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探偵青野優紀の事件簿  作者: 南後りむ
CASE4 小南学園文化祭事件
14/62

FILE.13 手品みたいな実験

事件関係者

・新部海(しんべ‐かい)

小南学園の高校一年生。科学部兼新聞委員会。青野にある事件の調査を依頼。16歳。

・管家賢司(すがや‐けんじ)

小南学園の高校一年生。科学部部員。15歳。

・有胡蘭(ゆうこ‐らん)

小南学園の高校一年生。科学部部員。15歳。

・斜里漣(しゃり‐れん)

小南学園の高校一年生。科学部部員。16歳。

・遠山史朗(とおやま‐しろう)

小南学園の高校一年生。科学部部員。15歳。

第一の被害者。科学部の部室の中で刺殺されているのが見つかる。

・富良野純子(ふらの‐すみこ)

小南学園の高校二年生。科学部部員。16歳。

・加賀公康(かが‐きみやす)

小南学園の高校二年生。科学部部長。17歳。



・瓶木柊(かめき‐しゅう)

同級生を次々と殺している連続殺人犯。今回の事件に何か関係があるようだが……。

「続行、だってさ」

新部がぼやく。主語が省かれていて意味が分からないが、小南祭が続行する、ということである。

つい先ほどアナウンスでこの旨が伝えられた。

科学部の皆は科学室での実演を再開した。もうすぐステージでの実験ショーが始まるという。

そんな部員たちを尻目に青野は一人で頭を抱えている。

そんな青野のもとへ解説を終えてきた斜里が寄ってきた。

「おいおい、青野って言ったっけ?ここ、結構人目につくから外に行っててくれないか?こっちも迷惑なんだよ」

「あ、すみません」

彼は妙に丁寧な言い回しで頭を下げた。

「ったく……」

腰に両手をあてて青野を見送ってから、展示の方へと戻ろうとした、その時。

斜里の携帯電話が鳴った。

「は?なんだよ。こんな時にメールなんて……」

そう言いながら携帯を取り出し、メールを確認する。

彼は文面と差出人を見た瞬間、顔から血の気が引いて行った。

ぶんぶんと頭を振って必死にそれを否定するような素振りを見せながら、有胡の方へ駆けて行った。

「なあ、ちょっと抜けてもいいか?」

「え?いきなりどうしたのよ」

「いいから頼む!すぐ戻ってくるからさ!」

「すぐなら……いいわよ」

有胡はやや渋い顔をした。

斜里は礼もいわずに科学室を出て行った。

「これがあいつにも送られている、ってことは、あいつも今頃慌てているはず」

廊下を走りながら、彼は一人でぼそぼそとつぶやいていた。

「斜里!」

その声に彼はほっとしたような表情をする。

「お前も送られてきたんだな、管家」

「ああ」

声の主は管家だった。

「おい、どうすんだよ!」

斜里は慌てたように管家に縋り付く。

「どうするって、渡すしかないだろう。やつ、この学校に来ているみたいだし」

「ああ、なんでこんなことになっちまったんだよ!」

「しょうがないだろ。やつも警察がいるってことに気が付いているはずだから、そう下手なまねはできまい」

「だけどよお」

斜里は両目に涙を浮かべる。

「遠山の死に方見たか?あいつの手口とかぶってるんだぜ?もしかしたら出会いがしらに俺たちも殺すかもしれない!」

「考えられないこともないな」

「おい、どうすんだよ!」

「まあまあ、焦るな。俺だってこえーよ。でも、こっちでじたばたしてたら向こうの思うつぼだぞ」

「それは、そうだけど……」

斜里の目には恐怖の色が濃く映っていた。



  ◇



「やっぱり変なんだよな……」

青野が歩きながらつぶやく。

隣には新部と権田警部が歩いていた。

「密室のことか?」

権田が尋ねる。

「それもですけど……斜里さんにだけ明確なアリバイがあるってところがなんかこう、引っかかるんですよね」

「そういえば小西がそんなことを言っとったな。あれから科学部の展示を見学していた小学生が証言したらしい」

「なんか妙だと思いませんかねえ」

「そういうお前の言い草だと、その斜里ってやつが犯人みたいじゃないか」

権田が眉をしかめた。

「でも斜里のやつ、無駄に青野にはむかってたよなあ」

新部が前のやり取りを回顧しながら言った。

「うん。何か裏があるような気がするんだよな」

青野も同調した。

「それはそうと、密室の方はどうなんだ?」

権田が論点を逸らした。

「それもなんか引っかかりますね」

青野は小首を傾けた。

「俺、なんかわかったような気がするぜ」

新部が右手の人差し指を立ててにんまりと笑った。

青野と権田は興味深々といった様に新部に視線を集める。

新部はその視線を受け少し反り返ってから、

「たしか現場の窓があいてたよな」

確かめるように問った。

「そうだな」

青野は肯く。

「もしかして、犯人はさ、窓から鍵を投げ入れたんじゃね?そうすれば密室は完成するよ」

青野は首を横に振って、

「そんな目立つことするかよ」

とあっさり否定した。

新部も「そうだよなあ」と言ってあっさり認めてしまった。

「それに、鍵はいくらストラップが付いているとはいえ、かなり軽いぞ。中に投げ入れるのは難しい」

新部は腕を組んで考えると、パチンと指を鳴らした。

「それならさ、鉄球に鍵を付けたんだよ。だから現場に鉄球が散らばっていたんだ」

「どうやって鉄球につけるんだい?現場に落ちていた鍵には粘着物はついていなかったが。それにもし鉄球につけたとしたら、どうやって外すんだ?鍵は鉄球についてなんかいなかったぞ」

「うーん」

新部は眉を寄せて難しい顔をした。

「まあ、鉄球を隠すなら鉄球の中、っていう考えはあながち間違いではないかもな」

青野はそんな新部を元気づけるように頷いて見せた。

「だろ!」

新部は少し嬉しそうに首を縦に振った。

「あとは、あの“物音”だな」

「どうしてだ?」

権田が青野に問う。

「だって、あれ、何か固いものが扉にぶつかった音ですよ?固いもの――そう、例えれば鉄球みたいな」

「また“鉄球”か」

権田が苦笑する。

「それなら、鉄球を道から投げればいいんじゃないか?」

新部は“投げる”という考えをまだ捨てたくないらしく、またそちらに持ち込んだ。

「でも、道幅は隣の校舎のせいで多く見積もっても4メートルくらいだな。投げるのはちと無理がある。それに、かなりコントロールが良くないと仮に投げられたとしても扉には届かない」

青野の指摘に新部は肩を落とす。

「それに、犯人は何かの目的であの大きな音を鳴らしたと考えられるんだ。そう、大きな音でないと隣までは届かず全く意味をなさない。果たしてそんな強さで下から投げ入れることができるのかねえ」

「そうだよな……」

権田は新部にまあまあ、と言って慰めた。

「お、あれ、科学部のショーじゃないのか?」

青野がふと前を向くと、見覚えのある顔の人がグラウンドに作られた野外ステージの上に立っていた

「ほんとだ。あそこに立ってるのは有胡だ。科学部の実演は12時30分から30分間だから、ちょうど始まったばっかりだな」

新部は腕時計を見ながらつぶやいた。


「はーい!小南祭にいらしたみなさん、こんにちは!私はこの小南学園の科学部、有胡蘭です!」

有胡ははきはきとした声でステージの上から呼びかけた。

「これから30分間、科学部が楽しい実験ショーをみなさんにお送りしていきたいと思います!」


「楽しそうだな、ちょっと見に行くか」

権田が積極的に行こうとしている。彼曰く、「昔は俺も科学が大好きだったんだ」とのこと。

「あんた職務中じゃないのかよ」

青野はあきれ顔で彼を見た。


「では最初に、水とグラスを使った面白い実験をお見せしましょう!」

有胡はそういって大きなペットボトルとワイングラス3つを取り出した。

「この水、特に何の変哲もありませんね?」

彼女はペットボトルを掲げて観客に見えるようにした。

観客はうんうんと頷いている。

「では、この水をグラスの中に注いでいきたいと思います!」

そう言いながら水をグラスに注ぐと、みるみるうちに色が付いた。3つのワイングラスはそれぞれ赤、青、緑の3色になった。

「おおーーー」

観客から歓声が上がる。

「でも、これだけではつまらないですね。そこで」

有胡はペットボトルをもう一つだした。

「こちらもなんの変哲もありません」

また大きく掲げてみせる。

「では、こちらを色のついた水に注ぎたいと思いまーす!」

有胡はそういうや早く、グラスに水を注いだ。

「おおお!」

またも観客から歓声が上がる。

「あら不思議、グラスの中に入っていた色水がみるみるうちに元の透明な水に戻ってしまいました!」


「す、すげー!」

科学部の新部が目を丸くしている。“科学部の”である。

青野は、お前部活で何してたんじゃとツッコミをいれ、

「種が分かれば簡単な実験だよ」

と言った。

「種?教えてくれ!」

「お前なんで科学部にいるんだよ……」

青野はあきれ返りながらも説明を始めた。

「さっき彼女が掲げた水、あれってなんの変哲もないように見えるけど、実際には何かが溶けている水溶液だったんだよ」

「ええええええ!」

新部は目を丸くして驚いている。

「お前、試薬って知ってるか?」

「ああ、それくらいは知ってるよ。BTB液とかのことだろ」

「ご名答」

青野は少し馬鹿にしたような口調で答えると、説明の続きに移った。

「で、たぶん種類の違う試薬をグラスの裏にあらかじめ塗っておいたんだろうな。そうすると、中に入れる水溶液の性質によって色が変わるってわけさ」

「なるほど。そうすれば色は変わるな」

新部は感心したようにうなずいた。

「でも、あの後色を戻したのはどうやったんだい?」

今度は権田が質問をした。

青野は心の中で「お前もかーい」とつっこんでからゴホンと咳払いをして、

「あれは色を“戻した”んじゃない。“変えた”んだよ」

「色を変えた!?」

新部と権田は目を丸くして驚く。

「ああ。フェノールフタレイン溶液って知ってる?あ、知ってるのね。あれってさ、酸性には無反応だけど、アルカリ性には反応して赤っぽくなるよね?あれと同じようなことをしたんだよ。最初に入れたのとは違う性質の水溶液を入れてな」

「なるほど!」

新部はすごいと言って目をキラキラさせている。

「ほんと、まるで手品みたいだな」

権田が感心したように頷いた。

「いや、手品なんかじゃない。科学さ」

青野は笑って見せた。

ちょうど有胡の方でも同じような説明をしていた。そちらの方が少々詳しかったが。


「では、次の実演にうつります。次は知っている人も多いのではないでしょうか?」

有胡はペットボトルを下から取り出した。

「お次は、ペットボトルロケットです!まず私が飛ばしますので、それをキャッチした人に二発目を飛ばしてもらいます!」

「うおおお!」

会場はさらに沸いた。

「原理は後程詳しく話しますので、まずは打ち上げましょう!」

有胡はさも楽しそうに手を挙げた。

「こういう風に、炭酸飲料のペットボトルの中に水を入れて、中に自転車の空気入れで高圧の空気を送り込みます」

彼女は作り方を見せながら、準備をした。

「では、これで打ち上げられますね。近くにいる人は少し後ろに下がっていただけるといいですね。発射の際、水しぶきがかかるかもしれませんので、気を付けてください。それではカウントダウンをします」

有胡は会場の皆にカウントダウンを呼びかける。

「それではいきまーす!3、2、1、発射!」

声とともにロケットは空高くに発射された。

「わあ!」

観客は大きな歓声を上げる。

「とったぞーーー!」

後ろの方にいた男の子が嬉しそうにロケットを持ち上げた。

「では、そちらの男の子、ステージの方にお越しください」

有胡は男の子をステージに招き寄せた。

「お名前を教えていただけますか?」

ときいた。

「網倉金矢、中学1年生です」

「じゃあ金矢君、今からロケットを飛ばす準備をします。この自転車の空気入れを使ってペットボトルの中に高圧の空気を送ります」

「はい」

少年は素直に頷いた。

よいしょ、と言いながら少年は空気入れを上下にした。

「うーん、それくらいで大丈夫かな?」

有胡は1分程するとストップをかけた。

「はい」

「じゃあ、飛ばします!みんなでカウントダウンをするから、タイミングよくスイッチを押してね」

有胡は観客の方を向き、指を立てて数字を示した。

「それじゃあいきます!せーの、」


「5!」


「4!」


「3!」


「2!」


「1!」


「発射!」


ペットボトルロケットは勢いよく飛び出した。

「うわあ!」

観客から大きな声があがる。

青野たちもロケットに釘付けになった。



ドサッ!


「!?」


突然の物音に青野たちの視線は真反対の方へと移った。

「おい、あれ人じゃない?」「ヤダー、まじっ!?」「早くSNSにあげなきゃ!」

近くの人たちが早くも騒ぎ出した。

「動くな!」

青野と権田は鋭く言い放った。

新部は何もできずにおどおどしている。

青野たちは人をかき分け、現場へと走った。

「この人は……」

「確か、斜里、といったよな」

権田が確かめるようにきいた。

「ええ。彼は多少印象に残っていたのでおぼえています。死因は恐らく後頭部のこの傷でしょう。出血の状況から恐らく突き落とされたのではなくて殴られてから落とされたと考えられます。その根拠に出血以外にも」

青野はそう言ってから被害者の手をとり、

「手が塩酸で溶かされている」

「となると、犯人は……」

「ええ。第一の遠山史朗殺害と同じ人物になりそうですねえ」



次回

第二の事件には関係者全員に完璧すぎるアリバイがあった!?青野は崩すことができるのか!?

FILE.14アリバイは皆完璧です




Next hint

・ガラス

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