表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵青野優紀の事件簿  作者: 南後りむ
CASE6 HAPPY BIRTHDAY
23/62

FILE.22 サプライズ・プレゼント

*登場人物紹介*

・鳥杭一葉(とりくい‐かずは)

27歳。最近人気に火が付いた若手漫画家。自室で首を吊った状態で発見される。

・鳥杭双葉(とりくい‐ふたば)

27歳。一葉に瓜二つな、双子の妹。

・長編宗喜(ながあみ‐しゅうき)

29歳。推理作家。

・鯉賀窪人(こいが‐くぼと)

30歳。一葉の恋人。

・牧ほのか(まき‐ほのか)

25歳。一葉のアシスタント。

「かずはーーっ!」

鯉賀の声が部屋の中に響く。彼は、天井からぶら下がっている一葉の体ににすがり付いた。

「動くな! 触っちゃだめだ!」

青野の声もまた、静かな室内に反響した。彼は鯉賀を押しのけ、一葉のもとへと向かう。近づいてから、少し彼女の体を見て、視線を落とした。

「だめです」そう言って青野は首を振った。「遺体の硬直具合から見て、少なくとも死後十時間は経っているでしょう」

「そんな……」

青野の言葉に、双葉が顔を伏せる。

「私が、私がここにいる間にお姉ちゃんは亡くなっていたなんて……」

彼女は、両手で顔を覆って泣き始めた。青野は少しの間、黙って彼女を見ていたが、やがて遺体の方へと目を遣った。

「うん? これは……」

彼は遺体の下に置いてあった白い封筒に手をかける。

「ねえ、青野君、それって……」

美月が少し踏み出して彼に尋ねる。青野は、静かに、しかしじっくりとその封筒を見つめながら、口を開いた。

「遺書、って書いてある」

「ということは……」

側にいた鯉賀が、絶望の色が浮かぶ顔をあげた。

「と、鳥杭先生は……」

口をおさえながら牧が目を見開く。彼女は、その先の言葉を声に出すことができない。

「自殺、ってことなのか?」

長編が、震える口調で問いかけるように言った。

「そう、なりますね。今のところは」

青野の声が乾いた室内にぴんと張りつめた。



  ◇



鑑識たちに警察手帳を見せながら、小西はため息を吐いた。

「亡くなった鳥杭一葉とりくいかずはさんは最近有名になった漫画家だそうですね。僕も何冊か読んだことがあるんですが、どれもなかなかいい作品でしたよ。惜しいものです」

「君の話はいいんだ。それより事件の方の話をしてくれないか?」

上司である権田に言われて彼は首をすくめた。

「まあ、事件ってもんじゃないと思うんですがねえ。まあ、一通り集まった情報をお話ししましょうか」

「頼む」

権田は首を縦に振った。

「死亡推定時刻は昨日5月16日の23時から今日5月17日の1時までの間、死因は天井から首を吊ったことによる窒息死。遺体には抵抗の跡がなく、遺書もあることから、自殺とみてまず間違いはないでしょう」

「その遺書にはどんなことが書いてあるんだ?」

「はい。写真を撮っておいたので、今読み上げますね。

『遺書

私は、これから自らの命を絶ちます。というのも、私は今困難な課題を抱えており、とても自分一人で解決できそうになく、追い詰められているからです。

自分が書く漫画が売れているのはいいのですが、今後の見通しが全くたっておりません。編集者の方からくる催促もうるさいです。

恋人との間も、段々と溝が深くなっているように思います。何もかもうまく行かないので、私はこの命を絶つことで、全てを収めたいと思います。今まで私を応援してくれた皆さん、本当にありがとうございました。私の勝手をお許しください。

鳥杭一葉』

だそうです。そこまで追い詰められていたなんて、漫画家も大変ですよね……」

小西が一人で泣く真似をしていると、彼の背後からふいに声が発せられた。

「なんか、変じゃないですか?」

「え? 君はいったい……あ! 青野君!?」

「お久しぶりですね、小西刑事」

「久しぶりって、この前会ったのはつい十日ほど前じゃないか」

「まあ、そうですね」権田に的確な指摘をされた青野だが、あまり気にしない様子で小西の持っている写真を覗きこんだ。

「それにしても、ふつうこんなことで死にますかねえ。確かに一葉さんは苦しい生活を送っていたそうですが」

「それは、誰に聞いたんだい?」

「彼女の妹――と言っても双子ですが――の双葉さんですよ。先ほど話してくれたんです。それはそうと小西さん、遺書の筆跡鑑定はもう済んでいますか?」

「いや、まだだよ。今鑑識に回しているところだ」

「そうですか……。遺書が偽装されている可能性も無きにしも非ずですからね」

青野はそこまで言うと、部屋の中をぐるりと見回した。

「さっき我々が来る前に十分見ただろうに、まだ現場を見飽きないのか?」

「先ほどはそんなことができる空気ではなかったので」

青野は言いながら倒れている椅子に目をとめた。

「この椅子を蹴って吊ったんでしょうかね」

「まあ、そうだろうね」

小西が青野に向かって頷いた。

「ほおほお。それで、この照明のところを使って吊ったという訳ですな。なるほどね」

彼は偉そうに部屋を闊歩すると、満足そうにうなずいて部屋を出て行った。小西が追って行こうとしたが、権田に「いい」と言われて現場に残ることになった。



  ◇



「ええっと、それでは、みなさんの聴取の方を行っていきますね。まずは全体に確認します」

小西はいつもの手帳を出してすらすらと述べた。

「まずは、鳥杭一葉さんの遺体が発見された時の状況ですが……」

「最初に見つけたのは私です。といっても、他の皆さんよりほんの少し早く見ただけですが」

双葉が暗い顔をしながら答える。

「牧さんがうちに来られたので、お姉ちゃんを呼びに、部屋の扉を叩いたのですが、返事がなくて、それで、ドアを開けたら、中でお姉ちゃんが……ううっ!」

彼女は最後の言葉を詰まらせた。

「そのあと、俺が何があったのかと思って近づいてみたら、一葉が首を吊っててよ、思わず腰を抜かしちまったんだが……」

鯉賀が苦虫を噛み潰したような顔をして双葉に続けた。

「それで、一葉に触れようとしたら、そこの少年に止められたんだ」

「なるほど。あなたは鯉賀窪人こいがくぼとさんですよね?」

「ああ」小西の確認に鯉賀は頷いた。

「で、鳥杭双葉とりくいふたばさんがドアの前で立ちすくんでいた――でいいんですか?――ため、あなたは現場に足を踏み入れた。あっていますよね?」

「ああ。その通りだ」

「ちなみに、遺体に触れたのは……」

「僕だけですよ。さすがに助からないとは思いましたが、一応脈をとるためにね」

青野の言葉に権田がため息をついた。

「全く、勝手に触れるなと言っているのに……」

彼らのやり取りの間に、小西は手帳のページを捲って次の質問に移ろうとしていた。

「では、念のため、鳥杭一葉さんの死亡推定時刻にあなた方が何をしていたかについてお尋ねしますね」

場にいた全員が頷いた。

「で、亡くなったと思われている時間が昨日の23時から今日の1時の間なのですが……」

「え?」小西が言いかけたところを、鯉賀がいきなり遮った。

「23時から1時までの間、それってほんとなのか!?」

「ええ、まあ」

彼の剣幕に押され、小西は少し頬を引きつらせて頷いた。

「そんなのありえない! だって、おれは、おれは……その時間、一葉とずっと一緒にいたんだから!」

「なんだって?」

小西と権田は身を乗り出す。青野はそれを見て、ふんと鼻を鳴らした。

「それは、何時から何時の間だ?」

小西より早く権田が質問をした。

「昨日の20時から今朝の7時までだよ。ずっと二人きりで俺の家にいた。嘘なんかじゃないぜ」

「そう、ですか……」小西はそう言いながら権田の方をちらと見たが、彼も相当考え込んでいるようだった。

「もしかしたら、双葉さんが一葉さんとすり替わって鯉賀君に会っていたんじゃないのか? あ、あくまでも仮説だけど。そんなことをする必要性が感じられないしね」

長編が刑事二人に言う。

「そんなわけねーだろ! あれは絶対一葉だ!」

「あ、あの」大きな声で否定する鯉賀の脇で、牧が手を挙げた。

「それなんですけど、私、昨日の19時までここで作業をしていたんですが、その時は一葉さんと双葉さんの二人がちゃんといました。それから、私は双葉さんと夕食にイタリア料理店にいきました。そのまま店の閉店までずっと一緒にいましたので、長編さんが仰っていることは違うのではないかと」

「ちなみに、それはここからどれくらいのところにある店で、店が閉まるのは何時でしょうか」

今まで黙っていた青野が彼女に問いかけた。

「ここから歩いて30分のところにあるお店で、閉店時刻は23時です」

「なるほどね」彼は牧の返答を聞くと、右手を鼻の頭に当てて考え事を始めた。

その後、しばらくの間沈黙が続いたが、それを権田が咳払いをして破った。

「オホン、取りあえず、今回、単純な自殺だと思われていた事件ですが、殺人の可能性が浮上してきましたので、もう一度捜査にあたりたいと思います。それでですが、みなさんのアリバイを教えていただけますか?」

「俺は、さっき言った通り、ずっと一葉といた。これはほんとのことだ。信じてくれ」

鯉賀は皆に訴えかけるように話した。その彼に、何とも言い難い視線が集まっている。

「私は、先ほど言ったように、23時まで双葉さんと一緒にいてそれから家に帰りました。そこからのアリバイはありません」

牧は最後の部分をはっきりとした声で言った。

「私は、牧さんと別れた後はその足で駅前のバーに行きました。家に帰ったのは3時過ぎだったと思います」

牧に続いて双葉もアリバイについて話した。

「僕は、その時間は家でぐっすりと寝ていましたよ。だから、アリバイはありません」

長編は言いながら目をこする。

「なるほど。それで、高校生の君たちは?」

小西は全員の話したことを驚くほどのスピードで書き写した後、青野と美月の方を向いた。

「家で爆睡ですよ。そんな夜遅くまで起きてたら頭が痛くなる。てか、僕は今日の朝美月に誘われたんだから、殺せるわけないでしょう」

青野は面倒臭そうに彼の問いに答えた。

「私も寝ていましたよ。証明――は難しいですけど」

「ははあ。わかりました。それで……」

彼が言いかけた時、彼の携帯電話から着信を知らせる音楽が鳴った。

「おっと失礼。うん、僕だ。うん、うん、え? 遺書が彼女の筆跡と一致した? ああ、わかった。報告ありがとう」

小西は手短に通話を終わらせると、皆の方を振り返った。

「ええっと……。事件の謎が一つ増えました。現場に置いてあった遺書の筆跡が、亡くなった一葉さんのものと完全に一致したそうです」

「つまり、どうやって犯人はその遺書を用意したか、ってことだね」

長編がすぐに応える。

「ええ、そうです」小西も短く頷いた。

「この事件の謎は、どうやって犯人は鳥杭一葉さんを殺害したのか、そして、どうやって犯人は彼女の筆跡の遺書を用意したのか。まさか双子でも、筆跡まで同じわけないですからねぇ」

彼は手帳を見返しながら発言した。

「とりあえず、今日は我々が事件について調べますので、後日、また聴取をお願いします。それで、みなさんのお宅と電話番号の方なんですが……」

権田が丁寧な口調で言うと、長編が真っ先に口を開いた。

「私は、ここからあるいて十分ほどのところで、住所は川宿区本町2-2-105です。電話の方は、携帯電話をいつも持ち歩いていますのでこちらの番号を」

そう言いながら、彼は携帯の電話帳画面を開いて権田に見せた。

「わ、私はここから電車に乗って三駅のところにある和宮駅の近くにあるマンションに住んでいます。電話番号は……自宅の方でよろしいですか?」

「ええ、もちろん」

権田が頷くと、牧は手帳に番号を書きとめると、そのページを破って彼に渡した。

「お、おれはこの家の前の通りを公園の方に向かって進んだところにある、小さな家に住んでいる。住所は……川宿区川宿五丁目32-9だ。電話番号は、これだ」

彼は長編と同じように携帯電話を差し出した。

「はい、ありがとうございます。では、後日お電話をいたしますので、その時はよろしくお願いいたします」

刑事たち(と双葉)に見送られた彼らは、それぞれの家路へとついた。

青野と美月は黙って歩いていたが、ふいに美月が口を開いた。

「青野君、なんか今日はごめんね。こんなはずじゃなかったんだけど……」

「いや、そのことはわかっているからいいんだけど」

「それで、私のおごりでいいから、駅前の喫茶店にでも行かない?」

美月は自分で話しながら、なんかナンパみたいだな、と思って恥ずかしくなった。

「別にいいんだけど……」

「青野君、どうしたの?」

彼女は不思議そうに、そして心配そうに彼の顔を見つめる。

「いや、さっきから少し考え事をしていたんだけど……。やっぱり、行った方がいいのかな」

「行くってどこに?」

「いや、大したことじゃないんだけど……。そうだ、美月、先に喫茶店に行っててくれないか? すぐにそっち行くからさ。場所は携帯に連絡いれておいて」

「え、いいけど……」

美月がそう言いかけると、青野は「ありがとう」と言って今来た道を早足で引き返していった。彼女は、一人、ポツンと一人残された。その目には、もの悲しい色が浮かんでいた。

一方の青野は、暗くなった夜道を歩いていた。街灯の光が明るく彼を照らす。彼の影は、そのおかげで細長く伸びていた。彼は、その影の先をぼうっとした目で見つめながら、静かに――誰にも聞こえないような声で、ぼそりと呟いた。

「謎は、すべて解けた」

次回

誕生日シリーズ解決編

FILE.23 最後の贈り物



Next hint

・遺書



*謎解き*

今回の謎ときは、トリックが分かれば全てするすると解けていきます。この事件で謎とされているのが、作中で小西が話していた二点となります。お時間がありましたら、ぜひ、解いてみてくださいね。


犯人はどうやって一葉の筆跡と完全に一致する遺書を用意したのか?




一葉の奇妙なアリバイのトリックは何か?




ズバリ、犯人は誰であるか?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ