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探偵青野優紀の事件簿  作者: 南後りむ
CASE4 小南学園文化祭事件
15/62

FILE.14 アリバイは皆完璧です

事件関係者

・新部海(しんべ‐かい)

小南学園の高校一年生。科学部兼新聞委員会。青野にある事件の調査を依頼。16歳。

・管家賢司(すがや‐けんじ)

小南学園の高校一年生。科学部部員。15歳。

・有胡蘭(ゆうこ‐らん)

小南学園の高校一年生。科学部部員。15歳。

・斜里漣(しゃり‐れん)

小南学園の高校一年生。科学部部員。16歳。

第二の事件の被害者。科学部の実験ショーの間に屋上から突き落とされる。

・遠山史朗(とおやま‐しろう)

小南学園の高校一年生。科学部部員。15歳。

第一の被害者。科学部の部室の中で刺殺されているのが見つかる。

・富良野純子(ふらの‐すみこ)

小南学園の高校二年生。科学部部員。16歳。

・加賀公康(かが‐きみやす)

小南学園の高校二年生。科学部部長。17歳。



・瓶木柊(かめき‐しゅう)

同級生を次々と殺している連続殺人犯。今回の事件に何か関係があるようだが……。

青野は被害者の左手を取った。

「手が塩酸で溶かされている」

権田は目を見開いた。

「となると、犯人は……」

「ええ。第一の遠山史朗殺害と同じ人物になりそうですねえ」

青野は、口元を引き締めた。

「被害者が一日に二人もでています。これは尋常ではありません。容疑者の科学部の面々をすぐに集めてください」

「ああ、言われなくてもそうする」

権田はぶっきらぼうに答えた。

「あのう……。私は、ここに残った方がいいですか?」

そんな彼らをまじまじと見つめながら、先ほどまでショーで実演していた有胡が尋ねた。

「あ、ああ。まあ、あなたのアリバイは多くの人が証明しているから大丈夫だとは思いますが」

権田の回答に有胡は安堵の息を漏らした。



  ◇



「はあ、一日に二人も部員を失うなんて……」

加賀が顔をゆがめる。

「部長はまだいいですよ。あの二人と結構接点があった僕の方が心が痛い」

管家は目線を地面に落とした。

「そして、警察の人たちと……そこにいる男の子は私たちを疑っているってことね」

富良野が青野たちを見た。その視線には、何もかも見透かしているというような色がとって見れた。

「おいおいまじかよ!」

加賀が声を荒げた。

「いや、一応同じ部活の方々に話を聞こうと思っただけで……」

小西が苦い笑いを浮かべながら言い訳をする。だが、その言い訳も怒りの沸点に達している加賀にはあまり効果はなさなかったようで、

「は?こっちは大切な部員を二人も失って心に傷を負ってるって言ってんのにまだそんなことをするのかよ!」

「まあまあ」

管家がなだめる。

「要するに、僕らのアリバイを証明してほしいんだろ?」

「そうか」

加賀も後輩に諌められてようやく落ち着いた。

「俺ならアリバイはあるぞ。科学室で接客をしていた。有胡が実演でいなかったし、斜里もどこか行ってたからな」

「なるほど」

小西は手帳に書き込む。今日中に手帳がいっぱいになりそうな勢いである。

「俺は、斜里といったん別れてから、講堂の入口で彼を待っていました」

管家は静かに言う。

「それを証明するものはありますかね?」

「さあ……。あ、まてよ、講堂の入り口になら防犯カメラがあるはずです」

「そうですか。警部、調べてきていただけませんか?」

本当なら彼が行くべきなのだが、警部は割とすんなり承諾した。

「それから、有胡さんは?」

「彼女なら」

青野が口をはさむ。

「ステージで実演をしていました。僕が証明します。それから、新部については警部とずっと一緒にいましたので間違いはありません」

「う、うん」

小西は忙しく筆を走らせた。

「で、では、富良野さんはどうですか?」

「私は、クラスの企画の方にいたわ。同級生が証明してくれる」

「わかりました」

小西は手帳を閉じた。

「では、後程皆さんには詳しいお話を伺うかもしれません。それまでは……科学室にいてください」

「……わかったよ。いればいいんだろ。どうせ管家と富良野、そして新部は次がシフトだからな。俺も手伝う」

管家は頭を下げ、

「早く解決するといいですね」

と言って青野の方を見た。

一方の青野は携帯電話を操作していた。先ほどと同じく、証言を録音していた。

それから、耳にイヤホンをつけ、なにやら聞いているようだった。



  ◇



「警部、襲われたのはおそらくここでしょう」

検視官の日野はすぐ下を指差した。掠れた血がうっすら見える。

「ああ。そうみたいだな」

権田は肯いてから青野をみた。彼は屋上の床を一心不乱に見つめている。

「どうしたんだ?」

権田は少し不思議そうに見る。

「それなら」と日野が口をはさんだ。

「ガラスじゃないですかね。散乱しています」

青野はこくりと頷き、

「かなりいろいろな器具があるようです。これがビーカー、こっちが試験管、それにこれはおそらく三角フラスコ、こっちは集気びんでしょうか」

それから、と青野は向き直り、

「ここに落ちてる赤い紙と黒い紙が気になりますね。普通の画用紙のようですが、筒状に巻いてテープで留めてあります」

「あ、そうそう。それならおんなじようなやつが被害者のカバンの中に入っていたよ。青に緑、黄色」

「そうですか……。ならただ単にこぼれ落ちたみたいですけど……」

青野は日野の答えにあまりいい反応を示さなかった。

「まあ、気になるのも無理はないよ。カバンの中にはほかのガラス器具も入っていたからね」

日野はそう言ってから、「そうそう、」と手をたたき、

「気になるところというと、柵に妙な血痕が付いていたよ。外側だったから、なかなか見つからなかったけど」

「血痕?」

青野の顔が険しくなった。

「それからさ、被害者の下敷きになって長い糸があったね」

「糸、だって?」

青野は顎に手を当てて眉間を寄せた。

「あのう……」

その時、屋上の入り口で聞き覚えのある声がした。



  ◇



俺は小南学園の校舎の陰に身を潜ましていた。

ここに来てからかれこれ1時間になる。

さっきまで静かだったのに、急に騒がしくなってきた。

「ったく、また警察が騒がしくなってきやがった。いったいどうしたっていうんだよ!やっぱり俺に感ずいたのか!?」

俺の額から汗が流れた。

「慌てない、慌てない。大丈夫だ。そんなわけない」

俺は自分を落ち着けるために繰り返した。額の汗が涼しく感じる。

時計を確認して、頷いた。

「もうすぐ1時か」

警察がうろついていると、下手なことはできない。早めに身を隠すか。

俺は科学室の裏へとまわった。

途中で恰幅のいい警察の野郎と同い年くらいの少年を見た。俺は焦ったが、やつらはそれどころではないらしく、こちらに気が付く気配は微塵もなかった。

科学室の裏は毎度毎度の取引場所だ。ここで“あいつら”と取引をしている。これで三度目になるだろうか。

前に来た時より雑草が増えた。これならなかなか人目につかなくていいな、そう考えると俺の口元に満足の笑みが浮かんだ。



少し時間をつぶしていると、人の気配がした。

だが、その人物を見て俺は思わず声を上げる。

「おい、なんなんだ?“あいつら”はどうした?“あいつら”はどうしたんだ!?」

相手は目線を下げた。俺の問いには答えない。その目には、何か異様なものを感じとることができた。

俺は2、3歩後ずさった。逃げる準備はできている。もちろん、いざという時のためだ。

「まさか……お前が……」

俺は何か気味の悪いものを察してそう言いかけた時、目の前の“人物”はさっと隠していた手をこちらに向け、突撃してきた。俺には、それをよける時間も残されていなかった。



それはほんの一瞬の出来事であった。

その“人物”は一瞬のうちに“邪魔者”始末してしまった。

それからしばらくその場に佇んだ後、深く息をついてから、忌まわしい現場から立ち去った。

現場には自分の痕跡なんて何も残っていない。これこそ「立つ鳥跡を濁さず」である。

ここから自分の痕跡なんてでてこない。あの探偵にもばれることはない。

その“人物”はほくそ笑んだ。その眼差しには、先ほどまでの殺気はひとかけらもなかった。



  ◇



「相談?」

青野は立ち上がった。

「ええ。そうなんです。こちらにいると新部から聞いたので」

彼――管家――はとても言いにくそうにこちらを見た。

「なんだい?その相談ってのは」

「そのお……あの、」

彼はためらっているようであった。

だが、意を決したようにこちらを見ると、口を開いた。

「守ってほしいんです。僕のことを」

「何か心当たりがあるんですか?」

青野は怪訝そうにきいた。

「実は……その、まあ、言いたくないんですけど……」

彼は下を向いたが、すぐに目を上げた。その目には、決意の色が見えた。

「売っていたんです。あいつらとその……」

「塩酸その他危険薬品ですね」

青野が察して言った。彼の目には、軽蔑というか、そんな色が映っていた。そのことは、管家にもすぐに分かった。

「馬鹿にしてください。僕が馬鹿だったんです。あいつらに無理矢理やらされて。一年の中で水溶液について詳しいの、僕だけだから。僕が気が弱そうだから、そんな理由で、売って私腹を肥やしていたんです」

「そういうことですか。では、あなたの身柄は警察に保護していただくのがよろしいですね」

青野は皮肉交じりにそう言った。

「それが……実は僕が売っていた相手は、その、瓶木柊って言うんです」

「なんだって!?」

青野は椅子を蹴って立ち上がった。それはついさっき権田から聞いた人物の名であった。

「さらに、彼から呼び出されたんです。13時に科学室の裏で会おう、って」

「それは……まずいな」

青野は表情を曇らせた。新部から依頼された科学部コソ泥事件は解決したものの、新たな、それも面倒な問題が持ち込まれてしまったからだ。

「とにかく、時間が過ぎている。早くいくのが吉だろう?」

「ですから、あの、一緒に来ていただきたいんです」

「はあぁ」

青野はため息をついた。だが、今さら嫌だともいえない。

「仕方がない。行こう」

「ありがとうございます!」

管家は頭を下げた。

青野はゆっくりと歩き出した。

管家は青野の後ろに隠れるようにして続いている。

「なあ、それについての話を聞いてもいいか」

「それって……」

「ああ、なんで瓶木とあったのかってこと」

「それは……」

管家は言いかける。

「知りません。何せ僕は遠山たちに言われるままにしていたので」

「ふーん」

要は、腰巾着ということか。青野はそんな人聞きの悪いことを考えながら歩いていた。

「科学室の裏って、どこからいくのかな?」

青野は続いて尋ねた。

「喫煙室の裏を通るんです」

「喫煙室なんてあるんだ」

「ええ。煙草を吸う先生が少なからずいるんでね」

「ふーん」

やがて、彼らは、喫煙室の裏をすり抜けた。

「ええっと、そこか……」

青野はそう言いかけたが、最後の言葉が出なかった。

「あれ……」

管家もそれを見て声を失った。指差しているようだが、人差し指が震えている。

そんな管家を横目に、青野は咄嗟に走り出していた。

「これは……」

青野は1メートルほどにまで伸びている雑草をかき分け、そこまでたどり着いた。

そこには、同い年くらいの男が横たわっていた。だが、すでに息絶えているようで、腹部から滴る血が当たりの雑草を赤く染めていた。

「管家、といったよな」

青野は後ろで立ちつくす管家に鋭く声をかけた。

「早く警察を呼んでくれ」

「わ、わかりました!」

管家は慌てて走り出した。

それから、青野は被害者をまじまじと見つめた。

見たことのない顔だ。科学部の人ではない。

そう言いながらも、青野はその人物がなんなのかを、だいたい予想していたようだった。

――瓶木柊―――その名の連続殺人犯を彼は権田から聞いていた。その時のやり取りを思い出してみる。


  *


青野は電話を切り終わった後で、権田に向き直った。

「で、なんなんですか?その“心当たり”ってのは」

「ああ。実はな、今警視庁を騒がしている連続殺人鬼ってのがいるんだ。ニュースでも高校生なのに実名入りで報道されている。しらないか?」

「僕、テレビとかあんま見ないんで」

青野はしれっとそう言った。

「まあ、そいつの名前は『瓶木柊』というんだな」

「で、その殺人鬼がなんかあるんですか?」

「ああ。実は、今回の事件がな、その事件の手口と一致しているんだ」

「ほう、つまり」

「「塩酸がかけられていた」」

青野と権田の声がかぶる。

「なあ、それで、今そいつは行方不明なんだよ」

「でしょうね」

「だから、俺は第一にそいつを疑ってみようかと思う。どうだ?」

それに対する青野の答えはあまり芳しいものではなかった。

「それでいいんじゃないですか」

「まあ、あくまで一説だ。もしかしたらコピーキャット、ニュースを見たやつが興味本位でやった模倣犯かもしれん」

「興味本位で人なんか殺されたら、たまったもんじゃないですがね」

青野は少し不気味にほほ笑んだ。

「まあ、そうだな」

権田も真面目くさって応えた。


  *


「そうだ、手」

青野はそうつぶやいて被害者の両手に目をやる。

やはり塩酸で溶かされていた。

青野は内心悔しかった。最初から自分がいながら三つの殺人を何一つ防げなかったことに。

普段、不満以外の感情をあまり表に出さない彼であるが、やはり悔しさは顔に出ていた。

そして、瓶木が殺害されることによって、今まで彼を重要人物と睨んでいた警察の捜査はまた振り出しに戻ってしまうことになった。まさに、犯人に“してやられた”というべきであろう。

青野は容疑者の人たちを思い出してみる。今のままの推理だと、あの中に犯人がいるはずである。

あの中に、2時間で3人も殺した人物がいるのか。大それたことを、そう思いながらも、彼は手を固く握りしめざるを得なかった。

次回

推理編に入って行きます。

FILE.15 木を隠すなら



Next hint

・携帯電話

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