第2章 第17話 『美味い飯』
ーーダンジョン第6階層にて
「ーー皆さん!耳を塞いでください!」
そう言われた瞬間、咄嗟にその場に伏せ、耳を塞いだ。
次に聞こえたのは腹に響くほどの轟音だった。
揺れている。空気が振動し、地面が激しく上下し、粉塵が吹き荒れている。
それは、彼の知っている魔法という現象とはどこかかけ離れていた。
ボタンを押せば火がつく。ハンドルを回せば水が出る。
そっと撫でれば風が吹き、光を灯せば傷が癒える。
どれも生まれた頃から見てきた魔道具による魔法だ。
魔力がなくても、動力源である魔石が魔力を自動で調節し、繰り出す。
彼が今まで感じてきた魔力は弱く、優しい。温かい魔力だった。
だが、今感じている魔力は同じはずなのに、そうとは思えなかった。
圧倒的な魔力密度。風とともに大量に放出された魔力の残滓が彼の頬を撫でる。
空気が重く感じる。まるで水に満たされた水中にいるような息苦しさ。
今、彼が感じている魔力は決して優しいものではなく、重く、強く、そして熱い魔力だった。
そっと地面から顔を上げる。足元にはまだ低く土埃が舞っていた。
周りを見渡せば焦げた魔物の死骸や、崩れた岩肌が目に入る。
そして、その中心に立ち、こちらに背を向けて立っている青年が見えた。
青年は振り返る。その青年はどこか安心したような笑みでこちらを見ていた。
「あ、ケイルさん。大丈夫でしたか?」
「……」
「ーー?ケイルさん?」
「あ、ああ。大丈夫だ。ちょっと驚いてただけだよ」
「そうですか。実は中級魔法を使うのは初めてだったんですよ。だから皆さんに攻撃が当たっていないか心配で」
「大丈夫だ。4人とも全員生きてる。リアムのおかげだな」
「じゃ、約束通り美味い飯奢ってくださいよ?」
「はは、やっぱりそれか。任しとけ!腹一杯食わせてやるよ!」
「やった!」
ケイルは少し呆れながら笑うのだった。
◇◇◇
塞がれていた帰還への通路はリアムの魔法によって崩れ、通れるようになっていた。
5人は疲れた体を引きずりながらもやっと冒険者ギルドに帰ってきたのであった。
「いやー、命も助けられて、おまけに大量の魔物の素材が手に入った。本当にリアムには感謝しかないな」
「ありがとうリアム!」
「私からも礼をいうわ。助けてくれてありがとうリアム」
「リ、リアムさん。ありがとうございました」
「俺も本当に感謝している。これでまた、娘の顔を見ることができるよ」
「い、いえそんな…。私は当たり前のことをしたでけですよ」
「よし、じゃあ約束通り美味い飯を食いに行こう!今日は俺の奢りだ!」
リアムはすこし照れながら4人の感謝を受け取った。
そして、4人はケイルの奢りに歓喜していたその時だった。
黒いローブを着た男女がこちらに向かって歩いてきた。
片方の女はマリーゴールドのような鮮やかな長い髪を靡かせ、もう片方は顔が整い、空色の髪をした男だった。
「お、おい。なんかきたぞ?」
「あのローブって魔法学校の生徒のだったわよね?」
「ああ、貴族様が俺たちに一体何のようだってんだ?」
「こ、怖いです…」
「大丈夫だ。いざとなったらお兄ちゃんが守ってやる」
(ん?あの二人って……)
その二人はリアムの前で止まり、女の方がリアムの顔を覗き込んだ。
そして、少し不機嫌そうな声で話し始めた。
「こんな遅くまでダンジョンに潜っていたのリアムくん?」
「あ、ああ。ちょっとトラブルがあってな。すまない…」
「全く、僕も心配したんだよ?フランちゃんがリアムくんが帰ってこないって言うから」
「まあ、無事だったし許してくれよ。頼む!」
「もう、心配かけさせて!リアムくんたら本当にーー」
「ーーあ、あの」
ケイルが申し訳なさそうに手を挙げる。
流石のケイルも立場が上の人には態度が変わるらしい。
「ん?何?」
「失礼ですが、あなたたちはリアムのご友人か何かでしょうか…?」
「友人…まあそうね。もっと言えばクラスメイトだけど」
「ーーえ?」
4人とも何を言っているのかすぐには理解できなかった。
こっちからすれば、リアムに貴族の友人がいるだけでも驚きなのに。
「と、と言うことはつまりリアムは…」
「ん?そりゃあ貴族よ?」
(やってしまったーー!)
4人は今までのことを思い返す。リアムに助けてもらったこと。リアムに対しタメ口で話していたこと。それどころかリアムが敬語を使っていたこと。
考えれば考えるほど4人の顔はみるみる青ざめる。
そして、4人はリアムに向かって土下座したのであった。
「リアムさん、いやリアム様。数々の無礼お許しください!」
「い、いやいや。隠していたのはこっちだから!そんな謝らなくても…」
「ど、どうか妹の命だけでもっ!」
「殺さないよ!」
それからリアムはなんとか事を納めることができた。
それから4人には今までと同じ扱いにしてほしいと頼んだ。
「ほ、ほら!ご飯奢ってくれるんでしょ!行こう行こう!」
「え、そうなの?私も行きたーい!」
「フランちゃんが行くなら僕も行こうかな?」
「いえいえ、貴族様には食えた飯じゃないですって!」
「いいのいいの!楽しめれば!私もそんなに貴族扱いは好きじゃないし!」
「ほらケイルさん。行きましょう!」
「あ、ああ。リアムさ…リアム」
7人は夜の街に出かけたのであった。
今回で第2章、ダンジョン編は終わりです。ありがとうございました!




