第2章 第16話 『師の背中』
『師』、それはその人にとっての憧れであり、尊敬の対象だ。
そしていずれはその人が『師』となり、また新たに憧れる者ができる。
そうやって受け継がれ、時には少し形を変え、続いていく。
先人から学ぶと言う自然の摂理が今日もまた、繰り返されるのだ。
◇◇◇
リアムは前線に立っていた。
それは、彼を知らない者にとっては理解のできない行為だろう。
後方から味方を支え、守る後衛職である魔術師の人間が前線にいる。
だが、4人はこの状況を不思議に思いながらも何も言わなかった。
それは呆れているわけでもなく、諦めているわけではない。『信用』しているのだ。今、自分の前に立っているリアムという男を。
長い付き合いがあるわけでもない。むしろ知り合ったばかりのこの男を不思議と、信用に値すると感じたのだ。
「ケイルさん、動けるならみんなを連れて下がっていてください」
「俺たちは邪魔か?」
「いえ、俺はあなたたちを守りたいだけですよ」
「……そうか。すまねえな」
ケイルは怪我をしながらもシオンを担ぎ、ドゴラと共に下がる。
その行動はまさにパーティーをまとめるリーダーのそれだ。
リアムは3人がある程度の距離をとったことを確認し、『ライトニングシールド』を解く。
《パリンッ!》と言う音と共に抑えられていた魔物たちが一斉に雪崩れ込む。
リアムはその先頭に照準を合わせるように手をかざす。
手に魔力を込める。やがてその収束した魔力は光を帯び、無数の弾丸となり放たれる。
ー「ライトニングショット!」ー
放たれた無数の光の弾丸が粉塵を撒きながら魔物たちに浴びせられる。
『ライトニングショット』。光属性の初級魔法の中でも最も汎用性が高い魔法だ。
魔力の放出を細かくすれば無数の光の雨が、長く貯めれば特大の一発が、放たれる。
今、リアムが使っているのは前者の方だ。
一発一発の威力は普段使用している『ライトニングジャベリン』には劣るが、魔物を一掃するという今の目的からすれば的確な使用方法だ。
「しかし、本当にキリがないな……」
先ほどの3人の戦いを見ていたが、やはり魔物の勢いは止まらない。
倒しても倒しても奥の通路から次々と出てくる。
(どうする…?俺だって魔力が無限なわけじゃない。尽きればここにいる全員が確実に死ぬ。一体どうすれば……ーー!)
「あれは…いや、流石に無理か?」
一瞬、あの日の光景を思い出した。
リアムがまだ魔法学校の生徒ではなく、受験生だった時のことだ。
あの日、最終試験のダンジョン突破試験であのバケモノに襲われ、死を覚悟した日の出来事を。
その時助けてくれた今の『師』である彼の後ろ姿を。
「レイン先生……俺はやりますよ」
そう、リアムがしようとしていることはまさに賭けだ。もしかしたら失敗するかもしれない危険な賭け。
あの日、自分の『師』であるレイン・フィラメントが見せた中級魔法、リアムはその光景を今でも鮮明に覚えている。だからこそ、リアムは天に向けて手のひらを掲げ、その言葉をなぞるように詠唱を始める。
「天よ、空は黒く曇りて雷鳴を呼び、我が前に立ち塞がるものを打ち砕く」
(天よ、空は黒く曇りて雷鳴を呼び、我が前に立ち塞がるものを打ち砕く)
「光り、鳴り、爆ぜろ、その光は万物を穿つ!」
(光り、鳴り、爆ぜろ、その光は万物を穿つ!)
魔物の群れの頭上に黒く、そして光を帯びた雲が展開される。
そして、リアムとその『師』の後ろ姿が重なる……
「皆さん!耳を塞いでください!」
その合図で4人は地面に丸まり、両耳を塞ぐ。
そして、リアムが掲げていた手を振り下ろすと同時に、その黒き雲から特大の光が降り注ぎ、鋭い雷鳴を轟かす。
ー「天の雷鳴!」ー
放たれた雷が魔物たちを焼き、裂き、吹き飛ばす。
そして、その衝撃により洞窟の壁が削られ、魔物の進路を埋め立てる。
数多の魔物は天から放たれた雷鳴を最後に、散ったのだった。
今回はCランク冒険者パーティー『戦士の卓』のメンバーを書いてみました。




