↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
repeat(リピート) ~運命の指輪に願うこと~  作者: しんいち
最終章 左手の約束

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/55

三話目 ガラスに写る二人

 青白い照明に映し出される、大きな水槽。

 その中で蠢く、見たこともない生き物たち。

 否応なしに、わたしのテンションは上がった。

 

「ねぇねぇ、コースケ、すごい!」

 

 水槽の前に駆け寄って、わたしは子供みたいにはしゃぐ。

 

 そしてそのなかでも、ひときわわたしの目を釘づけにしたのが——『ダイオウグソクムシ』だった。

 

 ——思ってたより、デカい……。

 

 二十センチ、いや、三十センチはあるだろうか。まさに超大型のダンゴムシだ。

 手のひらより小さいものを想像していたわたしは、思わず一歩引きかけたけれど——。

 

 この無数に並んだ足。

 白い身体に、目つきの悪い目。

 

 ——癖になる。

 なんか、意外と可愛くない?

 

「ねぇコースケ、ちょっと写真……」

 

 振り向くと、コースケは少し離れた場所で立ち止まって、そしてわたしと目が合う。

 

「どうしたの?近くで見ようよ。」

 

「いや、お、俺ここで良いよ。」

 

 泳ぐ視線、近づいてこない。


 ――はぁん、なるほど。

 

 わたしの口角が、ニヤリと上がった。

 

「怖いの?」

 

「はぁ! 怖いわけないだろ。」

 

 上ずった声で即否定するけれど——。

 

「ムシ、怖いんだ。」

 

 さらに問い詰めると、コースケは黙って目を逸らした。

 

「へぇ。コースケにも苦手なものあったんだ。」

 

 クスッと笑いながらからかうと、コースケは少し怒った顔で、それでも観念したように口を開いた。

 

「確かにちょっと苦手だけど、それとこれは別だろ。っていうかデカすぎだって。よく明穂、平気だな。」

 

 ようやく本音が出た。

 

「大丈夫だって、水槽だもん。

 ほら、こっち来て写真撮ろうよ。」

 

「待てって!」

 

 嫌がるコースケの手を引き寄せて、わたしはスマホを構えた。


 ★☆

 

 次にわたしの興味を引いたのは、メンダコだった。

 

 ——な、なにこの生き物。ぬいぐるみじゃないの?

 

 ウニョウニョと動く姿。

 間抜けた目。

 おまけに耳まである。

 

 ——ガチで可愛い。

 

「これスゲー、マジで生きてるのか?」

 

 ダイオウグソクムシでやられていたコースケも復活して、水槽に顔を近づけた。

 

「ホント、可愛いわよね。……これ、たこ焼きにしたら美味しいのかしら。」


 何気に言った一言。

 

 すると横から鋭い視線が刺さった。


 恐る恐る顔を向けると、コースケが盛大に呆れた顔でこちらを見ている。

 

 ——や、ヤバい。

 

「じょ、冗談に決まってるでしょ! もう、本気にしないでよ」

 

 わたしはコースケの肩を叩いて笑った。

 内心ドキドキしながら……。

 

 でも、コースケの視線は、しばらくわたしから離れなかった。


 ★☆


 そして——クラゲのコーナー。

 

「「おーぉ……!」」

 

 入った瞬間、わたしとコースケの声が重なった。

 

「きれい……」

 

 あまりに幻想的な光景に、わたしはその場で立ち尽くした。

 

 ゆらゆらと揺れるクラゲたちは、まるで夜空から舞い降りた宇宙人みたいだった。

 青い光に包まれて漂う姿を見ていると、ここだけ時間が止まったような、不思議な気持ちになる。

 

 ずっと見ていても、飽きない。

 

 その場の空気に呑まれて、わたしとコースケは黙ったまま水槽を見つめていた。

 ゆっくり歩いては足を止め、また歩いてはクラゲを眺める。

 

 すると——ふと、わたしはあることに気づいた。

 

 ガラスに反射して映る、わたしとコースケ。

 いつの間にか、腕を組んで歩いていた。

 

 不意に恥ずかしくなって下を向いたけれど、ひとつ息を整えてからもう一度顔を上げる。

 

 ガラスの中のわたしたちは——どこからどう見ても、恋人同士だった。

 

 わたしはほんの少しだけコースケの方へ身体を寄せて、ガラスに映る自分に笑いかけた。

 

 ——幸せな顔をしている。

 

 わたしは、コースケの恋人になったのだ。

 その自覚が、初めて胸の奥にすとんと落ちてきた。じわりと熱くなる。

 

 コースケの顔をちらりと見て——わたしはそっと声をかけた。


「写真撮らない?」


 本当の恋人になった記念に……


 ★☆

 

 水族館の、最後のブース。

 

 わたしたちは水族館の『目玉』を前に、すっかり恐れおののいていた。

 

「で、でかいわ。」

 

「うん、でかいな。」

 

 シーラカンスだ。

 

 スマホで調べた時に画像は見ていて、その形は知ってはいた。

 

 でも——大きい。

 想像をはるかに超えて、大きい。

 

 わたしと同じくらい、いや……コースケと並んでも引けを取らないくらい。

 

 しかもそんなのが、二体もいる。

 

「迫力あるわねぇ。」

 

「お、おう。」


「これ食べれるのかしら。」


「標本だから無理じゃねぇ。」

 

 二匹の怪物にすっかり圧倒されたわたしたちは、ひとまず売店へ移って飲み物を流し込んだ。


 そして——いよいよ、お目当てのシューティングアトラクションへと向かった。


 ★☆

 

 とうとうこの時が来た。

 前日にゲームセンターで腕を磨いてきた。

 準備は万端だ。

 

 全部撃ち落として、最高得点で出口を出てやるわよ。

 

「いて、痛えよ明穂。」

 

「ごめん」

 

 握る手に思わず力が入って、コースケの手を握りつぶしそうになっていた。

 

 さあ、ゲームの始まりよ。

 

 意気揚々と角を曲がった、その先で——わたしの足が止まった。

 

「明穂、早く行こうぜ。」

 

 コースケが手を引くが、わたしは首を横に振った。

 

「ダメ!」

 

 後ずさりながら、わたしはコースケの手を止める。

 

「どうしたんだよ。楽しみにしてただろ。」

 

 きょとんとするコースケに、わたしは激しく首を振った。

 

「ダメ、お願い。

 コースケ、行っちゃダメ。」

 

 するとコースケが、いたずらっ子みたいに口角を上げて、わたしの手を強引に引っ張った。

 

「コースケ! マジでダメ。

 わたし、こういうのホントにダメなの。」

 

「うん、知ってる。」

 

 もうなんでよ。

 

 なんで——『シューティングアトラクション』が、『夏季限定、ホラーアトラクション惨劇の館』に変わってるのよ。


 ★☆


 わたしは夏が好きだ。

 でも——ひとつだけ、文句を言いたいことがある。

 

 なんで夏になると、ホラー映画や怪談話たちが急に顔を出してくるのか。

 

 これを見て、聞いて、暑い夏を涼みましょう。

 

 まったく意味がわからない。

 

 しかも夏期限定って何。普通で良いじゃない。


 わたしはふつーーうのアトラクションを楽しみたかったのよ。

 

 涼みたければアイスを食べれば良い。

 かき氷を食べれば良い。

 クーラーの効いた部屋でお腹を出して寝ていれば、それだけで風邪を引くくらい冷えるわよ。

 

 なんで絶叫して喉を痛めて、ドキドキしすぎて心臓を痛めて、挙げ句に夢に出てきて、起きたら廃人にならなきゃいけないのよ。

 

 そんな恐ろしい場所に、わたしは今まさに連れていかれようとしている。

 

 しかもコースケ——知ってたわね、その顔。

 

「ちょっと待って、ストップ。ほら、あれ見てよ。」

 

 わたしは足を踏ん張り、指を差した。

 

「なんだよもう……」

 

 指の先では、小さな女の子が泣いていた。

 アトラクションを出た直後らしく、お母さんの腰にしがみついてわんわん泣いている。

 

「ほら、子供が泣いてるじゃないの。それだけ怖いってことよ。だから止めよ。」

 

「う〜ん」

 

 コースケの足が一瞬止まる。

 

「でも、俺たち大人だろ。」

 

 あっさり論破されて、わたしはずるずると引きずられた。

 

「ちょっと、わたしのメンタルは子供なの。無理に決まってるでしょ。」

 

 そんなわたしを無視して、コースケは受付に「大人二枚」と淡々と告げた。


 ★☆ 


「キャァァァァァ!」

 

 アトラクションの中に、わたしの悲鳴がこだまする。

 

 銃は渡されたものの、もうシューティングどころの騒ぎではない。

 

 VRゴーグルに映し出されるのは、リアルすぎる怖い館の内部。そこへ追い打ちをかけるように流れる、不気味なBGM。

 

 ——もう無理。助けて、誰か。

 

 コースケは当てにならない。怯えるわたしを見て、ケラケラと笑っている。

 

「ほら明穂、このへんは大丈夫そうだぜ。」

 

「ホント?」

 

 恐る恐る目を開けると——目の前に、血だらけの女。

 

「イヤァァァァァ!」

 

 今日何度目かの絶叫が、アトラクションの中に響き渡った。


 ★☆

 

 ようやく会場を出たわたしは、放心状態だった。

 生気を使い果たして頭がぼうっとする。

 

 ——わたし、生きてるわよね。

 ——髪の毛、白くなってないかしら。

 

 ちょっと心配になって、近くのガラスに映る自分を確認した。

 

 ——うん、生きてる。髪も大丈夫。

 

 すると、後ろに回り込んだコースケがわたしの頭をじっと見た。

 

「あっ、白髪!」

 

 ピン——プツン。

 

「痛っ」

 

 いきなり抜かれて、わたしは現実へと引き戻された。


「もう!」


 わたしは声を上げコースケを睨み付けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。