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悪帝の楽園  作者: 篠崎芳
20/22

冷帝


 ちょっと更新が遅くなり、申し訳ございません。






「…………」


 絢人は――無言でエリサを見つめる。

 丹念に、そして細密に造り上げられたガラス細工のような少女。

 背は高い方だが、絢人と比べれば低い。

 五帝の中だとちょうど中間くらい。

 暴帝と同じくらいの身長。

 余談だが、一番高いのは絢人。

 で、一番低いのが〝壊帝〟鴉姫川ミサキである。


 エリサは品の良いフリル付きカチューシャを着用している。


 あっ、と絢人は心の中で反応した。

 アニメで序盤だけ付けていたカチューシャ。

 なるほど――今はアニメ本編前の時間軸。

 まだあれを着用している時期なのか。

 ちなみに途中から着用しなくなった理由は、不明である。


(設定資料集にもインタビューにも外した理由は書いてなかったもんなぁ……個人的には、似合ってると思ってたんだけど……)


 腰まで届くほどの銀髪。

 細いが、くっきりした眉。

 切れ長の目。

 陶磁器めいた白肌。

 そして――スタイルがとにかくいい。

 というか花園会による、


〝スタイルがいい女キャラは?〟


 部門(?)において、エリサはここでも最多票(4票)を獲得している。

 一方で、作中では肌の露出が非常に少ないキャラクターでもある。

 今の装いも下半身はスカートだが、脚は黒いタイツに包まれている。

 しかしそれでも、


〝隠せている〟


 と言い切れぬほどには、スタイル抜群なのである。

 単純な等身や身体の凹凸もだけれど、


〝こ、腰の位置がそこかよ……〟


 と思うくらいには、脚も長い。

 花園会のキャラデザ担当のインタビューによると、


〝だってデザインの時、そういう要望が……いやまあ、どのメンバーの要望かは言いませんけどね……〟


 その時、エリサが緩く握った右拳をあごに添えた。

 ほんの軽く、彼女はその細い首を傾ける。


「? 悪帝――私の顔にでも、何か?」


(……しまった!)


 絢人は心の中で、自らの失態に気づいた。

 思わず、ぼーっとしてしまっていた。

 ただし――彼なりの弁解もある。


(いや、だって……あの冷帝を、この距離で〝生〟で見られたわけで……しかも、動いて喋ってるんですよ!?)


 そう――泉アヤトは、久遠爾エリサのファンでもある。

 まあ、皇泉院絢人とセットでファンな感じではあるけれど。

 しかし内心ファン魂爆発といっても、ちゃんと絢人らしく振る舞わねばならない。


「……自意識過剰だな。テメェってよりは、あの小うるせぇメイドを警戒してんだよ」

「ああ――今は、一緒にはいません」


 皇泉院絢人にとっての執事である槇嶋玲雄奈のように。

 久遠爾エリサにも、お付きのメイドキャラが存在する。


「で……うちの執事から連絡を受けたが、わざわざテメェらしくねぇことをしにきたんだって?」


 そう、エリサは虎葉へをしに訪れたそうなのだ。

 助けに入ることができなくてすまなかった――と。

 どうやら、あの一連の流れを見ていたらしい。


「あなたが割って入るほんの少し前に、あの子がトラブルに巻き込まれているのを見つけたのですけれど――ストップが、かかってしまったのです」

「あの騒音メイドからか」

「……家族からです」

「家族?」

「はい」


(あれ? そういえばエリサさんの家族って……アニメに登場してたっけ? 記憶に、ないような……)


 この軽イ沢には、どうやら家族で来ているらしい。


「……だからといって、テメェが止める義理もねぇだろうが。あの冷帝が、虎葉になんか借りでもあんのか?」


(助けようとしてくれたのは、個人的には普通に嬉しいですけどね……!)


 エリサは冷めた目で淡々と、


「あなたに答える義理もありませんが」

「学外だろうと、口の減らねぇ女だな」

「あなたは学外でも口が増えてばかりなのですね、悪帝」

「要するにテメェ……このオレに、喧嘩を売ってるわけか」

「売り言葉に買い言葉――お互いさまでしょう。そして、もう売り切れです」

「チッ……やる気がねぇなら、わかりやすくそう言え。変人キャラで売ってくつもりなら、止めねーがな」

「なるほど――やはり失礼な人ですね」

「……売り切れてねーじゃねぇか」


 険がある。

 空気も、冷ややか。

 冷帝の放つもののイメージは、実はアニメでも氷パターンが少ない。

 どちらかといえば――はがね

 たとえばそう、厳寒の早朝……。

 そんな冷え切った空気の中、屋外にある鋼のような。

 あの独特の、触れた肌がヒュッと締まる低温感。

 あるいは――冷気の中、鈍く光る刃のような。

 その刃で斬って捨てるのに近い鋭さが、冷帝にはある……

 のだが、エリサを不機嫌そうに睨み据える絢人の内側では――


(わぁ~懐かしい~! これこれぇ! シーズン序盤にそこそこあった悪帝と冷帝のやり取りっぽい感じ! は~感動だなぁ~……ていうか、楽しい! そして、嬉しい! ありがとう神様! ……この世界にいたらだけど!)



 泉アヤトが、小躍りしていた。



 注文した特典付きブルーレイが自宅に届いた時と、ほぼ同じテンションであった。


「そもそも――らしくないと言えば、あなたこそではありませんか?」


 これは――なんのことを言ってるかわかる。

 きっと虎葉のことだ。

 絢人と義妹の関係を彼女が知っているなら、違和感を覚えてもおかしくはない。


「……人んちの事情に口出して回んのが、冷帝サマのご趣味か」

「誰かの力になろうとする私の意思にわざわざ口を挟むのも、悪帝の趣味ですか」


(あ……でも、そっか。そういえば冷帝って同性……女の子にはけっこう優しめなキャラだったっけ。アニメだと男キャラと相対あいたいするシーンが多いせいで、あんまりそのイメージって共有されてないんだよな……)


 出番とか役柄によっては、アニメの主人公側にいてもおかしくないキャラなのだ。


(それこそ……主人公のすみれちゃんにとって頼りになる〝お姉様〟的ポジションとかでも、全然よかった気がするんだよなぁ)


 しかし花園会の意向なのかなんなのか、出番は減っていった。

 絢人はそんなことを思いながらも、フン、と鼻を鳴らす。


「ま……冷帝も同性にはみてぇだからな」

「……そう見えますか?」

「反論でも?」

「いえ、別に」


(うーむ……)


 やはり久遠爾エリサは、感情が掴みにくいキャラである。

 おとなしい感じでもないが、口調は淡々としている。

 瞳からもいまいち感情が読み取りにくい。

 漫画で喩えると瞳を描く時、○の中にポチッと黒点を置く感じ。

 感情の薄いキャラとかでよくある瞳の表現――あのイメージ。


(でもやっぱり――)


 悪い人では、ない気がする。


(とすると……)


 ふーっ、と。

 絢人は不機嫌っぽく、息を吐いた。



 皇泉院絢人と絡んでいたから、悪役サイドのイメージがついただけ。



 そうなのかも、しれない。

 だとしたら……


(あんまり学園とかでも、絡まない方がいいのかな……個人的には残念だけど……)



 ずっと、思っていた。



 出番が減っていったからこそ。



 悪帝と仲良くなっていく冷帝を――そんな『えすぷり』の世界を見てみたい、なんて。



(淡い夢、かぁ……)



 などと、浸っている時だった。


「……んだよ?」


 反応は耐えたが――ちょっと、絢人はびっくりした。

 いつの間にかエリサが、距離を詰めてきていたからだ。

 そう、エリサにはがある。

 いつの間にか移動している――という錯覚。

 最短距離を、音を立てず詰めてくる。

 気が逸れたとか――視線を外したとか。

 こういう時を狙い、をしてくる。


 最短距離の選択。

 消音。

 意識や視線が外れた時を見定める。


 この三要素を揃えることで、まるで距離をワープしてきたように錯覚させる。

 ……という理屈らしい(花園会談)。

 ただ、こうまで認識が及ばないともはや特殊能力を疑ってしまう……。



「何か――悪いものでも、食べましたか?」



「あぁ?」


 動揺もなく不満を露わにする絢人だが、心の中ではドキッとした。

 あの久遠爾エリサの完璧に近い美貌が――すぐ目の前に、ある。

 ……近すぎる。

 というか……エリサも、その警戒心の薄さはなんなのか。

 彼女も一応〝戦える〟キャラのはずだが――

 もちろん、作中上位の絢人の戦闘能力とは比べものにならない。

 なのにこの近距離で。

 何かを見極める目で――絢人を、観察している。

 と、エリサがサッと身を離した。


「……失礼。ただ、あの立ち回り……どうも私には、あなたがあの義妹ぎまいのためにした風に見えました。あの悪帝がですよ? 信じられますか?」

「本人を前にして口にする言葉じゃねーだろ、それは……」


 エリサは不意に眉を顰め、ふむ、と口もとに手をやって唸った。


「それも、そうですね……しかし悪いものを食べたとかでもない限り、説明がつかない気が……」

「……なんつー失礼な女だ」

「ではお互い失礼者同士ということで、引き分けとしましょう」

「…………」

義妹いもうとさんによろしくお伝えください――それでは」



 そう言って久遠爾エリサは、そのまま絢人の横を通り過ぎていった。





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