カツラが飛べば、私も飛ぶ
「まさか………」
まさか、そんな展開、あり?
私、絶対、この男に騙されているんだ。
こんなチャラチャラした男の言葉なんて、信じるに値しないわ。
そう分かっているのに、でももう手遅れ。
私の中の素直な私がその言葉をそのままに受け止めてしまっている。
「君は知らないんだろうね。君の前任者たちは、皆この現場をおざなりにして、全然現場に足を運ばなかった。こんな場所に追いやられて、皆腐っていたよ。仕事の進捗状況やここで働く作業員の士気なんかよりも中央省庁の偉いサンにおべっかすることを一番に考えていた。それもそうだよね、ここは王都の端。お情け程度のインフラ事業で、先の見えない作業ばかりだ。左遷って言葉がここほど似合う場所はない」
そう、ここは王都の端。
無意味なインフラ作業は、官僚にとって屈辱な職場だ。
でも……。
「でも、君は左遷されたと分かっているのに、前任者と同じ態度を取らなかった。自分に任された仕事を懸命に果たそうとした。始めは皆、前任者と同じだと君を侮っていた。それがどうだろ。今では君なしではこの現場は回らない」
「み、みんな、わたしのこと、みてて、くれたの?」
驚き過ぎて言葉にならない。
感情ばかりが先走って、私は込み上げる嗚咽を飲みこむのに精いっぱいだ。
「もちろん!いくらおーちゃんが上司のかつらを盛大に毟った結果ここに来たとしても、君の真摯な態度は皆の心に届いているよ」
なんだ、嫌われているってのは、私の杞憂だったんだ………。
って、ええ!なんか聞き捨てならない言葉が聞こえた!
聞き間違えじゃなければ、上司のかつらって言った?
「ん、なぁなぁなぁ、なんで知っているのぉぉぉぉぉぉぉ!!」
それは私の黒歴史の中でも他の追随を許さないほど、嫌な記憶だ。
知っているのは、私にかつらをひんむかれた上司と、その場にいた同僚5名のみ。
もちろん上司の無言の圧力のために、全員かん口令が敷かれている。
私だって誰にも言っていない。
唯一無二のベティにだって、ちょっとミスをして左遷されたとしか説明していない。
そう、あの日。
重要な法案の審議を前に、私は寝る間も惜しんで資料をまとめていた。
連日の過酷な勤務の所為か、その日は朝から頭がクラクラしていた。
そして悲劇は起きた。
立ちくらみを起こした私は思わず、その場にある物に縋ろうと手を伸ばした。
その先にあるのが、上司の黒々した髪の毛だと、この時の私は知らなかった。
縋ったはずの手がズリッと手ごたえなく、落ちていく。
倒れる!
咄嗟に足を踏み出し、その場に踏ん張った私は偉い。
でも、私がなんとか顔を上げた瞬間、視線の先は凍りついていた。
さっきまで黒々していたはずの上司の頭がツルツルスキンヘッドに早変わりしていた。
「っあ――――――――……」
「フフフフフフフフフフッ……バートリー君、君はどうやらかなりお疲れのようじゃないか。これでは体に触るな」
「あ、あ、あ………申し訳………」
「いやいや、何を謝るんだね。私は上司として、君の健康が心配だよ、ねぇ、バートリー君。ちょっと君には休息が必要だな」
そう言って私の手から黒々した髪を奪いかえすと、彼は肩を怒らせてその場を立ち去った。
その翌日、私に環境省への移動の辞令が届いた。




