第1章 第8話 『出来損ないの戦い①』
ーーカツーン、カツーン、カツーン
一歩、一歩と歩くたびに足音がこだまする。
時々聞こえるのは上から滴り落ちる水の音だ。
リアムは俯きながらダンジョンを進んでいた。
リットの言葉が頭の中で何度も聞こえる。
その度に心が痛み、同じ一族である自分を恨みたくなる。
きっと、あの嫌悪の眼差しは、リアムだけにあてたものではないのだろう。ただ、それが分かっているからこそ、何もできない自分が情けなく思う。
やはり自分はどこまでいっても“出来損ない”で何も持ち合わせていないのだと。
それから数時間、リアムは出てくる魔物を倒しながら順調に探索を進めていた。
だが、気分はずっと上の空で正直どれだけの魔物を倒したか覚えていない。
そんな様子で歩き続けていると、開けた場所に出た。
周りには他の受験者の姿も多く見受けられる。
どうやらもうすぐ1階層も終わるらしい。周りからは安堵の声が聞こえる。
リアムも胸を撫で下ろし、周りの受験者について行こうとしたその時だった…
「う、うわーー!」
「おいおい!おかしいだろ!なんでこんなバケモノがいるんだよ!」
「こんなのやってられるか!」
いきなり、先導していた受験者たちが次々と引き返して来た。
中には『帰還の首飾り』を使って逃げる者もいる。
リアムは逃げて来た一人に話を聞いた。
「おい、この先で何があったんだ!」
「バ、バケモノだっ!あんなの絶対1階層の魔物じゃない!」
「バケモノって、一体どんな…」
「お前も命が惜しけりゃ早く逃げるんだ!死ぬぞ!」
「ええ、ちょっ……」
受験者はそれだけを言い残して逃げていった。
リアムは状況を確認するために逃げてきた方向へ走り出す。
だが、そこにいたのは文字通りの“バケモノ”だった。
7メートルは優に超える巨体に、右手には巨大な棍棒を持っている。
豚のような顔の口からはヨダレが垂れている。
「これは…オーク…なのか?」
ー《ウオオオオォォォォ!》ー
バケモノから発せられた咆哮がダンジョン内を揺らす。
周りには何人かの受験者の死体が散乱している。
リアムはその咆哮に思わず後ずさる。
自分でもわかる。これは勝てない。逃げるしかないのだと。
バケモノに背を向け、走り出そうとした時、見覚えのある姿が視界に入った。
尖った赤色の髪、涙ぐんではいるが目つきの悪さが目立つ一人の青年。
その青年は腰が抜けたのか、地面に座り込み、動こうとしない。
首元の『帰還の首飾り』は破壊されている。
「リット…?」
だが、体は動かなかった。自分でも驚くほどに。
確かに自分にはリットを助ける道理も、義理も、理由も無い。
ましてやリットは自分を罵った奴だ。
(そうだ、助ける必要なんか無い。助ける必要なんか…)
魔物が巨大な棍棒を振り下ろす。
ー《ウオオオオォォォォ!》ー
「う、うわぁぁぁぁっ!」
「そんなの…いいわけねえだろ!」
リアムは走り出す。
体が勝手に動いたと言えばいいのだろうか、気づけば走っていた。
リットの前に滑り込み、魔法を展開する。
ー「ライトニングシールド!」ー
《ドォーーーン!》
リアムの展開した光の障壁は巨大な棍棒をなんとか受け止めた。
だがその攻撃は重く、一瞬でも気を抜けば障壁が砕け、二人は潰されてしまうだろう。リアムは魔力を込め続ける。
「ーーーっ!うおぉぉぉぉ!」
「お、お前、なんで…」
「勘違いするなよ!俺は、醜い奴になりたく無いだけだっ!」
ー《ウオオオオォォォォ!》ー
魔物が巨大な棍棒をもう一度振り上げる。
その隙に、リアムはリットを抱え、なんとか攻撃範囲外に滑り込む。
そう、確かにリアムにはリット助けるメリットなど一つもない。
だが、そうやって人を見捨て、蔑むような人間にはなりたくないと思ったのだ。
そんな醜い人間をリアムはずっと見てきたから。
だから助ける。自分が自分であれるために。
そしてここに、無謀とも言える戦いが始まったのだった。




