大改編期
夕方16時過ぎ。羽村の実家を後にしてオレが運転する車内。
「ねえ相方、入籍は私の誕生日の2月にする? それとも相方の誕生日の7月にする?」
決めるなら自宅マンションに帰ってからとか後考にするよりも今だ。
「そんなに「結婚」に拘るか?」
横目でチラッと奥村の顔を見ると、破顔というのかウキウキした顔。女性は結婚に対し「シビア」なのか? それとも男性が「疎い」だけなのか?
ユースケの顔は気乗りしないというか、やっぱり複雑そう。
「何なの? 結婚するのがそんなに嫌なの? それとも私とじゃご不満?」
態と声のトーンを上げた。
「いや、嫌とか不満とかそういうんじゃない。今まで「寂しい」と思って来た自分が結婚するとなると、何か実感が涌かないっていうのかなあ」
これくらいしか返す言葉が見付からない。
「だったら結婚に自分から飛び込んでみるんだよ! 解る事もあるだろうし、ゴールじゃなくてスタートなんだよ。それに「寂しい」とも思わなくなるかもしれないし」
「……かもな」
これ以上言うと奥村は気分を害する。それに端くれでも男、腹を決めるしかない。幾ら寂しい幼児体験をしたからといっても、自分も結婚していても可笑しくない年齢になった。
自分が端くれであろうが、男は男。ここは運転中のながらであっても、ピシッとしなければ。何でもかんでも逆。背中を押されてばかりでは、本当に「女に尻叩かれ作家」だ。
「じゃあ7月までは時間が空き過ぎるから、相方の誕生日、2月8日にしよう。改めて言う。真子、もし僕で良ければ、結婚してください。それと、今後とも何卒宜しくお願い致します」
お解りの通り、奥村とオレは産まれた年は一緒だが、彼女は早生まれで学年は一つ上なのだ。
「プロポーズ、だね。運転中ってのが、相方らしいけど」
しかも「真子」て初めて名前で呼ばれた。嬉しいけど、あわよくばもっとロマンチックにして貰いたかった。やっと決心したかと思ったら、笑顔も見せず真顔で宣言しちゃって。
「「僕で良ければ」はいらないよ。何で私達、同棲までしてるの? はい、裕介と結婚出来て嬉しい。私の方こそ、末永く、何卒宜しくお願い致します。絶対約束だからね。もう後には引けないから。嬉しそうじゃないみたいだけどさ」
今度は少々気色ばんでみる。私も初めて彼を名前で呼んだ。改めてだと照臭いけど。
「嬉しくない訳じゃないよ。実感が涌かないだけ。でも、オレも「守るべき存在」が出来たんだな」
笑顔になるつもりはなかったが笑ってみた。
「やっと笑顔になった。「守るべき存在」、忘れるなよ! 早速区役所に婚姻届貰いに行かなくっちゃ。保証人は誰に頼もうかなあ」
「保証人はうちの社長と、作家の先輩で結婚してる人がいるから、オレから頼んでみるよ」
「そう。じゃあ任せるからね」
横目で相方を見るとまた破顔。入籍する日が決まって満足したんだろうけど、今日はよく破顔する女性を見た日だ。そして参ったし疲れた。オレにとっては……。
2月上旬――
相方は先月中に港区役所で婚姻届を貰って来ている。オレ達の名前と捺印もして、後は保証人の欄を埋めるだけ。相方は「中山真子」になってくれるという。
「でも仕事では今まで通り「奥村真子」で行くから」
らしい。
「うん。そう決めてるんならオレは構わないよ。まっ、中山家へようこそ、だね」
「こちらこそお招き頂きありがとう。でも私、相方のご両親には挨拶したけど相方はまだだよね。うちの両親も「放送作家と結婚する」には反対もしなかったし喜んでたけど」
「時間を作って挨拶に行かないとな」
行かなきゃおかしい。秋久の事を「おかしい」とは言えない。
兄が兄なら弟も弟、だな……。




