聖剣、抜けるかな?
●今回の登場人物●
ミリア 案内人。疑り深い
ココ 聖剣は「ハチ公」だと勘違い
学者 街から来た偉い人。被害者
岩ノ山 元力士。被疑者
聖剣 抜けない。いろんな意味で
◇◆
今は村の昼下がり。
山神村の広場には、
300年前から一本の剣が突き刺さっているよ。
誰も抜くことができない、
伝説の『聖剣』なんだって!
「おお……これぞ
勇者のみが手にできる
伝説の聖剣!」
街から来た学者の先生が、
メガネをズレさせながら
大興奮しているね。
案内してきたミリアちゃんは
ちょっと素っ気ない。
「はぁ、そうですね。
村のみんなは『聖剣前』って
呼んでます。
今日の待ち合わせもそこね、
みたいな」
「ま、
待ち合わせスポットだと!?」
「えー?
あと『抜けない』から
縁起が良いって、
なぜか、おじちゃんたちが
お祈りしにくるよ?」
見ると、今も男性が
聖剣に頭を垂れている。
学者の先生はショックで
白目を剥きそうだ。
そこへ、
ドス、ドス、と地響きを立てて、
元力士の岩ノ山さんが歩いてきた。
「ようミリア、ココ。
これから飯か?」
「あ、岩ノ山さん。
ちょうどいいところに。
この先生がね、
聖剣を見たいんだって」
学者の先生は
岩ノ山さんを見上げて、
ひぇっと短い悲鳴をあげた。
「なんと屈強な……。
貴殿も、聖剣を望む戦士か!?」
「いや、ただの元力士だけど……。
これ、そんなに珍しいもんか?」
岩ノ山さんは何気なく
聖剣の柄を握る。
そして、
大根でも引き抜くみたいに
腕を持ち上げたんだ。
すぽん……ッ!!!
軽快な音を立てて、
300年間誰にも抜けなかった聖剣が、
あっさりと引き抜かれたよ。
「ぬ、抜けたァァーーッ!?」
学者の先生がひっくり返る。
聖剣が光輝く。
「おお! よくぞ我を抜いた、
真の勇者よ! 我の名は――」
なんと、
聖剣が急に喋り始めた!
岩ノ山さんはびっくり仰天。
「うわ、喋った!」
誰も見ていないうちに、
岩ノ山さんは聖剣をものすごい力で
台座の穴にグサッと突き刺し直したよ。
「ぶふっ!?
……ちょ、おま……待っ……」
元の深さより
深く刺さっちゃったみたい。
地面の底から
「……ゅぅしゃ……ょ……」と、
くぐもった声が聞こえるね。
「見なかったことにしてくれ」
「うん、関わらないのが一番だね」
ミリアちゃんも深くうなずく。
そこに、正気に戻った学者の先生が這い寄ってきた。
「あ、貴殿!
せめて、せめて
魔王の情報だけでも
聖剣に聞いてはくれまいか!」
無茶振りをされた
岩ノ山さんは困り果てた。
もう一度抜くのは絶対に嫌だ。
仕方がなく、
聖剣の柄に耳を当てる。
しばらくして、
岩ノ山さんは大真面目な
顔で立ち上がった。
「……先生。聖剣が言うには」
「『魔王の弱点は、こむら返り』
らしい」
「うそだー?」
子供達の冷ややかな視線が
突き刺さる。
一方そのころ、魔王城。
「痛だだだだだだだ!! 」
漆黒の玉座で、
世界の支配をもくろむ魔王が
足を抱えて悶絶していたよ。
「陛下、 またこむら返りですか?」
今日も世界は、なんとなく平和です。




