疲れてたんです、本当です……はい、言い訳ですね。すみません
ちょっと短めです
王国魔法統制局において、階級は単なる役職ではなく、局員の実力と権限を示す指標として機能している。
見習い、局員、執行官、上級執行官、執行官長、元帥。
階級が上がるほど危険な任務への従事が許可され、閲覧できる機密情報の範囲も広がる。
特に上級執行官以上には、複数の案件を横断して調査する権限が与えられており、王都で発生した未解決事件や傷害事件報告書、行方不明届など様々な資料を再精査することも重要な職務の一つだった。
上級執行官の仕事は、犯罪者を捕らえることだけではない。
事件の兆候を見つけ出し、表面化する前に摘み取ることもまた求められた。
ラズライトは職務上、様々な機密情報を取り扱うことが多いので、小さな個室の執務室があてがわれていた。
その執務室で、出張中にたまっていた書類の精査を黙々と続けていたラズライトの手が、ぴたりと止まる。
手元には、傷害事件、行方不明届、行方不明届、殺人事件、行方不明届──など、実に様々な資料が並んでいる。
「はーほんともう、いくら出張してたとはいえ、書類たまりすぎ!師匠サボってたな」
ラズライトのぼやきが静かな室内に溶けていく。
就業時間はすでに数時間前に過ぎており、ほとんどの局員は退勤済みだった。しんと静まり返った廊下の向こうからは物音ひとつ聞こえない。
そんな静寂の中で、ラズライトの鈴の声だけが小さく響いた。
「くう……とりあえず、今日はもう終いかなぁ~」
ラズライトが両腕をぐぐっと上にあげて伸びをする。長時間デスクに張り付いていたおかげで、肩甲骨あたりからゴキッと音がした。
(まだ少し残ってるけど……明日もやれば終わるかな)
書類をとりあえず鍵付きのキャビネにしまい、戸締りをする。
執務室を後にし、魔法で明かりを灯した。拳大の明るい球がぷかぷかと宙に浮かび、あたりを淡く照らす。その明かりをもとに廊下を歩くとカツン、と靴音が大きく響いた。
執務室がある廊下を抜けて、入り口近くにある食堂がある廊下に差し掛かった時。
突然、ラズライトの全身から力が抜けた。視界がぐらりと揺れる。
(なに……!?)
膝をつきかけたその瞬間。
体内の魔力が暴れるように巡り、強引に意識が引き戻された。
(そうだ、常時展開していた防御魔法が弾いたんだ……)
あらゆる攻撃を自律回避する防壁のおかげで、かろうじて気絶せずに済んだらしい。
しかし、このセキュリティが固い王国魔法統制局内で、自分は何者かに不意を突かれた。
それも、完全な無警戒から。
(ありえない。どうやって発動したの?)
魔法とは、体内の魔力を変質させ、外に放出する技術だ。想像力の豊かな者ほど扱える種類は増え、基本的にはどんな属性でも形にできる。
だが、魔力を外へ放出すれば、空気中の魔力と摩擦が起きて必ず『空気の揺らぎ』が生じる。相応の訓練を積んだラズライトの感覚なら、その気配を捉えて事前に察知できるはずなのだ。
(それなのに、今の攻撃には予兆すら一切なかった……)
ふらつく足に力を込め、立ち上がりながら荒い息を整える。
(局内だからって油断した。わたしのバカ)
師匠のフォスなら、こんな無様な失態は絶対に犯さない。
腐っても元帥。酒瓶に埋もれて昼まで寝ていようが、机に突っ伏して居眠りしていようが、敵意や殺気を向けられれば即座に反応する。
不意を突かれて気絶しかけるなど、万に一つもありえなかった。
(まだまだだ、わたしは)
「へーすごいね~、もう復活したんだ」
ラズライトの前方、なにもない空間が不自然に揺らぎ……ふっと人影が現れた。




