第2章 第1話 『金色の刺繍』
〜試験から3日後、アシュリー魔法学校の療養室にて〜
最初に感じたのは頬を優しく撫でる風だった。
それから音が聞こえ始めた。誰かが話す声、でも少し元気がない。
そして光を感じるようになった。瞼は重くて開かないけど、明るいのがわかる。
ここはどこだろう?俺は今、どんな状況なんだろう?
リアムは重い瞼をゆっくりと持ち上げるのであった。
「……っ。んん」
リアムは急に入ってきた太陽の光に顔を顰めた。
辺りを見渡すと、窓から光が差し込み、風でカーテンがゆらゆらと揺れている。
最初はぼんやりしていた視界も時間が経てばくっきりとしてくる。
「リアム…?」
ふと、聞いたことのある声が聞こえた。
だが、いつもはわんぱくなはずのその声には元気がない。
リアムは声のした方向に目を向ける。
尖った赤色の髪に少し目つきの悪い青年がこちらを心配そうに見ていた。
「……やあ、リット。おはよう」
「ああ、おはよう。リアム!」
ひどく掠れた声だった。
だけど、その声を聞いたリットは笑っていた。とても嬉しそうに。
「で、俺は今、どんな状況なんだ?」
リアムはやっとベッドから起き上がり、リットに尋ねた。
自分の体を見ると、所々に包帯が巻かれ、服も寝巻きである。
そして、リットの服装を見ると赤色の刺繍が入った黒いローブを着ていた。
(そうか、リットは試験を突破したのか…。赤色の刺繍…火風の塔のローブか…)
「試験が終わって、怪我したお前は学校の療養室で寝てたんだよ」
「…そうか。あ、学校は?お前は授業に行かなくていいのか?」
「授業は試験が終わってから1週間後。お前は3日間寝てたからあと4日後だな」
「なるほど、まあ、そのローブを見る限り、お前は無事に試験を突破したんだな」
「何でお前は落ちたみたいに言ってんだよ!」
リットはそう言うとベッドの隣にある机の上から袋に入った何かを取り出した。
それを、大事そうに両手で持ち、リアムに渡す。
「ほら、広げてみろよ」
「え?、ああ…」
リアムはリットから手渡された黒い布を広げる。
すると、金色に輝く刺繍が見えた。
「…ーー!、これって!」
「試験突破おめでとうリアム!お前は今日から光闇の塔の生徒だ!」
剣の道を諦めた青年、リアム・アルベール。
彼は今、正式にこのアシュリー魔法学校の生徒となったのだ。
そして、彼は決意した。
剣の才能がなくても、出来損ないだったとしても、今度は絶対に諦めないと。
ここから、一人の青年の新たな物語が始まる。
剣の才能を持たない、一人の魔術師の物語がーー
ー『剣才無き魔術師』の物語が今、幕を開けたのだったー




