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repeat(リピート) ~運命の指輪に願うこと~  作者: しんいち
repeat5 歪んだ正解

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五話目 未来で会おう

「みらいは『タイムリープ』って言葉、知ってる?」

 

 膝に手を置いて、みらいの顔を覗き込むように話を始めた。

 唐突な質問に、みらいは首を一瞬傾げて、疑問符が浮かんだように視線を空へ向けた。

 

「うん、知ってるよ。」

 

 小刻みに頷きながら、確かめるように続ける。

 

「確か……時間がさかのぼる……違うか、何度もやり直すみたいなやつだろ。」

 

 子供らしい曖昧な答えに、わたしはくすっと笑った。

 

「そうそう。よく知ってるじゃん。」

 

「漫画で読んだんだよ。それで、それがどうしたのさ?」

 

 きょとんと丸い目でわたしを見てくる。

 わたしは一度頷いて、覚悟を決めるように口を開いた。

 

「わたしね……そのタイムリープが、できるの。」

 

 みらいはぱちぱちと目をしばたたかせて驚いた顔を見せたが、すぐに口を尖らせてぎっと睨んできた。

 

「そんなの嘘じゃねぇかよ。

 子供だからって馬鹿にしてるだろ。

 それくらい俺にだってわかるんだぞ。」

 

 まあ、当然の反応ね。

 

 苦笑いしながら一瞬続けるか迷ったけれど、もう気持ちは傾いていた。

 

「本当だもん。そんな嘘つくわけないでしょ。」

 

 頬をぷくっと膨らませて、子供みたいに不満を見せた。

 それでもみらいの疑いは消えない。

 

「本当なら見せてみろよ、そのタイムリープ。」

 

「無理よ。だって戻ったら、みらいが全部忘れちゃうじゃない。」

 

 子供相手に本気になって、――どうよ、とばかりに勝ち誇る。

 

 言葉に詰まったみらいに、言い聞かせるように続けた。

 

「いいから黙ってお姉さんの話を聞く。

 女の子の話ちゃんと聞かないと、モテないわよ。」

 

 なんとなくそれっぽいことを言ってみらいを黙らせてから、わたしは語り始めた。

 

 堰を切ったように――全部を。

  

 タイムリープができるようになったきっかけ。

 結依のこと、澪のこと。

 少し前に起きたこと、今まさに起きていること。何もかも。

 

 孤独だった。

 

 誰かにずっと聞いてもらいたかった。

 わたしはみらいに打ち明けた。

 

 みらいは最初こそ怪訝な顔をしていたけれど、わたしが話し続けるうちに、口を閉じて静かに聞き入るようになっていた。

 

 話しているうちに、心が晴れていくような感覚があった。

 

 ――誰にも共有できない、わたしだけの秘密。

 

 こんなに重いものをずっと背負っていたのかと、自分でも驚くくらい、心が軽くなっていく。

 

 でも――それは一瞬だった。

 

 ここ数日……いや、ここ数時間に起きた出来事を話し始めた途端、わたしの心に暗く厚い雲がかかった。

 目から、雨が静かに落ちた。


 わたしは袖で涙を拭うと、自嘲気味にみらいへ言った。

 

「わたし、馬鹿だった。

 タイムリープの怖さをわかってたのに、ズルしちゃって、取り返しのつかないことになっちゃった。

 ほんと……どうしようもないよね。」

 

 全部吐き出して、肩をすくめる。目頭に力を込めて、こみ上げるものをぐっとこらえた。

 

 みらいはわたしの話を聞き終えて、黙ったまま空を見上げていた。

 

 ――難しい話だったかな。

 

 横目でそっと顔を見やって、すぐに視線を落とす。

 

 慰めてほしいわけじゃなかった。

 子供に打開策を期待していたわけでもない。

 でも、何も言わないみらいに……寂しさを感じた。

 

 ――何を期待していたんだろう。

 ただ聞いてほしかっただけなのに、それでもやっぱり、何か言ってほしかった。

 

 やっぱりわたしはズルい。

 

 膝の上の手を重ねて、ぎゅっと握った。

 

「なんだよ。それって自業自得じゃん。」

 

 顔を上げると、みらいがまっすぐな眼差しでわたしを見ていた。

 

「ズルなんてするからそんなことになったんだろ。姉ちゃんが悪いじゃんか。

 きっと神様が、そんなすごい力をくだらないことに使って怒ってるんだぜ。

 それにさぁ――」

 

 みらいの言葉が、一つひとつ胸に突き刺さる。

 断罪されているみたいに、わたしの心をえぐっていく。


 彼の言葉を聞いて身を縮こませた。

 

 うん。

 うん。

 うん……。

 

 神様に怒られていた。


 みらいの身体を借りて、わたしを叱りつけているみたいだった。

 

 彼の言葉が止まった。

 わたしは小さな声で言った。

 

「ごめんなさい。」

 

 すると――みらいの表情が変わった。

 わたしを許すように、ゆっくりと微笑みを浮かべる。

 

「本当に反省してるのか?」

 

「うん。」

 

「だったら戻れよ。」

 

「戻る?」

 

「そうだよ。」

 

 みらいがベンチから立ち上がって、わたしの手を取った。

 

「明穂、すごい力持ってるんだろ。

 だったらその力を使って、今を変えちゃえばいいじゃん。俺に見せてみろよ!」

 

 導かれるように、手を引かれる。

 でもわたしは首を横に振って、立ち上がらなかった。

 

「無理よ。そんな簡単にできないの。

 さっきも言ったでしょ。

 わたしのタイムリープは一時間か二時間しか戻れないんだから。」

 

「違うよ!」

 

 みらいが大きな声でわたしを引っ張る。

 

「最初に言ってた。友達を救ったときのやつだよ。あれだったらずっと先まで戻れるんだろ? それをやればいいじゃん。」

 

 苦笑いを浮かべて、再び首を横に振った。

 

「違うの……みらい、あれはね――」

 

「なんだよ。友達のこと、好きなやつのこと、諦めるのか?」

 

 弱気な言葉を遮るように、みらいが声を荒げた。

 

 わたしは驚いて顔を上げた。

 

「明穂、言ってたじゃねぇか。友達を救いたい、未来を変えるんだって! その時みたいに思ってみろよ。」

 

 心が、震えた。

 力をもらったように、胸が熱くなった。

 

「ちょっと待って……」

 

 手を引くみらいの手をぎゅっと握り返して、目を閉じた。

 

 ――戻りたい。

 

 お願い……お願い……お願い。

 もう一度。

 

 心から初めてタイムリープしたあの時のように、弱い心を打ち払うように――。

 

 すると、声が聞こえた。

 

 ――戻って。

 

 頭の中に、声が響いた。

 映像ではない。

 光の奥から、囁くような声が聞こえた。

 今まで映像は流れても、音が聞こえたことは一度もなかった。

 初めて聞こえた声に、わたしは一瞬動揺した。

 

 でも声は、止まらなかった。

 

 ――戻って。そして彼を、救ってあげて。

 

 目を開けて、みらいを見た。

 

 ――救ってあげて。

 

 はっきりと、声が聞こえた。

 変化に気づいたみらいが、わたしの手を引く。わたしはそのまま立ち上がった。

 

「ありがと、みらい。」

 

 見上げてくる彼にお礼を言って、両肩をそっと掴んだ。膝を折って、視線を合わせる。

 

「みらい。わたしは今から、過去に帰る。」

 

 静かに告げた。

 

「帰るけど、今から話すこと、忘れちゃダメ。」

 

「う、うん」

 

 わたしの圧に、戸惑ったように目を見開く。

 

「お父さんとお母さんが喧嘩したのは、いつ?」

 

「三日……四日前」

 

 小さく、呟くように答えた。

 

「じゃあみらいは、両親に自分の気持ちを伝えて。

 喧嘩しないでって。

 あなたの気持ちを……心からの思いを、お父さんとお母さんに伝えて。

 逃げちゃダメよ。」

 

 肩を掴む手に、力が入る。言葉を待つように、視線を合わせたまま動かなかった。

 

「も、もしそれでもダメだったら……」

 

 弱気な声に、わたしは一瞬目を閉じた。そして宣言するように、彼に告げた。

 

「その時は、わたしのところに来て。

 わたしがなんとかする。

 わたし逃げないから。」

 

 笑顔で言い切った。

 

「うん! 必ず行く。」

 

 みらいの顔に、笑顔が戻った。

 わたしは立ち上がった。

 

「見ててみらい、タイムリープ。

 見せてあげる。」

 

 沈みかけた太陽に向かって、足踏みを始めた。

 

 胴造り。

 息をゆっくりと吐いて、余計な力を全部払い落とす。

 

 見えない矢を手に取り、弓構え。

 ゆっくりと打ち起こして、引き分ける。

 

 そして――会。

 

 もう一度、みらいを見た。

 

「未来で会おう。」

 

 約束を交わす。

 

 頷くのを確かめてから、夕日に狙いをつけた。

 

 ――こんな未来、認めない。

 

「わたしが、変える。」

 

 矢を、放った。


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