冷帝
ちょっと更新が遅くなり、申し訳ございません。
「…………」
絢人は――無言でエリサを見つめる。
丹念に、そして細密に造り上げられたガラス細工のような少女。
背は高い方だが、絢人と比べれば低い。
五帝の中だとちょうど中間くらい。
暴帝と同じくらいの身長。
余談だが、一番高いのは絢人。
で、一番低いのが〝壊帝〟鴉姫川ミサキである。
エリサは品の良いフリル付きカチューシャを着用している。
あっ、と絢人は心の中で反応した。
アニメで序盤だけ付けていたカチューシャ。
なるほど――今はアニメ本編前の時間軸。
まだあれを着用している時期なのか。
ちなみに途中から着用しなくなった理由は、不明である。
(設定資料集にもインタビューにも外した理由は書いてなかったもんなぁ……個人的には、似合ってると思ってたんだけど……)
腰まで届くほどの銀髪。
細いが、くっきりした眉。
切れ長の目。
陶磁器めいた白肌。
そして――スタイルがとにかくいい。
というか花園会による、
〝スタイルがいい女キャラは?〟
部門(?)において、エリサはここでも最多票(4票)を獲得している。
一方で、作中では肌の露出が非常に少ないキャラクターでもある。
今の装いも下半身はスカートだが、脚は黒いタイツに包まれている。
しかしそれでも、
〝隠せている〟
と言い切れぬほどには、スタイル抜群なのである。
単純な等身や身体の凹凸もだけれど、
〝こ、腰の位置がそこかよ……〟
と思うくらいには、脚も長い。
花園会のキャラデザ担当のインタビューによると、
〝だってデザインの時、そういう要望が……いやまあ、どのメンバーの要望かは言いませんけどね……〟
その時、エリサが緩く握った右拳をあごに添えた。
ほんの軽く、彼女はその細い首を傾ける。
「? 悪帝――私の顔にでも、何か?」
(……しまった!)
絢人は心の中で、自らの失態に気づいた。
思わず、ぼーっとしてしまっていた。
ただし――彼なりの弁解もある。
(いや、だって……あの冷帝を、この距離で〝生〟で見られたわけで……しかも、動いて喋ってるんですよ!?)
そう――泉アヤトは、久遠爾エリサのファンでもある。
まあ、皇泉院絢人とセットでファンな感じではあるけれど。
しかし内心ファン魂爆発といっても、ちゃんと絢人らしく振る舞わねばならない。
「……自意識過剰だな。テメェってよりは、あの小うるせぇメイドを警戒してんだよ」
「ああ――今は、一緒にはいません」
皇泉院絢人にとっての執事である槇嶋玲雄奈のように。
久遠爾エリサにも、お付きのメイドキャラが存在する。
「で……うちの執事から連絡を受けたが、わざわざテメェらしくねぇことをしにきたんだって?」
そう、エリサは虎葉へ謝罪をしに訪れたそうなのだ。
助けに入ることができなくてすまなかった――と。
どうやら、あの一連の流れを見ていたらしい。
「あなたが割って入るほんの少し前に、あの子がトラブルに巻き込まれているのを見つけたのですけれど――ストップが、かかってしまったのです」
「あの騒音メイドからか」
「……家族からです」
「家族?」
「はい」
(あれ? そういえばエリサさんの家族って……アニメに登場してたっけ? 記憶に、ないような……)
この軽イ沢には、どうやら家族で来ているらしい。
「……だからといって、テメェが止める義理もねぇだろうが。あの冷帝が、虎葉になんか借りでもあんのか?」
(助けようとしてくれたのは、個人的には普通に嬉しいですけどね……!)
エリサは冷めた目で淡々と、
「あなたに答える義理もありませんが」
「学外だろうと、口の減らねぇ女だな」
「あなたは学外でも口が増えてばかりなのですね、悪帝」
「要するにテメェ……このオレに、喧嘩を売ってるわけか」
「売り言葉に買い言葉――お互いさまでしょう。そして、もう売り切れです」
「チッ……やる気がねぇなら、わかりやすくそう言え。変人キャラで売ってくつもりなら、止めねーがな」
「なるほど――やはり失礼な人ですね」
「……売り切れてねーじゃねぇか」
険がある。
空気も、冷ややか。
冷帝の放つもののイメージは、実はアニメでも氷パターンが少ない。
どちらかといえば――鋼。
たとえばそう、厳寒の早朝……。
そんな冷え切った空気の中、屋外にある鋼のような。
あの独特の、触れた肌がヒュッと締まる低温感。
あるいは――冷気の中、鈍く光る刃のような。
その刃で斬って捨てるのに近い鋭さが、冷帝にはある……
のだが、エリサを不機嫌そうに睨み据える絢人の内側では――
(わぁ~懐かしい~! これこれぇ! シーズン序盤にそこそこあった悪帝と冷帝のやり取りっぽい感じ! は~感動だなぁ~……ていうか、楽しい! そして、嬉しい! ありがとう神様! ……この世界にいたらだけど!)
泉アヤトが、小躍りしていた。
注文した特典付きブルーレイが自宅に届いた時と、ほぼ同じテンションであった。
「そもそも――らしくないと言えば、あなたこそではありませんか?」
これは――なんのことを言ってるかわかる。
きっと虎葉のことだ。
絢人と義妹の関係を彼女が知っているなら、違和感を覚えてもおかしくはない。
「……人んちの事情に口出して回んのが、冷帝サマのご趣味か」
「誰かの力になろうとする私の意思にわざわざ口を挟むのも、悪帝の趣味ですか」
(あ……でも、そっか。そういえば冷帝って同性……女の子にはけっこう優しめなキャラだったっけ。アニメだと男キャラと相対するシーンが多いせいで、あんまりそのイメージって共有されてないんだよな……)
出番とか役柄によっては、アニメの主人公側にいてもおかしくないキャラなのだ。
(それこそ……主人公のすみれちゃんにとって頼りになる〝お姉様〟的ポジションとかでも、全然よかった気がするんだよなぁ)
しかし花園会の意向なのかなんなのか、出番は減っていった。
絢人はそんなことを思いながらも、フン、と鼻を鳴らす。
「ま……冷帝も同性にはぬくいみてぇだからな」
「……そう見えますか?」
「反論でも?」
「いえ、別に」
(うーむ……)
やはり久遠爾エリサは、感情が掴みにくいキャラである。
おとなしい感じでもないが、口調は淡々としている。
瞳からもいまいち感情が読み取りにくい。
漫画で喩えると瞳を描く時、○の中にポチッと黒点を置く感じ。
感情の薄いキャラとかでよくある瞳の表現――あのイメージ。
(でもやっぱり――)
悪い人では、ない気がする。
(とすると……)
ふーっ、と。
絢人は不機嫌っぽく、息を吐いた。
皇泉院絢人と絡んでいたから、悪役サイドのイメージがついただけ。
そうなのかも、しれない。
だとしたら……
(あんまり学園とかでも、絡まない方がいいのかな……個人的には残念だけど……)
ずっと、思っていた。
出番が減っていったからこそ。
悪帝と仲良くなっていく冷帝を――そんな『えすぷり』の世界を見てみたい、なんて。
(淡い夢、かぁ……)
などと、浸っている時だった。
「……んだよ?」
反応は耐えたが――ちょっと、絢人はびっくりした。
いつの間にかエリサが、距離を詰めてきていたからだ。
そう、エリサにはこれがある。
いつの間にか移動している――という錯覚。
最短距離を、音を立てず詰めてくる。
気が逸れたとか――視線を外したとか。
こういう時を狙い、これをしてくる。
最短距離の選択。
消音。
意識や視線が外れた時を見定める。
この三要素を揃えることで、まるで距離をワープしてきたように錯覚させる。
……という理屈らしい(花園会談)。
ただ、こうまで認識が及ばないともはや特殊能力を疑ってしまう……。
「何か――悪いものでも、食べましたか?」
「あぁ?」
動揺もなく不満を露わにする絢人だが、心の中ではドキッとした。
あの久遠爾エリサの完璧に近い美貌が――すぐ目の前に、ある。
……近すぎる。
というか……エリサも、その警戒心の薄さはなんなのか。
彼女も一応〝戦える〟キャラのはずだが――
もちろん、作中上位の絢人の戦闘能力とは比べものにならない。
なのにこの近距離で。
何かを見極める目で――絢人を、観察している。
と、エリサがサッと身を離した。
「……失礼。ただ、あの立ち回り……どうも私には、あなたがあの義妹のためにした風に見えました。あの悪帝がですよ? 信じられますか?」
「本人を前にして口にする言葉じゃねーだろ、それは……」
エリサは不意に眉を顰め、ふむ、と口もとに手をやって唸った。
「それも、そうですね……しかし悪いものを食べたとかでもない限り、説明がつかない気が……」
「……なんつー失礼な女だ」
「ではお互い失礼者同士ということで、引き分けとしましょう」
「…………」
「義妹さんによろしくお伝えください――それでは」
そう言って久遠爾エリサは、そのまま絢人の横を通り過ぎていった。




