↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
repeat(リピート) ~運命の指輪に願うこと~  作者: しんいち
最終章 左手の約束

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/55

二話目 繋いだ手の温度

 そして――その日がやって来た。

 

 タンスの奥から、久しぶりに女の子らしい服を引っ張り出す。

 お気に入りのスカートに足を通して、鏡の前に立った。

 

 今日、わたしはコースケと水族館へ行く。

 恋人になってから、初めてのデートだ。

 

 二人で出かけること自体は、初めてじゃない。

 

 それなのに胸の奥が落ち着かなくて、自然と準備にも力が入る。

 

 けれど——夏祭りの時とは、少し違っていた。

 

 あの時みたいに、緊張で頭が真っ白になることはない。

 告白のあと、わたしとコースケは何度か顔を合わせていた。

 

「お、おう。」

 

「う、うん……お、おはよう。」

 

 最初こそそんなぎこちない挨拶しかできなかったけれど——。

 

「えっ、こっちで良くね? イルカもいるし」

 

「違うの、コースケ。こっちこっち、これ見てよ。」

 

 気がつけば、わたしが心配していたことなんて嘘みたいに、以前と変わらず話せるようになっていた。

 

 ううん。

 

 もしかしたら、前よりずっと自然かもしれない。

 

 好きな人が、自分を好きでいてくれる。

 その事実は思っていた以上に大きくて、胸の中に不思議な安心感をもたらしてくれた。

 

 そして——ほんの少しだけ、独占欲も。

 

 コースケの笑顔を見るたびに、そんな気持ちがひょっこり顔を覗かせる。

 

 もちろん、口には出さないけれど。

 

 それでも以前より、二人の距離が近くなった気がしていた。

 

 水族館へ行く話を結依にしたとき、

『またお化粧しようか』

 と言ってくれた。

 

 でも、その時のわたしは首を横に振った。

 

 告白の夜、コースケはありのままのわたしを好きになってくれた。

 だから、わたしも無理はしたくない。

 

 もちろん可愛いと思われたいし、少しでも綺麗に見られたい。

 だけど背伸びをしたって、きっと長くは続かない。

 

 ちょっとがさつで。

 ちょっと不器用で。

 そして、ちょっぴり——いや、かなり胸がない。

 

 それが、中森明穂という人間なのだ。

 

 そんなわたしを好きになってくれたのだから、変に取り繕う必要なんてない。

 だからメイクも控えめに。

 前に結依が選んでくれた桜色のリップを、唇にのせた。

 

 鏡の中の自分が、ほんの少しだけ大人っぽく見えた。

 

「……うん」

 

 悪くない。

 右を向いて、左を向いて、何度か角度を変えながら確認する。

 

 よし。

 準備は万端だ。

 

 時計を見る。待ち合わせまでは、まだ少し早い。

 

 それでも荷物を手に取った瞬間には、もう気持ちは家の外へ飛び出していた。

 

 だって今日は——。

 

 大好きな人と、恋人になってからの、初めてのデートなのだから。


 ★☆


 お祭りの時と同じ場所。

 駅前の小さな公園へ向かいながら、わたしは逸る気持ちを必死に抑えていた。

 

「コースケ!」

 

「おう!」

 

 絶対わたしの方が早く着いたと思っていたのに、コースケはすでにベンチのそばで待っていた。

 

「早くない?」

 

「うん、まぁ……ちょっと」

 

 そう言って目を逸らしたコースケの耳が、少し赤い。

 

 なんだ。

 やっぱり同じじゃない。

 

 そのことが妙に嬉しくて、わたしは思わず笑みをこぼした。

 

「ちょっと早いけど、行こうぜ。」

 

「うん!」

 

 差し出された手を、自然に取る。

 指先から伝わる体温に、胸がくすぐったくなった。


 ★☆

 

 わたしたちの町の近くには、水族館が二つある。

 ひとつは定番の大型水族館。

 もうひとつは、深海魚をメインに展示している、少し変わった水族館だ。

 

 コースケは普通の方を推していた。

 でも、わたしは断然こっち派だった。

 

 理由は簡単。

 

 まず深海魚。あのキモ可愛い感じがたまらない。

 それに館内には、最新のVRを使ったシューティングアトラクションがある。スマホで調べていた時、それを見つけた瞬間に心を掴まれた。

 

 わたしは射撃が得意だ。

 視力2.5は伊達じゃない。

 

 またコースケと賭けをして遊んでも良いし、それにコースケにはちょっとだけ格好いいところを見せたい。

 

 それと——水族館の周りに広がるグルメ街も、見逃せなかった。

 

 港のすぐ近く。新鮮な海の幸が並んで、食べ歩きできるお店もたくさんある。コースケと手を繋いで歩くだけでも、きっと楽しい。

 

「絶対ここがいい。ねぇ、ここにしよう!」

 

 猛プッシュを続けるわたしに、コースケも最後には折れてくれたのだった。


 ★☆

 

 バス停で待っていると、コースケが急にバッグの中を探り始めた。

 

「忘れ物?」

 

「違う違う。あった、あった。」

 

 安心したようにバッグを閉じたところへ、ちょうどバスが到着する。

 

「乗ろうぜ。」

 

「うん!」

 

 並んで乗り込み、しばらく揺られて——目的地に着いた。

 

 外へ出た瞬間、潮の香りが鼻をくすぐる。

 

 海の匂い。

 そして、魚介を焼く香ばしい匂い。

 もう最高だ。

 

 朝ごはんをちゃんと食べてきたはずなのに、お腹がしっかり反応してしまう。

 

「ちょっとだけ食べていかない?」

 

「ダメだよ。」

 

 即答だった。

 

「明穂、食べ始めたら止まらないだろ。先にこっち」

 

 手を引かれ、そのまま連行される。

 

「えぇ〜。ちょっとだけなのに。」

 

「後でな!」

 

 わたしの抵抗は、あっさり却下された。

 

 目的の水族館はグルメ街の真ん中あたりにある。平日のせいか人はそこまで多くないけれど、夏休みらしく家族連れの姿が目立っていた。

 

 もちろん、その間も情報収集は怠らない。

 

 視力2.5の実力を遺憾なく発揮しながら、周囲を見回す。

 

 サザエのつぼ焼き。……これは外せない。

 深海プリン工房。お土産の候補ね。

 ジェラート。食後にちょうど良さそう。

 

「おい、明穂」

 

「ふぇっ!?」


 突然声をかけられて、変な声が出た。

 

「食いもんばっか見てないで、ちゃんと歩けよ。」

 

 見透かされていた。

 思わず顔が熱くなる。

 

「ほら、あそこ」

 

 コースケが指差した先を見る。

 

 白を基調にした大きな建物。

 入口の上には、巨大なエビとカニのオブジェが飾られていた。

 

「おおっ!」

 

 思わず歓声が漏れた。入口の列も、思ったより短い。

 

「すごい! 早く行こ!」

 

 今度はわたしがコースケの手を引いた。

 胸を弾ませながら、水族館へ向かって駆け出す。

 

 今日という一日は、まだ始まったばかりだというのに。

 わたしはもう、楽しくて仕方がなかった。


 チケットを買い、列へと並ぶ。

 コースケと一緒ということもあるけれど、なんだか、列の前にいる子供達の様に、ワクワクして落ち着かない。


 ゲートを潜った瞬間、青白い照明に照らされた大きな水槽が目に飛び込んできた。

 

「わぁっ!」


 思わず歓声を上げて、わたしはコースケの手を引いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。