第2章 第9話 『リベンジマッチ①』
ー《グオォォォォォォ!》ー
そのけたたましい咆哮が洞窟の天井を揺らす。
目の前に立ちはだかるのは禍々しいオーラを纏ったオークだ。
リアムはそのオークの前に立ち、リットはその後方に立っていた。
「行くぞリット!」
「ああ、いつでも!」
ー「ライトニングジャベリン!」ー
ー「ファイヤーボール!」ー
業火の火球と光の閃光がオークに直撃する。
だが、オークはその場からピクリとも動かない。
(やはり基礎魔法では決定打に欠けるか…だが…)
(俺のファイヤーボールも防がれた…。だが…)
ー((ダメージは入っている!))ー
そう、入学試験の際に出現したあのバケモノにはダメージを与えられなかった。だが今、目の前にいるこのオークをよく見ると魔法が当たった場所が黒く焦げているのだ。つまり、ダメージは少ないが倒せないことはない。
ー《グオォォォォォォ!》ー
オークは叫んだかと思うと足を大きく広げ、構える。まるで戦闘体制に入る人間のように…
すると、オークの両手の爪が伸び出した。
爪はどんどん伸び、更には剣のように鋭くなってゆく。
ー《グオォォォォォォ!》ー
ーー《ダンッ!》
オークはその巨体からは想像も出来ないほどの身軽さでリアムに突っ込む。
そして、その鋭い爪を振るった。
ーーズシャッ
リアムの左腕に斬り傷が走る。
「クッ…っ!」
「リアムっ!」
「大丈夫だ!このくらいの傷なら…」
ー「ヒール」ー
左腕の傷口がみるみる塞がってゆく。
だが、光属性が使える治癒魔法は魔力の消費が激しい。
もし、魔力枯渇にでもなれば間違いなくここにいる2人は死ぬ。
(迂闊に使っちゃいけないな…)
リアムはそう自分に言い聞かせ、また戦闘体制に入る。
降りかかる鋭い爪の斬撃をなんとかかわしながら魔法を打ち込んでいく。
だが、やはり一発一発のダメージは小さい。
それでもリアムは持ち前の反射神経で繋いでいく。
そんなリアムの姿をリットはただ、後方で見ているしかなかった。
リットはこの光景を見たことがある。そうあの試験の時と同じだ。
命懸けで戦っている仲間を前に自分は何も出来ないという無力感に苛まれている。
この感情はなんだろうか?怒っているわけでもない。だけど、なぜかイラつく。
自分でもおかしいと思った。なんで一生懸命に戦っている仲間にイラついているのだろうと…
「ーーああ、そうか、俺……『悔しい』んだ」
それが、リットの口から出た感情の答えだった。
悔しい。何もできない自分が悔しい。
一緒に戦えない自分が、足を動かせない自分が悔しいのだ。
そして、リットはそんな自分に問いかける。
お前は何故、この男について行こうと思ったのだ?
お前は何故、この男に『悔しい』と思うのかと。
だが、それは聞くまでもなかった。
何故ならそれは彼に助けられた時から見えていたものだから。
ー「その背中が、輝いて見えたからだろうが!」ー
あの時、自分のために戦った彼の背中をリットはずっと後方で見ていた。
なんの得にもならない。メリットなんてあるわけがない。
それでも戦う彼の姿に自分は憧れたんだ。
そして今、同じ後方でまた、彼の背中を見ている。
今度こそ、彼の背中に追いつきたい。同じステージで戦いたい。
ーーザッ
リットは怖くて震える足を前に出す。
その『悔しい』という感情と『憧れ』が彼の背中を突き動かす。
そして、リットはリアムに向かって大声で叫んだ。
「おーい!リアム!戻ってこーい!」
「えっ…?」
リアムは困惑しながらもリットの元に駆けつける。
リットはそんなリアムに近づき、肩に手を当てる。
(ああ、やっと届いた…)
「リット、一体どうしたんだ?」
「いや、なんでもないさ。それより、一緒に戦おう!」
「え?いや、今も一緒に…」
「そうじゃねえ!一緒にってのは…」
ー「『前線で』だ!」ー
リットはそう言いながらリアムの隣に立つ。
そして、その悔しさと憧れを胸にオークの前に立つのだった。




