不意打ちのあったかさ…こういうの、ズルイ
実はとっくの昔に限界に来てた。
でも気付かない振りをしていた。
だけど、もう無理だ。
こうもまざまざと孤独に追い込まれると、死にそうなほど悲しいよ。
私はたったひとつの希望である、バクの穴を見上げた。
「ふぇぇぇん、だれか、たすけてよ………」
「はぁい!もちろん!」
誰にも届かない独り言だったはずだ。
その言葉に誰かが答えた。
それは聞き覚えのある、透き通った声だった。
「ひえっ?」
まるでしゃっくりみたいな声が出た。
思いもしないことに体が付いていかない。
驚いたまま、私はボケッと上を見上げるしかできない。
「呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャーン!アンちゃん、登場」
にょきっとバクの穴から丸いものが顔を出した。
それは真っ暗な中でも分かるほど、眩い太陽の色をしていた。
「おーい、おーちゃ~ん!愛しのアンちゃんが来たよ~!」
いやいや、別にあんたのことなんて呼んでないし!
しかも言うに事欠いて、愛しのアンちゃん?
誰がいつあんたのことを愛しいと言ったんだ。
ってか、なんでそんなに軽いの?
なにが呼ばれて飛び出て、だ!
これは何かに引っかかるんじゃないの?
ほら、著作権的な、何かにさ。
どうなっても私は知らないからね!!!
さっきまで一人ぼっりに震えていたのに、それが今は、いきなり現れた闖入者に絶賛突っ込み中だ。
「な、なんで、あんたがここに………」
ボケッと上を向いたまま、私は声を震わせた。
なんで、なんで?
ここには私しかいないはずなのに、それなのに、なんで………。
もうそれ以上、言葉が出ない。
冷たく冷え切ったはずの体が急に熱くなった。
「それはおーちゃんが俺を呼んだから」
なんて、甘さ120パーセントな声で言わないでよ。
もっと体が熱くなる。
暗闇で彼がどんな顔をしているか分かる。
きっといつも通り、可愛くって格好よくって、素敵な笑みを浮かべているんだ。
「よ、呼んでなんかない…………」
なんて強がってみたけど、いつも通り、彼を前にした私の声は震える。
「え?よく聞こえないな」
実はちゃんと聞こえているクセに。
なのに、こやつは私の心の中などお見通しで、こんな風に私をからかうんだ。
「な、なんでもいいでしょ?そこにいるなら早く助けてよ!」
私は力の限りに叫んだ。
助けてほしいからではなく、自分の感情を気取られたくなかったのだ。
「はいはい。お姫様、すぐに」
クスッと笑ったのが気配で分かった。
くそ~完全に馬鹿にされている。
なんだ、お姫様って!馬鹿にするにも程がある。
いつも高圧的にしか接してないのに、お姫様な訳あるか!
私は心の中で悪態を吐いた。
確かに、アンの存在は大きい。
でも、素直に彼に礼を言えない自分がいる。
なんてちっさい人間なんだ。
いつも取り繕ってばかりで……。
なのに、こんな私にもアンは分け隔てなく優しい。
その優しさがジンっと胸に沁みた。
「おーちゃん、手を伸ばして」
バクの穴からすらっと長い腕が伸ばされた。
なんか恥ずかしい。
私ばっかりが文句を言って、アンを遠ざけているのに、彼は何も言わずに私に手を差し出してくれる。
ねぇ、どうしたらそんなにもあまねく優しさを振る舞えるの?
どうしたら皆に好かれる人になれるの?
私は縋るように彼の手を見つけた。
そのままおずおずと手を伸ばすと、彼の手を握った。
あっ、あったかい。
自分以外の人の体温がこんなにもあったかいなんて。
不意に涙が零れた。
それは冷たい雫じゃなくて、アンの指先と同じくらい温かかった。




