ある意味、本日一番の危機…かも?って、ふざけんな!
伸ばした手が力強く握りしめられる。
ドクンと鼓動が跳ねた。
華奢で頼りないなんて思ってごめんなさい。
あなたも、他の人と一緒で男の人の手なのね。
この逞しい腕が私を地上に引き揚げてくれるのね。
ここから抜けだしたら、もう少し素直な女になろう。
そしてアンのように誰にでも優しい人になろう。
そう彼の手を握って、心に誓った。
なのに…………。
ズリッと、頭上で嫌な音がした。
「ひへっ?」
実に情けない声を上げた私目がけ、頭上から何か大きなものが降ってくる。
それは落下の勢いのまま、私にぶつかってきて………。
言わずもがな、私はその勢いに押し倒され、地面で強かに頭を打ってしまった。
「っちょっと、な、な、何が起きたの?」
胸の上に自分じゃない体重を感じて、私は慌てた。
冷え切った体には雨で濡れた服しかなくて、そのペチョッと張り付いた服越しに熱い体温を感じる。
体が全部密着していて、恥ずかしさを通り越して、い、居た堪れない。
「わぁ~おーちゃんの体、柔らかいっ」
どんな嬉々とした声がすぐ耳元で聞こえた。
吐息混じりに耳朶を擽るその声に、体の芯が熱せられる。
「でも、胸ないよね」
カチン!
「よけーなお世話だ!」
私はぶつけた痛みを忘れて叫んだ。
でも私の上にいる不届き者には全然効果がなかったようだ。
アンはそのまま私の体に頭を押し付けて、まるで猫のようにグリグリって頭を押し付けてくる。
柔らかな毛が直接肌に当たって、こそばゆい。
「ちょっと、離れてよ、この役立たず!」
結構全力で拒絶したはずなのに、アンは私の上に圧し掛かったまま、ニヤリと笑った。
それは、いつもの爽やかな笑顔と違って、意地悪で黒い笑みだった。
「ねぇ、おーちゃん、今ここにはおーちゃんと俺しかいないよ?」
それは分かりきったことだ。
でもその現実に私の体がビクリと反応した。
なんて言うかアンがいつもと違いすぎて、色気が駄々漏れなのだ。
ちょっと、いつもの可愛いアンちゃんは何処に行った。
なんでこんな発情期の獣みたいな熱い視線で私を見てくるんだ。
「やっと、捕まえた」
首筋に口付けられた。
な、なに、何が起きているの?
これは未知との遭遇?
何故アンが私の上に乗っかって、こんな男女の情事を思わせるようなことを言うんだ。
あまりに経験のない事態に、私の思考がフリーズした。
「おーちゃん、あんなにもモーションかけてるのに、まったく相手にしてくれないんだから」
ちゅっと軽いリップ音が暗闇に響く。
アンの、意外に大きな手が、きっちり纏めた私の髪の間に差し込まれる。
そのままアンの手が私の髪を乱した。
雨に濡れてかなりほつれていたが、それでもなんとか形を保っていた髪が呆気なくほどかれ、私が好きじゃない癖っ毛の髪が肩にかかった。
アンはそのまま、私の地肌をなぞるように髪を撫でる。
「な、なんで………」
なんで私なんだ?
アンなら引く手あまただ。
可愛らしい女の子からクールビューティーなお姉さままで、誰だってアンに言い寄られたら悪い気はしない。
なのに何故、こんな豪雨の日に、こんな鄙びた場所で、あまつさえ枯れきった高慢な女を口説こうとしているのか。
ちょっと、何?
手直に女がいないから、干からびた私で済まそうとか考えている訳?
そんなの、全力で御断りだ!
私も乙女の端くれ、初めては出来たら、大好きな男性と夜空の星を見つめながらお花畑でって思ってた。
それはもう妄想の世界だ。
それっぽいロマンチックな情景で致したいんだ。
だから、こんな王都の端の、人っ子一人いない荒野のしかも地下で、私に劣等感しか抱かせない男に組み敷かれるなんて、絶対にない。
うぉぉぉぉぉおおおぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉ!
何もできない女だからって、舐めんなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおぉぉぉぉ!




