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探偵青野優紀の事件簿  作者: 南後りむ
CASE11 奥様は叙述トリックがお好き?
45/62

FILE.44 叙述トリックの基本〔解決編〕

・行原華代(49)

 被害者。花瓶で後頭部を殴られ撲殺される。

 今庄雪華の名前で作家活動を行っていた。

・瀬塚近政(24)

 今庄(行原)のアシスタント。青野から犯人として目を付けられる。



【注】今回はいつもより長いです。だいたい二倍くらいに相当します。

「とーにーかーく! 僕に犯行は不可能なんですから、早く帰してくださいよ!」

 瀬塚が不機嫌そうに主張した。青野の携帯電話騒動で、うやむやにされかけていたために、余計に声を張っているようだ。

「しかし……」

「だって、僕には犯行が不可能だったんでしょう? 今庄先生が撲殺されたのが、今日の午後二時あたり。その時間、僕はここから歩いて十五分ほどのところにあるカラオケボックスにいたんです。それはカラオケの店員も証言しているはずですよね?」

 押され気味の権田は「ええ、まあ」と頷く。

「だったら、犯人は盗聴器に録音されていた内容から想像して、先生の隠しアシスタントだったんですよ。先生といざこざになったそいつは、衝動的に殺害してしまったんです。ほら、辻褄はあっているでしょう?」

「確かに、少し不自然な点はありますが、一応筋は通っていますね」

 手帳を見ながら、小西が呟いた。

「なら、早く僕を帰して……」

 瀬塚のその言葉は、途中で遮られてしまった。携帯電話をポケットに突っ込んだ青野が、彼の前に歩み出て、笑顔で口を開いたからだ。

「最後に、僕から一つ、質問をしてもよろしいですか?」

 彼のその笑顔は、傍から見ると、無邪気な子供のそれと同じように感じる。しかし、彼と長い間接してきたものには、その笑顔はある種の恐怖を引き起こさせるものでもあった。

 権田は青野の表情を横目に見て、息をぐっと飲みこむ。彼には、青野が何を考えているのかは分からずとも、何をしようとしているのかは理解できる。真実に纏わりついた埃を払いとるための儀式――推理小説ミステリの解決編を始めようとしているのである。

 そんなことを露も知らない瀬塚は、青野の浮かべる笑みに若干引きながらも、

「別に、構わないよ」

と言った。

「ありがとうございます。では早速――」

 そこで少し間を置いたのは、無意識の内だろうか。その少しの瞬間に、瀬塚の心臓がどきりと警鐘を鳴らした。

「トリックに使った盗聴器は、どこに始末したんですか?」

 警鐘は一層強く響き、背筋が凍ったような感覚をおぼえる。

「トリック? 盗聴器? 始末? それってどういう……」

 硬直した瀬塚の代わりに、小西が単語を並べ立てて問いかける。青野は表情を変えずに、さらりと述べた。

「そのまんまの意味です。彼は盗聴器を巧みに利用して、まんまと自らのアリバイを作り上げたんですよ」

「アリバイ……ってことは、まさか彼が……」

 小西は恐る恐る、黙り込んだ瀬塚の方を見て、はっと息をのんだ。獣のような目で地を睨みつけ、口を歪めている瀬塚が、まるで別人に変わってしまったかのような錯覚に陥ったからだ。

 ピンと張りつめた嫌な空気を、青野の鋭い声が切り裂いた。

「ええ、彼こそが、行原華代さん殺しの真犯人ですよ」

 全てを見透かす、濁りのない黒い瞳が、瀬塚近政のことをしっかりと捉えていた。

 一拍遅れて、ようやく現況を飲み込んできた瀬塚が上ずった声で応じる。

「ちょ、ちょっと、何言っているのかな? 僕にはアリバイがあるから、犯行は不可能だったと、たった今話していたばかりじゃないか」

「そのアリバイは、トリックだったんですよ。現場に元から隠されていた盗聴器を利用したね」

「元から隠されていた?」

 権田は青野の言葉を反覆し、怪訝そうに眉を寄せる。青野は頷くと、少し荒らされている本棚へと近寄った。

「ここに盗聴器が置いてあったんですよね」

 そう言って、埃の跡を指差す。

「うん。さっきも言ったようにそこにぽつりと置いてあったみたいなんだ。被害者が倒れこんだはずみで、本棚の奥に押しやられてしまったみたいだけど……」

「じゃあ小西刑事、今パソコンに接続されている盗聴器をこの埃の跡に乗せていただけますか?」

「あ、ああ」

 小西は青野の言うとおりにパソコンから抜くと、それを埃の跡の上に乗せた。そして、「ア!」と声を上げると、目を大きく見開いた。

「ほ、埃の跡より大きい!」

「なんだって!?」

 慌てて駆け寄る権田の背中を睨みながら、自分が犯した失敗に気が付いた瀬塚は、動揺を隠そうと唇を噛んだ。

「つまり、そこに置いてあったのはその盗聴器よりも一回り小さな物だったんですよ」

 埃の跡に見入っている権田と小西に、青野が説明を添加する。

「じゃ、じゃあ、あの録音データは偽装……」

「そういうことになりますね」

 小西の推測を強い言葉で肯定する青野。言葉が重ねられる度に、瀬塚への疑惑が濃くなっていく感覚を、権田と小西は憶える。

「つまり、実際には別の時間に殺害されていた可能性があるってことか。となると……」

 権田は視線を浮つかせている瀬塚の方を見やった。

「瀬塚さん。あなたにはもう少しお話を伺わねばならないかもしれません。もちろん、優紀が言っていた盗聴器の始末の件についても含めてです」

 どのような反応が返ってくるかは分かりかねたが、恐らくこんなことで折れるような人物でないことは権田にも理解できた。案の定、瀬塚はきつくしていた目つきを和らげて、鼻で笑うと、今まで閉じていた口を開いた。

「ハッ。それはお断りさせていただきます。そんな薄っぺらい理由で引止めなんて、勘弁してくださいよ。もしかしたら前の盗聴器が置いてあったところに新しく置いたのかもしれないじゃないですか。それに、いくら青野君が頭の切れる高校生探偵だからと言って、警察がそれを鵜呑みにするのはどういうものなんでしょうかね。僕はそんな盗聴器の事なんて、見たことも聞いたこともありませんよ。さっき初めて知ったばかりです。それとも、なんですか? その盗聴器が偽装されている証拠でもあるんですか?」

 その言葉は、青野に対する挑発であった。証拠などあるまいと高を括った彼の、自信のある反論。絶対に自分の立場が危ういものにはならないという、青野の能力を少々見くびった反論だった。

 しかし、対する彼には既に反論への回答が用意されていたようだ。決して臆することなく、じっと鋭い目で瀬塚のことを見つめていた彼は、事も無げにぼそりとつぶやいた。

「扉の音、ですよ」

「なんだって?」

 青野の言ったことが理解できなかったのか、瀬塚は低く押し殺した声で聞き返す。青野は黙って小西の手から盗聴器を取る。

「小西刑事」

「は、はい!」

 名前を呼ばれて思わずピシッとする様は、まるで律儀な子供のようだった。尤も、年齢が逆転しているのだが。

「音声の方をお願いします」

「わかったよ」

 小西は起動したままのパソコンに盗聴器を接続して、キーボードをカタカタと鳴らした。それから、青野にパソコンごと受け渡す。それを受け取った青野は、タッチパッド(マウスの役目を果たす、ノートパソコンについているアレだ)をすいすいと動かす。そして、ディスプレイから目を離すと、権田達――正確には、必死に何かを考えている瀬塚の方へ向かって微笑んだ。

「さあ、今から間違い探しを始めます。まず、犯行時の音声をお聞きください」

 そう言って、彼は再生ボタンをクリックする。すぐに、つい先ほど聞いた音声が流れてきた。

 一通り聞き終わってから停止ボタンを押し、青野は皆を見回す。

「今の音声の中に不自然な点があります。それはどこでしょう。小西刑事!」

「ええ、僕!? うーんと……さっき青野君が扉の音って言ってたから、たぶんその類の話なんだろうけど……。扉の音なんて特に聞こえはしなかったし……」

 驚いてから、じっくりと考え込む小西。と、しかめっ面になる彼……ではなく、後ろで聞いていた権田が声を上げる。

「ちょっと待て、それって不自然じゃないか? この距離なら扉の音くらい録音されているはずだぞ」

「え、じゃあ、聞こえなかったのは……」

 小西の視線が瀬塚の方へ移動する。瀬塚は慌てて否定する。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。そんなの、たまたま音が入らなかっただけで……」

 ガチャ――ドアノブが捻られ、扉が開け放たれる音が、青野の方から聞こえてきた。小西は、今度は青野の方へ視線を移し、首を傾げる。

「こ、この音は?」

「僕たちが現場に到着した時の音声です。扉の音、してるでしょ?」

 事も無げに答えた青野は、そのまま話し続ける。

「最初ので扉の音が聞こえなかったのは、犯人が加工した音声データだったから。恐らく、元から置いてあった盗聴器に入っていたものでしょう。それを机の上に置いてあるパソコンでも使って加工し、あとからもう一度、別の盗聴器の中に音声を入れれば、あたかもその時間に犯行が行われたと錯覚させることが出来るというわけですよ」

「で、でも!」瀬塚は語尾を強めて反駁する。「どうやって音声を新しい盗聴器の中に入れることが出来たっていうんですか? その偽りの犯行時刻に、僕はカラオケボックスの中にいたんですよ? そんなことが出来るわけないじゃないですか!」

「それも、これを使うことで可能になります」

 青野はポケットから携帯電話を取り出して、見せつけるように、それを顔の前に掲げた。

「携帯電話?」

 小西はまたもや首を傾げる。

「ええ。携帯電話です。この携帯電話を二つ用意しておき、片方に先ほどの音声データを保存して、それを着信音に設定。そして、それを盗聴器の近くに置いておくだけで準備はOKです。あとは、もう片方の携帯電話で遠くから電話をかければ、携帯電話から流れた着信音が盗聴器に録音され、あたかもその時間に犯行が行われたかのように見せかけることが出来るというわけですよ。音声データの最後に余白を作っておけば、うまいタイミングで電話を切ることによって、着信音が繰り返されるときに同じ内容が流れてしまうのを防げますしね」

「なるほど。自分と被害者の携帯電話を使えば、被害者の物をこちらに残しておき、今のトリックを仕掛けて、午後2時頃にカラオケボックスから自分の携帯を使って電話をかけることで、アリバイを成立させられるってわけか」

 権田は得心顔で頷いた。

「で、でも、そんな携帯電話なんてどこにも……」

 掠れた声で返す瀬塚は、顔を硬く強張らせる。青野はふんと鼻から息を漏らして、にやりと口角を上げた。

「そう、その携帯電話です。現場をこんなに探しても未だに見つかっていないということは、既にあなたが持ち去ったということ。そんなことが出来たタイミングは、現場に入って遺体に駆け寄ったあの時だけです。そして、直後僕に呼び止められたためにあなたはその携帯電話を処分し損ねてしまった。だから、まだ持っている筈ですよね? なぜか犯行の瞬間の録音が着信音に設定されている、おかしな携帯電話を……」

「ちょっと失礼します」

 青野の発言を受けて、小西が瀬塚のズボンのポケットをまさぐった。両ポケットの中に一つずつ、スマートフォンが入っていた。

「小西君、鑑識に回してくれ」

「はい」

 小西は、頷いて部屋を出て行った。それから直ぐにまた戻ってくる。

「今調べてくれていますが、片方の携帯電話に不在着信の表示があったので、すぐに結果がわかると思います」

「なるほど。問題の音声が出てくれば、決定的な証拠になってしまうようですな」

「いや」権田の言葉に、瀬塚は大きくかぶりを振る。「出てくるに決まっていますよ。彼のおかげで、早々と始末できる筈だった証拠を、そのまま手元に置いておく羽目になってしまったんですから……」

「じゃあ……」

「ええ、認めますよ、刑事さん。僕が、あの女――行原華代を殺した、真犯人です」

 彼は存外はっきりとした口調で罪を認める。それから、力ない目で青野のことを見る。

「やっぱり、応接室のくだりがまずかったのかな。君はあれで確信したんだよね? 僕が犯人だって」

 しかし、青野はきっぱりと首を横に振ると、

「いえ、あの時点では、まだ確信は持てていませんでした。確信を抱いたのは、行原さんのネタ帳を見た時です」

「はは、まさか」

 ありえないといった表情で青野を笑い飛ばした瀬塚だが、青野の表情が真剣だったのを認めて息をぐっと飲み込む。それから、彼の言葉にじっと耳を傾けた。

「だって、被害者はあなたと12時頃に、次作の予定について話し合いをしていたんでしょう? だったら、その内容がネタ帳に書いてあるはずです。ましてや、行原さんは何かあるとすぐにメモを取る習慣を身につけていたそうじゃないですか。そんな人が、話し合いの内容を全く書かないなんてありえません。しかし、実際にはそこに書いてあったのはつい先日発売された本のプロットが最後です。だから、あなたが警察や僕には言えない何かを隠しているのだと確信したんですよ」

「なるほど……。咄嗟に作った話だったから、襤褸が出ちゃったってわけか。でも、あの盗聴器を見つけて咄嗟に思いついたトリックにしてはよくできていたと自負しているんだけどな」

 瀬塚は、さも残念そうにこぼす。落胆の色が垣間見える顔には、しかし、諦めの表情も浮かべられていた。

「僕の負けだ、青野君。僕のやったことは何でも話すよ。――そうだね、最初の質問は、盗聴器をどこに始末したか……だったかな? あの盗聴器は、怖かったからカラオケ近くのコンビニで捨てたよ。そこなら、たとえ僕に疑いがかかっても見つかることはないと思ったからね」

「行原さんが盗聴器を隠し持っていたってことにはいつ気づいたんですか?」

「ああ、それなら前に応接室であの女が自慢げに見せてくれたんだよ。――これさえあれば、何があっても怖くないだろうってね」

「じゃあ、あの録音の中にあった『私とあなたの立場は分かっているわよね?』というのは『私に何かしようとしても必ずばれるから何もしない方がいいぞ』という脅しだったという事なのか?」

 権田が問いかける。それに、瀬塚は一瞬考えるような素振りを見せてから、即座に答えた。

「そのことも少なからず含まれていたと思いますが、九割方はもっと他のこと……。そう、それこそが僕の動機なんですよ、刑事さん!」

「動機? それはどういう……」

 動機の告白という状況に興奮しているのか、後半に行くにつれて強めな口調になっていく瀬塚。そんな彼に、小西がいい具合に相槌をうつ。と、その声に青野が声を被せてきた。

「今庄雪華の正体は、行原華代ではなく、瀬塚近政であった……ってことですよね?」

「え、なんで?」

 唐突な青野の発言に対応できなかった小西が、思わず親しい感じで聞き返す。

 青野は「何で気づいたのか」と言わんばかりの表情で驚く瀬塚に、「簡単なことですよ」と返すと、言葉を続けた。

「今庄雪華の名字と名前をひっくり返して漢字を変え、さらに“近政”の読み方を訓読みにすれば、瀬塚近政せつかちかまさになるでしょう? あなたは今庄雪華の名前の理由を行原華代の“行”よ“華”からとったと言っていましたが、名字の部分の理由を説明できていないあなたの話よりも、こちらの方がよっぽど信用できると思いません?」

「そ、そうだったのか……!?」

 小西が再び驚きの声をあげる。その彼に、青野は苦笑して、

「まあ、無理はないですよ。明らかな女性名を出されてから、男性と女性を出して、どちらがその人物でしょう、なんて問うたら、普通は女性の方だと認識しちゃいますから。一種の叙述トリックのような物です」

と言う。瀬塚はそれを聞いて深くため息を吐くと、青野のことをじっと見つめた。

「そう、あの女が好き好んで使っていた、叙述トリックさ。全く、あのころはこんなことになるなんて思ってもみなかったからね」

 瀬塚は、ぽつぽつと動機を語りだす。

「僕がデビューして一年ほどたったある日のことだよ。執筆に少し行き詰まりを感じていた僕は、あるネット小説投稿サイトで推理小説を読んでいたんだ。その時たまたま見つけた作品が、素晴らしくよかったんで、つい盗作しちゃったんだよ。いや、迷いはしたさ。そんなことをして、いずれ罰が当たるのではないかとも考えた。でもね、全く評価のされていなかったその小説をずっと眺めていたら、ばれないんじゃないかと思っちゃったんだ。それで……僕は、その作品を盗作した。それが、あの女の書いた作品だったんだよ」

 静かに、淡々と事実を述べていく。ファンであった小西にとってはショッキングな話が続いているためか、彼の顔からはやるせない表情が窺えた。

「僕はその作品を僕の名前で世に出した。すぐにその話はベストセラーになったさ。でも、その直後に全てが崩れ去った。あの女が、僕の本を読んで盗作に気が付いたあの女が、復讐のために僕のことを徹底的に調べ上げて、目の前に姿を現しやがったんだ!

 それからが地獄だったよ。盗作のことをばらされたくなかったら、自分の言いなりになれって言われて、僕はやむなく従った。たとえ偽名だったとしてもだよ、僕は自分の名誉を守りたかった。僕が今まで築き上げてきた地位や名誉を守り抜くには、そうすることは仕方なかったんだ。

 あの女に言われて僕はあいつの作品を僕の作品だと偽って発表した。それが瞬く間に売れたから、あいつはどんどん要求をエスカレートさせて……。そう、今になってようやく気がついたんだ。この女は、既に小説家“今庄雪華”を乗っ取って、自分の物にしてしまったのだとね!

 僕は自分の名誉を守るために、ずっと従って来た。ずっと、あの女に拘束されてきたんだ。だけど、その名誉は既に僕のもとではなくあの女のもとにある。なら、消し去るしかないでしょ!? これ以上あいつに束縛されるなんて、僕のプライドが、絶対に許せなかったんだよ!」

 彼はそこまで息もつかずに言い切ると、自嘲の笑みを浮かべた。

「全く、くだらない物のためにこんな事をして、馬鹿らしいと思うだろう? 僕もそう思うさ。でも、世の中上手く行かないものなんだね。

 今庄雪華という醜い存在を都合よく消し去り、あわよくばもう一度筆を執ろうとまで思ったんだが、それは無理だったみたいだ。こんな単純な叙述トリックで、青野君――いや、一読者を欺こうとしていた時点で、推理ミステリ作家失格だよ……」

 一つの若い蕾が、自らその頭を垂れた。後には、何とも言えない哀愁が漂い続けていた。



  ◇



 それから数日ほど経ったある日の放課後。小説部部室の中に、男子生徒と女子生徒が二人ずつ、計四人の生徒がいた。

「へー、そんな事件があったんだ。ふーん」

 青野が寝そべりながら本を読めるようにと敷いてある茣蓙の上で、正座した青野が俯いている。その前には、顔に影がかかった(ように見える)柚希が立っていた。

「で、その後来なかったのは何でかなー? こっちはずっと待っていたんだよ?」

「いや、事件の後で疲れたから……」

「でも、電話の一本くらいよこしてもいいよね? なのに、こっちを待たせておいて、その上荷物まで持たせてたよね。これって、どういう事かな?」

「それはすまなく思っています。本当に申し訳ありません」

 青野は正座したまま頭を地面につけると、柚希に土下座をする。それを見て舌打ちした彼女は、

「罰金500円ね」

「え、カラオケ代込みで?」

 若干――いや、かなり嬉しそうに顔を上げた彼の視界には、ありありと目視できる負のオーラを纏った柚希がいた。

「お前はアホたれか! きっちりカラオケ代1500円分も貰っておくわ! 合わせて2000円よ!」

「ひゃい!」

 怒鳴られて、声にならない悲鳴を上げる青野。そんな先輩の姿を見た高堂は、

(絶対に木島先輩に逆らわないようにしよう。それからカラオケに誘われた時は適当に言い訳をしてさっさと逃げるようにしよう。行ったらこちらの負けだ……)

と思い、二度と青野のような惨めな姿を晒すまいと心に誓う。

 その高堂の隣から、女子生徒の声が発せられた。

「青野君」

 声に青野は振り返る。その声の主――美月が、妙ににこにことした顔を青野に向けた。

「な、何?」

「ご愁傷様☆」

「……怒っていいかな」

 あまりにふざけた物言いに、青野はあからさまに不機嫌な顔をする。

「だめです。私の怒りが収まってからにしてください。わかりましたね?」

「……はい」

 柚希に言われ、青野は不機嫌な表情のまま、静かに、そして無抵抗に俯いた。

 それから部室の灯りが消えたのは、二時間も後のことである。その間に何があったのかは、読者の皆様に語るまでもあるまい。

シリーズ初!? 1話限りの短編作品!

そしてちょっとだけあの人も出てきます!


CASE12 7月14日のとある1コマ

FILE.45 ある夏の日の推理



Next hint

・チョコレート



更新遅れてすみません。次は日曜更新です(マジで)。

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