家族
そして9月8日、秋久には女の子が誕生した。年が明けて1月2日――
「来なくて良い」とは言ったのに「ご両親に挨拶しとかなきゃ」と言って聞かず、奥村真子も羽村の実家まで付いて来て……しまった。
陣内社長には事情を説明し、了解を得て午前中に他局で打合せを済ませ時間を貰った。
今日はオレも秋久も日帰りだ。
「ここが相方の部屋なんだ。奇麗だね」
「お袋がたまに換気とか掃除してくれてるみたいだから」
すると誰かが階段を上がって来る音がし、ドアをノックされた。
「はい」と言ってドアを開けると、娘を抱いた秋久が立っている。
秋久は奥村に気付き、
「初めまして。奥村真子さんですよね? いつもテレビで観てます」
「初めまして。ありがとうございます」
秋久はクールに、奥村は破顔。
「子供が産まれたのは、見れば解る、よね?」
「うん。一目瞭然。おめでとう」
「おめでとうございます」
「オレが抱いたら泣くかなあ」
「いや、そんな事はまだないと思う」
秋久から姪を抱かせて貰う。
「伯父さんですよお」
とは言いながらも、まだ「伯父」の実感がない。
「名前はちえみっていうんだよ」
「字はどう書くんだ?」
「知るに衣で美しい」
「そっか。知識を身に纏って、美しい人間になれよ」
オレは姪の身体を上下に揺蕩させながら、まだ赤ん坊の知衣美の顔を見て微笑を浮かべて言った。伯父としてその想いは衷心であるから。
「兄貴……」
秋久は呟く。意想外な言葉だったようだ。兄の落着き冷静で優しい口振りに、意表を衝かれたのだろう。
「かわいい。私も抱かせて貰っても良いですか」
「どうぞ」
奥村は姪を抱き、
「今年伯父さんと結婚する「お姉ちゃん」ですよお」
「おい!」とツッコミたかったが黙って見ていた。
「今年結婚するの」
秋久に訊かれた。
「その予定。っていうかその撰で調整中」
相方がいる手前、否定など出来ようか。
「兄貴もおめでとう。こんな奇麗な人と」
秋久は微笑を浮かべる。
「ありがとう」
一応礼は言ったが、両親にも紹介しちゃったし、奥村かオレの誕生日に籍を入れるのは確実、であろう。
相方は秋久に姪を返し、3人で一階のリビングに降りた。戸を開けると義理の妹が破顔して一礼する。
「初めまして」
「初めまして」
義理の妹の名前は由衣というらしい。由衣さんもうちの両親とは今日が多分初対面だろう。うちの両親も由衣さんの両親とは、まだ顔合わせもしていないそうだ。
「奥村さんですよね? アナウンサーの。初めまして」
「初めまして。ユースケと同棲している奥村です」
二人は破顔して挨拶。
「おい! 余計な事言うなよ」
これにはツッコまずにはいられなかった。
「だって本当の事じゃない」
「ゴールイン間近ですね」
女性2人で破顔。参ってしまう。
「おい、せっかく家族が揃ったんだから家族写真でも撮るか?」
譲一がデジカメと三脚を持ってリビングに入って来た。譲一が家族写真を撮ろうと提案するとは今まで見た事がない。これも年齢のせいだろうか?
しかも奥村真子も入って。これはもう結婚するしかない、だな……。別に別れたいとか不満がある訳ではないけれど、「寂しい」と感じ続けていた「結婚」に自分が足を踏み入れる。これに何か違和感があるのだ。
家族写真、私も入れて貰えるんだ。すっごく嬉しい! 相方の顔を見ると無表情だけど目は複雑そうにしちゃって。
でももう逃げられないよ、中山裕介。「フフフフフンッ!」心中でほくそ笑んでしまう私なのだった――




