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repeat(リピート) ~運命の指輪に願うこと~  作者: しんいち
repeat3 幽霊になった日

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17/40

三話目 怪しいあの子

 ドアを開けた瞬間、部屋の中の視線が一斉にこちらへ向いた。

 

 ――うわっ。

 

 肌に、ぴりっとした空気が刺さる。

 

 思わず一歩引きそうになる私をよそに、結依はまったく気にした様子もなく、すっと前に出た。

 

「すみません。

 二年の桃香さん、いらっしゃいますか?」

 

 その声に、部室の奥で動きがあった。

 

「ああ、結依?」

 

 机の向こうから、首を傾げるようにして入口を覗き込む、親友の桃香の姿が見える。

 

「クラスの展示のことで、ちょっと話があるんだけど。」

 

 さらりと、結依が嘘を言う。

 

 一瞬だけ、桃香が訝しげに目を細める。

 けれどすぐに、その表情がふっと緩んだ。

 

「ああ、あれね!」

 

 何事もなかったかのように、自然に話を合わせてくる。

 さすが、というかなんというか。

 

「桃香さん、急いでね。」

 

 部室の中から声が飛ぶ。

 

「は、はい」

 

 返事をしながら、桃香がこちらへやってくる。

 その口元が、ほんの一瞬だけ動いた。

 

 ――ありがとう。

 

 声には出さず、そう伝えているのが分かる。

 

「二人とも、いいタイミング。」

 

 私たちのそばに来るなり、小さな声でそう囁くと、桃香はそのまま足早に部室の入口から離れていった。

 

 私たちも、それに続く。

 少し距離を取ったところで、桃香がようやく足を止めた。

 

「どうしたの、二人とも……」

 

 少しだけ疲れたような声。

 

「ちょっと話を聞いてさ。今、大変なんでしょ?」

 

 結依がそう切り出すと、桃香は苦笑いを浮かべた。

 

「そうなの。ほんと参っちゃう。」

 

 肩をすくめる仕草が、いかにも“参ってます”って感じで。

 思わず、こっちまでため息をつきそうになる。

 

 だからこそ――余計に気になる。

 

「今ね、先輩たちがピリピリしちゃってて。

 部室の雰囲気、もう最悪。」

 

 顔をしかめながら言う桃香。

 まあ、それはさっきの空気で十分すぎるほど伝わってきたけど。

 

「なに、それで心配して来てくれたの?」

 

 嬉しそうに桃香が笑った。

 

「もちろん、それもあるけど……」

 

 結依はそこで、にやっと口角を上げた。

 あ、これ完全にスイッチ入ってるやつだ。

 

「ちょっと気になることがあってさ。」

 

 そう言って、今回の件について手短に説明する。

 壊された展示物。

 新聞部の冊子。

 そして――ただのイタズラではなさそうだということ。

 

 桃香はそれを、黙って聞いていた。

 途中で何度か頷きながら、少しずつ表情が真剣になっていく。

 

「……一年の時から変わらないわね、結依。」

 

 最後にそう言って、小さく息を吐く。

 呆れ半分、でもどこか楽しそうでもある。

 

「でも、いいわよ。」

 

 そう言って、桃香は軽く笑った。

 

「正直、今は部室に戻りたくないし。何でも聞いて。」

 

 その言葉に、結依の目がぱっと輝く。

 ――ああ、もう止まらないな、これ。

 私は小さく肩をすくめながら、これから始まる“探偵ショー”を覚悟した。

 

「単刀直入に言うけど、今回の件――」

 

 結依が、すっと一歩前に出る。

 

「私は、新聞部に恨みを持ってる人の犯行だと思うの。

 荒らされ方の違い。

 他のクラスの展示物が壊されたのは……たぶん、偽装ね。」

 

 いかにも、という推理。

 どこか芝居がかった口調で、結依は淡々と語る。

 

 ――はいはい、始まりました迷探偵。

 

 心の中でツッコミを入れつつも、私は黙って様子を見守る。

 

「それで」

 

 結依は視線を桃香に向けた。

 

「新聞部を恨んでいる人に、心当たりはない?」

 

「うーん……」

 

 桃香はすぐには答えなかった。

 少しだけ視線を落として、考え込むように唸る。

 

 ――あれ?

 

 正直、『いないよ』って即答されると思っていた。

 でも、違う。

 

「……何かあるのね?」

 

 結依の目が、わずかに鋭くなる。

 

「うん……」

 

 桃香は小さく頷いた。

 

「知ってると思うけど、うちの部っていろんな取材してるでしょ?

 部活のこともあれば、オカルトっぽい話とか……それに、いじめとかクラスの問題とかも。」

 

 少し言いにくそうに、言葉を選びながら続ける。

 

「そういうのって、当事者に話を聞いたりするから……揉めることもあるのよ。」

 

 腕を組みながら、桃香は渋い顔をした。

 

「だから、恨まれててもおかしくはない……ってこと?」

 

「うん。正直、ゼロじゃないと思う。」

 

 つまり――心当たりはあると言うことなのね。

 

「じゃあ……」

 

 結依が少し身を乗り出す。

 

「冊子がなくなったって聞いたけど、そこにヒントが――」

 

「う~ん、ちょっと無理かな。」

 

 言い終わる前に、桃香が首を横に振った。

 

「あの冊子ね。可能性はあるけど……犯人の特定は難しいと思う。」

 

「なんで?」

 

「あれ、ここ三年分の記事をまとめたものなの。

 いわば、今の三年生の集大成みたいなもの。」

 

 桃香は小さく息をつく。

 

「だから、あれがなくなったことで、三年生が余計にピリピリしちゃってて……

 『絶対に許さない』って、かなり怒ってて。」

 

 それであんなに……

 

「仮に結依の言う通りだったとしても、あの記事の中から犯人を特定するのは難しいかな。

 対象が多すぎて……」

 

「そっか……」

 

 結依は唇をきゅっと結び、考え込むように視線を落とした。

 

 いつものように、行き詰まったわね。

 

 そんな二人のやり取りを聞きながら――

 私は、ひとつの確信に辿り着いていた。

 

 間違いない犯人は――あの子だ。

 

 あの、前髪の長い子。

 予知で見た映像。

 さっき教室で見かけた姿。

 全部が、そこに繋がっている気がする。

 

 ……でも。

 なんで?

 あんなに大人しそうな子が、新聞部に恨み?

 

 結依の推理も、桃香の話も、筋は通っている。

 

 なのに――

 

 どこか、決定的に噛み合っていない。

 点と点はあるのに、線にならない。

 

 もしかして、別の理由……?

 

 ふと、コースケの顔が頭に浮かぶ。

 

 ――何か、知ってたりしないかな。

 

「よし、分かった!」

 

 ぱん、と手を叩く音。

 顔を上げると、結依が目を輝かせていた。

 

 ……あ、始まった。

 

「犯人は、この中にいます。」

 

 どこかで聞いたことのあるような台詞を、堂々と言い放つ。

 そして、びしっと指を立てて――

 

「そう。“冊子の中”にね!」


 決め顔。

 

 完全に、やりたかっただけでしょ、それ。

 

 私と桃香は、しばし無言で顔を見合わせ溜め息が漏れた。

 

 ……でも。

 

 結依の言葉。

 その中にあった“冊子の中”という考えには――

 不思議と、引っかかるものがあった。

 

 きっと、そこに何かがある。

 事件を解き明かす鍵が。

 そんな予感だけが、静かに胸の奥に残っていた。


「コースケ、お待たせ!」

 

「いいよ、別に」

 

 ぶっきらぼうな返事。

 でも、ちゃんと待っててくれてるあたりが、コースケらしい。

 

 放課後。

 

 部活が終わった私は、久しぶりに――コースケと“二人きり”で帰ることになった。

 

 コースケは部活をやっていない。

 だから基本、放課後はすぐ帰る。

 理由は、妹の真琴ちゃんの面倒を見るため。

 前にテスト期間で一緒に帰ったことはあるけど……あの時は結依も一緒だった。

 

 本当に二人きりなのは、かなり久しぶり。

 

 中学の頃は、こんなの当たり前だったのに。

 ――なのに。

 ちょっと意識するようになってからは、なんだか妙に落ち着かない。

 

 隣を歩いているだけなのに、変にドキドキする。

 

「で?」

 

 コースケが、横目でこちらを見た。

 

「どうしたんだよ、急に呼び出して。」

 

「あ……うん」

 

 気付けば、少し黙り込んでいたらしい。

 慌てて言葉を探す。

 

「展示のこと、ちょっと気になってて。

 なんとかなりそう?」

 

 違う……。

 

 本当は、それを聞きたいわけじゃない。

 でも、どう切り出せばいいのか分からなくて。

 とりあえず、無難な話題で誤魔化す。

 

「ああ」

 

 コースケは気のない相槌を打って――

 

 少しだけ、間を置いた。

 

「……まあ、一応修理の目処はついたから何とかなりそうだけど……」

 

 そう言ってから、ちらっとこっちを見る。

 

「でも、それだけじゃないだろ。」

 

「えっ」

 

「他に聞きたいこと。あるんだろ?」

 

 さらっと言い当てられて、思わず言葉に詰まる。

 

「気になるから、さっさと話せよ。」

 

 ……ほんと、こういうとこ。

 普段はチャラいくせに、なんでこういう時だけ無駄に鋭いのよ。

 

「……うん」

 

 一度、小さく息を吐く。

 覚悟を決めて、口を開いた。

 

「あのね。コースケのクラスにいる……」

 

 言いながら、少しだけ言葉を探す。

 

「名前、分からないんだけど。

 前髪が長い女の子、いるでしょ?」

 

「ん?」

 

 一瞬の間。

 次の瞬間――

 

「……ああ、“貞子”のこと?」

 

「サダコ?」

 

 思わず、間の抜けた声が出た。

 目をぱちぱちさせながら、コースケを見る。

 

 ――あだ名?

 

 コースケは、しまったという顔で視線を逸らした。

 その表情が、みるみるうちに気まずそうなものに変わっていく。


 空気が少しだけ重くなる。

 

「……なに、それ!」

 

 思わず、言葉が荒くなる。

 

 その呼び方。

 

 胸の奥に、じわっとした違和感が広がる。

 

 そして――

 

 私は、キッとコースケを睨み返した。

 

 


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