返事は?
着替えを終えて朝食へ向かう前に玲雄奈から、
「ご朝食の前に少し、よろしいでしょうか?」
と言われた。
「……別に、かまわねぇが」
そのまま玲雄奈に連れられ、絢人の寝室近くの庭先に出る。
そこには十数名の――黒服の男たち(イケメン)が、並んでいた。
(む? この顔ぶれ、見覚えがある……)
――そうだ。
アニメでも登場している絢人の兵隊――私兵的な、黒服部隊。
ただ、最前列の三名については見覚えがない。
(ていうか、そうか……これがついさっき、黒薔薇さんがメッセージで言ってた――)
あのあと黒薔薇から、アプリに一通のメッセージが届いた。
〝学園内ではあまり役に立たないかも知れないけれど……3年生になったお祝いとして、あなたにプレゼントを用意したわ〟
玲雄奈が黒服たちの前へ行き――身を翻し、改めて絢人の方を向く。
まるで彼が黒服たちのボスのような立ち位置である。
いや――アニメ通りならば、玲雄奈は彼らのまとめ役なので間違いではない。
「……さっき黒薔薇からメッセージで、ひと言レベルの説明はあったが。玲雄奈、改めて説明しろ」
かしこまりました、と一礼する玲雄奈。
「彼らは今日より、絢人様の私兵となります。ご存じの通り黒薔薇様がご用意をいたしました。彼らはわたしの師から直接の薫陶こそ受けていませんが、実は、わたしも彼らの教育には携わっております。ですので一定の質は保証いたします。そこは、ご安心を。もちろん些末事から難事まで、そのすべてをわたしだけで処理したい気持ちはございます……しかし、今後わたし一人では手の回り切らぬ局面があるやもしれません。そんな時は、彼らをお使いいただけましたらと」
(うーん……ぼくの記憶にない、玲雄奈さんのすぐ後ろにいる三人のイケメンさんたちは誰なのだろうか……)
大好きな絢人の黒服部隊は一応、把握しているつもりだったのだが。
思い切って、聞いてみることにする。
「おまえの、すぐ後ろにいる三人……」
「さすがは絢人様。お気づきになられましたか」
玲雄奈が、敬意を込めて言った。
彼は絢人が気にした三名を手で示し、
「彼らは昨日、黒薔薇様によって急遽この私兵部隊に組み入れられることになった者たちでございます。今の絢人様には有用な人材であろう、とのことです」
軽く説明を受けた感じ、要するに他の黒服より有能な感じらしい。
……理解としては、ざっくりしすぎかもしれないが。
(ふむ、となると……あの三人をそれぞれ班のリーダーとかにして、班ごとに管理するのもいいかも……?)
「絢人様もご卒業後は、これまで以上にご活動の範囲が広がる可能性がございます。黒薔薇様もこれまでは、絢人様のおそばでのサポートはわたくし一人でと考えていらっしゃったそうですが……今後はそこに、彼らも加わります」
(そっか……この黒服さんたちって、絢人が3年生になってからの付き合いだったのね。これは、設定資料集にも書いてなかったなぁ)
てっきり、もっと以前からいる私兵部隊なのかと思っていた。
多分これまでは絢人直属ではなく、皇泉院の兵隊として活動していたのだろう。
「つーか男ばっかってのは、あの女……黒薔薇の意図か?」
黒服たちに一斉に、強い緊張が走り抜けたのがわかった。
本人がこの場にいないとはいえ。
あの女帝を呼び捨てにするだけでなく――
こんな、雑な口の利き方をするだなんて。
彼らにとってはやはり、信じがたいことなのだろう。
玲雄奈は複雑そうに、
「は、はい……その、黒薔薇様としましては……女の黒服の場合、絢人様に本気で恋心を抱いてしまう危険性があり……まともに運用できなくなるに違いない……と、そのようなご懸念を抱いておりまして……」
「それで、このホストクラブでも開店するみたいな面子ってわけか――まあいい」
絢人は左右のポケットに手を突っ込み、
「改めて言うまでもねぇが……皇泉院絢人だ。おまえらの今後の働きには、それなりに期待させてもらう」
「「「はい、絢人様!」」」
綺麗に揃った、元気な返事である。
(おぉ……なんか、気持ちいい……うん……あとで玲雄奈さんに資料を作ってもらって、全員のプロフィールとかを確認させてもらわないと。念のため顔と名前も、改めて一致させておかないとね)
黒薔薇の言っていた〝駒〟とはつまり、彼らのことだったようだ。
そして――それを動かす〝皇帝〟としては、その特性を把握しなくてはならない。
玲雄奈は一度、黒服たちを下がらせた。
庭には、絢人と玲雄奈だけが残る。
朝食に行くぞと絢人が口にしかけた時、
「……絢人様」
「ん?」
「先ほどは、ありがとうございました」
(え? あ、あぁ……そっか、多分……黒薔薇さんに絡まれてた時の、あれのことかな?)
「……あんなのは当然だろうが。テメェは黒薔薇の執事じゃなく、この皇泉院絢人の執事だ。つまりテメェが〝重き〟を置くべきは黒薔薇じゃなく、常にこのオレでいい。それだけは……ゆめゆめ、忘れんじゃねぇぞ」
「絢人様……」
フン、と絢人は鼻を鳴らす。
そして口端を軽く吊り上げ、流し目で玲雄奈に視線をやる。
「返事は?」
一瞬、虚を突かれた顔をする玲雄奈。
しかしすぐに――彼はどこか幸福そうに目元を緩め、素朴な微笑みを浮かべた。
「……はい、絢人様」
(…………だから、玲雄奈さん――)
その微笑みをアニメでも見せれば絶対、もっと人気出ると思うんですよ……ッ!
ここまで『悪帝の楽園』をお読みくださりありがとうございました。
明日7/26(日)21:00頃に予定している更新にて、章完結となります(明日は、いつもの19:00ではなく21:00の更新予定となります)。
そして作品情報の欄にも書いておりましたが、一旦そこでひと区切りということで(試しにといいますか、ひとまず実験的に)現在閉じている感想欄を一定期間、開放予定でございます(個人的には、好きなキャラクターやその理由などもお聞きできましたら嬉しく思います)。




