第2章 第15話 『男の約束』
ダンジョントラップ。それは、魔物の巣窟が生み出す罠。
その場所には数多の魔物が住みつき、入ってきた人間を喰らう。
リアムを含む『戦士の卓』のメンバーは今、そこに囚われていた。
「すまないケイル…私が入ってしまったせいでこんなことに……」
「謝ることじゃねえぞシオン。それより剣を抜け。生きて帰るぞ!」
「……ああ!そうだな!」
「セラ、魔道具の準備を!ドゴラさんはセラの護衛をお願いします!」
「うむ。わかった!」
ケイルは後ろを振り返ってリアムを見る。
その顔は不甲斐なさと申し訳なさが混ざったような顔だった。
「リアム…すまねえな。だがお前も…いや…お前だけは…」
「ーー逃げませんよ。俺は」
リアムはケイルの言葉に被せるように言った。
確かに、ダンジョントラップにかかったのは『戦士の卓』であり、リアムは悪くない。むしろ巻き込まれた方だ。責任はシオンだけでなくリーダーであるケイルにもあるだろう。だが、リアムは一緒に戦うことを選んだ。
それは、リアムがこのパーティーが気に入っていたからだ。
魔術師であるリアムを『物』ではなく『人』として扱ってくれるこの温かいメンバーがリアムにとっては家族よりも温かく思えたからだ。
だから逃げない。だから戦う。この温もりを消さないために。
「一緒に生きて帰って、美味い飯でも奢ってくださいよ。それで貸し借りなしです」
「……はっ、なんだよそれ。でもありがとう。セラの支援をお願いできるか?」
「はい。約束、忘れないでくださいよ!」
「当然だ!男に二言はねえよ!」
ケイルはそう言うと前線で戦っているシオンの方に走り出した。
リアムはセラの方に走り出し、合流する。
「セラさん、魔力が切れたら遠慮なく言ってください補充するので」
「はい。ありがとうございます…」
前線では、戦闘が激しさを増していた。
◇◇◇
あれから何時間経っただろうか。地下だから地上の明るさなどわかるわけがない。
前線では今もなお、ケイルとシオン、そしてドゴラが剣を振り続けている。
最初はセラの護衛をしていたドゴラも、その厳しさから前線に出た。
だが、一向に魔物が収まる気配がない。
倒しても倒しても、奥から新たな魔物が出てくる。
「あがっ…!」
「ち、治療します!」
セラが『女神の聖杖』を振りかざす。
すると、淡い緑の光が広がり、負傷者の怪我を癒す。
「す、すいません…。魔力の補充をお願いします」
「はい!」
もう、ずっとこの繰り返しだ。魔道具の魔力が尽きる度、リアムが魔力を注ぐ。
リアムは前線の3人を見る。3人とも、見るからに体力の限界が近い。
回復魔法は傷を治せても体力が回復されるわけではない。いつかは必ず限界がくる。
(どうする…。俺も前線に出るべきか? いや、セラのそばを離れるわけには…)
リアムは前線の様子を見ながら考えていた。その時、奥で何かが光ったように見えた。
(あれは…スケルトンか?光っているのは矢尻…ーー弓だ!)
存在を確認した時にはすでにセラに向かって矢が放たれていた。
「セラ!危ない!」
「へ…? ひゃっ!」
リアムはセラを突き飛ばし、なんとか弓を回避させることに成功した。
だが、突き飛ばした時、それは起こった。
「あ、ああ!魔道具が!」
「ーーーー!ごめん!俺のせいだ!」
「いいえ、リアムさんのせいではありません。私がもっと早く気づいていれば…」
「くそ、こんな時に……」
そう、あの突き飛ばした瞬間、セラが持っていた『女神の聖杖』が壊れてしまったのだ。
この限界の状況で回復の魔道具が壊れてしまった。状況は最悪だ。
「どうしよう…これじゃ回復が…」
「うっ……!」
「痛っ……!」
「シオンさん!お兄ちゃん!」
「セラ!リアムと逃げろ!早く!」
「いやだよ!私…逃げないもんっ!」
「ぐっ……!」
「ドゴラさん!」
「セラ!ケイルの言うことを聞くんだ!」
「リアム!頼む!妹と逃げてくれ!」
ケイルはリアムに呼びかける。まるで懇願するかのように。
だが、リアムはそんな声を無視し、足を一歩、前へ突き出す。
「逃げるんだリアム!妹を連れーー」
ー「ライトニングシールド」ー
3人の前に光の障壁が展開される。
セラはその場に座り込み、3人は何が起こったのか理解できていない。
リアムは歩き出す。魔物が群がる前線に向かって。
そして、ケイルの横を通り過ぎる際、呆れたような、けれど力強い声をかける。
「男に二言はないんだろ?約束、簡単に破るなよ」
「……リアム」
「ーー俺も、前線に出る!」




