雨があがれば………
誰にも知られたくない秘密を、何故か知っている目の前の甘い男が急に怖くなった。
でも私は囚われの小鳥よろしく、彼の腕に抱かれていて。
その離れ難い熱から逃げるように、身を震わせてもその優しい束縛は、私の体に絡まって取れない。
「ちょっと、離して!」
「いやだ。やっとおーちゃんと水いらずで話ができるのに……」
チュッと後頭部にキスされた。
ボッと頭の芯からつま先まで熱くなる。
「俺はおーちゃんのことが好きだから、おーちゃんの全部を知りたいんだ」
「な、なに、言って……」
「ん?愛の告白だよ」
さらっとそんなことを呟く、不届き者はそのまま私の耳にキスした。
ちょっと掠れ気味な熱い声にビクンっと体が跳ねる。
私を包む空気が熱せられて、私の思考もズブズブと溶かされていく。
「実は大人しくて、誰かに命令するのも気が引けちゃうほどにお人よしだってこととか。実は無理して背伸びして、厚化粧で大人の顔を保っていることとか。ツケマがなかったら、外に出るのも怖いくらいのビビりさんだとか、おーちゃんのことはなんでも知っている」
熱い手が私の頬に触れた。
そのまま頬に残った涙の跡に添わされていく。
「俺の前だけ、素の自分に戻っていいよ。もっと泣いていいんだ。もっと色んな顔を見せて」
ぐいっと頬を掴まれ、アンの方に向けられると、べロンと涙の残りかすを舐められた。
「可愛いおーちゃん、このまま俺のものになればいいのに」
くすぐったい科白。
それは貴方の優しさゆえの言葉?
枯れ切って、誰とも仲良くなれない私のことを労わって、そう言ってくれるの?
でも今はなんでもいい。
この抱き締められる温度が心地よくて……。
私はそのままアンの胸に頭を預けた。
今日だけ、今日だけ甘えさせて。
今日だけ素の自分を曝け出したら、明日からはいつも通りの私で頑張れるから。
だから…………。
私は小さな子どものようにアンに縋った。
遠くで地面を叩く激しい雨音なんかまったく気にならなかった。
***
「あぁ、せっかく二人きりなのに………」
そう言って、アンは自分の髪をかき上げた。
豪雨に晒された彼も全身ぬれ鼠だ。
でも、それでもエリオルノの後を追わずにはいられなかった。
彼女がここに来るかもしれない。
そう直感的に思った。
そう思うと居ても立ってもいられなくて、自分の家の窓からずっと見ていた。彼女が自分のアパルトマンから飛び出してくるその時まで。
「こうも安心しきって頼られると、下心ありありだったなんて言えないじゃないか」
ふっと切なげに破顔すると、アンは自分の胸に全てを預けて眠り出したエリオルノを見つめた。
ずっと彼女を見ていた。
誰よりも現場のことを考えていて、誰よりも仕事に真剣で、一生懸命に自分よりも屈強な男達と渡り合おうと背延びしていた。
そんな姿が危うくて、いたい気で、ずっと抱き締めたかった。
やっと手にいれたと思ったのに、こうも全身の信頼を持って頼られると、その信頼を裏切れなくなる。
「ズルイよ、おーちゃん。こんな緩んだ可愛い顔を俺に曝け出してさ。このまま襲われても文句言えないよ」
エリオルノの頬にキスをする。
しかし相手はすでに夢の中、何かむにゃむにゃと言って、アンのキスに抗議している。
「今だけ、だよ。そんな無防備な顔を守って上げれるのは」
そのままエリオルノに顔を寄せる。
ぷっくりと愛らしい唇は口紅が剥げて、元来のピンク色が所々に姿を顕わしていた。
「いつもの真っ赤な唇も情熱的だけど、俺はこっちの方が好きだな」
そう言うと、そのままエリオルノの唇に自分の唇を重ねて、真っ赤な情熱を掬い取った。
「俺の腕でゆっくりお休み。いい夢を」




