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repeat(リピート) ~運命の指輪に願うこと~  作者: しんいち
repeat3 幽霊になった日

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18/40

四話目 納得出来ない正解

「貞子って、なによ。  もしかして――いじめてるの?」

 

 気づけば、強い口調になって、コースケに詰めよった。

 

 ――その呼び方が、どうしても許せなかった。

 コースケは目を丸くして、慌てて手を振る。

 

「違う、違うって。」

 

 そのまま、早口で言い訳を重ねる。

 

「クラスのやつらがそう呼んでるだけで、俺がいじめてるわけじゃねぇて。」

 

「うそ!」

 

 思わず、言葉がこぼれる。

 口を尖らせたまま、じっとコースケを睨んだ。

 

「“貞子”なんてあだ名、悪意しかないじゃない。  ……見損なった。」

 

 吐き捨てるように言って、私はそっぽを向く。

 

「明穂、ちょっと落ち着けって。本当に違うんだって……」

 

 困ったような声。

 それでも、すぐには怒りが引かなかった。

 コースケの言い分けを無視しながら歩いて――

 やがて、私は小さく息を吐いた。

 

 ……いいわ、話だけは、聞いてあげる。

 

 そんな私の空気を察したのか、コースケはほっとしたように肩の力を抜いた。

 そして、ぽつりぽつりと話し始める。

 

「アイツさ、見た目ちょっと変だろ。」

 

 言いにくそうに言葉を選びながら、話を続ける。

 

「顔を隠すみたいに、前髪ずっと伸ばしててさ。  でも、それだけじゃなくて……なんていうか、変なんだ。」

 

「変って、なに?」

 

 思ったよりも素直に、問い返していた。

 

「しゃべらねぇんだ。」

 

「……え?」

 

 一瞬、意味が分からなかった。

 

「それって、ただの人見知りとかじゃ――」

 

 言いかけたところで、コースケが強く首を振った。

 

「そういうんじゃない。」

 

 少し考えるように視線を逸らしてから、

 

「避けてる……いや、違うな。

 無視してる、って感じ。」

 

 言葉を探すように、ゆっくりと続ける。

 

「それって、コースケたちがいじめてるからじゃないの?  だから喋らないんでしょ。」

 

 疑いは、消えない。

 わざとらしく頬を膨らませながら、じっと見つめる。

 

「だから違うって、最初からなんだ。」

 

「最初から……?」

 

「ああ」

 

 コースケは小さく頷いた。

 

「うちのクラス、けっこう仲いいんだ。

 いじめとか、そういうのは本当にない。」

 

 確信を持って頷く。

 

「アイツ、ああいう見た目だけどさ。

 最初は何人か、普通に話しかけてたんだ。

 でも……全部、無視なんだぜ。

 話しかけても、顔を伏せたままで。

 一言も、喋らない。」


 私は、思わず顔を上げた。

 

 ――なにかが、引っかかる。

 

「俺もさ、文化祭のことで話しかけたけど……  頷くだけだった。

 喋れないわけじゃない。

 ……喋らないんだよ、あいつ。」

 

 その言い方に、わずかな戸惑いが混じっていた。

 

「で、そのうち――誰も近寄らなくなった。」

 

 静かな声。

 

「無視してるわけじゃないけど、関わらなくなるっていうか。

 ……それで、あの見た目もあってさ。」

 

 一瞬だけ、視線を伏せる。


「“貞子”なんて、呼ばれるようになったんだ。」

 

 見た目、かぁ――。

 

「もしかして、顔に傷があるとか……

 見られたくない痣があるとか?」

 

 思いついたままを口にすると、コースケはすぐに首を振った。

 

「違う。  一回だけ、ちゃんと顔見たことあるけど……そういうのはなかった。」

 

 少しだけ言い淀んでから、

 

「うーん、どっちかっていうと……可愛かった、かな。」

 

「……ふーーーん」

 

 自分でも驚くくらい、低い声が出た。

 胸の奥が、ちくりとする。

 

「ああいう子がタイプなんだ。

 私は髪短いもんね。」

 

 わざとらしく髪を触り、視線を逸らす。

 

「は? 違うって。

 そもそも俺はな――」

 

 慌てて否定するコースケ。

 その言葉を、半分も聞かずに。

 私は、別のことを考えていた。

 

 ――対人恐怖症。

 

 ふと、そんな言葉が頭をよぎる。

 

 ドラマか、漫画か。

 どこで聞いたのかも曖昧な、他人事みたいな言葉。

 

 でも――

 

 それと、私が見た“あの映像”は、どうしても結びつかない。

 

 新聞部への恨み――


 結依の推理も、筋は通っている。

 桃香だって、否定はしなかった。

 

 それなのに。

 コースケの話から浮かぶ「あの子の姿」とは、  ひとつも噛み合わない。

 

 まるで、別人みたいに。

 

 その違和感が、胸の奥に引っかかり続ける。

 

「……やっぱり、違うんじゃないの。」

 

 気づけば、小さく呟いていた。

 頭に浮かぶのは、得意げに推理を語っていた結依の顔。

 

「結依のやつ……また外してる気がする。」

 

 そう言いながらも――

 自分の中の“確信”も、消えてはいなかった。

 矛盾したまま、残り続ける。

 それが、いちばん気持ち悪い。

 

「……それでさ」

 

 不意に、コースケが口を開いた。

 

「明穂は、なんで“朝比奈”のこと聞いてくるんだ。」

 

「んっ?」

 

 考えに沈んでいた私は、間の抜けた声を出してしまう。

 

「だから。  朝比奈のこと、聞きたかったんだろ。」

 

「朝比奈って……?」

 

「は?」

 

 今度は、コースケが怪訝そうに眉をひそめた。

 

「“朝比奈澪(あさひなみお)”。  ……“貞子”の本名だろ。」

 

 心臓が、どくんと跳ねる。

 

「明穂、お前……何調べてるんだよ。」

 

 ――まずい。

 

 完全に、墓穴を掘った。

 言い訳なんて、何も考えてなかった。

 

 予知で見た、なんて言えるはずがない。

 タイムリープしてる、なんてもっと無理。

 

 ……エヘヘへ、笑って誤魔化せるわけない。

 

 何を考えてるの、私。

 頭の中でぐるぐると言葉が空回りする。

 

 それでも、どうにか口を開いた。

 

「ほ、ほら……!

 今日、コースケのクラス行ったときに…… 。

 ちょっと、あの子の様子が変だなって思って。」

 

 我ながら苦しい。

 恐る恐る、コースケの顔を窺う。

 

 ――その瞬間。

 空気が、変わった。

 

 さっきまでの軽さが消えて、真顔になる。

 

「……アイツが、犯人なのか?」

 

「え……?」

 

 一気に、心臓がざわつく。

 

 しまった。

 

 変な方向に話が転がった気がする。

 コースケは少し考え込んでから、首を振った。

 

「いや……考えすぎだろ。 アイツがそんなことする理由、思いつかねぇし。」

 

「そ、そうよね。」

 

 ほっと、胸を撫で下ろす。

 

 けれど――

 その安心は、長くは続かなかった。

 次の日。

 事態は、急変した。


 結依と一緒に教室へ入った瞬間、空気のざわめきに気づいた。

 

 いつもより、少しだけ騒がしい。

 

 ――それに。

 

 コースケの姿が、ない。

 いつもなら、私の席に勝手に座って、隣の男子とだらだら喋りながら待っているはずなのに。

 

 席に着く間もなく――

 

 クラスの女子たちが、ぞろぞろとこちらに集まってきた。

 

「ねぇねぇ、聞いた? あの事件犯人、見つかったって。」

 

 その一言で、心臓が跳ねた。

 

「えー、もう? 誰よ。」

 

 事情を知らない結依が、少し不満げに口を尖らせる。

 

「六組の……ほら、コースケくんと同じクラスの。  “朝比奈”って子。」

 

 一瞬、息が止まる。

 

「さっき見に行ったけど、すごいことになってたよ。」

 

「結依……行こ。」

 

 気づけば、立ち上がっていた。

 考えるより先に、体が動く。

 結依の腕を引いて、コースケのクラスへ向かう。

 

 まだ教室に近づく前から、声が聞こえてきた。

 

 ――怒号。

 複数の怒鳴り声が廊下にまで響きわたっていた。

 

「あんたでしょ。もう分かってるのよ。」

 

「何とか言いなさいよ!」

 

「なんでこんなことしたのよ!」

 

 胸が、ざわつく。

 人だかりの隙間から、中を覗いた。

 

 見知らぬ女子たち――おそらく上級生。

 その中心で、あの子が取り囲まれていた。

 

 机は倒れ、空気は張り詰めている。

 今にも、手が出そうな距離。

 

 それなのに。

 

 周りにいるクラスの誰も、止めようとしない。

 ――ただ、見ている。

 

 嘲るように笑う者。

 興味本位で眺める者。

 小声で何かを囁き合う者。

 

 教室の中央。

 顔を伏せ、拳をぎゅっと握りしめるあの子は――

 

 完全に、孤立していた。

 

「コースケ!」

 

 人混みの中に見つけて、声をかける。

 コースケは一瞬こちらを見て、すぐに近づいてきた。

 

「どうして……?」

 

 視線をあの子に向けたまま、問いかける。

 

「……見たやつがいたんだ。」

 

 視線をチラリとあの子に移す。

 

「壊された日の夜。 文化祭の準備してたやつが、朝比奈があの教室から出てくるのを見たって言うヤツが現れてさ。」

 

 短く息を吐く。

 

「それが一気に広まって……あの状態。」

 

 コースケの声は、どこか冷めていた。

 怒りとも、呆れともつかない表情で、あの子を見ている。

 

 ――自業自得。

 

 そんな言葉が、頭をよぎる。

 私の中にも、冷めた感情があった。

 理由はどうあれ、みんなが作ってきたものを壊した。

 それなら、責められて当然――


 ……そう思うしか、ない。


 みんなと同じように、納得してしまえばいい。


 なのに。


 胸の奥に引っかかる、この感覚だけが――どうしても消えない。

 

 そう思った、その瞬間。

 ズキン、と。

 頭に鋭い痛みが走った。

 

「……っ」

 

 視界が揺れる。


 ――また、だ。


 拒む間もなく、映像が割り込んでくる。

 視界の奥に、別の光景が無理やり重なる。


 消えない。


 振り払えない。


 頭の内側を、誰かにこじ開けられるみたいに。

 

 夜の学校。

 緑の冊子。

 あの子の顔。

 

 私は思わず、その場にしゃがみ込んだ。

 

「明穂!」

 

「おい大丈夫か?」

 

 結依とコースケの声が、遠くで響く。

 

「……大丈夫。」

 

 そう答えながらも、頭の中は混乱していた。

 

 なんで、今。

 どうして?

 

 繰り返される映像。

 強引に押し込まれる“何か”。


 ――助けて。


 ……違う。


 言葉じゃない。

 声ですらない。


 それでも確かに、誰かが助けを求めている——そんな感覚だけが残る。

 

 あの子を?

 

 でも――

 犯人は、朝比奈澪のはずだ。

 今見えている映像だって、それを裏付けている。

 

 なのに。

 ――違うの?

 

 その疑問に反応するように、また痛みが走る。

 顔を上げ。

 あの子を、見た。

 

「――っ」

 

 その瞬間。

 ガタン、と鈍い音が響いた。

 

「何とか言えよ!」

 

 椅子を倒され、あの子が床に崩れ落ちる。

 這うようにして、顔を上げた。

 長い前髪の隙間から覗いた瞳。

 そこから、涙がこぼれていた。

 

 ――目が合う。

 

 その一瞬で。

 心が、決まった。

 

 私は走り出した。

 

「明穂!? どこ行くのよ!」

 

 結依の声を振り切って、廊下を走り、

 階段を駆け上がる。

 

 息が上がるのも構わず、一段飛ばしで。


 ――もし、間違ってたら?


 朝比奈が本当に犯人だったら?


 私がやろうとしていることは、ただの自己満足かもしれない。


 ……それでも。 

 

 ――屋上の扉を勢いよく押し開けた。

 

 朝の光が、一気に差し込んだ。

 芝生の広がる屋上。

 昼には賑わうこの場所も、今は誰もいない。

 

 風だけが、頬を撫でていく。

 

 ――ここなら。

 

 私は、朝日に向かいゆっくりと足踏みを始めた。

 

 胴造り。

 

 一度、大きく息を吐く。

 迷いを、断ち切る。

 

 あの子じゃない。

 助けるべき“何か”が、ある。

 理由はわからない。

 

 それでも――

 私は、それを信じる。

 

 見えない弓を構える。

 ゆっくり、打ち起こして、引き分ける  

 

 そして、会。


 静止した時間の中で、浮かぶのは。

 椅子から落ちた、朝比奈澪の姿。

 涙を流していた、あの瞳。

 

 ――あの子じゃないなら。

 私が、助ける。

 

「こんな未来……認めない」


 ……絶対に。

 

 ――私が、変える。

 

 次の瞬間。

 太陽に向かって、矢を放った。


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