になるんじゃないか?」
美月の唇が引きつった。
次回
FILE.5 カメラとダイイングメッセージ
Next hint
・カメラ




