差し出された雨傘
「私、土木なんて知らなくて、でも任されたならちゃんと仕事をこなさないといけないと思って、でも、ここでは私が今まで培ったスキルなんてまったく役に立たなくて、なんとか責任者らしくなんとかしようと思ったのに、ここの現場の人は私を遠巻きにしか見なくて………分かっているの、私は女で、しかも彼らにしたら鼻持ちならないキャリア官僚だって。でも、それでも認めてほしかった」
私は堰を切ったように泣いた。
涙を流し、鼻水をズリズリいわせながら、感情のままにアンに訴えかけた。
この半年、自分がどれだけ頑張ってきたか。
それをアンは、うん、うんっと優しく相槌を打って聞いてくれた。
私が心情を吐露している間、アンはずっと私の手を握ってくれて、抱きしめてくれた。
ああ、なんて心地よいのかしら。
他人の温度がこんなにも心地よいなんて初めて知った。
そうだ、遥か昔、小さな弟妹を抱きしめた時もこんな安らかな安堵を感じた。
私はいつからこの穏やかで、胸を熱くする感覚を忘れていたのだろう。
ただ触れ合っているだけなのに、今まで心に溜めてきた負の感情が溶けていくように思えた。
「おーちゃん、大丈夫。君の頑張りは誰もが認めるところだ。皆、ちゃんとそれを感じているよ」
アンが優しく髪を撫でる。
それを全身で伝えるように、きつく私を抱きしめた。
「そんな訳ないわ。だって皆、私が嫌いで……」
「誰がそんなこと言ったの?」
「そんな明け透けないこと、誰も言わないわよ。でも、いつまで経っても縮まらない距離や遠巻きにされる態度で分かるのよ。皆、私のことを敬遠してて、嫌っているって!あの誰にでも分け隔てないラズロさんも私と話す時は、一歩引けてるしさ!」
もう恥はかき捨てだ。
私はアンの腕の中で、感情のまま叫んだ。
そのまま両手をばたつかせる。
そんな私に、アンはクスっと色気に満ちた笑みを浮かべた。
暗闇なのに、どんな顔をしているか分かるほど、彼の眼が嬉々と輝く。
「こんなオープンなおーちゃんが見れるなんて、俺って役得だな」
「な、なによ~?」
「いやいや、こっちの話。ホントは教えたくないけど、おーちゃんがそれで悩んでいつも泣きそうな顔で仕事しているかと思ったら忍びないから教えてあげる」
なんと上から目線の言葉だ。
ちょっとだけムッとした。
「何?何を教えてくれるっていうのよ?」
「ふふっ、知りたい?」
「はぁ?あんたが言い出したんじゃない!それを聞きたい?だなんて、ズルイわよ!」
下からアンの顔を睨み上げると、青空のような瞳が情熱的に私を見つめているのとぶつかった。
ドクンッ――――――――。
その瞳で見つめられる旅に、私は冷静さを失う。
今だって何も取り繕えなくて、結果、子どものように叫ぶだけ。
「ホントは言いたくないな~。だって言えば君は俺以外にもその可愛い素顔を見せるかもしれない」
「ほへっ?」
「クスっ、ホントは誰も君を嫌ってないって話!ただ、女で、上級官僚で、しかもスキップで大学を卒業した雲の上の存在に戸惑っているだけ。なのに君ときたら、皆に見縊られないようにって、威圧感たっぷりに対応するものだから、皆、どう接していいか分からないんだよ」
へぇ……ひぇ?
嫌われてない?
てか、なんとか体面を保つ度に施した鎧メークの所為で、皆を遠ざけていたの?
「う、うそ………」
「ホント!」
呆然とする私の顔をアンが覗きこむ。
そして甘い甘い笑顔を浮かべた。
「皆、知っているよ。おーちゃんがどれだけ頑張り屋さんか。それでもって好意をもっている。でもそれを伝える術を知らないだけ」




