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repeat(リピート) ~運命の指輪に願うこと~  作者: しんいち
六章 私の答え

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七話目 繋いだ手の温度

駅前の小さな公園。

 

 周りを見渡したけれど、コースケの姿はまだない。

 腕時計を確認すると、五分前。

 もう一度あたりを見回して、「う~ん」と溜め息をついて俯いた。

 

 それにしても、恥ずかしい。

 

 こんなにがっつりお化粧をして出歩いたことなんてないから、周囲の視線がやたらと気になって、顔を上げていられない。

 

 結依と澪は綺麗だと褒めてくれたけれど……本当に大丈夫かな、わたし。

 

 本当に綺麗に見えてる?

 

 考えれば考えるほど不安になってくる。

 

 ――早く来ないかな。

 

 もう一度、腕時計を見る。

 約束の時間を五分過ぎていた。

 いつもならわたしより先に来ているはずなのに、何かあったのだろうか。

 

「明穂!」

 

「うわっ!」

 

「ご、ごめん。」

 

 浴衣姿のコースケがいきなり声をかけてきて、わたしは目を丸くした。

 

 わたしとお揃いの、深い紺色の浴衣。

 いつもと違う、大人っぽいコースケに思わず見とれた。

 

「本当にごめん。」

 

 コースケがさらに謝ってくる。

 

「ううん、全然大丈夫だよ。コースケにしてはちょっと遅かったけど、何かあったの?」

 

 問いかけると、コースケはすぐに首を横に振った。

 

「気付かなかった。」

 

「んっ?」

 

「だって、めっちゃ綺麗だから。明穂だって気付かなかったんだ。」

 

 心臓がどくんと跳ねた。

 目が飛び出しそうなくらい見開いて、ぱちぱちと瞬きをする。

 

「き、綺麗?」

 

「うん、すごく綺麗。」


 コースケが頭を掻きながら言い訳を続けた。


「ちょっと前に来てたんだけど、待ち合わせ場所に綺麗な人がいてさ、ナンパだと思われるの嫌だから少し離れた場所にいたんだ。まさか明穂だとは思わなくて……本当にごめん」

 

 ――いやいや、謝らないで。

 

 めっちゃ褒められているんですけど、わたし。

 心臓が壊れそうなくらいドキドキしているんですけど。

 

「なあ明穂。これ、似合ってるか?」

 

 今にも倒れそうなわたしの事情など知る由もなく、コースケが照れくさそうに浴衣を見せてくる。

 

「真琴のヤツ、地味とか言ってたけど……やっぱり地味か?」

 

「ううん……似合ってる。コースケじゃないみたい」

 

 褒めてもらったお返しに、わたしはコースケへ笑顔を向けた。

 少し頬を赤くしたコースケが頭を掻く。その姿につい、くすっと笑いがこぼれた。

 

「じゃあ行こうぜ。小腹も空いたし、軽く何か食べようか。」

 

 コースケがわたしの手を取って歩き出した。

 

 ――ちょっと待って、コースケ。

 

 なんで自然に手を繋いでいるの。

 て、手汗がやばいんですけど。

 

 なによこの攻撃は。綺麗だと褒めておいて、続けて手繋ぎのコンボなんて、わたしの心が耐えられる訳がないでしょ、もう!

 

「何がいい、明穂?」

 

「じゃあ……たこ焼き」

 

 そ、そうよ。落ち着きなさい、わたし。好物を食べて意識を逸らすのよ。

 

「了解!じゃあ行こうぜ。」

 

 ――ひぃ。

 

 手をぎゅっと握られて、悲鳴が出そうになった。


 たこ焼き屋に着いた。

 

 一昨日来たばかりのいつものお店が、今日はすっかり様変わりしていた。

 

 軒先に提灯が揺れて、ポップもお祭り仕様。

 中のおじさんも法被を纏って、まさにお祭りといった出で立ちだ。

 

「おっ、明穂ちゃん!見違えちゃって。

 コースケくんもカッコいいねえ!」

 

 おじさんの威勢のいい大きな声が飛んできて、わたしは思わず俯いた。

 やっぱりまだ慣れない。

 

 代わりにコースケが挨拶を返すと、「どれにする?」と柔らかな声が聞こえて顔を上げた。

 

 ――ギルティ デラックス フルコンボ。

 

 一瞬、その名前が視界に映ったけれど。

 

「こ、これにする。」

 

 指を差したのは、普通のたこ焼きだった。

 

「どうした明穂?」

 

「元気ないのかい、明穂ちゃん?」

 

 二人が同時に驚いた顔をするけれど。

 

 緊張してる人間が、あのフルコンボを食べられる訳がないでしょ。

 

「ちょっと帯がキツくて……エヘヘ」

 

 そう言い訳して笑って見せる。

 

「そうなんだ。絶対これだと思ったから、心配したよ」

 

「いやあ良かった。具合が悪いのかと思った。」

 

 ――失礼ね、まったく。

 

 わたしだっておしとやかにする時くらいあるのよ。

 ぷっと頬を膨らませて、そっぽを向いた。


 たこ焼きを一粒口に放り込む。

 

「うん、美味しい。」

 

 この瞬間が、妙に落ち着く。

 

 コースケもわたしが持つ皿から一粒楊枝で取って、口に入れた。

 

「うまい。やっぱここのたこ焼き、美味しいよな。」

 

 満足そうに目を細める。

 

 や、やっぱりこれかしら。

 

 何かをしていないと、今のわたしは落ち着かない。

 コースケが隣にいるだけなのに。

 ……なんでこんなに苦しいの。 

 

 おそらく、これはストレス。

 

 お化粧なんてしないわたしが、お化粧をして、好きな人と夏祭りデートをして、さらにしおらしく見せようと食べたいものまで我慢している。


 これはきっと、拒否反応というやつに違いない。

 

 だったらするべきことは、ただひとつ。

 

「ねえコースケ、次あれ食べよ。」

 

「綿菓子!?帯苦しいんじゃなかったのか。」

 

「いいの、いいの、ほら!」

 

 何かが、弾けた。

 我慢の限界だった。わたしはコースケの袖をぐいっと引いて、次の屋台へと急いだ。


 ★☆


 く、苦しい……。

 食べ過ぎた。

 

 綿菓子、ソーセージ、人形焼き、りんご飴。

 デザートに焼きそばをと思って取っておいたのに、もう入らない。

 

 帯を緩めたい。でも一度緩めたら元に戻せない。でも何か食べていないと……。

 

「ねえコースケ、次あれ!」

 

 かき氷の屋台を指差した。かき氷なんて所詮は水だ。あれくらいなら腹には入るかも。

 

 そのとき、コースケの手がわたしの手を掴んだ。

 

「明穂、落ち着けって。」

 

 そのまままた手を引かれる。

 

「うん……」

 

 思わず俯いた。


 ――しまった。

 

 はしゃぎすぎた。

 

 いや、違う。


 また、逃げた。

 

 ストレスだなんて勝手な言い訳をして、自分を誤魔化していただけだ。

 わたしが逃げていたのは、コースケからの告白から。


 気持ちはもう決まっているはずなのに、なぜか心も身体も、どこかで拒否をする。

 

 わたしが弱いから。

 恋愛の耐性がないから。

 それとも、あのとき偶然聞いてしまったあの『ダメ』という言葉のせいなのか。


 もうよく分からない。

 

 自然に振る舞えない。

 普段のわたしがどんなだったか、さえ思い出せない。

 

 黙ってわたしの手を握るコースケの横顔をちらりと盗み見ては、またすぐに俯く。

 

 せっかくの楽しいデートなのに、わたしのせいで……また。

 コースケの顔を見るたびに胸が締め付けられて、泣きたくなってくる。


 黙ってるけど、やっぱり呆れちゃったのかな。

 

 ドン。

 

「うわっ!」

 

 前を見ていなかったわたしが、コースケに軽くぶつかった。

 

 恐る恐る顔を上げると、コースケの横顔がすぐそこにあった。

 口角をわずかに上げて、顎をくいっと持ち上げている。

 

「これやろうぜ!」

 

 視線を辿ると、射的の屋台だった。

 目を丸くするわたしに、コースケが「勝負しようぜ」と持ちかけてくる。

 

「うん、別にいいけど。」

 

 戸惑うわたしの手を引いて、コースケは射的の屋台へと連れていった。

 

「三回勝負。負けた方が勝った方の言うことを聞く。それでいいか?」

 

「えっ!」

 

 突然の宣言に焦るわたしを見て、コースケはにやりと笑った。




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